旋風オール・モー・ダウン その1



「さあ、まだまだ上らなくちゃいけなさそうだね。」


「グレープお兄さんと一緒ですから、なんとでもなるでしょう。……ね?」


黒い塔、いまだ倒壊の見通し立たず。螺旋の階段を上へと上がる、もう一度頂点に到達したとき、すべてを解決できるのか?まだわからないけど、まずは僕の目の前をどうにかしなくちゃだな。

僕は僕のやることを。シキだって、きっと同じことを言うだろう。先に行ってと言われた理由も多分そこ、ってことにしておこう。今僕がやることは、コレ。一つでも階層を踏破することってだけ。


「荒野、って所ですか。こんな所パークにありましたっけ?」


「さあ、悪いけど僕には見当が……」

『グレープ、セルリアンの反応を確認したよ。』

『マスター、良いですね?』


ああ横やり。入れるならセリフの前でお願いしたいんだけどなあ。バイクの時にさえめったと喋らない僕のLBが珍しく喋る程なので、余程警戒した方がいいんだろう。

けれど。


「……居なくないですか?」


ネジュンの言う通りだ、見当たらない。


「ん、とりあえず、探そうか。」


塔を登っていく過程でまた会えるものだと思っていたのだけれど、どこぞのセルリアン少年、えーと、Q坊だったか。彼も見当たらなかったし、じゃあ倒す対象は?っていうとその対象も見つからない。おやおや、結構ピンチ寄り?


「風が強いねー、なんか。……塔に横穴開けたからかな?」


さっきから強く風が吹いている。荒野には似合っているけれど、穴が開いたよっていうあれは一つ階層が下の所の話だし。

こういう暗い塔の中ではこういうのに気を付けた方がいい。だって『居る』って言われてるんだから、居るんだろう、そこに。


「構えておいた方が良いかもしれないね、どこから来るやらわからないし。」


「そうですね。……あ、ねえtry、位置割り出せたりとかしない?」


『それが……本来出来るのですが出来なくて。捉えられないんですよ。居るのは確かなのですが……』


彼女にディスプレイを見せて貰ったが、まさにそのまま言葉通りで、居るのは分かるのに居ない。化かされてでもいる気分だよ。


「ま、生きてる巨塔だもんね。変にセンサーが反応してるのかもしれないし。」


「……しっかし風強すぎませんか!?」


台風の日の雨が本番を迎える前ってこんな感じだよね。晴れてはいるけど嫌に強い風が吹く感じ。ボボボボって耳が言い始めた。やだなあ五月蝿いのは。バイク乗ってるのとはワケが違うしね?


「荒野って考えたとしても、何だか過剰な気がしてならないね。……っと、ん?」


「どうしました?」


五月蝿い中で、地面を見つめていたんだけど、ちょっと気掛かりな事が出てきた。砂埃の起こり方、それが結構気になっちゃって。


「風と無関係な方向へ、埃が立ってない?ほらっ、マル描いてるみたいになってる。」


「ホントだ……!」


しかも、等間隔で三つ?ぐるぐる回って、風がそれによって起こってて、風の向きと埃が呼応しない瞬間がある……って。


「ピンチじゃん……?」


「えっっっっどうしましょう!?」


絶賛竜巻の中心にいるのかも!?

いや確かに、これだと合点が行くんだ。

それを引き起こせる程の等間隔の三つの砂埃の正体、めっちゃ速く走ってるセルリアンだったら?そりゃ居るのに居ないとかなるよね!捉えられる訳がないよ。渦を巻き始めてるのかも、不味いな、どうする!?


「グレープお兄さん、マジどうします!?」


「腹を括って風の渦の外へ突っ切って出るか、もうちょっと考えるか、いっそ防御するか、あるいは!」


「んんん~~~もうちょっと考えましょう!でもどうしよう……動き続けてるのを止めるなら……あっ。」


「なにか思いついたかい?!」


「お兄さん、磁石のアレ使いましょう!」


「アレでどうするの?」


「僕のこの棒を、地面に平行に、磁石でがっちり固定しちゃいましょう!」


「どういうこと!?」


「引っ掻けちゃうんですよ!」


そんなイタズラみたいな!?

でも、一回やってみておこう!


「フリーパマグロウッ!固定しておいてくれよ!」

「耐えてくださいね、僕のロッド!」


グサッと刺さった磁石、その上に引き寄せられ動く気配の無くなった棒。とりあえず僕の素の力では動かせないくらいにはなった。あとは引っ掛かるかどうか。だけどちょっと短いかも!


「リーチ足りる?」


「伸ばせばいいんですよ!よいしょっ」


自分の棒をガツンと蹴った。彼女のこういうとこは親譲りなのかな?彼女が蹴った結果、氷で出来た棒が先端から伸びていく伸びていく。ある程度まで伸びた辺りで、さっきの(確認し直したらやや接近しているじゃあないか!危ない。)土埃の辺りに差し掛かって、そして……。


\バキンッ!/

氷<しんどいわ。


「折れたかぁ……!」


「あ、でも!」


『ッ!?』


どうも上手くバランスを崩せたらしく、先頭を走っていた(?)個体から順番にドテ!ドテ!ドテ!と転倒三コンボ。まだ風は吹いているけど、さっきまでのとは違う自然な感じに戻った。

しかし、風を起こすほどのスピードとは大したもの。色味のせいか特性のせいか、風景に溶け込む位に……。


待てよ、特性?


「そうか、ビャッコ様の……」


解放されたとはいえ、しばらく捕らわれていらしたのだ。影響が出ている可能性は十分に考えられる。今回はそれが、風だったという事になる。


「しかし、三体とはメンドーですね?」


「しかもこの様子だ。

……きっと僕らじゃ、勝てないだろう。」


悔しいが、僕や彼女だけでは勝てない。四神を下すには同じく四神の力を要する。前面から直に突っ込んでどうにかなるってそんなわけには行かないんだ。


「……なるほど、だからグレープお兄さん、バイク君使ってないんですね。」


「そういうこと。ねー、もう着いたでしょ?」



___________



「お待たせしました。」


やはり居たか、神の力の影響を受けたセルリアン。シキが後からの到着になっては良くないかと思っていたけれど、流石の二人だ。ペンギン同士でウマも合うのだろうか?トリだけど。


「にしても、いーとこだけ持ってくのずるいんじゃなーい?どーなのシキさんその辺」


トドメを刺せるのはこの刀だけだから。


「仕方ないでしょう。それに、ちゃんと協力してもらいますって。さ、やりましょう二人共!」


「ええっ!」「りょーかい!」


鞘から抜けなかった理由はわからないけれど、抜けるようになってからの初使用だ。彼らが出してくれた情報から風を使えるというのはわかったが、それに正しく抗えるのはどの力だろう。見定める必要があるな。


「俺は真ん中の角持ちをやります!」

「僕は猫ちゃんの相手しますよ!」

「じゃあ残った鳥ちゃんとダイビングだ!」


やるぞ。

倒れていた所から起き上がって向かって来た。


『さっきはこかされたが、何度もそうは行かない!さあ行くぞ!』


角持ち、見た目からしてプロングホーンだろうか?突進の速度は確かに元から速い動物だったな。

長めの槍みたいな武器を持っているようだ、正直、厄介な相手になるだろう。


『とぁっ!』


その槍をまず突き出してきた。刀で弾いた。黒いだけの刀身が色付く事などは……無さそうだ。この状態じゃ、なんの力もない鉄剣止まりということか。


「なんのっ!」


弾いたまま、刀を横に一つ払ってみたものの、当たらない。何か能力があるかといえば、それもなく。虚しいままに空を切った。


『遅いぞ!』


「っ、やっぱりこういうスピードタイプには……」

『同じようにスピードで切り返す、だな?シキ」

「ええやりましょう、ビャッコ様!」


「いいなあ。僕もビャッコ様と共闘したいんだけど?」

『おぉい!こっち見ろよ!』

「みてるよッ!ダイバーの視野なめんなッ!頼んだよビャッコ様!シキ!僕らが止めておく、バッチリ覚醒させてくれ!」


ありがとう二人とも、本当に頼もしいペンギンたちだ。

速度には速度、ならば頼ろう神速の領域を!


「……おお、出られるのか?久しぶりだな、この空気は。」


すごく戦いたそうだけど、一旦我慢してもらおう。


「で、刀を振るえるように、だったな?」


「ええ、お力添えを。」


抜けるようになったといえど、戻っていない力を振るうことは出来ないらしいから。

ビャッコ様は一旦刀を引き抜くと、ゲンブ様の時のように、鞘へ柄を差し込んだ。違うのは、やや反るような刀剣を収められる方向と同じ向きに入れて大剣にしていたのとは違い、かすかにS字になるように、向きを変えて差す事か。


「大風よ、人の子に力を。

四神ビャッコ、今君に、疾風の一旦を授けよう!」


黒かった刃は、風を纏いながら白く染まっていって、鞘には虎のような模様が浮かび上がる。全体的な風貌は薙刀のようだ。


「なぁシキ、我も戦っていいか?迷ってた子ペンギンもなんか強くなっちゃって嬉しいし!ダメ!?」


えぇ……どうしようかな。


『ビャッコ……止めておいた方が良かろう。』

『気持ちが走り過ぎておる。少しは待たぬか。』

『貴方は危機感が無いわね。ホント風みたい。』


「……怒られちゃったか。致し方ない、存分に奮えよシキ!」


「任せて下さいッ!」


俺は風のソレを握りしめて、装甲がそのように変化していくのを感じながら、

過去と今を生きる同僚に合流した。

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