3:カミシバイ

 室内に乾いた音が響くと同時に、驚くべき事が起きた。カボチャ頭の彼とわたしの間に、それまで存在していなかった物体が現れたのだ。それは、この部屋の家具と同じように木で作られていて、厚さはだいたい2、3センチくらいで、なにやら前面が扉のように……


「あっ、紙芝居だこれ」

「ぴんぽーン!大正解だヨ!!」


 簡単に折れてしまいそうな両腕で頭上に大きな丸を作るカボチャ頭。最初出てきた時はかなり怖かったけど、こうして見ると少しかわいらしいかも知れない。わたしがそんな事を考えている間に、彼は三角開きの枠を開いていた。中から現れた表紙を見ると、紙いっぱいに目の前の彼と同じハロウィンのカボチャと『10ぷん(ちょっと)でわかるドリィムランド』の文字が。それから下の方には小さく『さく・え スプーキー』と書かれている。きっと彼の名前だろう。


「前口上ハ……面倒だから良いヤ。それじゃア、『10ぷん(ちょっと)でわかるドリィムランド』はじまりはじまリ~~」


 タイトルコールと共にページが引き抜かれると、次のページにはなにやら風景画のようなものが描かれていた。


『ここはドリィムランド、王様と女王様の住むドリィムタワーを中心に広がる王国でス。』


 ドリィムタワー、の部分でスプーキーは絵の真ん中辺りを指差した。そこには、ピンクをベースに赤、青、黄色、緑……とにかく沢山の色で構成されたマーブル模様の塔が描かれていた。


「これがそのドリィムタワー?」

「そうだヨ。雲を突き抜けちゃうくらい高い塔なんダ。凄いだろウ?」


 実際どれくらいの高さなのかは見てみないとわからないけど、相当なものであるのは確からしい。


「ごほん。次に進むネ。」

『王様と女王様のもとデ、みんなは自由に楽しく暮らしていまス。』


 ニチアサのヒロインのような格好の少女、世紀末的な装飾を身につけたマッチョ、中世っぽい騎士、黄色いローブを纏った仮面の男……あとゴリラ。次に現れたのは個性的という言葉で表すには少々アレな格好の人々(?)のイラストだった。その中には勿論スプーキーも混ざっている。

 それから暫くの間、ホニャララさんはアレが得意だとかフニャララちゃんはここが素敵だとかそんな感じの説明が続いたんだけど、いまいちよくわからなかった。


『ある人は家を作リ、ある人は絵を描キ、ある人は歌を歌ウ……みんなが好きなことをしながラ幸せに暮らス。そんな素敵な国ニ、ある日不思議な事が起きましタ。』

「不思議なこと?」

「そうだヨ。とっても不思議なことサ。」


 サッと画面が引き抜かれ、答えが示される。次のページには、青く澄み渡った空をバックに女の子が仰向けの状態で描かれていた。絵の中の少女の服装を見て、わたしはあることに気が付いた。


「これ……わたし?」

『スプーキーが日課のお散歩をしているト、なんと空から女の子が降ってきたではありませんカ!』


 親方!空から女の子が!と某アニメ映画の物真似をした後、スプーキーはじっとこちらを見つめる。


「そウ、どうやらキミは外の世界からここに流れ着いてしまったみたいなんダ。」

「外の……世界……」


 スプーキーの風貌や紙芝居の内容から薄々そんな気はしていたけれど、どうやら流行りのラノベよろしく異世界に飛ばされてしまったらしい。改めて突きつけられた現実にわたしは頭を抱える。


「まぁ大丈夫だヨ、きっと帰れるっテ!」

「帰るって、どうするの?」

「とりあえずドリィムタワーに行っテ女王様に聞いてみよウ!あの人はこの国一番の科学者でもあるかラ、帰り道も知ってるかもしれないヨ!」


 善は急げとスプーキーがわたしの手を引く。まだ自分の置かれた状況に納得はできないけれど、こうなってしまった以上は仕方がない。脱力していた足に力を入れ、一歩目を踏み出す。

 こうして、わたしの異世界旅行は幕を開けた。

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