翡翠の色の軌跡
「こんな力があるとはのぅ、お主には驚かされてばかりじゃ……」
アーマーが解除されたので、俺の脇にはクルマが停まっていた。なかなか大変な戦闘だった、体がちょっと重い。
「スザク様、お願い出来ますか?」
「ん、了解した。」
俺の身体をまた優しく炎が包んでいく。傷口はみるみる治っていき、疲れもとれていくような感じがした。
『…よっこいしょっと。」
『これで全員…かしら?」
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んハァッ!?
めちゃくちゃ妙な声と共に上体起こして90度。
白い布をかけられていたらしい僕は目が覚めた。
「グレープくん!」
「ハァ…あぁ、おはよう…?」
状況がわからなくて、今まで生きてきた中だと一番のマヌケな声が出た。
「アコウ!?わかる?私のこと見えてる!?」
「…わかる、けど、何かあったの…?泣かないで姫ちゃん…えっってか僕死にかけたんですか…?持病とか無いはずなんだけど…イテテ」
向こうではプリンセスと青光くんがわちゃわちゃしてるがイマイチ良くわからない…あとは初めて見る研究員の人と、タコ君とコウテイと、かな。
「フルル、これって…どういう?」
「…」
「いたいいたい…ハグがいたいくらいつよい…」
「よかった、お二人も起きたんですね。」
初めて見る研究員さんは、遊它さんというそうだ。今声を僕に掛けてくれたのが彼。
「何があったんだい?ねぇ、タコ君やアコウ君は
はなんか知ってるn…いでで、フルル!痛い!痛いよ!?」
「それは…」
「おぬしがよーく知っておるのではないか?」
…えっ?
声が二つ聴こえたなと思ったら。
そこにいた、いや、いらしたのは、
「ビャッコ様……!?」
「良かった、みんな起きたんだな?」
僕は目の前が信じられずに居る。
「これは…本当にどういう事ですか、あぁ、夢みたいだ、あぁ、ビャッコ様…もう一度御会い出来るなんて…僕、あぁ、なんと言えば良いのか…」
「少なくとも感謝は私ではなくシキにせよ、グレープ。彼奴がほぼ1人で駆け回った故の結果、私やセイリュウに至っては無様にも捕えられ救いを請うていただけじゃ。まぁ落ち着け、こちらとしてもゆっくり語らう必要もある。」
「…そのシキは?」
「家に飛んで行ったわよ。すぐに来るとは言っていたけど、まぁ助けてもらった身分でわがまま言えないし。私たちは神様だけど。」
えっ神マウントですかセイリュウ様。
それはいいとしてどうやら話を聞いた感じでは、
僕はしばらくの間飲まず食わずサンドスター直に摂取の3コンボをキメて植物的な状態になっていたらしい。そうして空になった僕の体にはビャッコ様が宿っていたんだとかなんとかかんとか…正直おったまげって感じ……。それの原因が塔で、シキはもう一回塔に登って戦うことになった。戦力である僕がぶっ倒れてしまったのは申し訳ない。ここにいる他のタコ君や今戻ってきたイカ君達は、僕と同じような事になっていて、対応した四神達が解放されるのと同時に目覚めていき…僕とアコウ君がラストだった、ということらしい。
それにしてもフルルを泣かせてしまった。
…僕の僕へ対する許容範囲オーバーしてるんで腹斬って死んでもいいすか。
「死んで貰っちゃ困るわ!貴方には色々訊かないといけないの、落ち着いて?」
「えっ読心術使わないで下さいよってか違うし」
「えっグレープ君……?」
「ごめん違うって例えだy」
「グレープ!また泣かせた!!」
「アホ猫!事を大きくすんな!」
「なんじゃなんじゃ」
「どうしたどうした」
「いやあのちがくt「グレープが自殺しようとしたって「なんじゃと」「別に主は悪う無かろう」」いやですかr「グレープ君…」えちょ泣かないで「ほらー!」うるせぇ糞猫ォーッ!「わーっ私まで泣くよぉー!?」勝手にしろ!!!」
どうしてこうなるのだろう。
________
と、とりあえず泣き止んでくれたのでお話ってのを聞こう。どうやら抜け殻ってだけだった僕も関係しているらしいし。
「えぇとそれで…話ってのは?」
「善し、此処からはわしが話してやろう。他の皆はまだ本調子でない様子でな。
……正直スザクが来ないのはどうかと思うが。」
対話相手はゲンブ様。久し振りに御顔を拝んだが美貌そのままで安心している。
「まあ話と言うか、主にとってこのことを端的に言うと、答え合わせのような物かも知れぬな。」
「答え合わせ?」
僕の身体は数日の眠りを特に気にしていないらしく、自由に動く。ゲンブ様が「見せろ」と仰るので、僕が持ち歩いてるメモ帳と分厚い本を抱えて運びつつ返事を返した。
「答え合わせ、ですか」
「二度も繰り返すほどでも無かろう。言の葉が意味するそのままだ。」
「それはまあ分かりますけど……いつ誰が答えたものです?僕?」
「目覚めた時に聴いたであろう、『主が一番良く理解しておるのでは無いか』とな。主が丑三つの時まで懸けて調べ上げ、聴いて、導いた答え。」
答えというよりそれは想像。
だけど、それが答えなら。
マズイ。
「顔色が悪いな、まだ優れぬようなら休んだ方が良い。急ぎではあるが主の身体がボロボロではな。ハスオのように目覚めてからしばらく体調がすぐれなかった前例もあるのだから落ち着くことだ」
「いえ、大丈夫です。
……答え合わせ、始めましょう。」
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主となる目線が二転三転する本は読みにくいが、ヒントがない状態で読み込んでいった時にある謎の正体に気付くと今までに得られたことのない不思議な快感に襲われる。
と、ジェーンさんに前に言われた。
俺は息を吸って吐いて、家に入った。
上の文に別に深い意味は無い、思い出しただけ。
「ただいま戻りました。」
「…おかえりなさい。」
「無事…っぽいですね、お久しぶりですよお兄さん。」
ネジュンとジェーンさん、二人で出迎えてくれた。少し重い表情のジェーンさんを見た瞬間、心がきぃぃぃっとなった。形容をする語彙を持ち合わせていないのが悩ましい。
「僕からは後で話しますから、とりあえず二人で話してきて下さい!ほら!」
「えっ!?ちょちょまtt」
「いーから!ほら行く!」
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背中を二人揃って押されていててという所、ネジュンはまあなんというか強い。こんな所まで気を使わせたのかなと思うと本当に申し訳ない。色々と、本当に色々と。
「…すみませんシキ君、心配かけちゃって。」
リビングに押し通された、ソファに座っているジェーンさんにそう言われたが、心配してくれていたのは多分俺のこと。謝らないといけないのはこっちだ。
「いいんです俺は。こっちこそすみません…それに、大丈夫ですか?」
「いや、その、大したことないんですけど…」
「だったらどうしてそんなに目が腫れてるんですか?泣くほど、大変だったんですか?辛かったんですか?……いつもしてくれるみたいには出来ないと思いますけど、慰めっていうか、俺だってめちゃくちゃジェーンさんが大好きだから、放ってはおけないし、だからせめて謝罪くらいは。……もちろん普段の俺がそうなるように、辛いときって放って置いてほしくなるし、もしそうなら、俺は何もしませんけど…」
冷静になれなかった、あんまりにもかわいそうで、いや俺のせいなんだけど、本当に本当に、罪悪感に襲われた。なんとかしなくっちゃならないって気持ちが先行を繰り返して繰り返して、でも、踏み込み過ぎても、というのもあり、出した手を引っ込めてしまった。保身などしている場合ではないというのに。
「……ごめんなさい、シキ君」
「どうして貴女が謝るんですか、悪いのh…」
「だって!……だって、私、だって……!」
そこまで言って、ぐじゃぐじゃの顔で俺の方へ飛び込んできた。「うわあああああ!」と泣き叫びながら。着ているシャツにどんどんと滝の水が吸い込まれて、冷たさと、熱いほどの顔の紅色が混じる。
大元の原因は不明だが、体内のサンドスター量の減少が体調不良の要因だそうだ。大量にサンドスターを使う、つまり活動をコントロールする、人間でいう「栄養素」の欠如を引き起こすのだと。
「だけど、しきくっ…居なくて、だから私、頑張らないといけなかったのに、めいわく掛けないようにしなくっちゃいけなかったのにっ…でもふあんでぇっ!さみしくて…ぅえっ…。」
彼女は、自身の体調不良と俺がいない間に済まさなければならない(と思っていてくれた事)の間で挟まれ辛かった…という事のようだ。
「ぐすっ…ぐすっ……。」
俺はとにかく抱き締め返した、何度目かもうわからない罪滅ぼしのために。帰ってきてそのままだったから、刀を腰に掛けたまま。
カタン。
と、彼女を抱き締めている時に、横で音がした。
「何でしょう、今の音…」
「…お兄さん!動かないで下さい!剣が!剣の鞘が落ちたんですよ!」
「えっ!?」
おぉぉいネジュンお前大分近くに居たのな、情けない奴だと思われてる節がどーもありそうだから、今のでそれが加速していそうだ。
……俺は今はどうでもいいとして、剣の鞘が落ちた?自重で落ちるような代物じゃあないのに何故だ?思い切り引っ張ってもびくともしなかった様な物が、そんなことになるはずが無いんだ。
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「起こった様だな?」
「わかるんですね、そういうの」
まぁわしも神の切れ端じゃ。
そう付け足して、ゲンブ様は言った。
「それで……それは本当なんですよね?」
「左様、簡単にもう一度説明をしようか?」
「はい是非、お願いします。」
ゲンブ様の話は、自然と耳に馴染む。
それは、ゲンブ様だからなのか、
それとも、
僕たちの話だからなのか。
「もうあれは2000年前のことだ。
「つまり、アニマルガールでは無かったと。色々と調べてきた僕もそこまでは知りませんでした。」
「無理もない。2000年前の話が何かしらの記録媒体に残っておるだけでも奇跡的。他の情報が残っている現状の方がわしとしては驚きよ。」
「そもそも誰がこんな風にまとめたのか。」と聞くと、直近ならパークや外部の学者が纏めたものであるというし、古くは話のキーパーソン“翡翠”であるという。この時代まで古文書が残っているのは、サンドスターの物質保存能力が働いているいい例だとかなんとかかんとか。僕はトリアタマだからイマイチ詳しい仕組みまでは理解できてないけど問題なし。
「続けるぞ。その頃にある一人の人間がこの島を訪れた。女であった。」
「女性……っていうね。シキは男だと思い込んでいるままだろうから訊いたら驚きそうですね?」
てっきり雄だと思っていたので、なんというか意外だった。
「まぁ話を最後まで聞けば彼も納得するだろう。
その人間は、生まれや己の名、その他一切の記憶を失い、ここに流れ着いた。彼女は始めに仲間を探した。しかし見つからなかった。航海の技術もまともにない時代であった故に、他の人間が入ってくることはなかった。彼女は次に生きる術を見つけた。水を飲み、果実を食べた。彼女は神に乞うた。その時、我ら四神たち守護獣は概念から実態へと昇華した。“信ずる者無き神それ即ち風、地、炎、水らの自然と同じ。信ずる者ある神それ即ち炎が照り水が降り地は風と共に恵みを運ぶ如き施しの力を得る”、つまりわし等神が神として存在することができるようになった。彼女はけものを愛した。地を駆けるものを愛した、空を舞うものを愛した、水を進むものを愛した。けものも彼女を愛した。初めは戸惑いや傷を負うこともあった。しかしけものを愛する彼女に、皆は伝わらずとも想いを一つにした。
だが、山の輝きは彼女が敵を敵で無くしたのを許さなかった。けものたちは皆が仲良くなり、必要な時に必要な分だけの最小限の循環を覚えてしまった、弱肉強食の均衡が失われたのだ。山の輝きは、細菌や細胞を真似た敵を作り出した。これで自然の姿は変わることなく保たれていく、そのはずだったのだが。
ある時、彼女の存在を快く思わぬ敵が現れた。その怪物はけものの姿を己に映して、けものを騙し、翡翠を追い詰めた。神々はその状況を重く見た。四方を守護する神はその力を合わせ一本の剣を作り出した。両刃の刀剣、名を
その剣は神の力を宿し、四方の真中に彼女がその剣を持つことで聖なる金の力を手にした。彼女は麒麟の位置に立った。そして、彼女と特に親しくしていた2羽の人鳥と、1匹の黄金色の猫が彼女の側に付いた。
敵は持てる力を振り絞り、世界を一瞬暗雲の中に閉じ込めた。しかし彼女は、皆と協力しその黒雲を翡翠色の炎で切り払った。最期の時、彼女はこの島の事や自らの事を綴り、神々や剣と共にその身を煌めく火山へと還った。そのときに、またいずれ世界を暗闇に閉じ込める者が産まれたときの為に伝承を残したのだ。」
「今ある塔やあの四神刀は、その情報をコピーしたセルリアンが作り出した物だ…という事ですね。実感が湧かないな、2000年なんて…」
『でも、この島がそれを覚えているなら、グレープさんや先代のフルルさんが武術に長けていることや、前教えて頂いた伝承に関しても納得が行きますね。』
「主もしっかりしておるな、シキよ。つーしんとやらではじめから聴いておったのであろう?」
御名答、シキはタイプツーの通信越しに言った。
彼は刀の事を訊いた。
「どうして抜けたのか、か。セルリアン共がどこまで気焔剣を忠実にコピーしておるのかは定かでないが……恐らく切っ掛けは主の番、ジェーンちゃ…ではなくて、ジェーンだろう。先の話の人鳥の内の片方はジェンツーペンギンであった筈だ。翡翠は大変ソレと仲が良かった。抜ける…つまり主が刀剣に認められたのだとすると、文字通り主は翡翠の生まれ変わりか、ほぼ同一として見なされたのでは無いのか?」
ですが…とシキは続ける。
『以前はこうはならなかったんです。ジェーンさんと一緒に居ても。だからきっと、何か他の要因があるんじゃないかな…と思っているんです』
「ふぅむ……。まぁ、良い。四神全員が集ったのだ。即ち古文書と同様の布陣を組もう。暫し一瞬にすぎぬかも知れぬが、体制を整えてな。」
僕が調べた昔の話はほぼ真実だった。
だけど、前ネジュンの言ってくれた未来…。
『父さんが死ぬ』
シキが死ぬ……。
僕は言えずにいた。
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