1000と0 その4⁰+(1÷9+1)×9÷5






『ザザ…ジジッ、ジジジ…ザーッ』


塔の中に入った、以前とあまり変わっていない様子ではあるものの、見慣れない壊れた建造物のような物もあり、

正直とっても気味が悪い。


「物音はコイツから、か…」


刀がノイズを出しているのに気付いた、

出来れば黙っててほしい。


『ジジジ…

黙っててほしいとはお主中々言いおるのう…』


       前言撤回すまんかった


「スザク様…!すみません、失礼しました」


『なぁにこれくらいは…ザーッ…。』



通信機器として刀が役立っている、ノイズは酷くところどころよく聞こえないにしろ神と話できるのは良いこと…ではない。

神と話できるのはもっと平和でなきゃならない。

そのための儀式だったんだけれど。


でも、弱気じゃいられない。

四神だって、集まって貰った人だって、

誰一人悪くない。

原因を突き止めるのが先なんだ。

誰が悪いかどうかは、

今決める事じゃない。


『…サカッジジジ………。』


ひどいなぁこれは。


『聞こ…ジッッと…か~?』


「なんとかって所です、

 えと、俺はどうすれば?」


『今我ら四神は、…ッずかしい事じゃがセルリアン共に肉体の一部をうbッわれておる…元々我らはけものプr…ジッムという物で体を自由に組み替えられるのじゃが、その力さえ‥奪われておる……。

 残された希望はこの刀、名を“四刃しじん”というのじゃが、水火地風の、ジッジザザッッジ…の力がつかえるのじゃ!

 ただ、その四刃を使うには我らの力が要るのじゃ、だからお主にはどうにか我らを取り込んでおるセルリアンを倒して、我を解放してほしい!』


良かったなんとか聞こえる。


「なるほど。大体判りました。」




『っ!?セルリアンです!後方10時と2時の方向!』



クソしまった!

塔の中は未だにこんな風に急に沸いて出てくるののか!全くこの野郎!


「よっと!」


軽くバックステップで避けた、二体のセルリアンがこちらに無機質な瞳を向けてくる。


『…し!お主!聞こえるか!』


「はい!?」


『セルリアンを追い詰め…ら合図せい、四刃を一時的に引き抜けるようにしてやるからの!』


「……わかりました!」



セルリアンに体を向ける、

『…どうやら、ロバとカルガモのようです』

とのことだ。


「有効打は?」


『検索中…検索中…

  飛行が出来ると良いと思われます。』


「なんでまたこうやんわりと…まぁいいや」


『セット!ハクトウワシ!』


二体とも元動物の戦闘力は高くないけれど、

セルリアンになってどんな戦い方をしてくるか判らない。

細心の注意を、だな。


『グルォォォッッッ!』


言語機能はなし、ロバの方が突っ込んできた。


「よっと!」


飛べばこちらの物だ、

ロバリアンはどうにかなったと言える。

今さら地面を掘ったって何にもならないぞ!


『ガァァァァアアッッ!』


問題はコッチのカモの方!

飛行能力は流石に猛禽のこちらには劣るがそれでも飛ばれるのは面倒くさい!


『ガァッ!グワッァッ!』

「ふっ!やぁっ!」


蹴って防ぐ!

防がれて蹴られる!


「喰らえっ!」


蹴ってきた隙を突いて腹に真っ直ぐ蹴りを入れる事に成功した、吹っ飛ばされていったセルリアンは空中でなんとか体制を立て直した。


『グワッ!グワワッ!』


「なんだコレ!?」


その後鳴き出したと思えば、

どこからかぶわぁぁっと…


え、なんだこいつら、子ガモ!?


『ウワッ!クワッ!ガァッ!』


「おいおいおいおいおいおいおいおいおい!

 待って!コッチ来んな!おいっ、おい!」


よく見るとコイツら、躰が煉瓦のようなモノで出来ているようだ。寄ってきたヤツを破壊するとガコォッ!と音を出して潰れていく!


『ブルルルルルゥッ……!』


くそっ!?

さっきロバが地面を掘っていたのはこれをするためだったんだ!

砕くたびにサンドスターがキラキラと輝き落ちていくから、これは土そのものではなく、セルリアンが独自に再現した土の“ような”ものってところだろう、そして再現されているのはサバンナに見られるラトソルだとかラテライトって土だろう。


詳しく説明するのは省きたいけれど、

避けられないのでささっと説明する。

簡単に言うと栄養のほとんどないガラスと鉱物だけでできた赤土で、とんでもない水はけのよさと柔らかさが特徴。

なんでも素手でも砕いたり出来るものもあり、ナイフで簡単に切り出せるらしく、世界的に有名なあのアンコールワットの建材にもなっているそうだ。しっかりした造形なのはサンドスターの影響もあるだろうけれど、土の特性が色濃く出てる、という訳だろう。


『ブルルルゥゥゥ!』


「くそ…!アイツのせいでキリがない!」


無尽蔵に生まれる子ガモ型の煉瓦…

いや煉瓦の子ガモ?

とにかく意思を持って俺を襲ってくる!


「じゃ・ま・だ!」


こうなりゃ一気に離脱!!

幸いにもあの気味の悪い建物がある、一旦そっちに避難するぞ!


ぎゅん!と急旋回して崩れている建物の屋根のあたりから中に入った。すぐに追って来るだろうけれど、見た感じ入り組んでいる。


「…はぁ、はぁ、はぁ。」


とりあえずさっきまで追って来ていた子ガモ煉瓦は居ない、俺は少しだけ安心して物陰にしゃがんで隠れた。


「どっから来るかな…」


とにかく、アイツらが何を感じとって俺を追ってくるのか判れば勝てそうだけれど。

熱だろうか、普通に視覚?

音もありうる。

でも、もっとしっかりと隠れるのもアリだ。





「なんだ、これ…?」


ふと落ち着いて正面を見ると、いろいろな実験器具?のようなものが散乱していた。子どもなら無理なく入れそうな大きさのよくわからん装置、おそらく薬品の物であろうケースもあるし、かなり古びてちぎれたコードも。

その中の、

ある一個の装置の中に入っていた物を見て背筋が凍り付いた。

スケッチブック、

メッセンジャーバッグ、

子供の靴…。


「おい冗談だろ……?」


改めて見ると、

この装置は天井にぶら下がっていたうちの一つが落っこちているようだ。

天井にいくつか同じものが見える。

あぁ、気味の悪い…



「………参ったな」


『お主、ジアガガ……とるのか?』


「うっわぁ!?……ってあなたでしたか」


『なんじゃその反応は!…あぁそれで、手こずっておるのか?』


「えぇ、少々厄介でして…」


『ふーむ…実はな、


我らのもちっと厄介な事になっておってな?』


「…というと?」



『…………じゃ、もうわ…………が無いのじゃ。……が…えぬやもしれぬ…』


こんな時にノイズ!?

あぁもう、都合の悪い!


「すみません、もう一度お願いします」


『じゃか………!なんじゃっ!?』


急にだ、ノイズがぱったり切れて鮮明に聞こえるようになった四神スザクの声が跳ね上がる。


「スザク様!?どうなさったんですか!?」


ボッゴォォォン!

という大きな音と共に俺の隠れていた建物がぶっ壊れた、急にだ。急が多すぎる。スザク様と話したかった所だけれど。


「流石にバレたか…仕方ない。」


『気を付けて下さい!こちらに謎の生体反応が向かってきています!一体です、しかし凄まじいスピードでこちらに!』


『ソイツに気を付けるのじゃ!!』


だから急が多すぎる!!!!!!!


「とりあえず隠れよう…!」


俺は建物の奧に逃げ込んだ。

幸いにもさっき見つけた謎の装置の残骸に入り込めた、己の体の小ささに助けられようとは思わなかったけれど。


『ウグルアアァァァァァアアアアアア!』


あれは……


『ビースト、じゃな。まさか我を捕らえておった熱気を操るセルリアンを、奇襲とはいえものの数秒で倒すとは思わなかったのぅ。ま、そろそろ通信が出来ぬほど力が持って行かれる所じゃったし有難い所じゃ。』


突如として現れたあのビーストは、恐らくアムールトラのビーストだ。雄々しい筋肉の山と谷、無惨に全てを切り裂く爪、震う咆哮。

二体いたセルリアンは、あのビーストに抵抗することも出来ぬまま完膚無きまでに叩きのめされ粉々になって消えた。


『さぁどうする楽園の英雄伝説、あやつを放って置くのか?』


「いまは、放って置きましょう。いずれ相手になりますよ。」


『…グルァァァァアアアアア!!!』


「…どうやら逃げられないって訳ね」


視線がこちらに向いた。

建物がついにペッシャンコだ。





『我も、準備運動と行くかのぉ?』









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