コピー紙 一枚約 0,09mm

人工島パーク・ワーカーズ

人工島と言っても一部は普通の土地で、溶岩で出来ている。広さはキョウシュウエリアの3分の1程度で、研究所や病院、パーク職員の家が建っている。

最近フレンズと仲良くなり暮らす人間が増えてきて居るため、ある程度の試験に合格したフレンズはパーク・ワーカーズで幸せを掴み取るらしい。お客様が観光することも出来る。


リウキウまでは船で、それ以外の地方には連絡橋と陸上の鉄道を用いて東奔西走できる。

まぁ持ち場が決まっている以上そんな事滅多に無いが。


ちなみにこの島の一番キョウシュウに近い所は海岸なんだが…、そこの海岸にはなんかスポットがある。

通称「節式セッシキの海岸」

ここで夕暮れ時に告白をすると、二人を祝福するかのように波が大きく立ち、太陽が二人の影を1つにする。


…らしい。詳しくは知らない。

何ともロマンチックな話だが…まぁ彼女が出来たらお世話になるかも知れない。


さて、パーク・ワーカーズに帰って来た。

只今3時16分。一般的に言うとおやつの時間だが、俺は用事があるのだ。

そう、平坪先輩の頼み事をさっさと片づけねばならない。


フンボルトペンギンのフレンズのフルルさんは、PPPの1メンバーで、天然でのほほん気楽な緩い方。そして彼女の知り合いが

僕のフレンド

名はグレープ。



___________________



はぁ。坂がとんでもなく急だな、溶岩云々のせいなのか知らんが島の中心部に行くほど起伏が激しくなっていく。

まぁ、人気が無いし良いところに家を。

…彼ら流に言うのなら“巣”かな。

上手く建てたなぁ…



家の前まで来た。

白の壁が日光できらめいている。

表札が濃いめの紫で作ってあり、うっすらペンギンの足型の艶消しが見える。そこに白い文字で


古廉フレングレープ・フルル』とある


柔らかなイメージの木のドアの近くのインターホンを押すとキンコーンと音がする。

奥からトテトテと足音が聞こえてくる、心なしか良い匂いもする。


ガチャン…


「はーい…って、タコ君!? 

珍しいね、どうしたのさ。」


濃い紫色の短髪、ひっそりと主張して来るアホ毛、中性的な顔をした珍しい“オス”のフレンズ。彼こそがグレープ君である。

こーゆーときは適当に流すのがベストだ。


「いやね、近く通りかかったんだよ。せっかくだし挨拶でも…と思ってさ。」


「ふぅん…まぁ良いよ~、それにしても今日はお客様が沢山いらっしゃるね~」


俺以外にも誰か来てるの?

答えは「yes」


俺は部屋の奥から薫る香ばしい匂いにいつしか口内をよだれで潤していた。








______________



通して貰い、軽く おじゃまします とひっそり呟いた。

むこう側が見えない硝子の飾りが付いたドアをそっと押すと、中からより一層ふわぁっと良い匂いに襲われた。少しばかりお腹が空いた気分だ。


ドアが開ききると、明かりが無くても十分な程の日光と、広いリビングと奥にキッチンが目に飛び込んで来る。シンプルな部屋だが、これくらいが落ち着けて丁度良い気がする。


大きめの机の上に赤いパスタやチーズたっぷりのピザ、トロトロ甘い香りのスープなどが所狭しと並べられ、それを囲むようにソファが置かれている。


そのソファには、まず大きなお饅頭を頬張るフルルさんが。その隣の席は空席だが、しわが残っており、いかにも不自然だ。

おそらく彼…グレープ君が座っていたのだろう、彼の葡萄色のスマートフォンが机に置かれているのだし間違い無いはずだ。


次に目につくのは、大きな耳が少し垂れたネコ科のフレンズさんだ。

にこやかな表情で隣の女性…いや、彼女もフレンズか。とにかく楽しそうな表情でおしゃべりを楽しんでいる。彼女が噂に聞く、

“レイバル”さんだろうか?

Leptailurus(レプタイルルス)、詰まるところサーバルキャットのフレンズ。

通常個体と成長後個体という区別のため、名前が違うとか何とか……?


そのフレンズとおしゃべりしているフレンズは、黒い髪をストレートに長く伸ばし、ヘッドホンを首にかけている。

彼女はジェンツーペンギン

通称ジェーン。

ペンギンズ・ぱふぉーm…もう良い。面倒。

とにかく彼女もフルルさんと同じPPPだ。

正 統 派 清 楚 系 ア イ ド ル

というまさに、絵に描いたようなTHEアイドルの彼女だが、そんなアイドル界ではブーイングの嵐であろう特徴がある。


…ツガイが居る。

でもどうやら受け入れられているようだ、さすがジャパリパーク。


そしてそのツガイというのが…

奥で料理を作り、こちらに運んで来た男。

これは大変失礼だが、正直トップレベルのアイドルが惚れるようにはちょっと…うーん…見え・・・ない、かなぁ?


彼は机に料理を置く。

「ひゃ~…作りすぎちゃいました~」


その発言と、俺の「えーっと」が重なった。

あっ…

気まずい奴だ。


「おっとごめんなさい…グレープさんの知り合いさんかな?はじめましてですね。俺は節来。節来 式って言います」


これは…自己紹介のくだりだな?


気づけば俺に視線が集まっている。

俺を知っているPPPの二人はちょっとびっくりしているようだ。


「えァーっとォ…奥都 蓮夫っていいます。グレープ君の友達って奴です。」




______________




「びっくりですよ奥都さん!お仕事のお呼び出しかと思っちゃいました。」


「すみません…ちょっと先輩に頼まれちゃいまして…フルルさんのサインがほしいとか何とか…」



「はぁ~いサイン書けたよ~」


「ありがとうございます…あっ、空いてる所で良いんで、『平坪ひらつぼ末子まこちゃんへ』って入れて貰ってもいいですか?娘さんにあげるらしいので」



とか何とか。

わりと溶け込めた感じもするし、なんなら料理もバンバン頂いた。



…珍しい3人の目の奥が、何故か覇気に満ちているような気がする。


まぁ。

いいだろう。

この生活が続いてくれればそれでいいかな。
















などと言っていたその時の俺に、まるでいたずらの如く降り掛かる変化の捉え方など予習する気さえあるはずなかった。

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