SETSUGENKYO



「ほら、ネックウォーマーでもしてたらどうです?」


「あっと、ありがと!寒くなってきたね。」


塔を登っていくにつれ、

高度とは別の寒さが体を刺すようになってきた。

急激に温度の変わっていく異様な様に、俺は寒さに強い(であろう)レイバルさんを呼んだ。


「Free-Z…していい?ちょっとネックウォーマー返すね。このフォームの時の方が寒さに強いから。」



えぇ、と返事を返した瞬間、

氷の鎧に身を包んだ彼女。

己の氷で氷河期の二の舞にならないように耐寒性耐冷性をもっていたのが功を奏したのである。

過去の作ったときの俺!誇っていいぞ!



階段をゆっくりと、段を上る度、

誰かを追う旅。

次は雪に咲き誇る花々の中に行く。

当番制などいつか忘れていたが、それでも進む。

吹雪いているのかと錯覚してしまうほど視界の悪い。

靄がかかっているような、

いや…ちがう。この臭い…

「この音…水?」


「それにこの錆びた鉄っぽい臭い…」


含鉄泉…つまり温泉。

雪山には色々と温泉があるが、

ここはその泉質ってわけか。

視界の悪さはお湯の出す揺らめく湯気か。


はい、相変わらず専門的なので解説。

含鉄泉がんてつせん

とは、文字通り鉄分を含む温泉である。

本来水の色は透明であるが、含まれる鉄分が空気中の酸素と反応し酸化して茶色の水になる。

錆びた鉄やもっと言うと血のような臭いがする。

飲めば貧血を解消させるほどの鉄分量で、そのお湯に浸かればしばらく体の熱を逃がさない高い保温効果を発揮する。


__________________

余談だが作者はコレに入った事がある。

いや、マジで暖かいよ。お湯自体も熱めで。

出てからしばらく暖かい。このタイミングのコーヒー牛乳は最と高の二文字しかないよ。

もう、最、高。最、高。って感じ。

あとホント臭いよ。あと場所によって変わると思うけど、作者が飲んでみたお湯はちょっとしょっぱいヤツでした。NaCl…要は食塩が入ってるんだったかなんだったかで。

____________________


…って訳だ。

雪山にある温泉としては良い感じだろう。

確か旅館のあのお湯は単純泉とかいうヤツだな、入るとリラックスできる肌が気持ちすべすべヌルヌルするあれだ。


ちなみにアレでヌルヌルする理由は、あのお湯がアルカリ性だから。上皮の角質が溶けて行ってるワケ。公衆浴場はカルキ強いし温泉も温泉でいい効果だけじゃないから、ちゃんと風呂上がりにはシャワー浴びるとかしようね。


さて注意喚起も出来たトコロで、温泉のあるエリアに。わかりやすい茶褐色のお湯がぐらんぐらんと熱と躍っている。


そしてその中に、フレンズの姿をした…

あれ?


「よよー…。いいですな、ここの湯も。」


…。フレンズじゃん。


「えぇ!?カピバラぁ!?なーんでこんな所にいるのぉ!」


しかも知り合い!?

「レイバルさん、お知り合いなんですか?」


「うん、まぁね。数少ない旧時代のお友達。」

旧時代、ってことは大体今は20年ちょい生きていることになるパークに女王が出てくる前からいたフレンズってことなんだね。


「うむ、いかにもそうですぞ。わたしはカピバラ。ふらふらとしていたら温泉の匂いがしましてなぁ。」


「危ないですよ、ここはセルリアンの巣窟ですから。」


「シキ、カピバラを舐めちゃダメだよ?“星四フレンズ”って言って結構強いんだから!」


はぇ?星4…?

なんのことやらさっぱりだがとにかく強いのか。


「ちなみにお聞きしたいのですが、あなたに似たセルリアンとか見ませんでしたか?」


「あぁ、そういえば湯を堪能しようとしていたらそんな影を見ましたな。ただ相手も湯が好きみたいで、放っておきました所、自分でどうやら固まってしまったしまったようですぞ。」


「自滅ってこと?」


「そうですな。」


カピバラの本能だろうか、水辺を好むということ。

そして、寒さには弱いということ。

嚙み合って水辺に逃げ込んだんだろう。

まさか自分の身体が水に弱いなんて知らずに。


「して、あなた方こそこんなヘンピな所に何用ですかな?」


「あぁ、ここにセルリアンが沢山いるみたいでさ?それを蹴散らしに来たんだ!」


レイバルさん。

雑すぎ of the year。


「まぁ端的に言えば、そういうことです。」


「ふむ…。そうでしたか。では一つお願いが。」


カピバラさんは奥の方を指さした。


「あちらのコンコンな子たちをどうにかしてほしいのですよ。」


その場にはぎろりと目を輝かせる、

二体のフレンズ型セルリアンの姿が見えた。


「…了解しました。レイバルさん、行きましょう。」


「はーい!…カピバラ、気を付けてね!」


「もちろんですぞ。サーバル、あなたもですよ。」


「やめてよ、その呼び方。」


「ふふ、失敬。」




______________________






「さぁてさて。どうしてあげようかな!」


「ちからくらべじゃないんですよ。真面目に。」


「むー、わかってるよぉ。」


相手は

『頭脳明晰で合理的なギンギツネと』

『ボクダヨ…』


「『コンコンシスターズ』ってことか、どれで行こうかな」

『最適解検索中…タイリクオオカミとかどうでしょうか』


「了解。準備はいい?」

「私はいいよっ!」

『システムエラーなし。行けます。』


「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」


まずは俺がギンギツネを相手しよう、

キタキツネはレイバルさんにまかせておいて。


「オオカミ部隊!囲め!相手を包囲するんだ!」


がうっっ!がうぅ!とエネルギー弾のオオカミを向かわせる。


『くっ!わたしオオカミ苦手なんだけど!』


「知ってるさ!」

『教えておきました。私はそれが仕事です』


サンキュータイプツー。


はっ!はっ!

まるでそれは本物のオオカミのように呼吸する俺とオオカミ弾、オオカミは群れで戦うのが基本だ。


『ぐっ…強い!』


ガツガツと攻め続けるオオカミはギンギリアンをいとも簡単に追い詰めていく。

このまま決めてやr、


「シキっ!避けて!」


横槍っ!?


「ぅぁあっ!?」


危なかった、心臓に悪い!

真横をまるでロケットのように、

すっ飛んで行ったのはキタキリアン。


『ゲェムデミタンダ。緑ノボウシノロケット。』

『それ大爆戦ストライクシスターズじゃない…』


うわ、この間ウルトラが出てアプデしてるシリーズじゃん。ジェーンさんに内緒で買いかけるくらい欲しいんだからその話しないで。

もともとキツネはジャ↑ンプ!して雪に頭から突っ込んで狩りをする習性がある。やられたら間違いなく画面外バーストだったぜ。


『…ダブルバトルデイクヨ。』

『えぇ。まかせて!』


「らしいですよ?」

「のーぷろぶれむ!私たちもいこう。」



「いくぞオオカミっ!変わらず追い詰めていけ!」

「はいはーい!」

「あんたは猫!…ってあれ?オオカミ一体いない!」

「一体借りたよ!ホワイトウルフバル行きまーす!」


なにしてんだ!

と怒鳴ろうかとも思ったが、よく考えればどうせLBなんだしそれぞれのエネルギー弾個体のコアを味方に割り振ってあげればオオカミの能力を上乗せ出来るのか、いい事知った!

簡単に言えばUSBぶっ挿してデータ読み込むみたいなもんです。


「はぁぁぁ!」

『なんのっ!』


ガードは無駄!


「こっちから来るぞ!そりゃあ!」

『アブナイ!ギンギツネ!』ドッ!


体当たりでどうにか避けさせたか、掠ったんだけど。


「N-F。周りのオオカミにも氷属性付与できるか?」

「いけるってさ。やるよ?」


「あぁ、頼みます。」


オオカミよ、

この黒の床を銀世界にしてくれ。


『何のつもり⁉』

『マッテギンギツネ、アブナイキガスル。』


俺らの周りを駆ける白いオオカミ。

北風を身に宿した体はやがて竜巻になる。

向こう側は見えなくなって、

降りゆく雪と荒れる風に囲まれて、

匂いも何もかも渦に消えていく。


そうだろう、冬ってのは。



「いくよっ!シキ!」

「行きましょう!」


「眠れ!」

この竜巻は次第に、

「この雪に!」

大きな二頭のオオカミとなって、

「生まれてしまった救うべき魂よ!」

そして俺たちを包む。


「「せりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」」









__________









段々と視界が晴れていく。


「はぁ…やった?かな?」


『まだよ…まだ!』

『モウイイヨ、ギンギツネ。』


「…聞かせてくれ、この塔の事。」


少し、俯いてから銀黒の彼女はいう。


『…女王よ、この塔は、元は女王の仕業なのよ』


「はぁ!?」


思わず漫画のような驚き方をしてしまった。

キタキリアンは続ける。

『ッテイウノモネ、女王ガ自分デヤッタンジャナインダ。』


『この塔は、この塔は誰かの記憶なの。わたし達はその記憶の中の存在。あとから迷い込んできた子たちは別として。これは誰かの思い出なの。』


「いわゆる星の記憶ってやつ、か」


サンドスターがいつまでも憶えている、

人を思う誰かの記憶。


『ハヤクイッタホウガイイヨ。ボクラモイキテイケナイヨウナ、記憶ノナイ虚無ニナル前ニ。』

『…話過ぎたかしら、ここまでね。』

『ワルクナカッタヨ、二人との狩りゴッコ』


「…いこう、皆を呼んで。」




銀盤零下の猛り荒ぶ風は獣の吠える音色に混じりうねり溶けていった、不安を煽りながら。

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