時の港のカガリビ


「開けた所だね…まわりの景色がよく見え…ないや。」


グルグルと分厚い雲が辺り一面を覆う。

積乱雲の内部にいるよう、というよりまんま積乱雲の中にいる。ここは下から見上げた時、あのバケモンが飛んでいたところだ…


だがどうだ、

あの大きな異形の怪物はここにはいない、それどころか薄暗く、音も強い風が吹き荒れているでろう音が遠くで鳴るだけでそれ以外はしんとしている。


「…、なにも、ない?」


太陽の光は厚い雲に覆われたせいで遮られ、

ここまで届くのは一部。

まるで、曇天の日のよう。


「…おかしい。」


ネジュンが急に呟いた。

きょろきょろしていた理由は恐怖心などではなく、興味…でもないようにみえる。

もっと何というべきか、「あれ、前までここにあったヤツどこ行った?」って顔。伝わればいいけどなぁ。


「何がだい?」


「うぇ?…あぁ、いえ。なんでも。」


覗き込んで聞いた途端に目をそらす。

口元に手をあてて咳をした、何か言いかけたのか一瞬考えていたようにも見えた。


「なんかいないのか!?おい!」


グレープさんが大きく吠えるが、返事は帰ってこない。

ただ不気味な静寂がここにあるだけだ。

ネジュンはまだ、口元に手をおいて地べたを見て悩んでいるようだ。なにがそんなに気になるんだろうか。


…そういえば彼女は上から入ってきたとか言っていたな、この高度から侵入するのは現実的ではなさそうだ、飛行できるユニットがあるようにも思えないし。あっても流石に下の入口から入るだろ。


「なぁ、ネジュン。君は…」



カァッ!


とでも表現しようか、俺が彼女の前に体を持っていこうと塔のてっぺんの中心へ移動した瞬間、眼の眩む閃光と熱波が襲ってきた。本能的に彼女を遠くへ押し出した。


「…!?なんですかこれっ!?」


彼女と俺の目の前は火の壁だった、丁度炎を隔て向こうにネジュンがびくついて目を見開いている。


『ハァ、わりと早かったデスね?』


後ろから更なる熱風ねつかぜが荒れる、ぱちぱちと松明が叫ぶあの音がしながら俺を焼く。


「お……さん…!」


ネジュンが俺を呼んだ、

それさえ爆炎で聞こえず見えなかった。

炎の向こうで心配そうにする2人に頷いた。

2人も頷いた。

静かに、笑って。



「…あなたなんですね。」


『ザンネンですか?』


滑らかな流線を描いた俺の髪がじりじりと迫る炎に回った。

辺り一面の積乱雲は火口の噴煙の如く赤黒く雷さえも嘶き始めた。


「いえ、残念ではありませんよ。」


嬉しくもないが。


『ボクのホンモノは元気そうですねェ~。ま、カンケーないですけどモ。』


「出来れば俺は謙虚な本物さんだけ見てたかったけれど。」


『そーゆー訳にはイカナイみたいですね。ボクだってホントはアナタと戦いたくないんですよ。ボクは誰かの記憶の具現化、ボクの記憶ではなくて誰かの記憶の中のボク。ここに居るのだってボクの意思じゃない。アナタたちというイレギュラーを止めるためにいる…とかなんとかっておさには言われましたが…正直ドーデモいいです、ボクは。ただ、これは決まった運命、アナタが超えなきゃいけないらしい壁。』


「ふざけた話だな、親玉セルリアンの正体も君かい?」


『まぁそんなところです、なんだか下はひっちゃかめっちゃかみたいですね、本当にゴメンナサイ。』


「謝るならやらないでほしい、

というのは聞き入れられないんだね?」


『その通り。それにボクは個人的に気になるんですよ、アナタという人間がもつ可能性の輝きがね。セルリアンとして、ただ一人として。』


「…分かった、俺でよければ納得させてあげよう。

シキリアン、お前は外にいてくれ。」

『…あいよ、分かった。』



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「やろうか。」


『ええ。』



ばッと両者が一気に後ろに飛びのいた、

炎の壁スレッスレに立って一呼吸。


「…せぇぇいッ!」


『てぁあ!』


振り下ろした剣は当たらない、お互いに当たらず。

炎が俺の隣で吹き上がる、松明の火力ではない、キラキラと炎が光るのだ。


「まだまだァ!!」


『ふんっ!』


ガツンと音が出る、黒色の塊の先についた炎が煌めき続ける、また地面が裂ける程の爆炎が起こる。


「SlaMpNumっ!ハンマーだ!」


『おぉ、そうきますかァ?』


「せぇぇぇぇいっ!」


サンドスターをまとわせたハンマーを地面に叩きつけて衝撃波を当てるッ!


『おわっト…ナラこうです!ハァッ!』


「何ぃ!?」


爆炎でハンマーを作っただとっ!?

地面に叩きつけた瞬間、火山噴火のように大きく火柱が上がる。


「っぶね~…銃だ!マグナムっ!」


バキュン!

3回放たれ空気を裂いて進んでいく銃弾、サンドスターで加工されているから溶けることもない、だけど。


『ふん、せい、とぁっ!!!』


きれいに弾かれてそして、


『反撃3連ブレスっ!』


「ふっ、よっ、くぅっ!?あっつい!」


熱いでよく済んだよな、

アーマーがゆらりと溶けるように、

焦げるように臭う。


「やっぱりこれで行くしかないのか…スラッシュ!でやぁぁぁっっっ!」


『ふん!』


ガツッ!

ガツッ!


斬り合う度に松明のその身は削れていく、黒い欠片が飛び散る、相手の燃えさかる炎が未だに燦めいてやまない、虹色のサンドスターが焔の内で輝く。斬りつける度、斬りつける度にだ。


「せいやぁぁァァッッッ!」

『甘いッ!』


「ごばぁっ!?」


ドゴォッ!

腹の辺りを蹴られた、動きやすいように腹の辺りは装甲が少ないんだ…ッ。


「まだだ…スタースクリューッ!」

『Hey!アライグマ!フェネック!』


「編着ッ!!!!!」


これで行くしか無いっ!


『姿が変わってもあなたはあなた!アナタの力を存分に見せテ下さいッ!』


「ラクーンバブルス!」


泡だッ!泡だッ!

あの轟炎を文字通り水の泡に帰すんだ!


『…なる程、だがこれは防げまいッ!』


火炎放射、ブレスとして飛んでくる可燃性の液体ではなくて熱として松明から吐き出される熱!

ならばこちらは!


「吸収しろッ!耳ッ!」


『何デスかそれはっ!?』


「俺のこのアーマーの耳はァ…

 …熱を逃がすのさァ!せぇい!」


『サンライズレーザー!』


『んぐぐグググぐっ………うわぁ!?』


レーザーが相手を貫き、太陽も無いのに起こる蜃気楼の中に俺はしっかり捉えた、

松明の硬い材質が芯を残して砕けた事を!

まだ燃えさかっているが…!


「ジャブジャブ洗濯してやるよッ!」


とめる!ここでッ!


『BUBBLE・tidal wave!』


まずはこの津波で!


『グォォォオォオオ!?か、体が、固まって、うご、動かないッ!?』


「やっぱり君はそのタイプなんだな、水に弱いんだ…。」


『決めましょう』

「あぁ、必殺ッ!」


『「ミラージュ・アタック!」』


一が、2が、Ⅲが、ⅳが!

不毛なこの炎を消してやるッ!


『グワァァァァァァッッッ!?』


「撃破ァアッ!」









_____________________




































「シキ、大丈夫か!?」


火の壁は収まり、煤の臭さが立ち籠める。


「えぇ、何とか…。気付かないうちにいろんな所ヤケドしてたし、腹に重い蹴り貰ったせいで少し吐き気もしますが…とりあえずは…。」


シキリアンを急いで取り込んでなんとか体を保たせたが、戦い終わったあの時のままでは今頃ぶっ倒れていても可笑しくない。


『ハァッ…ハァッ…ハハハ!』


「…まだ、消えてないのか。君の火は。」


まだ、あの。

英雄の姿を、

人の、ヒトの姿をした彼女はそこにあった。



『あー、負けました!降参です、参りました。』


終わった事を告げる朝焼けの天を見たまま、

大きな声で言った。


「…なぁ、生きてるなら教えてくれ。」


『何をですか?』


「何故君はあそこまでの炎を振るえる?この塔の、本当の…。本当の目的はなんだ!?」


『二個質問があるのは面倒なので片方は人質さんたちから聴いてください…。ボクがこのように炎を扱えるのは、四神の力によるものです。今はもうフィルターとなってしまっていますが、彼女達もまだ命として燃えさかっている。思いとして。アナタたちがしたかった四神復活…守護けものとして姿を表すことができるようにと行ったあの儀式で、ボクも知らない何かが起きた。その時、ボクが生まれアナタを待ち構え敵として戦う事を命じられた…。この炎は、松明のようにボクが無理やり使った武器の力です。死ぬときに壊せって言われてるんですけど、











…アナタにあげます。』



ゆっくりと話をして、

そして、

俺の方に、

それはまぁ乱雑に剣を投げ捨てた。

忍者刀のような武器。

さっき芯のように見えたものによく似ていて、黒く、ただ重い。



『きっとアナタなら使い熟せるハズです、フェネックさんが、アナタを機械の使い手に相応しいと一発で見抜いた時のように確信がボクにあるわけでは無いけれど、きっとアナタなら。


…きっと、

彼女は伝承を知っていたんでショウね。』



そこまで言って、

急に起き上がった。


俺達全員で武器を構えた。


『あー、もう勝ち目はないので大丈夫です。それより、人質さん返さなきゃですね…。

ボクはここらで、お疲れ様でした。』


パッと弾けて消えていった。

呆気なく、

まるでロウソクの火が息で消え行くように。


そして、

黒い塊が弾けるように。

現れた。


『生体特殊反応アリ…

  女王とセーバルさんのようです。』


「セーバルッ!?何処ッ!?セーバルッ!」

『ココだよ。』

「セーバルゥッ!大丈夫!?」


目の前で、友の再会が起きた。



『大変だ…これは…想像以上に…想定より。』



女王も現れた。


「大丈夫ですか?」


『ワタシはな…。ワタシは…。』


「何が大丈夫じゃないんだ。言ってくれ。」


『…取りあえず、外に出よう。それからだ。』




















































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