夜明けのシトラスシネンシス
「シキ君、お話は終りました?」
「えぇ。暫くですが、休息もあるようです」
タイプツーが今までしていた通信を切らせて、俺はその場に座り込んだ。ジェーンさんが少し不安そうに顔を覗きに来たが、少しだけでもここに居る事に安堵してくれたらしく、お茶を淹れてくると部屋を立った。
俺を、疲れたとか、そういう感情では無く、もっとこう…精神的に良くない気持ちが縛る。
「お兄さん、すこし僕からも話があります。
ちょっと……こっちに。」
「シキでいいよ。それで、わかった。少し待っててくれる?シャワーだけ浴びたい。」
ネジュンが俺に声を掛けてきた、話って何だろうか、何か新たに情報があったのだろうか。わざわざ呼び出されるような話ってなんだろうか。シャワーの旨を伝えたら彼女は少し頭を縦に振ったので、なんとなくそんな事を考えながら、もう黒衣に改名すべき汚れた白衣を脱いだ。
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「戻ったよ。」
「おかえりなさいお兄さん」
「それで?話ってのは?」
ウチのベランダに通された。ここからだと家々の隙間の遠くに海が見えてそこそこ景色がいい。グレープさん家には劣るが。お茶をジェーンさんから渡されたので一口啜った。
「……お兄さんは、何のために戦ってるのかな~って。」
「なんで、そんなことを?」
彼女は気になっただけだ、という。そんなことを考えたことがなかった俺の脳ミソは一瞬止まった、適当に返事を返すのにも戸惑った。何のために……。
「……。自分が自分であるため……かな。俺にはアイデンティティみたいなのが、ここに何も無しにいると無いんだ。ただの人間だから。だけど、戦ってればなんかあると思うし……それは確立できたと思ってるよ。」
ただの人間だ、なんて今さら名乗れないかもしれない。このパーク、そのものの土台の島を築いた翡翠の生まれ変わりか、血統かで、四神を手で転がす。そうなればもう俺は俺じゃ無い気までする。そのアイデンティティの元は俺じゃ無いと思うと、俺はやっぱり無、なのだろうか。そう考えた時に、俺のアイデンティティは俺よりも俺が護ったものにあるんじゃないかと思った。だから、戦ってれば見つかると思うし現に見つかった、と言う風に表現をした。
「なるほど、ありがとうございます。」
やけに淡々とした口調だった、何かの参考にでもするつもりなのだろうか?続けて彼女は「私はパークを護るために戦っています」と言ってくれた。
そうだ、訊こうと思っていた事があった。彼女が戦うと言ってもセルリアンハンターの面々にあの
「なぁ、ありがとうついでに俺の頼みも訊いてくれないか、その装置の仕組みが知りたい。差し支え無いかな。」
「……いいですよ、多分。」
多分、か。まあ俺みたいなヤツが指令を出してる可能性はある。とりあえず差し支え無いと判断して彼女の腕時計のようなその装置を借りた。
「……systemの基盤がかなり原型を留めている、初期型の時点で完成された技術とはいえ、一部以外は全部同じと言っていい。君はこれを……誰に貰った?」
「もらったのは……母親からです。母が僕に渡してくれました。」
母親と言うと……彼女の母親は、ジェンツーペンギンとか言ってたな。……もし彼女が言う母が、伝承の、2000年前の、ちゃんと言えば、翡翠という人物の血族かその辺りなら、ネジュンは昔の時代の出身という可能性もある……のか。それだとLBシステムがあることに説明が付かないが、よくわからない事しか起こらないのだ、彼女がタイムトラベラーの可能性だってあるだろう。
まあそもそもの事を言えば、気焔剣だか2000年前だとかなんとかって急に情報が出てきて飽和しているのに俺の昔がどうとかネジュンがどうとか言って問題が多すぎる、タイムトラベラーとかにしといて一旦保留くらいが丁度いいだろう。ここで「いや~、僕実は貴方の生き別れの妹なんですよね~???」とか言われても驚かない自信があるぞ!根拠は無いのできっと腰は抜かすが。
しかし話を戻すとして母親か、知っているジェーンさんがネジュンの親だったとして見るには共通項が少ない。目の色が緑色で髪も短いし線が細い。髪は最悪自分で切ってるとしても、
そしてそこからLBを貰ってる、と。
思い返せば俺も元は関係の無さそうなフェネックさんから貰ったが、これは廃棄されていた(はずだった)旧型のコイツをたまたま拾って、俺に届けたというだけだし……。うーん、わからん。
「何か、製造者に関する情報は知らない?」
「……。僕は特に。」
えらく神妙な顔だ、隠し事していそうな顔、とも言えるかな。
「Type try……、このシステムに組み込まれた人工知能です。聞き覚えは?」
「知らない……かな。そもそも人工知能は俺が自分で組み込むようにしたわけじゃ無いから、詳しいのは姉さんかな。その姉さんでも、ここまでタイプツーがお喋りになるとは思ってなかった、嬉しい誤算だ、って言うんだけどさぁ。」
そうですか~、とネジュンは言った。
謎は解けきらないままだったので取り敢えず放置して、ジェーンさんの元へ戻った。彼女の体調が心配だ。
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「心配せずに、シキ君でしか出来ないことをしっかりやって、どれだけボロボロになっても、帰ってきてくれれば、文句は言いませんよ?」
お茶を入れてもらって、二人で久しぶりの談笑。傷の手当てはある程度四神の皆さま方にして貰えると伝えたり、奥都さんや烏先さんたちが色々大変だったけど無事だったことを話し合ったりしながら、塔が見えてる自宅の窓を見る。
「ありがとう。助かります。」
「でも、出来るだけすぐに帰ってきて下さいね?心配とかじゃなくて、すっごくすっごく寂しいんですからね?」
「……埋め合わせ頑張ってします。」
「もう。」
少しだけ呆れつつ、笑う。俺が戻ってくる前と後じゃ顔のラインが違うとまで言われる彼女の、普段よりも手入れが疎かでボサボサと跳ねた髪の毛を撫でる。こんな事だけで笑ってくれるような彼女が、本当は世界に見られちゃマズイんだけど。
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『マスター、もう宜しいのでは?』
「無理だァ~ッッッ!「貴方は私のパパです!」って急に言ったって向こうは「NOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!」って言うだけですよっ!只の異常者じゃないか!」
僕は超迷っている!
言うべきか、言わないべきか。
『しかし……事態は好転しません。このままでは、彼はきっと同じ道をたどる。辿り付き未知に敗れる可能性が大きいといえます。』
「バタフライ効果ってあるじゃないか!僕がそうやって言ったら一瞬でお父さんのお人形さんその2が完成です、なんてなったとしたら僕もう全身に爆弾着けて塔に乗り込んでファイアーしますよ!?」
『マスター、乱心は良くないです落ち着いてください、あと厳密に言えば貴方のお父さんは死んではいません仮死状t』
「あぁっ分かってるよ!」
僕は静かに叫ぶ、うがーっ。
『それにマスター、マスターがこの時代に何らかの原因で、それが偶然なのか誰かの意思によるものかに関わらず、訪れたということはこの時代に大きな影響があるはずです。それこそバタフライエフェクトという奴です。』
「だからってどうすれば……!」
『そこで提案です。
……攻略順序を決めましょう。』
「乙女ゲーみたいなノリじゃん」
『マスターそういうのお好きじゃないですか?』
僕のヘキ晒すのやめてよ……。
『マスターは現在、グレープ氏とのイベントをある程度まで進めています。』
「やめないんだねそのノリ」
『なので彼とは協力可能な関係といえます。また、レイバル氏は性格を参照する限り情報を周囲に伝達する可能性があります。これを【機密情報保持が苦手】とするか【優れた情報伝達手段】とするかはマスターの判断によります。シキ氏は当事者ですが、彼の行動理念はかなり優れた一貫性があります。つまり他者や情報の干渉はあれど彼が無茶をしてしまう可能性を抑えることは難しいと言えます。』
「うむむ、レイバルさんは確かにちょっと危ういかもですね~……。本人も確かにリスキー。」
『そこで、あとは理解できますか?』
ここで負荷をかけても良さそうなのは……
彼女だけ。
「全く、過去に来たのだから最初からそうすれば良かったです、全く全く。」
『行きましょう。手を尽くしましょうマスター』
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