1000と0 その4¹


『我も、準備運動といくかのぉ?』


刀からその声が聞こえたとき、

一瞬で周りが焼けた。



『ウガァッ!?』


「あっつ……!?」


思わず目をつぶってしまう、

ビーストがうなるほどのこの熱は他でもないこの刀から発生している。

そして、比喩でもなんでもなく、

本当に周囲が焼けている。


『お主は大丈夫かの?』


「えぇ、少々アッチぃ、ですけどね」


『まぁ…ちょいと我慢せい、本来これはお主のような生身の人間が使うものじゃないからのぉ。』









えっ。






「えっ!?えっそれって俺が使って大丈夫なんですか!?死にませんよね俺!?大丈夫ですよね!?」


「まぁ待てい、ほれこっちじゃ」


いつの間にか熱波に紛れて、

俺の後ろにスザク様がいた。

いるだけで放たれる熱はさすが神だ。


「“生身の”人間と言うたじゃろう、お主はそのままのナマモノとはちょいと違う。

 ほれ、その…なんじゃったっけ、ほら、その、えるびーなんちゃらー……とかいうその…五月蠅い手袋があるじゃろ」


『五月蠅い……ですって……!?』


「はいはいはいはいLBシステムですね!LBsystem type2 version0‐SSって言うんですよ!うるさいのは確かにその通りだと思います!ただでさえ我々のことがあまりよく感じておられないとお聞きしておりますのにこの失態は本当に申し訳ありません……!音声機能抜きます!」


マジで黙ってろクソグローブ!

ファ※※ン!


「……別に嫌ってもないし、むしろなんかこうガチャガチャするの面白くて好きなんじゃがどっから沸いた噂じゃ、それ?ビャッコ辺りが適当に言いふらしておるのか…ま、我にはカンケー無いケドな。

 あーんで、んまぁ、よぅわからんがソイツでなんかこうガシャングルンっとすりゃ我みたいになれるんじゃろぅ?カコが言うておったぞ?」


と、とりあえずよかったという事にしておこう、命が助かったのでオールオッケー。

にしても適当だな、なんだよガシャングルンってどっかの民族か最新武器巨衝・餓斜ン具流ンか何か?

ま、いい。今はそんな場合じゃない。


「では改めて、スザク様。お力添えを」


「…四神が一柱、スザク。

 今、お主に我が煌めく業火を授けよう!」



スザク様が俺の手を、

あのグローブ越しに握り締めた。

不思議と熱く無かった。



「…お主には生きて貰わねばならぬ」



「死に絶える為にここに来た訳じゃ無いですよ」



そうか、とスザク様は微笑んだ。




「さて、そいじゃあ行きますか。」


『セット スザク!』


体に炎の渦が巻き付くようにしてアーマーが作られていく。誰が設定した訳でも無いこのアーマーが使える意味や理由はよく分からないけれど、断片的にしか使えなかった過去があるのにここまで精密に操れるのは、やはりこの四刃の成せる技か。


「すぅぅぅぅぅっっ はぁああああ。」


深呼吸をした、

あの身の芯まで燃え尽きそうな炎が今や微風のように心地良く思う。

炎を恐れているのかは分からないけれど、あのビーストは俺を睨んだまま動かずそのままだ。



「四刃朱雀は、刀身と鞘両方に纏った業炎で相手を切り裂く双剣として操るのじゃ!鞘は永遠に炎を吹き出し続けるから安心せい、その他は…多分普通のと同じじゃ!」


相変わらず雑だが今さら。


やるべきは一つ!

ビースト撃退!


『グ、グルァァアアア!』


ビーストが跳びかかって来た、だが。


「ふん!」


大きく刀を横に振るう。

その瞬間に刀の軌跡を沿って炎が噴き出す。

たちまちに相手は怯み、地面になんとか着地する。


…とんでもないぞ、これ


『グルォッ!』


「なんのっ!」


吼えながらまた跳びかかって来るが、鞘の方を振るうとまた炎が噴き出す。まるでその一瞬でガスか何かに引火したかのように、噴き上がる。


「さっさと終わらせよう、可哀想になってきた」


『フグルァアアアアアッッ!』


終わらせてくれよ…!


「…まだ力を使い熟せておらぬの。勿論トーゼンじゃが、ちょちょいと我がお手本を見せてやろう。ほーれ貸せい。」


「ちょっ!?」


後ろで見ていたであろうスザク様が現れて、刀を持っていってしまった。


「火というのは、全てを1に戻し再生させるのじゃ。物事において無から有が産まれる、というのは何事に置いても無い、我の炎であってもけものプラズムから産まれておる。その有と無のサイクルのリスタートを炎は担うのじゃ。無論、0からのスタートなんてあり得んから、始まりは1、じゃがの。」


「あの、何を…?」


スザク様は、自分の足下からこの塔の部屋一体を燃やして行っている。確かに範囲が広く、ビーストも熱がっていたが、一瞬でそれをやめた。


「ソレが火なのじゃ、我の浄化の炎の全てはそこにある。物事を、そこのモノをなんであっても浄化して1に戻す力…例えば今のように地を燃やしてしまい、1にすれば……。」


俺はしっかりと地面を見た。

黒く硬くでも、少し内部がゼリー状のいつもの大地はなくて、そこらに普通にありそうな、でもすごく濃い黒色の土が広がっていた。


「この色の土…凄く栄養がある。色の濃い黒の土だ、少しだけべとりとしていて、とっても良い状態の土だ…!」


「炎であっても、0には出来ん。必ず1になるのじゃ。物事には起源や以前があって当然。そしてソレは後の糧になる。そしてそこには、










命が産まれるのじゃ。」




手を少しだけ伸ばせば届きそうな先に、

一つ、

また一つと

芽が伸びてきた。


そしてその芽は、急激に成長し気付けば辺りは草原になり、ビーストを蔦が絡め取っていた。


「これが炎じゃ…さて、ビーストをどーにかするかの…」


スザク様は、青々茂る草を己の炎で焦がし獣道を作りながらビーストに近寄っていった。

そして、そっとケモノの頭に手を置いた。


「沈め怒りよ、火の慈愛へ…」


『グッ!?があぁあああ!あああ!あっ!?ガッッウ!?グアァウ!グルァウッ!!!があぁあああ!?あぁあああ!あっ…あぁ…っ……あぁ」


煌めく炎に包まれたビーストは、カクンと首を下に下ろし、そして。


「…!?フレンズ!?フレンズだ!戻ったのかなんか知らないけれどとにかく保護だ!保護!」


そこにはアムールトラの“フレンズ”がいた。




_________________________
















「うーん…?こ、ここは、ドコだ?」


あぁ、良かった。

目が覚めたらしい。


「大丈夫?俺が見えます?」


「…?あ、あぁ、うん。しっかり見えるよ。」


「良かった、鬼の形相で本部の人間が駆け込んで来たからただ事じゃないとは思ったけれど、まさかビーストがフレンズに…だなんて。」



パークのネコ科飼育員の中でも知識が山のようにある人間を呼んでくれ!

そう頼んで出てきてくれたのが彼、

名を桐院どういん 真人まひと

若いながらも積んできた経験と知識は本物らしく、駆け込み状況を説明したあと、さっと流れるような作業でアムールトラのフレンズを手当してくれた、感謝しかない、これしか言葉が見つからない。


スザク様の炎は、どうやら本当に物事を1にする能力があるようだ。

なにもなくなるのではない、スタートの1に戻るだけだ。


「なっ、これが炎の使い方じゃ。ほかにも色々ごちゃごちゃ出来るがまぁお主ならなんとかやっていけるじゃろう。我は助かったが残り三柱の意識は未だ塔の中じゃ。体はとりあえずあの男たちに宿してあるから消滅とはならんじゃろうが……我で通信ギリギリじゃったのだから、他はもう危機的状況の真っ最中、あるいは取り込まれた後か…引き続き頼んでよいか?」


「もちろん。」


隣にいるスザク様はすまんのぅ、とだけ言った。

今は肉体も意識も思い通りだからか、熱は抑えられている。



アムールトラはこちらを向いた。



「あの、私は……、いや。

アナタにひどいことをしたような気がするんだ、よくわからないし、なにも覚えてないし、そもそも、この体がよくわからないけれど、それでも、なんとなく。」



「…そんなことない、君はずっと悪い夢を見てただけだ。」




アムールトラは少し考えてから、

「えっと、アナタ、

 名前を教えてくれないかな?」

と言ってこちらに指を指した。


「シキっていいます。よろしく。」



「そっか……

 ありがとう。シキ、起こしてくれて。」



いや、と言おうと一歩前に出た俺の体をスザク様は止めた、さっと前に手を出して。

そしてこちらを向いて笑った。

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