僕と私
黙然と目前に現れたケダモノ。
……ビーストだ。
「…とりあえず、相手するしかないな。」
そこにいたのは、間違いなくサーバルキャットのビーストだった。あの時俺の装甲になんともクールな爪痕を残してくれやがった尖爪のサーバル。どこから逃げ出してきたのかは不明だが、俺の知っている彼女では無いことは確実である。
「皆さんはもう一度避難を!ここはどうにかします!タイプツー、行けるよな!」
『えぇ行けますよ、今さら確認するまでもないでしょディスプレイ見れば書いてあるんですし』
きぃっ、まぁあああああああったくなんでコイツはこうなんだ、最近四神刀の効果で俺が喋りかける事が無くて寂しいかなぁと思ってやったのにこのくそったれ手袋がよ!スクラップにしてやろうか?おいっ!おーい!
…という言葉は言わない。
その代わり語気で意見だ。
「
『セット アムールトラ!』
あー、通じてないね、いいさ今さら。
今さらさ。
『フシャウ…』
まるで久しぶりだというように、目の前のケモノは鳴いたようだ。ならばまぁ答えるしかあるまい。久しぶりですね、と。
「行くぞ?」
鎖で繋がれた猛獣の、束縛を解いた時のように俺は真っ直ぐ飛び出した。目の前の猛獣を下せるのは猛獣だけだろう。
『シィィィィィィィッッッッ!!!!!』
向こうも真っ直ぐ飛び出してきた、四肢が獅子と化したようにも見える獰猛な顔をもって!
「こちらも、それ相応に倒す!」
そのセリフを吐いた瞬間、ひとつ思い出した。
[ビーストは浄化手段以外では殺すことになる]
ということだ。
しかし、いくら強力な装甲でもあの爪は…いや…それに、遅かれ早かれ浄化はしなければならないのだが、出来るだけ苦しめたくはないし。四神の力を使うにしても援護射撃をしてもらうか、あとは…。
一般人の立ち入りが止められた島の、雲海を突き抜ける程の、前にここへ来た時とは中身が様変わりしている塔の中程で悩んでしまうことになろうなど考えても居なかった。
『フゥゥゥゥッッ…』
「あっ…と、せやっ!」
思い悩んでいる暇などない、
俺は生物を相手する者だ。
無駄に殴り無駄に傷付ける事こそ避けないとな!
でも蹴りをいれて少し遠くへ飛ばした。これくらいは我慢してくれ~…?
「タイプツー、悪いけど向こう使うわ!」
『はい~!?どーゆーことです!?苛立ったように叫んで装着して走ってってちょっとパンチして終わり!?計画性のなさもここまでくると芸術ですね感心しますよ!』
「まぁまぁそう言うな、こっちにだって考えがあるの。お前の出番もあるから。」
『そうですか、まぁ…まぁいいでしょう!』
単純だなァ~おい…。表情の見えないロボットのくせしてどうしてこうもわかりやすいんだよ。
まあいいっ!
「スザク様っ!」
『あぃわかった、行こうぞ!』
「そしてタイプツー!」
『ここで!?』
「ここじゃなきゃダメなんだよ、よっこいせ」
俺は、腕時計の形状に戻ったタイプツーを外し、それを四刃へと巻き付けた。
『うぉ?なんじゃこれ!』
『知りませんよ!』
「はいはい喧嘩しないの、ここにさっきのトラチャンをセットしてと!」
色々手順があったけど、つまり簡単に言うと四刃を基点として装着している状況にする…えっと、どう説明しようかな…。
『グルルァアアッ…』
向こう来てるから解説をタイプツーにさせておくのでそれで勘弁宜しく。
_____________
はい、しておきます。
私は今、あの四刃という小さめの反りのない忍者刀位の大きさの刀の柄の部分に巻き付いてどういう訳かリンクしています。これは私の内臓技術なのかとか誰が作ったんだという点の真偽とか何故こんなことになっているのかに対する答えらしい答えは分からないのですが、とりあえず刀と連携状態にあります。この状態で装着をしますと、先ほどまで彼が装着していた四神のアーマーを纏う事になります。更にこの状態で何かしらのサンドスターを装填することにより、能力の重ねがけができるという訳です。もっとも、見た目には特段影響がなく、身体能力であったり、攻撃方法などが変化するという訳です。
分からない?私もですよ。
___________
って訳。
わかんない?実戦は今からだし大丈夫。
「ジャキン、どうよ?」
『どうって…見た目はほとんどそのままですし…でも、意味不明の力を感じます…!』
『こちらも、よくわからないが…少々草地を駆け回りたいのう!』
神の力を意味不明と称した機械は燃やされそうだが、寛大な神の好意により何とか助かった。
「さて、改めて…」
『ヴゥゥゥゥッッッ…』
行くぞっ!
「はぁぁぁぁっ!」
出来るだけ傷つけたくはない、炎を浴びせることを優先し、傷をつける事は極力避けながら、このっ…!
「よっこいしょっとぉ!」
『ヴニャァ”ウ…』
…上がった身体能力で、切り抜けるッ!
『ニャァ”ァ”ウ!』
「なんのっ!火炎弾ッ!」
斬撃と共に牙型の火炎弾を飛ばすっ、着弾させ、そこからツタを生やそう、拘束する算段を組んでいくz……あれ?
『…にゃう?』
着弾はした、しっかりと壁に着弾したんだ…だが…
「生えてこない…やっぱり、ダメだ…!」
また何発か打った、今、生やそうとしたのはラタンヤシ。ツタを伸ばす植物だ。観葉植物として知られているから見たことある人も多そうだが、こいつはそれこそ観賞用の見た目の時期を過ぎるとツタを伸ばす植物だ、ヤシの木って言っても色々ある。
だが、生えてこない、着弾点をみるとへなちょこな見た目の草が生えてきてそのまま枯れ、別の木が生えたのが認められた。
『ブシャウ!!』
「しまったッ!?」
他所に気をやっていて、跳びかかってきたサーバルビーストの鋭い爪を食らいかけた、火炎弾は鞘から放たれるので刀の方はとりあえず防御に回せる。弾けッッッッ!
『なァ…おぬし、アホか?』
「えらく辛辣ですね、どうしました?」
『ここはセイリュウの領域じゃ、故に水を大量に消費しないヤシの木を育てても根が腐るだけじゃぞ?それに、水で火は消えていく、部屋全体を燃やすのは不可能じゃ。』
…なるほど、もっともだ。ジャングルが再現されたここは全体として湿っている上、川も流れ、生命力の強い他の木々が生えているし、その木々も目に見えるスピードで成長してそして枯れてまた生えてくる。
どこかで聞いたことがある、ジャングルの土は見た目ほど栄養がないんだと。高速な循環により土に栄養が残らない。仮にスザク様の炎で0に戻したところで、その高速な循環サイクルに追い付くことなど不可能という訳だ、撃った先から別のサイクルに乗れている植物が生えてくる。神の水で育っていく木々の中でつるなど伸ばす暇もないのだ。
「おわっ!?よいせ!」
『ヴォォァウウウ!』
狙いの定まっていない攻撃ほど予期せぬ被弾の起こるもの、よいせ、なんて口走ったがおわっで良いのをもらった、いくら四神の能力でも装甲に傷がつく程には相手もキッチリ決めてくる、ただ煌めきを相手は嫌うから近づくのもがありとも言える。
「うがっ…弾幕戦で…!」
『もしくは、直に行くしかないのぉ…』
結果的にこうなるのだったら直接攻撃していればよかったか、しかし撃ってみて分かったことを活かせるタイミングもあるかもしれない、無駄じゃないはず!
「直接狙うっ!火炎弾発射ぁ!」
『ウブニャァァァアアア!!!!!』
「何ッ!?」
炎をかき消して突っ込んできやがった!?
なんという精神力、
なんというサンドスターロウの、
ビーストの力の濃度!
「ほぁっ…!」
トラの脚力は山林でも生きる、こういう回避は得意。
木々が生い茂っていても対等には動けるはず。
「何発も浴びせてやるっ!!!!!」
小さい頃、姉さん家に置いてあったハイパーホームコンピューター、ハイホムでやったゲームが一個あったが、たしか「ハイパークラゲイド」ってゲーム。あのゲームは本当に難しかった、全部がそうじゃないけれど、撃って考えていけっていうゲームだった気がするな。ヤキドリーっていうボスが強かった。そんなことを一瞬思い出した、つまり何が言いたいかって、撃ったモン勝ちだってことだ!
「どうだっ、
雨のように火を吹き!
『フシュウウッッ……!』
雨のように流れて退いていく!
「とりゃァ!」
大量に放たれる火焔粒、
その一粒は小さくとも、
その爪のような弾丸を、
流れのようにして浴びせかければ抜けられない…
はず!
『お主、呑み込みが早いのう…いや本当に。』
「スザク様の力は前お借りしたことがありましてね、貴女は御存じないでしょうけれど…。」
でも、俺は知っている、あのときは死ぬかと思ったよ、考えることがたくさんで頭痛もしたし。まぁ俺よりも死にそうな人もいたけれども。あぁそういえば、彼は覚えているのだろうか、俺だって苦手だけど酒も口にした。もう一回くらい晩酌に付き合ってもいいのにな。
『ほぅ……確かに前にフィルターのゆがみの様なものがあったが…そうか、よし……ならばそのままゆけ!』
考えるの辞めたな?まぁらしくていい、考えるのも大事だけど勢いも大事。
これだ、撃ったモン勝ちは終わらない!!
「これで楽になるんだから、ちょっとだけ耐えてくれ……!」
『うがるぅ……うごがが…。』
叫び声が少々弱弱しくなってきた。
行ける、このまま!
「おりゃおりゃおりゃァァァァ!!!!!」
『うが、うみゃ……。』
今まで獰猛の限るまで暴れに暴れていた猛獣は、だんだんとその腕や脚に溜まった悪意のない悪が抜けていき、か弱い鳴き声を発した後に、その場にか細い声をあげてそこに倒れた。
「よし……いい、かな。」
俺は前の経験もあるので、周りに気を付けて、アーマーを纏ったまま歩み寄った、嫌な予感のようなものがしたというのも事実だ。武器だけは鞘に収めた。こうじゃないとスザク様がここに体をフルで出せない。
「うにゃ……うみゃ…………………………。ニャぁ。」
「???動物に戻ってる、のか。」
先の戦闘での火の煙がそろそろと立っていく、その奥に見えていた人型は小さく小さくなっていっているようで、その姿は先の戦闘中よりもより一層の獣の姿で横たわっていた。
「サーバル……キャット?」
「そのようなり。亀ちゃんがそう言うておる、生きておるともな。」
「神の使いはそんなことまでわかるのか。すごいのぅ」
『おねえさんも神でしょ……。』
その通りだQ坊、本当にその通りだ。
「とりあえず、この子を手当てしましょう、いったん戻るか、誰かを呼ぶかも決めなきゃですが……。」
「そうじゃのう、どうしようk……?」
いやな予感というのは、的中するものだって言う。
昔からそうだ、
それもまた、クラゲイドで学んだように思う。
ッタァッァァァーン!
と、地面を蹴る硬い硬い音が響いた。
なんだ、という三文字を呟く暇もなく、
目の前を人型の黒い影が飛んでいく。
『マッタク、予想ヲ遥カニ超エテハヤイノハ困リマスネ……』
「何者だ…お前……?」
『ソノウチワカリマスヨ、トイウカ、ソレドコロジャナイノデ。』
そういうと、先ほどのサーバルキャットを影は奪うように抱えて、白衣のようになった上着を翻して去っていった。水面には既に、次の地獄の様子が揺れていた。
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