希望さす 時求めれど 射干玉の 夜は流れて 隠らく惜しも


「…女王、それホント?」


レイバルさんが疑うように訊く、

俺は研究所に居るカコ姉さんに包帯を巻いて貰ったりしながらそれを聞く。


『本当に申し訳ない…ワタシのせいだ。』


「貴方を責めるつもりはないので詳しく教えて下さい、一体全体なんなんですかその子供ってのは?」


俯く女王は、きっと今の彼女を知る我々しか知らないだろう、彼女は淡々とこう言う。

戦闘が終わったあと俺達は、塔のふもとの研究所に集まった。

研究職に就いていても今の状態の女王を見た事は無いだろう。なんとか人間の体らしくなってはいるものの、ひょろっと出た触角があるあの細胞のような姿に近い。そんなヤツが喋っているので研究員のお兄さん達が驚いてフラスコを落とした。



『あの儀式で塔が出来た理由はワタシにもわからないけれど、塔の出来るきっかけの材料はきっと前にワタシのしていた研究のせいだ。ワタシは、人を、人間をコピーで作り出す研究をしていたんだ。結果失敗に終わった上にそのタイミングはパークが復興してからの話だ。キョウシュウ以外のエリアには既にヒトがいるしこの火山もかばんとかいう子どもにフィルターをかけられた。だから研究の時に出来た物をすべて消し去ったハズだ…だけど…だけど、失念していた。ワタシはヒトがわからなかった。ヒトのイメージを得る為に多くの写真や絵を持っていた。それがいけなかったんだ…。』


「んで写真と子供ってのは関係あるのか?」


『言い切れはしないけれど限りなくイエスだ、最初にして最後の人間のコピー品。アレの形は子供だった。ワタシは元々カコの思いを奪って形になったから、何処かココロに寂しさがあったんだろうな…その子供の姿をしたセルリアンに愛おしさを感じたんだ。大切にしたよ、凄く。最後の最後、不安定なセルリアンだった彼は死んだ。彼は絵が好きだった。初めてヒトの死がどれ程重いのか知った。』


「貴方にとっても、辛い経験だった訳ですね」


「私1個しつもーん。子供のコピーってどーゆー事?元になる子がいたはずだよね、どうしたのその子?」


『それは……。』


「襲い誘拐した…間違いないわね。」


姉さんの言葉に女王はさらに俯く。

その通りという訳らしい。


希有きゆ 友絵ともえという名前だったように思う…。そうだ、確かにそうだ。女のような名前だと彼は悩んでいたが、男のこどもだった。』


「ふぅん…なるほどねぇ…。」


『ワタシは特に関わってないからよろしくね』


セーバルさんはそう言った。

どうやら本当に関係ないらしく、『彼女を責めるのはよしてくれ、責任はワタシにある』と横槍を貰った。

どれだけあっても困らないものではないのでどこぞやのコーンフレークを評価している芸人さんたちにでも投げておこう。


『あの塔はきっと、今回だけで終わるようなものじゃない。』


セルリアンの数や反応は落ち着き、塔が邪魔していたサンドスターの放出を限定的ではあるが回復させることまでは出来た。


『きっとワタシやセーバルで対応出来る規模じゃないだろう…どこまでもすまない…』


「いいんだよ、そのために僕らがいるんだ。」


「そうですね、俺達でなんとかして見せますよ。勿論貴方は故意で無いにしろ当事者なので協力して貰いますけど。…あ、姉さんありがと。」



まだ痛みが走る腕を押さえて俺は立ち上がった。










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「お帰りなさいシキ君…って!?」


報告と休息の為に一旦戻ってきた、

戦闘以外にも装置の調整や傷の手当て、塔の研究所への内部の構造等に関する報告などなど色々やる事が多くて結局前帰った日からざっと2週間は塔の付近にいた。久々にジェーンさんに会える。


「ただいまジェーンさん。」


「お帰りなさい♡…じゃなくて!ちょ、ちょっと待って下さい!そのヤケドどうしたんですか!?あと家の中に刀持ち込まないで!」


さっさと帰ってきたせいで刀を背負ったままだ、

ごめんね。


「んま~色々あってですね…ケガは手当て終わってるんでご心配なさらず。ってか、俺の心配するよr…」


「じゃあ私は貴方以外の誰の心配をすればいいんですかァ~~ッ!」


彼女が肩を揺さぶる。

痛ぇ。

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…。

僕は…どうすれば…。


「研究室間借りで大丈夫ですって!」


そう言ったのに。


「いやでもさ、研究室の人間は忙しくて飯もマトモに用意できないんだよ?ウチおいでって!」

「僕んとこでもいいよぅ?食いしん坊な奥さんと一緒に迎えてあげよう!」

「私の巣に来る?最近パークに良いとこ借りたんだ!ハンター達や私達にやっと手厚い保障がかけられるようになったねぇ~」


などなど目の前で会話が行われて、結局これから日替わりでお世話になることになってしまった。美味しいご飯に釣られた訳ではない。勝手にこうなったのだ。


そして今、

僕がいるのが、

節来さんの家。


つまるところ僕の家です。

めっちゃめちゃ見覚えあるわーここ

めっちゃめちゃいやだわー

めっちゃめちゃいえだわー


「あ、こっちにいたのか。入って?」


「は、はい。お邪魔します…」


「あなたがお仲間さんなんですね?思ったよりも幼い感じ…」


うわぁ予想はしてたけどお母さんじゃん。

なんも変わらない…綺麗だ。


「とりあえずご飯にしましょう?シキ君が帰ってくるって聞いたから沢山作ってせーかいでしたね~!今日はカレーでーす!」


「それじゃあ手伝います、ネジュンはリビングでゆっくりしてていいよ?」


「あ、ありがとうございます。」








通されたリビングのレイアウトを見てびっくりした。

僕の住んでいる家と全く一切何も変らない。


見れば見るほど自分の家だ。

正気を保ってられる気がしない。

スマホも圏外判定、

どうにも連絡が付きやしない。





しばらくしてカレーが出てきた。

いい匂いがしておいしそうだ。


「いただきます、久々の手料理だ……!」


彼は匙を握ってガツガツと食べる。


「ふふふ、おいしいでしょう?」


彼女もぱくぱくと食べ進める。


「…!?ネジュンさん!?どうしました、具合悪いんですか?へんなもの入ってましたか!?」


「いえ…僕最近ちょっと、寝不足で。涙でちゃった」











ホントはそんなじゃない。

この光景を、

待ってる人がいるんだ。




































「寝不足なんて、俺みたいだね?」

「ちょっとそれはどうなんですか…」

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