第9話 儀式と蘇った想い
「そのおじいちゃんが言っている方は私ではないですが、リードはできますよ」
私が魔法使いに妥協しはじめた時に、アメリアさんはそう言ってきた。
「え? 本当? お父さん頼もうよ!」
「いや、しかし……」
「え? 何ですの?」
「アメリアさんが、おじいちゃんを本から出せますって」
「え? それ本当ですの?」
私の翻訳? にマリアさんも驚く。
「頼む前にさ、ちょっと聞きたいんだけど……。そのリードってそもそも何?」
カナ君がまともな質問をした!
「え? いや、父さんがそう言っていただけだから……」
つまり知らないみたい。自然と回答を求めアメリアさんに視線が集まる。
「この本、その本もそうですが、私の世界では精霊の本といいます。リードとは、その本を進ませエンドさせる魔法の事です」
アメリアさんは皆に説明を始める。私は、聞かれる前にマリアさんに復唱して聞かせた。
「ありがとう、ルナ」
それにマリアさんは嬉しそうに礼を返してくれた。
「通常本にはエンド設定して作成します。リード条件が整えばその魔法を使いエンドさせるのです」
「条件? お父さん聞いている?」
「そういえば、魔法使いの儀式を受けた者を本の中に召喚する事って言っていたような……」
おじさんの言葉にハル君とカナ君は頷きあう。
「それって僕達の事だよね?」
「だぶんな……」
「ちょっとお待ちになって!」
マリアさんは、冷ややかな目つきで二人に言った。私がリアルタイムで翻訳をしていたので、アメリアさんが言っていた言葉を聞いている。
二人もマリアさんが言いたい事はわかっているんだと思う。
「あ、ほらおじいちゃんが戻ってきたら儀式してほらえば……」
でもカナ君はそう言った。勿論マリアさんは……
「絶対嫌ですわ!」
と、返事を返した。
今、この状況を打破する為におじいちゃんを呼びたいのに、結局二人で行くと言っているのだから納得いかないんだと思う。
「あの、アメリアさん。儀式なんて出来ませんよね?」
「ごめんなさい。私達の世界にはないものです……」
もしかしてとハル君が聞いたけど、アメリアさんはすまなそうにそう返して来た。彼女の世界では、儀式は行われていないようです。
さて、どうしたらいいのか……。
「おじさまがなされば宜しいですわ! おじい様のお子様なのですもの! 出来ますわよね?!」
マリアさんが無理難題な事を言い出した! 私から見て魔法使いだとしてもおじさんが出来る様には見えないんだけど。
……って、いつも間にか魔法使い設定で考えていた! やばい私も毒されてきた……。
「仕方がない。マリアさんだけ除け者にするわけにもいかないし。もしもの為にって父さんが用意していったものがあるから。……ちょっと待ってて」
うーんと唸っていたおじさんはそう言って立ち上がり、部屋を出て行った。
うん? おじいちゃんが用意した物を取りに行った? って、何する気?
驚いているとおじさんは戻って来てテーブルの横の床に何か広げた。
「何? 何?」
ハル君がそう言って立ち上がる。いや、全員立ち上がっておじさんに注目する。
おじさんが持って来た者は、一メートル四方の紙でそれに大きな円が書いてあった。
「マリアさん、円の端に立ってもらってもいいかな?」
「円ですか? それはどこに?」
おじさんに言われ、マリアさんはしきりに円を探してる様子。見えないんだあれ……。私には紙に大きく描かれた円が見えていた。多分マリアさん以外には見えていると思う。
「そうか、見ないか。じゃ紙の端に五センチ程離れて立ってもらえるかな?」
「はい」
マリアさんは頷くと、躊躇なく立った。おじさんはマリアさんの髪を挟んだ向かい側に立ち、両手をマリアさんに出した。
「嫌かもしれなが、手を握って目を閉じてもらえるかな?」
「問題ありませんわ。お願いしますわ」
これも躊躇する事なく、出された手をしっかり握り目を閉じた。
これって本当に儀式をするつもりじゃ……。
「ただ純粋に魔法使いになりたいと思うだけ。それが本物であれば必ず成功する……」
「ずっと想い続けて来た事ですわ!」
おじさんの言葉に当然とマリアさんは返す。
――魔法使いになれると強く想う事。
おじいちゃんの言葉を突然思い出す。そして目の前でまるで再現の様に円が光り始める。それは魔法陣のような模様が光として浮かび上がり、私があの時感じた感情を呼び起こす。
――これで魔法使いになれた!
心から喜んだ事を思い出した……。
手品何かではなかった。本当に儀式だったんだ!
誰も信じてくれなくて、手品だって言われて風化していった想い。私の魔法使いへの想いが、マリアさんの儀式と共に蘇った!
「すごいですわ! 足元が光っておりますわ!」
目の前では、魔法使いになった事を噛みしめて喜んでいるマリアさんがいた。
勿論、二人も喜んでいる。
「やったぁ! これでマリアさんも魔法使いだね!」
「いやぁ、さすがおじいちゃん! 用意周到!」
「おじさまありがとうございます!」
おめでとう! マリアさん!
私も心の中でお祝いした。
「あ、これが本なのですね!」
テーブルに置かれていた本に気づき、マリアさんは喜びの声を上げる。そして顔を上げ、アメリアさんの姿が目を止める。
「あなたがアメリアさんですの? 先ほどまで失礼を致しました。これから宜しくお願いしますわ」
「成功したようで何よりです」
二人は微笑みあう。
「はぁ……。成功してよかった」
紙を片付けながらおじさんがぼそりと呟いた。どうやら自信はあまりなかったみたいね。って、おじさんも儀式を受けたのだろうか?
「アメリアさん。本当にリードをお願いしても?」
「はい。条件も整ったようですし、早速行いますか?」
私がそんな事を考えていると、話が進められていく。アメリアさんの問いに私以外の全員が頷くとアメリアさんは頷いた。
「では、そちらの広いスペースにその本を置いて頂いて、召喚される方は本を囲む様に立って下さい」
アメリアさんの説明でおじさんは、本を床に置いた。そして、ハル君達は本を取り囲む。
「ルナ、何してるの? 始めるよ」
そう言って、ハル君は私に手を出して来た。まるで昔の儀式の様に……。
「私もいいの?」
「君も魔法使いじゃないか」
「仲間だろ?」
「早くしてくださないな」
カナ君と手を繋ぐマリアさんも私に手を伸ばす。私は近づき二人の手を取った。
何か凄くドキドキする。ううん。ワクワクする!
「では宜しいですか?」
アメリアさんの言葉に私達は頷いた。
「お願いします」
おじさんもそう返す。
アメリアさんは私達より少し離れた所に立っていた。
「召喚される時に眩しく感じると思うので、目を閉じているといいと思います。では、いきます!」
私達は、アメリアさんに言われた通り目を閉じた。
その後すぐに目を閉じていても外が明かるのがわかるぐらいの光を感じた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます