それは凍りついた波のようで。



「どお?ここの部屋、すごくきれいでしょ~?」


えぇ。

アナタには広すぎるようにも見える、

この綺麗な部屋そしてこの家…

(でいいのかな?フレンズは巣っていうのかな。)


アナタだけじゃなくて、いろんな幸せが生まれる素晴らしい家になりますよと伝えようと思ってしまった。

危ない。


僕は今、レイバルさんの所に居る。

昨日グレープさんには悪いことをしたと思ってるけど、

「安心していいよ。」

って笑ってくれた。

本当にいい人なんだ。

良いペンギンだった。

僕もだ。


フルルさんもすごく優しかった、僕が寝られない事を察したのか偶然なのか。快眠できた要因は彼女にもある。

まるで親子のように三人で寝た。

なんとも言えない暖かいままの中で眠った。

…。


「…ねぇ、ネジュン大丈夫?最近大変だったんだし…しっかり休んだほうがいいよ?」


また考え事していてしまった。

すみませんね、クセで。


「ってそうだ!聞きたいことがあったんだ!」


かわいいデザインのソファに寝転がる彼女は急に顔を上げた。

やっぱり猫じゃあないか…。


「ねぇネジュン、シキの事、前に見たことない?」


おい。

なんで全くこの人は、いやこの猫は!


「…なぜそんなことを?」


「前にそういう話になったことがあってね?知らないなら知らないでいいんだよ、変なこと訊いてるのは分かってるし、言いたくなければ構わないし。」


彼女はつけてあるテレビの、

ニュース番組を見た。

内容は連続誘拐事件の話。

僕の時代でもなんか言ってたように思うけど、

こんな時からなんだ。


「…知らないです。シキって名前も知りません。」


噓はついてない。

僕はリネンという男が親だと聴いて育ったんです。

シキ、とお母さんが言っていたのはいつか彼女の寝言を聞いた時だったか、泣いていたお母さんが言っていたのか。


「そっかぁ…ありがとう。ごめんね変な事を。」


「いえ、いいです。」



しばらくそれから話をした。

他愛ない話です。

恋バナだってした。

まるで友達のように。


「おやすみなさい」


そうやって言った時、彼女はとっくにすやついていた。


「ミオのお母さんはなんにも変わってないな」


呟いたその時に、

彼女の耳がぴくぴくしたのは

きっと気のせいか何かだ。




___________________________________________






俺は作業の手を止めて暫く自室のモニターでテレビを見ていた。疲れたとか呟きながら、暫く使ってない仮眠用の敷布団に積まれたモノをどけて座り込んだ。

俺は靴下が嫌いなので素足で生活している。

その足の裏を手で適当に揉んだりとかしたり、スマートフォンを取ってなんとなくSNSを見たりした。


乗っかっていたモノが一瞬でも降りたお陰でなんとも今はやる気が出ない、そんなこと言ってられないのはわかっているけど一旦柔らかい布団にケツを降ろして溜息の一つでもつけばやる気は消え去る。駄目人間まっしぐら。

このやる気のない男にこんな難解なモンの解析なんてむりだ、未知の素材で構成された剣のような何かは引き抜くことさえ出来ない、ただ黒く重いだけでつやもない。

これが何故あの炎を吐けたのかわからない。

全くもってわからない。


かといって研究所のメンツにやらせるわけにもいかない、ただでさえ塔の騒ぎで迷惑かけまくってるんだ、

これ以上彼らの仕事が増えるなんてなってみやがれ…。

ジャパリパークはブラック企業の仲間入り。


まぁぶっちゃけパークはブラックだ。

どうしても生き物を、しかもここはほぼ人を飼育している。

問題はあるに決まってるし研究員も飼育員も安い金で働いてる。俺も言うほどもらってない。多分同じ労力のデスクワークをしたら一般企業のリーマンの方がもらってるはずだ。

18のガキが言うなって?



ごもっとも。


実際入る人も多いながら、退職する人も多いらしい。

こればっかりは仕方ないのかな。


「シキ君?入っていいですか?」


「どうぞ…あ、やっぱダメ!ちょっと待ってください!」


パソコンの画面を閉じた。

えっちな画像があったわけではなくて、保存して閉じないときっとジェーンさんと話し込んで保存を忘れてしまう。

これまでの努力がどっかに消えたなんてなれば俺は腹を切りたくなる。

のと、部屋が汚い。

書類だらけモノだらけ。


なんとかして「どうぞ」と言った。

「お疲れ様です、なにかしら進展しました?」


「いえ。特に…。」


進展はない、進捗状況はクソだ。


「そう、ですか。あんまり考えすぎはダメですよ?」


俺を覗き込んだ彼女は、なんとなく優しい目だった。


「いや、進捗は…あるといえばあるんですよ。」


彼女が薦めてきたお茶を貰いながら、

考えを少しだけ、

吐いて口元でこねくり回してまとめ直そう。


「聞いてくれますか?」

「もちろん。」


ふぅ、

パーク名物

青いセルリアンブルー紅茶が美味い。

さて話すぞ、準備はいい?


「ジェーンさんは[タイムトラベル]という概念は分かりますか?」

「はい。未来に行ったり過去に行ったり…ですよね?」


「それです。

じゃあ、平行世界という概念は?」


「たしかシロさんがここに来たときの事とかのこと、ですよね?原因はともかくとして壁に穴が開くことがある…とかなんとか。」


「そうです、それ。この塔の騒ぎはきっと、この二つが同時に、そして何かによって起こっている。引き起こされている。」


「誰かがやってるって事ですか!?」


「可能性ですがね、ただこの説が一番しっくりくるんです。セルリアンやサンドスターの力がどれほどかはわかりませんが、起こそうとすれば起きてしまう。現にシロさんやその他の物がここに流れ着いている。同じ海の上の違う島々の間で物が漂着し合うように。」


「ええと、つまり

【未来と過去と壁の向こうのごちゃ混ぜ】ってことですか?」


「塔の中やアレに関連するものは全てそうなんです。例えばネジュン、おそらく彼女はどれ程かは分からないにしろ未来の生まれでしょう。

…ジェーンさん、[乗ってけ!ジャパリビート]という曲はわかりますか?」


「…?すみません、分からないです」


「わからなくて大丈夫です、知ってたなんて事になったらそれこそ問題事になりますよ。あ、あと未来で貴女はこの曲に携わることになります。」


「そうなんですか!?」


「えぇ。この仮説が合っていれば、ですが。

あとは…ネジュンは母をジェンツーペンギンのジェーンだと言っています。もしそうであるなら…横軸の差もおそらくあるはずです。」

「あの」

「はいっ?」

「…縦軸だけって説はありませんか?」

「貴女…もしかして子持ち!?」

「ちがぁう!そうじゃなくて!

私と貴方との間の子供ってことですよぉッ!」


















部屋が止まった、

それはまるで、

寒波なんて、

やさしいものではない、

寒さで、

荒れるのを急に止められた、

凍り付いた波のようで。




















「………一考の余地がありましゅめ……」


噛んでしまった。


そうか、

考えてなかった、

一番

ありえそうな事。


「……それだったら、よかったです。」














「んんっ、えと、とりあえず塔ではそれが、本来一方向へだけの矢印の交差が起こっていると考えるべき。ということです。オッケーですか?」


「オッケーです。」


「まぁ今まとまってるのはここまでなんですけど……少なくとも俺はきっとまた塔に行くことになります。」



「今更もう一回行こうと同じですよ、言うことは同じ。気を付けてください。それだけです。大好きなあなたの笑った顔をみたいだけ。それだけ守ってくれればいいんです。」


「冷たいなぁ……」


「むー……ベタベタしたら怒るくせに。」




















時間が、

凍り付いた波のように。

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