カゲロウ
「はぁ…はぁ…!よっし……なんとかなった!」
渦が止み、静かな波に戻る。
磯の匂う波はいつの間にか静かに潜み切っている。
「うむ、見事だった。そして……」
我々が少年のようなセルリアンに目を向けると、それに気付いたのかこちらに歩み寄ってきた。
「君のおかげだよ、ありがとな」
『ううん、いいよ。約束してくれたからね!』
なんとセルリアンに助けられたってことに。
いや前例はあるけれど。
ってかここにいるけれど。
『……なんだ?』
「呼んでねぇよ」
「…で、君はなんで塔の上なんて目指してんだっけ?」
『お兄さんには言ってなかったね…といっても、ボクもよくわかってなくて。ただ、行かなきゃ!ってのが先に出てきてそれしか考えられなくなっちゃうんだ。さっきの二人は【危ないよ】って言うけど…絶対、ボクは行かなきゃいかないんだ』
なんだそりゃぁ
思わず小声で呟いてしまう程にはなんだそりゃ。
「理由も無く…か。」
『でも、ボクは行きたいんだ!』
参った、俺はこんな10歳も行くか行ってないかわからん子供に付き合ってる暇はあんまり無い…。
今更ながら面倒な約束をした。
相手を裏切って壊してもいいんだがな…
良心が痛む、ここまで鮮明に子供だとな。
助けて~って目でスザク様に視線を送る。
「んっ…うぅむ」
まって無視しないでよスザク様絶対いまコッチ気付いて“んっ”って仰いましたよねなんですか“んっ”、って何なの?喘いでらっしゃるんですか?セルリアンはそんな事までするのか?んな訳あるかボケナスコッチ気付いてたよね絶対、そっぽ向いて“悩んでます気付いてませんシラネ”みたいな顔しないでよ。
「ん~…。」
ダメだこの神。
…まぁでもさっきみたいに助けられる事もあるだろうし、しばらく様子を見ようかな。
それからだ、
それから考える。
「さっきの約束通りにしよう。助けてくれるなら連れていくよ。丁寧に。」
『ありがとう!』グーキュルルルッ…
「なんじゃ?セルリアンも腹を空かすのか?」
ゲームによく居る都合の悪い時にちょうど上手く通信が切れてなんとか主人公がしのいだ後にケロッと通信繋がる博士キャラみたいなタイミングで口開くのやめてクダサイよスザク様。
「はい、ジャパリまんでも食べな?
…あとさ」
『ありがとう…で、何?』
「名前無いの不便だから君今から"Q坊"ね」
『Q坊?』
「ン…ww」
はいスザク様仮に貴方が本来の生活取り戻しても俺お土産貴方にだけ持って行きませんからねいいですね恨むならご自身を恨んで下さいね。
お腹の空いたときのキュルキュルっていう音のキュー、よく分からない存在だからQUESTION(クエスチョン)の頭文字のQを合わせてあとは言いやすく坊をつけて
…ダサい?知るか。
『ありがとう、ナマエってものはもらった事無くて。うれしい!』
ほら、本人(?)は喜んでるぞ。
『…!…きこ……か!?』
名前が決まりました所で四刃がブルブルブルブルし出した、どうやら声的にも、そして「ゲンブっ!」ってスザク様が今仰ったしこの先にはゲンブ様がいらっしゃるご様子だ。
『…よし、聞こえておるようだな。わしだ、四神が一柱、ゲンブだ。』
「大丈夫ですかゲンブ様?」
『ふむ、大丈夫かどうかと聴かれれば無論ぴんちというヤツであろう。そなたらを襲うたあのセルリアンのような輩がひぃふぅみぃよぉ…4体もおる。能力を奪われた故マトモに地震の一つも起こせぬまま抜け殻のわしの精神は宙ぶらりんだ。』
うっっっっっっっっわ参った四体なんて。
揃いも揃って黒いセルリアンが四体だそうだ。
玄武だからってやかましいぞ、
有色鉱物パーティーアソートはよしてくれ。
「とにかく行きましょう。
Q坊、お前は絶対はぐれるなよ!」
『わかった……えっと、シキ!』
Q坊は頷いた。
帽子が傾いた。
_____________________
『ねぇ?』
「なんだ?」
歩いていき、もう次の階かというときに、
後ろからQ坊が声を掛けてきた。
『その鞄、ボクのかも。』
「ん、これかの?」
彼が指差したのは、スザク様に持っていて貰っていたメッセンジャーバッグだ。例の残骸と化した建物にあったモノだ、何かのヒントの可能性を信じて収集し、スザク様に預けていた。
俺はすっかり忘れていた、特筆すべきイベントでは無いと思っていたからだが。
中には確かスケッチブックと、筆記用具一式、色鉛筆のたぶん24色くらいのヤツが入っていた。
あと、傍で拾った子供用だろう衣類も一応持っておいた。えーと、青いベストに青い靴か。
余談だが、かわいい水色の鞄をかけているスザク様はきっと一部の人が喜ぶかわいさがあった。
写真撮っておくべきだったかもしれない。きっと高値で売れる。
回らない寿司に行ける。
「別に困らないし、
持っていたいなら持ってていいぞ。
スザク様……いいですよね?」
「うむ、同意じゃ。」
『ありがとう!』
物は持ち主が持ってた方がいい。
進んでいった先。
段々と熱くなってきた、
ずっとずっと、塔の部屋に
塔の中に再現されている太陽は夕日だった。
サバンナ……とは違うな。
「これは……ミナミメーカリエンか?」
「……ってなんですか?」
『北アメリカ大陸の南から南アメリカの北の方、つまりメキシコ地方からアマゾン川くらいまでの気候が再現された、パークセントラル周辺のジャパリライン・モノレールで行ける乾燥したステップ気候から熱帯雨林気候が再現されたジャパリパークのエリアの名前ですね。』
しゃしゃり出たがりじゃじゃ馬手袋が解説してくれた、
どうもご丁寧にありがとうございます。
もはや見慣れた広さの一部屋、若干の熱帯系の木々の集まりと広い草原、そしておったまビックリ大蟻塚がある。
『来たか主ら…頼むぞ……!』
「任せてくださいゲンブ様。
スザク様とQ坊は待機してて下さい。いいですか?」
「いつでも加勢出来るようにしておくからの。」
「さてと…やりますか。」
前方四体、
『キヒヒ』と笑うコウモリアンに、
蟻塚の向こうのアードウルアンに、
硬いウロコ。
センザンリアンとアルマジリアンの二体。
『セット!アリツカゲラ!
カモーン!
スピアーリ・ザ・カゲラニル!』
ポゥっ…と淡く光り輝いて手元に生まれた槍、
鋭く光る先端。アリツカゲラという動物はかなり小さな鳥で軽い。それを再現した槍はまさに必殺の一撃を加えられそうな…
『まずは…私っ。キヒヒッ…』
妖しいのは笑みだけではない、雰囲気込みで総てに置いて怪しく妖しい。モンスターと形容するのもまた違うよう。
「ナミチスイコウモリ…ね。」
目だけ紅く光るソイツは飛び上がる事はせず真っ直ぐ突っ込んできた、俺はそれを片手で持てる重さとサイズの槍で止めた。
『さすがァ~…』
語尾にきっと真っ赤なハートマークをつけているであろうねっとりした息が戦場に似合わない生温さ、右に振り抜いた長い鋭さは空気を無意味に叩いた。
『よっと!』
羽ばたき宙返りした相手の奧から出て来たのは。
『いっけぇええええっ!』
「何ィっ!?」
高速回転する鋭い盾、これは迷い無く言える。
「オオセンザンコウっ…」
武器を砕くんじゃないか、それほどの回転がぶつかりそして何処かへ跳んでいった。
そして俺は、ビリヤードのように部屋を跳ね回る千山の斬甲だけを見ていてはいけない。
『私もいるよ~とうぅっ!』
真っ直ぐ走り、白っぽく光る膝のプロテクターで地面を滑るように突っ込んで来るのはオオアルマジロ。
「ぐが…ガッッガガガァッ!?ウルァッ!」
なんとか抑えて弾き返した、これはスピア、こうなってもアリツカゲラ。槍自体は頑丈な作りだということか。
『こんなにすぐに"みらくる"を出してはいけまセン!』
『えぇ~けちぃ~!またactionすればいいでしょお?』
「みらくる…ってなんだ。」
なんか訊いてばっかだな…?
『教えてあげる~ひっさつわざだよ!』
『アルマー…そんな安いモノではありまセン、actionと呼ばれる攻撃力より技術的に優れた技を出して自分の輝きを高め繰り出すけものミラクルです。探偵たるもの己の発言に気をつけてください?』
探偵だかなんだか知らないけれどなんとありがたい事に解説ありがとう、ただセルリアンがけものを語るのはあんまり心としては嬉しくない。
『キヒヒ……!まだいくよ?』
「そうだろうと思ったよ……!」
今度は滑空してくる、さっきのバック宙で立ったのであろう大蟻塚の先っぽからだ。夕暮れの太陽に重なって黒い影が恐ろしい。
「ふんっっ!」
『なんの~!』
槍を真っ直ぐ突き出す!
が、避けられ武器を抑えられる。
「クソっ!」
抑えていた手を振り解き、もう一発!
『痛ったぁ~!?』
今度はどうにか当たった!
『わすれてはいけまセンよ!』
だがスフィアに阻まれ追撃が出来ない、完全にこのままでは俺が負けるだけ、消耗しきって死ぬのが見える。
「やるしかないな、うらぁッ!」
後ろに飛び退きながら槍を投げる。
悲しいが避けられ、槍は蟻塚にガツガツと仕込まれた機構でまさしくアリツカゲラ、要するにキツツキのような動きを見せて、蟻塚を砕けさせただけだった。
「四刃 朱雀ッ!」
「あいよっ、我が傍におるでの?」
「…なんで俺に味方して頂けるんですか?」
グレープさんが言ってた事も含め心配で訊いた。
本当に訊いてばかり。
刀の中にご自身を宿したスザク様は…
「助けて貰った恩返しの分と、助けようとしてくれているのに協力する分と、お主が注いでくれたこのパークへの無償の愛の分と、我の気分じゃ」
と。
「そうですか。では!」
「うむっ、一心同体みせてやろうぞ!」
『なんか変わった~!こわいよセンちゃん!』
『何をぐずぐずしてるんですか!もっとしっかりしてくださいよアルマー!ほらっ、私達には玄武の力が…!』
やはり、ゲンブ様の。
『そっか!よぉーっし行くぞ~!』
「来るぞ!シキッ!」
判ってますよ!
「ふんっ!」
飛ぶようにこちらにきた拳を払い斬りつける!
軌跡には炎が踊っている。
『うぅっ…!センちゃ~ん!あの子強い!』
『なら私が…!』
ふっ!っと背を向け振るって来たのは料理の腕では無くて鉄のような固さの鞭のようなしなりの尾っぽ。サッと跳んで避けて火球を放ったが…
『ゲンブ部分…開放です!』
ズンッ!と何処からともなく壁が出現し火球を掻き消した。そして生命の根を下ろす暇も無くその壁も虚空に消えた。
「ゲンブの力は大地…地形を変えたり、石や岩、砂…命宿らぬ物の扱いに長けておる。所謂…」
「無機物…ですね。」
「左様。あやつらに何処までが引き継がれておるかは知らんが用心せい、鉄でも骨でも銀でも塩でもゲンブの手にかかればちょいちょいじゃ」
『話し込むな~!とりゃ!』
「おわぁっと!」
全く血気盛んだ、アルマジロの方に限ればの話だが防戦に長けている訳…でもなさそうだな、自身の戦法を悔いるべし!
「せぇい!」
わざと外して足下を切った、『わっ!』と怯んだ今がチャンス!
「生まれよ生命!」
『えぇっ!?何々~!?』
『アルマー!?』
センザンコウが硬い鱗を飛ばして攻撃してきたが弾く、アルマーと呼ばれたこのセルリアンも地面を隆起させたが無意味っ!
「ブドウ科ツタ科のツタ。地形にくっつく吸盤があるから除去が面倒なんだ、知ってたかい?」
『だから…なにっ!』
「もがいて取っても無駄って事…だよ。」
御免、そう言ってセルリアンの腹に燃え盛る刀を刺しそのあと迷い無く引き抜いた。
『ア”ル”マ”ァ"ァ"ァァ!!』
どろっと金属が熔けるように崩れ消えた。
叫び声が焼ける音に溶けて何処かに消えた。
『そんな…なんでも屋が!』
『くっ…なんで…!アルマぁああ!』
「どっちからでもいい、そんな適当な算段をするほど鈍いなんでも屋じゃないだろう?」
『うるさいっ!』
あぁ、とコウモリが手を伸ばしたのと同時に飛んできたのはまた鱗。
『私は…私の正義、依頼達成という正義で貴方を貫きます、貴方を倒すという依頼を!』
「あぁ、かかってこいっ!」
駆け出したその足の踏んだ後は少し赤く光っていた、オレンジ色の硬い鱗が何枚も飛んでくる。
俺はそれを横に弾き飛ばして地面に叩きつけ、そして消えていくのを見た。
『やぁああああっ!』
赤く光ってつややかな尾が俺に向かってくる。
それを俺は刀で勢いよく弾く、
…ん。
振り抜いた刀身には弾いた感触が全くしなかった、カッと引っかかったのは初めだけでそのあとはスッパリと切断したような…。
「すべて…斬れた、のか。」
『…アルマー、私は、貴方無しじゃ弱く柔らかい銅だと…言ったじゃないですか…だから………先に進む貴方が…嫌いなんですよ、アルマー。』
銅…熱を伝える赤い光沢一つ柔らかいのは。
なるほど、二人合わせて硬い青銅か。
白っぽく光り熔けるように消えたのは…スズ。
『キヒヒ…すごいね…。あの二人って結構強いんだよ?』
「お褒めどうも、後は君と…そう言えばもう一体は何処に行ったんだ?」
3体の対処に追われ、思い返せばアードウルフのセルリアンは何処かに行ってしまったのかどうかさえもわからない。
『あの子はすごく臆病でねー?今はきっと穴か何かの中でうずくまってるんじゃないかな?
それとも…
今、丁度攻撃を始めるかも?』
ガザァッ!
急に音が響いた、すると先程まで右にいた蟻塚が俺に向かって来た!
「なんだとっ!?」
炎の翼が羽ばたく事なんてせずに上に真っ直ぐ飛び上がる。しかし。
「んなぁっ!?」
天井から蟻塚が現れ背を突いた。
まるでパズルをしているように、まるっきり同じ見た目大きさの蟻塚が綺麗な等間隔に現れ俺に迫る。
「まずいっ!」
俺は地面に叩きつけられる寸前に炎を出してジェットの要領でホバリングした、そのあとすぐに起き上がったがそうでもしないと蟻塚が迫ってくる。
『すごいでしょ?コレがあの子の"地形操作能力"』
「それはお前達の能力じゃない!」
『奪ったから…私たちのだよ?
そして…私の能力は…こう!』
コウモリが叫んだ、ソコまで大きく聞こえなかった声の奥にもっと何かが隠れているようで、まだ反響している。
ゴゴッ…
次は音がした、後ろにサッと避けた。
ずっばぁああっ!と出現した蟻塚、
いや、
「これは…金!?」
ソコには先程まで無かった光る
蟻塚をそのまま金で再現したような、ごつごつしてぼつぼつ穴も空いた人の背丈ほどの物だ。
『私の奪った能力は物を無機物限定でなーんにでも変えること。あの子の出してくれる蟻塚を金ピカにしたの…すごいでしょっ?キヒヒ…。』
「その"あの子"ってのは何処だ!」
『さぁ…?自分で探せば?もっとも、四神の力のある私達にはそのスザクでしか勝てないから姿を変えても無駄だけどね!』
その通りだ、最初に
ここから形態変化をして位置を割り出したとしても移動されては終わり、地形操作ができるなら撹乱も容易いだろうし現実的な方法とは言い難い。
だからといって今ここでやみくもに剣を振るって塚を総て破壊するのも得策とはいえない、融点が低い金属ばかりではないから、コウモリに阻まれそもそも破壊が出来ないという可能性も十分にある。
勝ち筋が…
…いや、無くもないぞ。
コレならいけるかも知れない。
「まぁいいっ、お前からだ!」
『キヒヒ…ヤケになっちゃった?』
右手に握った本来の刀身を相手に向かわせ、左の鞘を地を擦るようにして振った。
「せやぁっ!」
『痛ったたたた~…削れたじゃん!』
来た、この欠片だ。
「いけっ!」
先ほど擦るようにして鞘を滑らせた部分から勢い良く大木を産みすぐに枯らした。その突発的な勢いで空中を翔けていったのは間違いなくコウモリの体のかけらで、飛んで行ったのは……
『わっ!』
「Q坊!それをクチの中でもなんでもいいから取り込め!」
『食べろってこと!?』
「そうだ!」
ばくんっ。
セルリアンの彼の体内へと吸収されていく。
『あぁっ私の!食べちゃった!』
『なんだか……よくわからないけれど…音がすごくよく聴こえる気がする…!』
読み通り、
コウモリの能力がいま彼にはある。
「それでもう一体のセルリアンの位置を割り出してくれ!できるだろう!?」
『うぅぅぅっ、ひどい!』
「一応言っとくが俺は1対4を捌いたんだ、今更卑怯など言ってもらっちゃ困る」
蟻塚の動きも止まった、
感知しているとわかり、セルリアンは恐らく逃げているのだろう。
『やぁぁあ!』
「もう見切った!」
飛んできた脚を掴み、さっき出来た正面の金色の塊に投げ飛ばす。
ベッコリ凹んだその形とその部分に上手くハマった姿でまるで玉座のようだ。しかしその金の椅子は今に棺桶にかわる。
『シキ!もう一体のセルリアン、今シキの正面だよ!!』
まずいっと駆け出したであろう時、既に俺は済ませていた。
「スザク様!」
「まかせておけぃ!!」
“ひっさつのいちげき”を。
「「
振るわれた横への一閃。
炎が大剣と見紛う程に化け、
消えるように、黄金が溶け、
未だに夕日が眩しい。
「きれーな夕日じゃのう、良い子はおうちに帰る時間じゃ」
「悪い子は寝させましょう、夢の中の
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