NOW LOADING...


 暗い。

 何も見えない。


 いや、見えないんじゃなくて、ただ何も無い・・・・んだ。


 手や足を伸ばしても、触れられるものは何もない。

 実際に手足が伸びているかを確認する術すらない。


 そもそも自分が立っているのか座っているのかも分からない。

 案外ぷかぷか浮いていたりするのかもしれないな。

 

「うわああああああああ!」


 と、試しに叫んでみても音は生まれなかった。

 叫んでも全然スッキリしない。

 でも声帯が震える感覚だけはある。

 

 これは放送禁止用語言い放題だぞ☆!って思って

 試しに下ネタを大声で叫んだりもしてみたが、虚しくなるだけだった。



 ――さて、

 ――この闇の空間に来てから、一体どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 

 1週間、1か月、あるいは既に1年ぐらい経っているのかもしれない。

 

 人は何もない暗闇の中に、何日も監禁されれば、発狂して自我が崩壊するとか聞いたことがある。

 でも俺はそんなことにはならなかった。


 むしろ精神的には非常に落ち着いているというか、感情に起伏が全く生まれないのだ。

 不思議と、腹も空かないし、眠くもならない。

 欲求という欲求が全く湧いてこない。

 ……フロイトさんの言うところの所謂いわゆるリビドーも無い。


 というわけで、俺はいよいよ死んだのか。

 

 ――つまりここは死後の世界か。


 そう思ったわけだ。


 でもどうやら、死後の世界とはちょっぴり違うっぽいんだよな。

 何でそう思うかって、俺の頭上に浮かぶ“文字”だよ。

 見てくれ、こいつをどう思う……?



 〖NOW LOADING〗



 なうろーでぃんぐ。

 そう書かれた文字が夜の居酒屋の看板みたいに光ってるわけよ。

 ピカピカとね。

 

 一体何を読み込んでいるというのか。

 ここは一体どこなのか。

 疑問は尽きない。

 

 しかしというか何と言うか、色々と分からないことだらけだが、俺が今抱えている問題といえば、一つだけだった。

 たった一つだ。

 なにせ空腹に悩むことも無いし、う〇こも出ない。

 

 ――ただ、この空間はとてつもなく暇だ。

 暇すぎるのだ。

 

 試しに腕立て伏せでもしようかと思ったが、そもそも壁や床がどこにあるのか分からない。

 なんとなく狂喜乱舞して発狂ごっこをしてみたが、これも虚無感しか残らなかった。

 

 そこで、俺は良い暇つぶしを思いついた。


 ――そうだ、あの“スクロール”を解析してみよう。


 というわけで、俺はこの闇の空間にてスクロール解析作業を始めたのだった。

 

 覇王級 《流星体メテオ》のスクロールを――。



 幸いなことに、この空間では何時間ぶっ続けで解析していても集中力が落ちなかった。

 ここには何一つ誘惑もないし、感情の起伏も起こらないからな。

 ――何というか認知機能が常時アクセル踏みっぱなしでもガソリンが減らないみたいな状態だ。

 人間、何事もやればできるものだな、うん。


 俺はそのままの状態でスクロールを解析し続けた。

 何時間も何時間も……何日間も何日間も……


 通常ではありえないことだが、一呼吸も休まず解析を続けることができた。

 飽きっぽい俺がどうしてここまでできたのか。

 他にやることが無かったからという理由もあるが、何よりスクロールを紐解く作業が面白かったからだ。

 繰り返すがこれがまた、予想以上に面白かったのだ。

 そしてその面白いという感情は強力なエンジンになった。

 術式そこに込められた意図、感情、事情、技術、情熱に至るまで。

 何から何まで俺を熱くさせるエネルギーだった。


 ――そして気づくと、数か月は経っていた。


 正確にはどれだけ時間が経ったのかは分からない。

 そもそもこの空間に時間という概念があるのか甚だ疑問ではあるが、とにかく長い間、俺は解析をし続けた。


 しかし、驚くことに未だに《流星体メテオ》の解析は終わっていない。

 俺は手を休めずハイペースで作業を進めてきたつもりだ。

 なのに、作業の進行度はわずか3分の1程度。


 冥王と覇王の叡智の結晶――ボッホさんが言っていたその言葉の意味を、初めて理解した気分だった。

 読み取る作業だけでこれだけ時間がかかるのだ。

 制作にはどれだけの苦労がかかっていたのか、推して知るべしと言うところだ。


 そんなこんなで、最早現実のことなどどうでもよくなってきた頃だ。

 ――唐突に、声がした


『セーブデータの読み込み完了だよ! お兄ちゃん!』


 それは俺がこの空間に来る直前に聞いた声だった。

 この声は忘れもしない『どきメモ4』のシステムボイスを担当している『早乙女ハルコ』ちゃんだ。

 はてさて、いつから俺の脳内のボイスまで担当するようになったんでしょうか。


 それともあれか。

 俺の頭がついにイカれちまったってことなのか。

 巷で聞いたゲーム脳とはこのことか。


 セーブデータの読み込み完了とはどういうことだろうか。


 気づいたら頭上の〖NOW LOADING〗の文字が〖COMPLETE!〗に変わっていた。


『それじゃあ、お兄ちゃんの存在を“復元地点セーブデータ2”に“定着”させるね!

 いっくよ~!』



 …………え?




------


ステータス


 名前:早乙女ハルコ

 種族:人間(女)

 称号:全国300万人の妹、sisterムボイス

 職業:きらめき学園中等部の1年生! システムボイス担当だよ☆

 属性:妹

 得意魔術:お兄ちゃん目覚ましダイブ

 攻略:不可



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百合世界《アルカディア》への反逆者 池田あきふみ @akihumiikeda

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