5:ドリィムタワー

 目の前にそびえ立つマーブル模様の塔は、ここからでは頂上が見えないくらい大きかった。


「ふゥ、やっと着いたネ。」


 スプーキーがツナギの袖で額の汗を拭うような動きをする。彼の頭部はカボチャだから汗なんてかかないんだけど、きっと癖みたいなものだろう。


「ところで、コレどこから入るの?」


 塔に入口らしき扉はない。それどころか、つるつるとした質感の壁には隙間ひとつ見当たらないのだ。いったいどのようにして入るというのだろう?


「あァ、これはネ、こうしテ、こウ。」


 スプーキーはこうして、の部分で塔の正面に立ち、こう、のタイミングで右の手のひらを外壁にぴったりと押し付けた。すると、塔の壁が彼が手を触れた部分を中心に、虹色の光を発し始めた。


「わわっ……」


  光は壁を伝って徐々に広がっていき、最終的には人ひとり分くらいの面積にまで拡大した。


「さァ、この扉を潜るんダ。」

「これが、扉?」

「そうだヨ。生体認証で開く光の扉サ。凄いだロ?」

「すごい……けど、いったい誰が?」

「女王様サ。」


 わたしは紙芝居で女王が国一番の科学者だと説明されていたのを思い出した。確かんこれだけの技術力を持った人なら元の世界に帰る方法を知っていたとしてもなんらおかしくはない。わたしの胸が期待で膨らんだ。


 虹色に輝く光のドアを潜ると、わたし達は無事に塔の中に入ることができた。塔の内部は円柱型の空間になっていて、部屋の外周には各階に続く螺旋階段が、そして中央には上へと真っすぐに伸びる太い柱が立っていた。


「王様と女王様は一番上の階だヨ。さぁ行こうカ。」

「行こうかってまさか……階段で?」


  一度は休憩を挟んでいるとはいえ、わたしが目を覚ました場所、つまりスプーキーの家からここに行きつくまでの間かなりの距離を歩いている。そのうえ今からこの塔のてっぺんまでひたすら階段を上り続けるとなると、さすがに色々と厳しいものがある。


「ははハ、そんなまさカ。エレベーターを使うんだヨ。」


 けらけらと笑いながら,スプーキーは部屋の中央を指差す。しかし、そこには大木の幹のように太い柱があるだけで、エレベーターらしき扉が付いている様子はなかった。あれ、この流れってさっきも……。


「もしかして、入口の時と同じ?」

「その通リ!平和な国だけド、一応セキュリティはしっかりしてるんダ。」


 わたし達が塔の内部に入った時と同じように、スプーキーは柱の正面に立ってその表面に手を触れる。すると、やはり先程と同じように虹色の光が広がり、あっという間に光の扉が完成していた。


「よかった……」


 長い長い階段を上らずに済んだことに安堵しながらエレベーターの中に入る。基本的な作りはわたしの知っているエレベーターと変わらないようだけど、その内装は今までに見たこともないくらい豪華で、まさに王様仕様といった感じだった。といっても、全体的にカラーリングはやっぱり虹色のマーブル模様だからいまいちカッコよくはないんだけど。


 それから約1分後、ベルの音が目的のフロア、つまり王と女王のいる最上階へと到着したことを知らせた。光の扉を潜り、エレベーターの外に出る。


「ようこそ、我が居城へ」


 そこにいたのは黄金に輝く王冠と深紅のマントを纏い、体の半分が機械化されたニホンザル。そして、白衣を身につけたゴリラだった。

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