旋風オール・モー・ダウン その2

風巻きしまきを纏う白い長物、槍とか薙刀の類に見える、化けた四神刀。俺はそれを持って、すさまじく素早い敵を倒すべく二人の元に合流したのだった。


「待ってたよ、さ、頑張ろ?」

「作戦はあるんですか?」


勿論暴風の最中でも活きる作戦を考えてある。適切に動き、適切に勝っていこう。順風満帆のためにはいつだって正しい道が必要だ。


「二人は出来るだけ相手を翻弄してください。凍らせてもいいですし、なんなら煽っても構いません。とにかく単純明快ストレートに勝つにはスピードがキツイですから、隙を作ってそこを一気に刈り取りましょう。」


「確かに。あのスピードはキツイね。」


「逆上したらもっと難しくなりません?」


確かに彼女が言うように厳しい相手にはなるだろう、しかし相手はどこまで行っても動物の模倣だ、本能が何処かに残っているのであれば、それを利用することも可能なハズ。現に、今までもちょいちょいそれで切り抜けてきた。


「ロードランナーとプロングホーンは恐らく、追えば逃げていくように誘導できると思います。チーターだけは逆で、恐らく追われる形に出来れば誘導が出来ると思います。それで一か所に固めて、風の力で竜巻なんか作って、仕留める。……なんて、どうですか?」


「なるほど、とり肉になれってコトだね?」


「僕はストーカーって事です?」


言い方は悪いが……そういう事だ。


「俺はプロングホーンを続けて相手していきます。真ん中に寄せられたら最高です。任せてもいいですか?」


「「了解っ!」」


______________



「お待たせしました!」


『おう!待ちくたびれたぞっ!さぁかかってこい!』


単純な感じの性格は元から変わってないらしいですね?セルリアンはそんなところまで再現するのかと僕は正直うんざりしています。だってこんな事されたら、ちょっとお兄さんたちの昔を騙すのに、使えてしまいそうじゃないですか?

……まーいいんだけど。そういう所も利用して、ばっちり勝っていきたいですよね、みんなの為にもです!


「ふふん、ちょっと僕とかけっこしませんか?」


『はぁ!?今かぁ!?』


「そう今。どうです?あなたのすっごい脚で、僕からどれだけ距離が取れるでしょうか?鬼ごっこ、狩りごっこ、で勝負です。いざ勝負!」


これで釣れるかな?


『……いいだろう!ただ、お先だっ!』


「あぁっ!?待てぇっ!」


ばびゅん!みたいな音と一緒にロードリアン(こう言うとなんか道のセルリアンみたいですね?なんかもっと良いの無いかな……。)は出発した。向こうを見たら……いいね、お兄さん達も良くやってるみたいだ!焦るような声だって、結局は作戦のうち、相手を精神的にも追い詰めていこう。


「このネジュンから逃げられますか?それっ!」


『あぶなっ!?オイ反則だろっ!』


「追いかけるときに飛び道具使っちゃいけないなんてルール決めてませんから!さぁどうですか!?どこまで逃げられます?もう追いついちゃいますよ!?」


持ってる棒の先から氷塊をぽんぽん発射、当たれば結構痛いですからねコレ!足止めして、上手くタイミングを計りながら、いずれ真ん中に寄せていきますか!


『くぅ……オマエとあの眼鏡、二人とも変なの持ってるし……どっちが"ハジメノ敵"ってやつなんだぁ!とりゃぁっ!!』


「へ?ちょっと、今の話詳しく!待てってぇ!あぁ、早すぎ!」


ハジメノ敵って何!?また急に分からない事をさぁ!しかも相手、やっぱりビャッコ様の力が入ってるらしい、本気出せば僕らくらい普通に撒けるスピードだよ、風が起こせるだけの事はあるって訳ですよね……!

言いぶり的に、狙いはシキ、つまりお父さんの方だと思うから、僕が追いつつ弱ってる節を、もしくはどこかで一回わざと喰らっていなせば、プロングホーンの方へ向かわせるには十分か?でもそれだと、労力が増えるか……?だったら!


「Try!この状況をいい感じにする最高の一手は何!?」


『この前シキさんから譲り受けたアムールトラなんてどうでしょう。』


「じゃあソレ!装着!」


この前、というのは一度塔を離れた時のことだね。スザク様ぱわーで助けられた子のサンドスターを、君にも渡しておくよってもらったなんて事があったんです。なんのカンが働いたのかはともかく、いまここでこうやって活きるんだったら、最高の布石を彼は投じたってことですよね?


『やっぱりお前なのか!?しょうがない、逃げるのは後でもいいかっ、ここで止めてやる!覚悟しろペンギン……いやトラ?お前分かりにくいんだよっ!』


「わるいねぇ!でもしょうがないんだ、これが僕らの勝つための道だからね!」


文句を言いながらこっちに向かってくる、上手くいなせばきっと、グレープお兄さんが拾ってくれるんじゃないか!?


『てぃやぁぁあっ!』


「なんの!その蹴りだけで倒されるほどヤワじゃないですって!」


『二段蹴り!』


どこで喰らっておこうか、どこで向こうに蹴り上げようか。例えば、足元をとって、空中に飛んだ瞬間なんて、どうだろう?


「防いで……足元がお留守ですよっ!」


『ヘン、そうくると思ったぜ!』


バク中からの蹴りの構え!


『そうりゃっ……ってぇえ!?掴まれた!?』


トラの怪力は風をも掴むんですよ!


「そうくると、思ったよ!とんでけぇ!!」


飛んで行った先にはグレープさん!任せましたよっ!



______________



任せてッ!


「フリーパマグロウっ!」


『いたっ!?』


『いたぁ!!?』


片方は僕を追っていたチーターリアンの身体にぐさり、もう一方は飛んできたロドリアンにぐさりだ!そしてこれらを……


「がっちゃんこだ!」


『『うわぁぁぁっ!?』』


何?前フクロウちゃんを相手したときと戦法が変わらないって?でもこれが一番確実なんだよ~しょうがないよね!一か所にまとめるにしたって何するにしたってやっぱり磁力は偉大だからさ?

でもせっかくだし、もう少しだけアレンジ加えちゃおうか、その方が楽になりそうだし?


「ねぇシキ!そろそろ大丈夫?」


「大丈夫ですよ、いつでも!」


よーし、それじゃあ磁力の活かしどころを見せてあげよう!


『これどうにかしろよ~!』

『私ただ追いかけてただけで終わったのだけど~!?……あぁもうむり疲れて……』


チーターはスタミナが無いからねえ。それじゃああのセルリアンぎゅうぎゅう詰めな二人の合体物の極とは反対の磁石をここらにグサッとしておいて……!


『やめろっ!』


「まてプロングリアン、俺が相手だからな!」


ナイスシキ。

さらっと彼は、さっきから風の力を使っていなし続けて相手と持久戦をしてる。本気でやり合わずにいるのは、出来るだけ武器に力を溜める為なんだって言ってたね?


「僕も動きますよお兄さん!」


「ネジュン、氷で上手い事プロングホーンを止められないかい?」


お安い御用ってことらしい、じゃあ僕は僕でやる事やろうね?


「フリーパマグロウっ、ロープみたいになってくれよな!さぁこのままぶん投げていくよぉっ!そぉりゃっ!!!」


磁石の塊が先端についてるぐるぐる振り回せる磁力塊、これもう実質ハンマー投げってことだよね?


「でも、」


そう、飛んでいかない。何故かって言えばさっき地面に突き刺した磁力のおかげだ。さぁ、空中にあいつらは止まった。あとは彼に任せよう!


______________


「仕上げと行きましょう。」


『くっ……オマエ……!』


セルリアンのスタミナももうギリギリだろう、

このまま押し切らせてもらうぞ!


「突風っ!」


薙ぎ払い、相手を強く押しのける。下から巻き上げて、ニアイコール上昇気流の類のつもりを押し付けていく!


『くぅっ!?』

『プロングホーン様!?』


「これで終わりだっ!とぁああっ!」


長い薙刀の端を握りしめて、一気に投擲する。強い風に乗った武器が猛回転しながら、敵の元へと突っ込んでいく。回る白い刃は、三体を巻き込んで切り裂くって算段さ!


『ぐぁあぁああ……!?』


ぱかぁーん。風のおかげで武器はブーメランみたいに戻ってくるんだ。自分で言うのもなんだけど、中々賢いだろう?


______________






「お疲れシキ。流石だね。」


「此方こそ。さっきまでの戦況、グレープさんたちが居てくれなきゃ何ともなりませんでしたから。ありがとうございます。」


「しかし、また派手に横穴ブチ抜きましたねお兄さん……」


投げた武器が塔の外壁にまたもや傷をつけたらしい。大きな大きなセルリアンの身体で作られているせいで、巻き込んでしまうとこうなるというわけだ。崩れてしまいそうだからもう少し頑丈であってほしいが、初めにこの塔に巻き込まれてしまったとき、外に出られないと絶望していた事を思えば、神の力でこのように外壁をも切り裂くことが出来るようになったと考えると、かなり環境も変わってしまったといえる。ここまで来ることが出来ているのも、この機械のおかげと考えると、なんというか、自分のアイデンティティのようなものがコイツに集約されているような気がしてならないな。


『ぅ、ぐぐぐ……!』


「何ッ!?」


ロードランナーのセルリアンだった、いや、もうほとんど形は残していない。コアが、ドロリドロリと、浸み込んでいく手前の姿をなんとか保って、呻いていた。


『お、お前!そこの眼鏡だ……!』


クソ、眼鏡で呼ぶんじゃない。


『"お前の記憶には、こんな記憶は無いハズ"だ!なのにどうして勝てる!なんで戦って勝てるんだよ!』


「どういう事だ?」


『聴いたことあるだろ、この塔は、誰かの記憶をもとに作られてるんだ、そして、その記憶の正体は、この島に、いつか、何かしらの理由で訪れた人の輝きから出来てるんだ……って、プロングホーン様は言ってた。そしてそれをここに来て壊す奴が、ハジメノ敵なんだって……!お前はこの記憶を知らないハズだ、お前が戦って、まず勝てる相手じゃ無いハズなのに……!』


確かに、前この塔に登った時相手にしたフレンズ型のセルリアンとその順番は、かばんさんが辿った道筋と酷似していた。それは俺も分かった。だが、確かにいまのこの順番は、俺は知らない。


以前考えたことがある、俺の辿っているこの今が、だれか俺以外の何者かに見られているんじゃないだろうかって。深夜のまぁ朦朧とした頭で考えただけだったからなんとも言えないけれど、それでもたしかに、この島は誰かが記憶しようとしているみたいに、憶えようとしているように見える。その誰かの記憶のひとつが、たとえば女王がヒトを再現して作ろうとしていた時の、それこそ友絵さんたちの名残なのかもしれないし、あるいは、今言及された、ハジメノ敵と称される者かもしれないし、そしてそのいずれかがこの塔の中に現れているのだろう。


『だけど、きっとお前はどこかでやられるハズだ!どれだけ仲間が多くても、どれだけ神様に助けてもらおうと!この塔は許してくれないハズだ……!』


「どうしてそんなことが言えるんだい?」


『……これは、"決まってる事"だからだ。すごくはるか遠い昔から、次こそはそうなるって決まってることだからだ。だから……覚えてろ……よ……。』


『……フン。』


_____




「後味の悪い……。僕は一度ここで機械に調整を入れるね。レイバルは呼んでおいた方がいい?」


「お願いしますグレープさん。ここから眺める限り、ずいぶん階層も上になりましたから。姉さんや、問題が無さそうであれば麓の研究所の方たちにも一報を。もうそろそろ根源と相対することになるかもしれません。それにさっきのセルリアンの話が本当なら、何か大きな壁が迫ってるかも知れません。一層、気を引き締めなくては。」


「そうだね、ちゃんと報告しておくよ。君と、あと四神の皆さんも、ちゃんと休憩してね。……ネジュン?どうしたの?元気なさそうだけど。あ、まって……わかった、もしかして不安なんじゃないの?大丈夫だってー、僕や四神が付いてる!少なくともシキ一人で行かせたりしないさ。」


「俺も一緒に戦ってくれて感謝してる。だから、君を置いていくようなことはしないよ。それになんか、はぐれちゃいけない気がするからね。」


「……ありがとうございます。"今度こそ"ちゃんと『一緒に帰ろう』って言ってくださいね、お兄さん。」

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