MONOCHROME DANCER



「僕は一旦戻るよ。外のセルリアンをどうにかしなきゃね?」


「了解です、お気をつけて。」


「君もね?緊急信号が来たら速攻戻ってくるから安心して!」


グレープさんは颯爽と去って行った。

という事は俺一人って訳である、

無理をしたら死ぬ。間違いなし。

いのちだいじに、でいこう。



そして。

今回相手になるセルリアンはおそらくペンギンだろう、こちらの干渉のできない壁の中を泳ぎ回り攻撃をしかける…

なんて相手では無いことを祈る。


無理矢理上げた足で階段を右足で踏みしめた、

風になった気分の左足を上げてトン、

と階段を踏んだ。


交互に繰り返すウチに幾らか楽に。

などということは無く、人間大砲の砲弾となった俺は疲労マシマシすぎてかしかましなエレファントカシマシ、欲しいのはニンニクマシマシといった所。


『へばってへんちくりんなギャグ言って無くていいから行けよ、オレがいるんだ。オメーが死ぬ事は無いだろーよ。』


「死にそうなくらい疲れたけど体は動くのな、こりゃシキリアン様様…ってそういえばさ、お前で思い出したけど女王とセーバルさんはどうなったんだ?」


『…確かに、オレも知らないな。最初に報告を受けたっきりかもしれない。』


用心しなきゃ、相手の全容を掴めていない俺達の情報提供源は間違いなく同じセルリアンである彼女達だ、何も無ければいいけれど。



『さぁ、お出ましですよ。戦いに勝つ算段はついていますか?』


見えてきた、全員が背を向けている。

見慣れた、しかし違和感のある真っ黒な後ろ姿。

ご丁寧にステージの照明までもが再現された燦めくその立ち姿。


「迷ったら殴るんだ、数が多いし、シキリアンも戦ってくれ…な?」


『任せとけって…オレら、文字通りの一心同体だぜ?ヘマなんかしてみろよ、オレの首は今度こそスパァン…そうだろ?』


「そゆこと、分かってんならそれでいいのさ。」


がこぉん、とセットが大きく動く音が響いた。

それと同時に、

照明が大きな塔の一つのエリアをカッと照らした。

くらっとしたが、

焦点が合っていくにつれて五体の姿が見えた。


桃、黄、橙、赤、紫のレーザービームが

飛び、交わり、そして消えてまた光る。


段々と晴れていく、スモークの奥に輝く赤い瞳。



『ヨウコソ…ワタシ達ノステージヘ!』

『ヨク来タネ、待ッテイタヨ?』

『オ腹減ッタヨ~…ア、モウ出番?』

『オレ達ノ最高ノロックヲ聴イテクレヨ?』

『私達、SPPPガ侵入者ノ貴方ヲ撃退シマス!』


「受けて立つ、かかってこい!」


『マズハ私カラデス!セル・ペンギンズ・パフォーマンス・プロジェクト。略シテSPPPノマネージャーマーゲイ、SPPPニ相応シイ相手カドウカ[オーディション]シテアゲマス!』


どこにいたんだ、と見上げると、

黒色のワイヤがふらふらと動きを持っていた。

おそらくずっと潜んでいたのだろう…。


『おい』

「なんだ?」

『…ご飯の時間だ、変われ。』

「あぁ、なるほどな。また後で。」


さぁ、ここからはオレだ。

間違えんなよ?


『いただきます。』


…間違えたら、


『オッ!?変形デスネ?』


『違うぜニャン公…変身ってんだ』


喰っちまうぜ。


『デハ、オーディション開始デス!』


『っても何するんだい?』


『決マッテマス!…アナタヲコロス。』


だろうな。

突っ込んでくるじゃん?


『よいせっと、全く面倒だな。』


エリア全体に張り巡らされたステージ照明のコードや高い位置にある台、そして凹凸のある壁。

こいつが走り回るにはこれ以上ない条件が揃っている。


『そこかっ!』


違う、外した。

触手をうんと伸ばしても届かない高台など無い、動きが速すぎて対応が間に合わない。

しかも外した拍子に、壁に突き刺さった。


『ドウシタンデスカ?合格アゲマセンヨ?』


『テメェの合格基準満たすつもりで戦ってねぇんだよバァーカ!』


煽られたが煽られっぱなしでいて堪るか、触手が刺さるなら…。


オレは全身から大量に触手を生やして、それを塔の壁に突っ込んだ。


『オヤ、面白イ事ハジメマシタネ?』


『あぁ、面白いぞ。とびっきりにな!』


塔がセルリアンならそれを味方に付けてやろう、絡まりそうなコードの間から生えてくるのは間違いないオレの触手。

総てに神経が通っている、熱、風、匂いや音を拾いブルブルと震わせ感じ取る。

中継点の黒い壁のお陰で何処までも何処までも伸びていく。


どう動いているのか、手に取るようにわかる。


『罠カ何カノツモリ?言ッテオクケド、樹上生活ノ知恵デコンナノ何トモナイノヨ!』


ひょいひょい避けて、しかも掴んで踏んで移動している。

だが、


『もちろん、それは理解してるぜ。これは罠なんかじゃないし、これでオマエが止まるなんて思ってないさ…思ってないけど』


わかっちまうんだよ、オマエが次に足をかける場所が。文字通り触手に取るように。


『ソリャッ…ッテ、ウワァァ!?』


オレの目の見えていない背中側、

大体今顔を向けている方向を0度、右に回るように角度を加えるとすれば120度の方向!!!!!!


うねうねと反応して、触手がセルリアンの体をどんどんと絡め取っていく。


『ウッ…ウゴケ…ナイ!?』


残念だが逃がすつもりはない、

貴重なメシをしっかり味わおう。


『お前の動きは総てわかってた訳だ、遠慮無く行かせて貰う!』


息の根を止めるには、粉々にするのがよい。

どちらにせよ総て食い散らかすのだ、今更形などどうでもいい、死んでくれ。


『半径30mメートルッ!

一の塵まで散らぬように!!!!!!!!!!!!!

クロノ・ディアマンテ・スプラッシュ!!!!!!!』



『グガァァァ!?ゴ、ゴーカクデスゥゥゥゥゥゥゥゥゥウゥゥゥゥゥ!』



『よっし!ゴーカクとランチ頂き!』


ブルンッ!

そんな音で、俺は目覚めた。

喰ってる…という事は勝てたんだな、よし。


「お疲れ、まだまだ続くけどな」


『ん?あぁおふかれ、いまふぇふぃくっふぇるからじゃましなひでくれふ?』


…あんだって?


『【飯食ってるから邪魔しないでくれる?】

                  かと。』


『正解…あー旨い!ごちそうサマ!』


「お前…旨そうに喰うよな。」


『あったりまえだろ!?旨いモンは旨そうに喰ってやらなきゃ耀かない!』


なんだそりゃ、まるで俺みたいだ。

その辺のザコが成り上がってきて俺みたいになるのか…まるで俺みたいだ。


キィン

『ンン!世間話ハ済ンダカシラ?』


突然の音。

マイクのセットをすると鳴るカチャン、キィンという音。

例えば、学校での集会や運動会の開会式で校長先生や来賓のとってもありがたいお話の前に聴けたりしないだろうか、あのマイクがハウリングするようなあの音。


信じたくないがこのセルリアンも喋る。

それも、かなりそっくり。

マイクと元々のセルリアンの出す籠もった音のせいで。いやお陰でまだ分別が利くが。


『サァ、私達ノショータイムダ!』


「おっとっと、そういう訳には行かない。」

『ディナータイムの間違いだぜ、レディ。』


一瞬の空気の流れていく波が首に抜けた。


『「ハジメヨウ。」』


この瞬間、全員の発言が一致した。

まるでそれは、ライブの観客が、

お決まりの合いの手を入れるように。


ダッ!


聞こえてくる、

五体のペンギンが一気に向かってくる。


「PPPフォームで行くぞ。」

『了解、StarsSaberカモーン!』


『オイ!オレにもペンギンくれよ!』

「あ?えー…と、これやるよ!」

『あざ~……お、嫁さんか。オレが“喰っちまって”いいってゴーサインか?』

「バカ野郎!んなわけあるか!ゼリーにでも突っ込んでろアホ!」

『ガチギレ?マジ?』

タダデサエイマ、ジェーンサンノムスメヲナノルヨクワカラナイコトコウドウヲトモニシテイルンダ…エンギデモナイ……!


『フンッ!』


おわっと!無駄話しすぎたな。


「俺はコウテイ、ジェンツー、ロイヤルを相手する。そっち宜しくな!」


『任せろ。』



「とっとと片づけるぞ!せいやぁっ!」


俺は目の前の3体にとりあえずの横斬りを当てた、果たして効いているかは…


『フゥ、コンナモノカシラ?』


まだまだ、これからだ。


「ミキシングライトをオレンジに合わせてっと…来いっ、素晴らしき槍よ!」


StarsSaberのオレンジ色はジェンツーペンギンの力、氷の刀身で延長した刃は軽々と取り回せる上に硬く鋭く、セルリアンの硬質な表皮を一気に切り開く。刀身の長さのお陰で冷気も遠くまで届くのだ。負けるハズがないね!


「せぇぇえええええい!」


『アブナイッ!』

『アリガトウコウテイ!』

『テリャァ!』


ドヤ顔で解説してからこれかよ。

コウテリアンの硬い防御に弾かれ、

視界をそちらに向けた俺の背にジェンリアン。

ロイヤリアンは二人のフォローに回ったか。


「ふっ!んぐっ!?」


『ソコッ!』


しまった!

急な攻撃。持っている武器もよろけの拍子にふらふら揺れる。


「よぉぉっ…とと。あっぶね…」


『私達ニ勝トウナンテ、無謀ト知ルガイイワ!』

『アァ、3人ヲ相手ニシテ。』

『勝テルトデモ思イマシタ?』







「…ハハハ!面白いですね!

勝てないと思っていたら、ここには居ませんよ」


勝てると思っているさ、当たり前だ。


「俺が無策でここに突っ立っているハズがないんですよ、槍を振り回しガードされている劣勢。ここを切り抜ける術、それは。」


カツッ。


俺は槍を地面にゆっくりと突き立てた。


『何ヲ…?』


『上をご覧下さい。』


タイプツーの指示通り上を見よう。


『『『…!?』』』


さっき、よろけた拍子に振った槍の冷気。

ここのステージを照らす照明器具。

一気に凍り付いた機材は今まで持っていた光の出す熱との差に、


「バァン!って訳ですね。」


俺のバァンと照明のバァンが被った、

被った所でどうにもならない。

申し訳ないがもう止まらない。


下敷きになったペンギン達、少し心が痛むが…


「勝つためだ、ごめんなさい。」


『シキ…ク…』

パカカカカァーン!



…もっと別の会い方をしていたら、

彼女は仲間になっていたりしただろうか。








『オイ!

感傷的になってもいいけどとりあえずこっち!』


「あぁ、悪い!どうすればいい?」


こっちはこっちで討伐作戦の真っ只中、

2体のペンギンに傷を負わせる事までは出来た様子

俺はどう相手していけばいいのか。


『2体を一カ所にまとめてやりたい。やれるか?』

「お安い御用!」


『StarsSaber!レッドロックホッパー!』


取り出しましたは赤く光る氷のギター!

金の弦をかき鳴らす!


「こっちこっち!俺の方に来るんだ!」ジャカジャカ


まずは下準備、ヘイトを集める!


「さらに、闘志のレッドタワー!」


『うぉぉぉぉ!?な、なんか知らねぇけどめっちゃ力が沸いてくる~!?すげぇ!怪力!』


味方の攻撃力を高める赤き旋律!

(といいつつカラクリは単純。弾いた旋律に応じた信号を周りの対応機器に送る。今回はシキリアンの付けている俺と通信するための腕輪に送る。アイツの元々の怪力を一時的に解放する訳ね。)


「さぁやれ黒いの!」


『しゃああああっ!任せろ!』


俺の周りにいたペンギリアンをアイツは

捉え助走を付けた

黒いの、やっちまえ!

SlaMpNumスランプヌァムッ!


カッ!と電気の通った照明が耀く。


『「決めろ、炎のクリティカル!」』


弾け爆発していったセルリアンの輝きはまるで。


『オレ達のステージだってよ!やったな。』


…セリフを取りやがった、後で飯を抜いておく。

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