4:カフェ
外の様子を見てわたしが真っ先に思い浮かべたのは、小さい頃に両親と行った遊園地だった。過剰な装飾が施された建物たちはどれもが自らの存在感を強く主張していて、住人たちの奇妙な見た目も相まって正しく「夢の国」といった印象を受ける。
「ねぇ、あとどれくらいで着くの?」
「ここまで来たらあとちょっト……だけど、疲れたし少し休憩しよっカ。」
変わった風景や人々(と言って良いのかわからないけど)に夢中になっていたから全く意識していなかったけど、もう一時間は歩いている。そのことに気が付いた瞬間、今まで無意識に追いやられていた疲れがまとめて襲いかかってきた。あと少しだけなら歩けないこともないけれど、ここは素直に休んだ方が良さそうだ。
「実はネ、このあたりに今日オープンしたばかりのカフェがあるんダ。」
「へぇ~、どの建物?」
「ええとネ、確かあそこノ、ほラ。」
スプーキーが指差す先には、壁一面が薄いピンク色に塗られた店舗があった。小さな木造のそれは、派手に飾られた周囲の建物達と比べると少し地味に見える。でもそれはあくまで周りがもっと派手だからであって、これはこれで元の世界にあったら相当目立つと思う。
それからだいたい5分くらいで、わたし達はカフェの前に到着した。壁と同じ薄ピンクのドアを開くと、カランコロンというベルの音と同時にほのかな甘い香りが鼻を刺激した。
「あらあら、いらっしゃいませぇ~。」
店の奥から店員らしきエプロン姿の女性がこちらに向かってくる。歳はパッと見20代半ばくらいでグラマーな体型のその女性は、嬉々とした表情で私達を席に案内した。
「こちらのケーキセットはいかがですかぁ?当店のオススメですよぉ。」
「あっ、じゃあわたしはそれで。」
「僕モ。」
それから数分後、わたし達の座るテーブルに注文の品が運ばれてきた。
「わぁ、美味しそう!」
「いい香りだネ。ダージリンかナ?」
できたての紅茶を流し込むと、口の中に豊かな香りが広がっていく。わたしはあまりこういうのに詳しい訳じゃないんだけど、それでもこの紅茶が上等なものだということはわかる。それくらいの美味しさ。セットになっているパウンドケーキも決して甘すぎず丁度いいしっとり加減で、紅茶との相性は最高だった。それらを味わっていると、長時間の移動で蓄積された疲れが溶けていくような感じがした。
「さテ、そろそろ行こうカ。」
「あっ、ちょっと待って。」
休憩を終えて店を発とうとするわたし達を店員のお姉さんが引き留める。振り向いたわたしに差し出された手には、リボンで可愛らしく飾られた小さな袋が握られていた。
「これ、オープン記念のサービスなの。良かったら持っていって。」
「わぁ!良いんですか!?ありがとうございます!」
「中身はクッキーだから、後で食べてね。」
「あッ、僕の分もあル!やっタ!」
帰る方法を探しに行く途中でアレなんだけど、異世界も思ったより悪くないなぁ。そんな思いを抱きつつ、わたし達は目的地へと再出発したのであった。
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