第8話 信じてみる?

 段々とおかしな方向に話が流れている。……もう訳がわかりません!

 「ねえルナ。アメリアさんは魔法使いという事で宜しいのでしょうか?」

 あ、そっか。アメリアさんの声が聞こえないのね。……そういう事にしておかないと話が合わない? 合ってもおかしいけどね。

 「本人はそう言っていますけど……」

 「なら、話は簡単ですわ!」

 私の返事を聞きマリアさんは立ち上がった。そして向かい側に座っているおじさんにこう言った。

 「おじい様はどこですの? 今すぐ儀式をして頂きたいですわ! そうすればわたくしが魔法使いになりますわ! アメリアさんが見えれば仮説が正しい事が証明されますわ!」

 「なるほど! マリア冴えてる~」

 「確かにそうだね!」

 「あ、えっと、無理かな……」

 二人は賛同しおじさんに注目するが、困惑した顔つきで言った。

 そう無理だよね? 魔法使いなんていないんだから! そもそもこの話から行くと私も魔法使いって事になりますから!

 そりゃ小学生までは信じてましたよ。あの凄い儀式があったからね。魔法陣が浮き上がって光り輝いて……。小学生ならコロッて騙されちゃいますよ!

 「なぜですの?」

 「なぜっていないから……」

 うん? 出来ない理由はいないから? それだけ?

 「あ! そういえばおじいちゃん達、昨日から旅行に行っているんだっけ?」

 「そうだ! おばあちゃんと故郷に帰るって言っていたな」

 ハル君が思い出したように言うと、カナ君もそうだったと頷く。

 「故郷ってどちらですの?」

 「それが知らないんだ……」

 「ご自身のご両親のご実家をご存知ないのですか?」

 マリアは驚いて言った。それには私も驚いた。

 「そういえば僕。おじいちゃんの実家の話しっていったら、自然が豊かという事しか知らないや」

 「そうではないでしょう? お出かけになったのですよね? 知らないのなら聞くのが当然ですわ! 本当はどちらに!」

 そう言われればそうだ。知らないはずない! ほらやっぱり、儀式なんて出来ないのよ!

 「もしかして、僕達に内緒で入院したとか?」

 「いや、入院はしていない」

 ハル君が心配そうに聞くとそうではないと否定する。

 「旅行ではないんだよね?」

 「いや、母さんは、故郷に一足先に帰った……」

 「で、おじい様は?」

 両手を腰にあてマリアさんは凄んだ!

 「わかった。ちょっと待ってろ」

 観念したのか、おじいちゃんを呼びに行った。

 っと、思ったんだけど、赤い本を手に戻って来た。それを自分の目の前のテーブルの上に置いた。

 「何この本?」

 「本?」

 ハル君が呟くと、マリアさんが首を傾げる。

 「父さんが作ったものだ」

 「作ったですって!」

 おじさんが説明すると、声を上げて驚いたのはアメリアさんだった。その声にマリアさん以外は彼女に振り向いた!

 「え? 何ですの? アメリアさんが何か言いましたの?」

 マリアさんだけが、状況がわからない様子。これって本当に聞こえてない?

 「この本の事を知っているのか?」

 マリアさんの質問はスルーされ、おじさんはアメリアさんに問う。彼女は問いに頷き、ローブから本を出した。持って来た本と同じ赤い本。

 そう言えば、男の人がアメリアさんに本を渡せって言っていたっけ……。

 「それは! 君だったのか! 父さんが言っていた人は!」

 「え? 何か言って出かけたの?」

 「この本をリードする物が来るって……」

 頷きハル君の質問に答え、テーブルの上に置いてある本を指差した。

 「あー! もう! 全然わかりませんわ!」

 皆が本に注目していると、突然マリアさんが叫んだ!

 「わたくしだけ話しについていけてませんわ! 本って何ですの!」

 その言葉に今度はマリアさんを皆凝視する。

 「もしかしてマリア。この本も見えてないのか?」

 「もしかしなくても見えておりませんわ!」

 「マジか……」

 マリアさんの答えにカナ君は呟く。

 「ねえ、おじいちゃん呼べないの?」

 ハル君は、おじさんに問うが、すまなそうに口を開く。

 「その事なのだが、この本をリードして本から出さないといけない……」

 どういう意味だろう? 私達は顔を見合わせた。

 「本から出さないとって、おじいちゃんをって事?」

 ハル君の質問におじさんは頷いて答える。

 「え? その本っておじいちゃんが作ったって言わなかったっけ?」

 ハル君が驚いて更に質問をする。って、驚くところそこではないでしょう!! おじいちゃんが本の中にいるって言っているんだよ!

 「そうだ。作るのをこの目で見たからな」

 「何ですって! わたくしも拝見したかったですわ!」

 「僕も見たかった! なんで呼んでくれなかったんだよ!」

 「俺も! 見たかった!」

 「そう言われても……」

 もう抗議にタジタジ。

 うん。全員魔法使いを信じているって事ね。なんだか段々慣れて来たよ……。

 「あの、お取込み中すみませんが、その方のお名前はリアムさんといいませんか?」

 「いえ違います」

 突然アメリアさんは質問をしてきた。そもそもその名前日本人の名前じゃないし。まあ、今ならキラキラネーム系でありかもしれないけど。

 「アメリアさんはなんて質問を?」

 「おじいちゃんの名前を……」

 なんか魔法使いを否定しているのがバカバカしくなってくる。――魔法使いを信じていいと思っちゃうじゃない……。

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