Data9. 『検証』と『結果』
話を整理してみよう。
まず本来であれば、リーゼロッテ、ティアナ、ルカ――その三人が産んだ子供達によって魔女ロアベーア・バオムは倒される。
人類は魔人の軍勢に勝利し、そこで世界は救われる――はずだった。
この世界線がルート
↓
しかし、ある事件が起きたことによって、運命は大きく変化する。
その事件とは、ルミィの母親がバオムによって殺されてしまったことだ。
竜の瞳を奪ったバオムはその力を自分のものにしてしまう。
竜の未来視によって自分が倒される未来を見たバオムは、救世主たちの母体である3人に呪いをかけた。
――その呪いとは、『男避けの呪い』だった。
この呪いにより、3人はあの漫画のような百合百合空間に一生閉じ込められてしまうことになる。
そのせいで
救世主のいない世界は滅びへ向かう。
この世界線がルート
↓
呪いは竜の力でも解除できないほど強力だった。
そこで、ルミィは賭けにでる。
この世界の運命に捕らわれない異世界の存在を召喚することによって、呪いを解除しようと試みたのだ。
そこで召喚されたのが俺だった。
未来視によると、召喚は成功していたらしい。
俺は百合空間をぶち壊し、3人は無事子供を産む未来を取り戻す。
――はずだった。
この世界線がルート
↓
さらにここでもバオムが邪魔をしてくる。
バオムはこの世界に、運命を捻じ曲げる異分子を
その異分子が島袋春佳だった。
いわく、俺と島袋は元の世界では結ばれる運命にあるらしく、彼女がここに来たせいで、俺の運命は何重にもブレてしまった。
もはや未来は誰にも予想できない状態らしい。
そして今いるこの世界がルート
――ということになっている。
---
ルート
今の俺には皆目見当がつかない。
そこでルミィになにかヒントは無いのかと尋ねたところ、返ってきた答えはこうだった。
「あの呪いはバオムの性格の悪さが如実に表れておる。
術式の解除をいくつか試みたが、どれもまるで無駄じゃった。
どこまでも緻密に計算されていて、まるで水で流してもねっとりと絡みつく油汚れのような呪いなのじゃ」
そんなしつこい油汚れを俺が取り払えるとは思えない。
そう返事をしたら――
「お主の力は、無数にそそり立つ針の穴から、ただ一本の正解を導き出し、その穴に正確に糸を貫き通すことができる力じゃ。
極わずかな可能性を手繰り寄せる力と言い換えてもいい。
じゃから、まずはお主自身の力を正確に理解しておくとよい」
俺の能力の本質――『保存』と『復元』。
この能力をこれからどう扱っていけばいいのか、まずはそれを知る必要がありそうだ。
“
まず、己の能力をしっかり把握しておこうと思った。
他の事をあれこれ考えるのはそれからでいい。
そのためにいくつか“検証”してみた。
まあ、入学前の下準備と言ったところだ。
【検証1】
食料や水を『復元』した場合、それを栄養として補給することは可能か。
【結果1】
結論から言うと無理だった。
俺は屋敷で出された夕飯を『保存』し、『復元』してみた。
復元自体はすんなりできた。
味や食感もそっくりそのまま再現できた。
「これは一生に食うに困らん!」と一瞬テンションが上がった。
……しかし、それだけだった。
どういうことかというと、味や食感を再現できるだけで、栄養にはならなかったのだ。
復元した食べものは咀嚼し飲み込めても、時間が経つと異の中で“破綻”してしまう。
これでは意味が無い。
一瞬だけ味覚と空腹感を満たせるが、消費する魔力を考えると割りに合わない。
つまりこの実験は失敗だ。
【検証2】
既に発現した魔術そのものを『復元』することは可能か。
つまり、他人が使った魔術をそっくりそのままコピーして使うことができるか。
【結果2】
できるにはできた。
しかし、ほぼ使い物にならない。
少年漫画のコピーキャラのように、敵が使った魔術をコピーできたらかっこよくね?と思ってやってみたが……結果は微妙だった。
期待外れ、というか俺が思っていたものとは違った。
まず島袋が出した水をこっそり『保存』してみた。
それを『復元』しようとしたところ、今までのようにスムーズに復元できなかった。
まず、第一に全ての工程に時間がかかった。
情報を読み取り辛い上に、魔力の定着が全然上手くいかないのだ。
次に、消費魔力が大きい。
島袋が1
費用対効果が段違いだ。
ルミィが言うには、魔術は“魔術適性の違い”や“マナの環境”に大きく左右されるため情報に綻びが生じやすいのだとか。
俺の適正に合う黒魔術ならもっとスムーズに『復元』できるかもしれない。
まあ、何にせよこの実験も微妙な結果に終わった。
【検証3】
保存した情報を改変したり複合することは可能か。
つまり、情報のサイズを変更したり、くっつけたりすることはできるか。
【結果3】
可能だった。
今回の検証でこれが最も有意義な結果となった。
まず、構造が単純な“木の枝”と“石”を使って実験してみた。
例えば『保存』した枝の先に石を取り付けた状態で復元できるかどうか。
それを試してみた。
最初は情報に綻びが生じ失敗した。
だがこれは石と枝の複合部分に矛盾が生じていたためだ。
そのままの状態の枝と石では、情報が重なっている部分ができてしまう。
石と枝が同時に同じ場所に存在していることになったために、そこに矛盾が産まれたということだ。
つまり、接着部分まで緻密に想定しておく必要があった。
具体的には、石に穴をあけて枝の先端を差し込むイメージだ。
さらに接着部分を何かで固定してある情報を造り出せればいい。
ゲームのクリエイターとかならこの感覚も分かるかもしれない。
作成した3Dモデルを単に貼り付け合わせただけではプログラムは進行しない。
如何にしてくっついているのかまで、プログラムしておく必要があるのだ。
俺は何度か実験を繰り返して、この感覚もコツを掴むことができた。
試しに“木の枝”の先端に“ナイフ”を接合してから『復元』――
――、さらにそれを再度『保存』することによって、“即席の槍”が完成した。
武器っぽいものができてテンションが上がった。
俺はその無骨な槍に『グングニル』と名付け、情報空間に保存しておいた。
########################
《保存フォルダ ( Dragon: ) 》
1. 多次元的復元ポイント1.78929-40094
2. ナイフ
3. グングニル
########################
グングニルの容量は一つ一つの素材に比べ跳ね上がった。
石や木の枝の容量を1とするならグングニルは6ってとこだろうか。
つまりくっつけただけで情報量が3倍ほどに膨れ上がったってことだ。
もっとデザインに
とまあ、この検証で得られたものは大きかった。
武器だって作れることが分かったからな。
――え? そんなもの、能力が無くても作れるって?
……馬鹿いっちゃいけねえよ。
能力で造るからこそロマンがあるんだよ。
それに何もないところから武器を出せれば、念〇力の具現化系能力者みたいでかっこいいじゃないか。
ちなみに保存した情報は自由に削除もできた。
項目を選択して「消えろ!」と念じるだけでいい。
ルミィは「邪魔な情報は必ず削除しておけ」と真面目な声音で言っていた。
フォルダを圧迫しておくと俺にとって
人間の脳は、必要な情報とそうでない情報を無意識に選別して記憶していると聞いたことがある。
もし、必要の無い情報まで無理やり保存していくと……ボン!だそうだ。
……俺も廃人にはなりたくないので、それに従っておいた。
---
「わらわに服と金をくれ」
後日、ルミィは突然そんなことを言いだした。
服と金をせびられた。
娘に言われたら嫌な言葉ランキング上位に入りそうな台詞だ。
「またどうして急に?」
「街に行って買い物がしたいのじゃ。
これから必要になるものを準備しておきたい」
『これから』とは俺がリネアリス魔法学院に入学する件のことだろう。
「服はまあ、借りれると思うが、金はどうか分からないぞ」
「ふむ……。しかし必要不可欠な準備じゃ、なんとかしてくれ」
なんとかしてくれと言われてもな。
俺は何から何まで世話になっている身だ。
金までせびるのはいささか図々しすぎる気がするんだが……。
「うーむ……、そうじゃ!
ならば、お主の能力で金貨を『復元』すればよかろう。
そうすればいくらでも買い物ができるではないか!
ふはは、わらわは天才じゃな!」
「え……」
偽札ならぬ偽金貨か……。
たしかに、やろうと思えばできる気がする。
そしてバレない自身もある。
短時間ではあるが、完全に金の材質を再現できるから、偽物だと見抜くことはできないはずだ。
「……いや、でもそれは流石に駄目だな」
「む、何故じゃ」
時間が経てば情報は破綻する。
つまりそれは詐欺だ。
そんな悪役ロールプレイをやるつもりはない。
クリーンに行こう、クリーンに。
「復元した情報はいずれ破綻する。
そうしたら相手が困るだろ」
「人間はそういう細かいところを気にするのじゃな。
わらわ達は俗世間のことなど気にしている状況ではないぞ。
なにせわらわ達にはこの国、ひいては世界の命運までかかっておるのじゃからな」
そう言われるとたしかにな……。
世界と天秤にかければ一人の商人の生活なんてささいなものかも知れない。
……金を復元してしまえば色々と必要なものを準備しておけるかもしれん。
“ポーション”とか、本で読んで気になってたから飲んでみたいし……。
――いや、いかんいかん。
誘惑に負けるな。
それをやったら犯罪者と同じだ。
「……もし俺たちが『復元』した金で街で豪遊でもしたら、街の経済は破綻するかもしれない。
そうなれば俺達の計画にも支障が出るだろ?
それがバオムや他国の敵から付け入る隙になる可能性だってある」
「……む、そうなのか。
まあ、わらわは人間の社会構造に
お主がそう言うならやむを得まい……」
ルミィは渋々納得したという表情だ。
「そういうダーティプレイは、どうしてもやらなきゃいけない状況になったらにしよう。
俺達はあくまで世界を救う立場――できるだけクリーンにいこう、いいな?」
「……わかったのじゃ」
ルミィはこくこくと何度か首を振ってうなずいた。
そもそも、ルミィは「わらわにまかしておけ!」と言っていたが、入学の準備とかちゃんとできているんだろうか。
ただ出向いたところで入学できるものとは思えない。
校門の前に立って「いーれて」なんて言ったところで門前払いされるのがオチだろう。
こいつはその辺分かっているのだろうか……。
そう思ってルミィに目をやると、「?」と首をかしげていた。
いやうん、多分この感じは分かってないな。
となると、問題は“手続き”だ。
入学の手続きをどうするか、まずそれが問題だ。
ルミィは人間の社会構造に疎いと言っていたから、書類上の事なんかは理解してないと思う。
そこだけ俺がなんとかしなければいけないか。
その他の呪いとか、俺が知らないことに関してはこいつの管轄だ。
「よし、分かった」
「何がじゃ?」
「じいさんに学校の事と、金の事、両方頼んでみよう」
結局、行き着くところはお助けキャラの
漠然とだが、あのじいさんに頼めば、なんとかなるんじゃないかという気がしていた。
この国でそこそこの権力者みたいだし、
何故か俺達のことを無条件で助けてくれるお人よしだ。
図々しいのを承知でまた頼らせてもらおう。
---
「ほう、学校に通いたい、とな」
「ああ。駄目か?
俺達もいつまでもここで世話になるわけにはいかない。
魔術師のライセンスも手に入れたし、学校に入って自力で生活できるようになりたいんだ」
島袋はじいさんに対して敬語を使っていたが、俺は使っていない。
理由は何となくだ。
なんとなく、敬語を使うとかえって距離が開いてしまう気がする。
前に弟子になったからと敬語を使おうともしてみたが、じいさんは「自然体でよい」と言ってくれた。
まあ、そもそも俺は敬語を使うのが苦手ってのもあるけど。
「ふむ、じゃあちょっと待っとれ」
「ん?」
じいさんは座っていた椅子から立ち上がると、書斎の部屋に入っていった。
そしてしばらく待っていると、何かの封筒らしきものを持って再び出てきた。
「ほれ、受け取れ」
「……これは?」
二つの封筒を渡された。
ざらざらとした手触りから上質な紙を使っているのが分かる。
「わしの“推薦状”じゃ。
それがあればこの国ならどこの学校でも“特待生”として迎えられるじゃろう」
「え? この封筒だけで?」
「そうじゃ。わしは結構えらいからのう」
そう言ってじいさんは「ほっほっほ」と笑っていた。
まじか……。
こんな封筒一つでどこの学校でも入れるって、どう考えても普通じゃない。
一体どれだけの影響力を持っていればそんなことができるんだろうか。
……本当にこのじいさんは凄い人だったんだな。
2つあるってことは、もう片方は島袋の分か。
島袋の実力なら、推薦されて然るべきだとは思うが……対して俺はというと、推薦なんてもらえるレベルではない。
はっきり言ってただのコネ入学になるな。
まあ、この国のためでもあるし多少は許してもらおう。
「あと、これも必要じゃろう?」
そう言ってじいさんは俺に小さな革袋を二つ手渡した。
中を見るとこの国の通貨が何枚も入っていた。
金貨や銀貨まで、ざっと見て、数か月生活できるぐらいはある。
こちらから言わずとも欲していたものが手に入った。
「入学に必要なものはそれで揃えておきなさい」
「ありがとうじいさん。
何から何まで、恩にきる」
「そう畏まって礼を言われるほどのことでもないわい。
お主たちを助けることも、わしにとっては予定の一つじゃ」
「予定?」
「いや、なんでもない」
予定……?
どういうことだろうか。
そういえば、ルミィはじいさんが俺達のことをここに来る前から見ていたと言っていたな。
今の言葉を聞く限り、まるで初めから俺達のことを助ける予定だったみたいじゃないか。
何か目的があるってことなのか……?
「……じいさんは、俺達のことをどこまで知ってるんだ?」
「どこまで、とな?
お主らのことは親もいないし住居もない浮浪者ってことぐらいしか知らぬぞ」
どうやら答える気は無いらしい。
疑問が残った。
俺達の身の上は明らかに怪しい。
身分も住所も不定、おまけに名前も変だし、髪や瞳の色もこの国の人間とは違う。
そんな俺達を何故こんな好待遇で受け入れてくれたのか。
「そうか……。
まあ、とにかく感謝する。
この恩は必ず返すよ」
「うむ。
恩を着せたつもりはないが、返したいと言うなら一人前になってから返しにきなさい」
ここでしつこく質問攻めすることもできる。
しかし、それはやめておいた。
恩人を問い詰めるような真似はしたくない。
それに、知ったところで何かが変わるわけでは無いと感じた。
---
というわけで、街に出向いてみることにした。
英気を養うと共に、これから必要なものを揃えておこうと思ったからだ。
島袋も誘おうと思ったが、今日は侍女のヴェラさんと一緒に薬草を取りに行っているらしい。
ポーションの作り方を教えてもらうのだそうだ。
勉強熱心なやつだ。
しかし、島袋がいないのは好都合でもあった。
ルミィは島袋に姿を見られたくないらしいからだ。
おそらく、バオムが何等かの干渉をしてくることを忌避しているのだろう。
「うーん、人間の服はどうしてこう窮屈なのじゃ
むずがゆくなってきたんじゃが」
今ルミィは人の姿で俺の隣を歩いている。
しかも服を着ている。
尤も、色気は全然無い衣装だ。
下着の上に灰色のポンチョのようなコートを纏っただけ、という緩い恰好。
これで窮屈だというのなら、こいつにとって服とは邪魔なものでしか無いってことだ。
たぶん、背中の翼のせいだろうな。
翼が生えているせいで服を着るとそれが圧迫されて窮屈に感じるんだと思う。
「ところでお主、あの小娘はどうするつもりなんじゃ?」
小娘――島袋のことだ。
「どう、とは?」
俺は聞き返すしかできなかった。
あいつが本当にバオムの召喚獣だとしても、どう対応していいか分からない。
「では簡潔に言おう。
――生かすか、殺すかじゃ」
「…………」
島袋を殺す……?
いや、流石にその選択は無い。
駄目だ。
そんなことは考えてもいない。
「とりあえず、そんな物騒なのは駄目だ。
傷つけたり、無理やり拘束するのも無し」
ルミィには、人間の血が通っていない。
あの冷たい体温と赤い瞳は時に容赦なく人を殺めるものだ。
俺にはそれがなんとなくわかってしまった。
こいつの目を見ていると飲み込まれそうになる。
「召喚獣は術者の影響を色濃く受けるものじゃ。
それは魔力などの能力値だけでなく、精神的な面にまで及ぶ場合がある。
さらに言えば、術者から意図的に召喚獣に魔術的な干渉を行うことも可能なのじゃ。
――何が言いたいか分かるか?」
俺はその問いに返答せずに押し黙った。
もし島袋の精神をバオムが操作できるとしたら――。
「あやつはいずれ間違いなく敵として立ちはだかる。
あの小娘がどういう人間かに関係無くじゃ」
参ったな……。
島袋の魔術の才能は一般的な魔術師のそれを遥かに凌駕している。
このまま中級魔術師で
あいつは、今後もっともっと強くなっていくってことだ。
例えば、試験の時に見た水の爆散――。
あんなもんを俺に止められるわけがない。
今の島袋は、その気になればいつでも俺をスプラッタ映画のワンシーンのように細切れミンチにできるだろう。
それに、あいつの魔術は精度も威力も日に日に成長していってるのが分かる。
一方、俺は定着魔術しか使えないし、島袋に比べ毎日の成長も微々たるものだ。
魔法少女に憧れていたあいつが日々の研鑽を怠るとも思えないし、うさぎと亀の逸話のようにもならないだろう。
つまり、今後あいつと俺の実力差が埋まることは無いのだ。
俺があいつに挑めば結果は火を見るよりも明らかだ。
だが、こう言うしかない――。
「その時は俺が止める」
「ほう……」
ルミィはそんな俺を見てニヤッと口角を吊り上げた。
「ルミィが島袋を殺すというなら、俺はそれを全力で阻止するし、今後一切協力もしない。
そうしたら、バオムの呪いも解除できないだろ?」
「たしかにそうじゃ。
わらわはお主の力を借りねば呪いを攻略できない」
「ならとりあえず、現状維持で様子を見ようぜ。
おそらく、あいつもリネアリスに通いたいと言うと思うし。
近くで監視して、何か変化があればその都度対応すれば良い」
「……ふむ、分かった。
お主の意見に従おう」
ルミィは思ったよりも呆気なく俺の考えに納得してくれた。
まるで、こうなることが分かっていたみたいに。
俺の意思を確認できたことに満足した、そういう感じに見えた。
「楓、わらわが何を望んでいるか分かるか?」
何を望んでいるか――。
その質問の意味は、一瞬理解できなかった。
だが、さっきの質問の流れからして、俺がどういう反応をすればこいつは納得するのか――それはなんとなく分かった。
「――俺はこれから、強くならなきゃならない
島袋を止めて、魔人をぶっ飛ばせるぐらいに」
「うむ、その通りじゃ。
さすが、わらわの召喚獣じゃな」
ルミィはニッコリ笑っていた。
満足する答えを得られたようだ。
俺は何と言うか、精神的に誘導された気分だった。
まあ、いいか。
そうこうしている間に俺達は街に到着した。
---
「お、そこのお二人さん、見ない顔だねえ!
ちょっとうちの商品を見てっておくれよ!」
街に到着してすぐ呼び止められた。
漫画で見て覚えのある顔だった。
露店商のフィッツだ。
主要人物と関わりのない、序盤で出てきたサブキャラの一人だ。
フィッツは紺色の風呂敷を石畳の地面の上に広げ、そこに奇妙な道具をいくつか置いていた。
「どうする?」
ルミィの方を見て聞いた。
「まあ、急いでいるわけでも無いし、いいのではないか?」
なら見ていくか。
俺としても道具屋には行こうと思っていたところだ。
何か『保存』しておけば役立つかもしれないからな。
「お、いいねえ! 見ていく気になったかい?
お二人さんは、
どういったご関係で?」
フィッツは俺とルミィの髪の色を交互に見て言った。
「まあ、ゆきずりの関係というところじゃ」
「ゆきずりって……その年でか?」
そういう変な言い方は無用な勘違いを生むからやめてほしい。
ルミィの見た目は中学生ぐらいの女子だ。
俺がロリコン扱いされるじゃないか……。
「ま、そんなお二人さんにはこいつがおすすめだ。
――こいつは“功魔石”と呼ばれる特殊な石を加工したもんでね。
名を“ラブストーン”と言う。」
青色のハート型の石だった。
……これはあれだ、修学旅行でカップルがお土産に買っていくようなやつだ。 つまり俺には無縁かつ無用の代物だ。
いらん。
「こいつをペアで身に着けていると、永遠の愛が約束されるってジンクスがあってね。
かの
どうだい? 安くするから買っていかないか?」
やっぱりその手の商品か。
どこの世界でも商売のやり口は変わらないみたいだな。
「見せてくれ」
「お、お兄さんはこういうの興味あるのかい?」
興味、か。
俺はどちらかと言うと、パワーストーンとかそういうスピリチュアルな事には懐疑的な
ただ、この世界には“魔術”というバックボーンがある。
本当に特殊なまじないがかけられているのかもしれない。
そういう意味で興味があるのかと問われればYESだ。
俺はフィッツからその石を受け取り、右手に乗せた。
『保存』の要領で、材質を解析してみよう。
最近気づいたことだが、右手で触れれば大体のものは『保存』できることが分かった。
読み込み――
――解析完了。
あ、これただの石だわ。
功魔石とかいうのも嘘だ。
情報量もめちゃんこ小さい。
俺に感じ取れない謎パワーが込められている可能性はなきにしもあらずだが、少なくとも材質は普通の石と変わらない。
「……なるほど。
今回は遠慮しておこうかな」
「む、そうかい残念だ。
まあ他の商品も面白いもんがそろってるぜ、見てってくれよ」
他の商品か。
俺は風呂敷の上に置かれている商品を見渡した。
「この丸い玉は何だ?」
布にくるまれた丸い玉を指さして聞いた。
「流石、お兄さんお目が高い!
そいつは“フラッシュボール”と言ってね
魔獣を討伐する時なんかに役立つ狩猟道具さ」
「これが狩猟道具?
どうやって使うんだ?」
「魔力を少し込めて、あとは投げるだけ。
魔力がトリガーになって数秒後にはパン!と玉が破裂し、閃光が飛び出す仕組みになっているんだ。
目の前で破裂したら高ランクの魔獣でも数秒は視力を奪われるだろうね。
ただし使用の際は要注意だ。
人間がまともに光を直視しちゃうと結構危ないから」
フラッシュボールか。
いいかもしれない。
いくつか検証してみて分かったが、『復元』する上で実戦的に有効なものとそうでないものがある。
理想の条件は、まず右手に収まるサイズであること。
復元から定着までのプロセスがスムーズに行えるからだ。
もう一つは、短時間で効果を発揮できる、即効性の高いものであることだ。
長時間『復元』させておかなければならないものは、それだけ『定着』に必要な魔力が多くなる。
魔力が切れて破綻してしまっては意味が無いのだ。
この“フラッシュボール”はその二つの条件を満たしている。
つまり、こういう手榴弾のような道具が一番使いやすい。
「触ってもいいか?」
「どうぞどうぞ。
ただし魔力は込めちゃ駄目ですぜ?
破裂しちゃうから」
許可をもらったので、遠慮なく右手で触れた。
そのまま持って、脳にイメージを焼き付ける。
########################
《保存フォルダ ( Dragon: ) 》
1. 多次元的復元ポイント1.78929-40094
2. ナイフ
3. グングニル
4. フラッシュボール
########################
保存完了。
情報が頭の中を駆け抜けた。
思ったよりも容量が大きい。
それに見た目のイメージと違って内部の構造は非常に緻密に作られている。
なんだこれは……すごいな。
青魔術の術式が組み込まれているのか……?
「どうだい?
今なら銀貨8枚で譲っちゃうぜ?」
「銀貨8枚だと?
これが……?」
「いやいや、これでも破格の値段だぜ。
この玉一個作るのに製作期間3か月もかかるんだから」
3か月もかかるのか……。
たしかに内部構造は複雑だし、製作にそれだけかかっていてもおかしくはないが。
しかし、俺の手持ちで気軽に買える値段ではない。
スキミングみたいでちょっと気が引けるが『保存』だけしてそっと戻しておこう。
「こっちは?」
俺は隣にもう一つ置いてあった玉を指さした。
「こっちは“ソニックボール”。
漁に使われる道具で、川や湖の中に投げ込んで使う。
音の衝撃派で近くにいた魚はみんな気絶して水面に浮いてくるのさ。
プカーっとね。
ただしこっちも要注意。
地上で使えば鼓膜が破れるぜ。」
なるほど。
魚を取るための道具なのか。
一応こっちも『保存』しておこう。
########################
《保存フォルダ ( Dragon: ) 》
1. 多次元的復元ポイント1.78929-40094
2. ナイフ
3. グングニル
4. フラッシュボール
5. ソニックボール
########################
下の二つで結構容量を使ったな……。
でも、まだまだ全体のキャパシティを圧迫するほどじゃない。
となると、一番上の情報は一体どれだけ大きい情報量なんだか……。
「ふむ、ガラクタばかりじゃな」
唐突にルミィが言った。
竜の
フィッツは苦笑しているが、なんかちょっと気の毒だな。
流石にこのまま立ち去るのもあれなので、何か買っていってあげよう。
そう思って一番安いペンダントを買っておいた。
デザインは全然好みじゃなかったが、『保存』だけして帰るのは泥棒みたいでちょっとな。
「毎度ありー、またきてくれよー!」
------
ステータス
名前:フィッツ・ジェラルド
種族:人間(男)
称号:珍品コレクター
職業:商人
魔術適性:?
得意魔術:?
1話にまとめるつもりでしたが思いのほか長くなってしまったので一旦区切ります。
m(_ _)mスミマセン。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます