第6話 衝撃的な出会い
次の日私は、小走りに目的に向かっていた。太陽が出て天気は快晴。でもやはりまだ寒い。暖かいのは、太陽が当たっている部分のみ。
「やっぱりマフラーしてくればよかったかな……」
四月とはいえ、北海道ではまだ春とは言えない温度。雪だって残ってる。
「ルナ!」
私を呼ぶ声が聞こえ声の方を私は見た。って見なくても相手は誰かはわかってる。マリアさんだ。だから大きな声でルナって言呼ばないで! って言えたらなぁ……。
「おはようございます。あれ? 二人はまだですか?」
時間的には集合時間ぎりぎりなので、遅刻か欠席という事になるけど。
「おはよう、ルナ。二人ですが、昨日夜に連絡がありまして打ち合わせが入ったらしいのです。間に合えば来る事になってはおりますが……。ごめんなさいね」
お休みのようね。毎回こういう感じなんだろうか?
「そ、それじゃ仕方がないですね」
「この埋め合わせは、きっちりさせますわ!」
埋め合わせ……。本当に都合のいい人ではなく、仲間として部に迎え入れてくれたんだ。
私は上辺だけではなく、本当にそういうつもりなんだと安心した。まあ、マリアさんは、二人を特別扱いしていないのは見てわかるし。
私達は早速説明を聞きに行く。内容は介護老人施設の入居者のお散歩の補助。公園の端まで一緒に行って終了。
私達以外にもボランティアの人達もいて、それぞれパートナーというか付き添う人が紹介された。
つまり課外授業ってボランティアなのね!
私と一緒に歩くのは、相沢さんという八十過ぎのおじいちゃんだった。
「相沢さん、宜しくね」
「こんな若い子とお散歩ができるなんて……」
相沢さんは嬉しそうに笑った。
公園にはまだ雪が残っていたが、道は綺麗に除雪されており、滑って転ぶっていう心配はなさそう。
ルートは公園内ならどの道を通って行ってもよくて、普通に歩けば十五分の道のり。……だったんだけど、相沢さんでは無理そう。
だって、ちまちまちまという歩き方。私は、相沢さんの横をゆっくり歩く。
「あ……」
「え?」
相沢さんは何もない所でつまづいた!
私が慌てて支えようとしたけどダメだった。私達はそのまま転んだ。
「痛~い。……て、おも!」
気づけば、庇いながら転んだ私は、相沢さんの下敷きに! しかも抱き合う感じに……。
あの相沢さん、起き上がれます?」
「む、無理じゃ、手が……」
もしかして怪我をした?! って、これじゃ起き上がれないよう! 兎に角誰か……。
私が叫ぼうとしたとき、すぐ傍に気配を感じ振り向いた。
助かった……。
え? 完全スルー? おじいちゃんと若い女の子が抱き合って倒れているから、見ないふり?! って、目もくれてないよね?
考え事でもしていてって、それより……
「あのちょっとすみません! 起こしてもらっても……」
呼び止める声が止まってしまうほど驚いた。女性だと思っていた人は男の人だった! いや、驚いた原因はスカートだったと思っていのが、全身を包むローブのような物。髪も金髪。
コスプレ?
「あなたは俺が見えるのか!」
しかも彼はそう言った! 何のキャラか知りませんがなりきってます……この外人さん。日本語もお上手で……。
「見えてますので、おじいちゃんを起こしてもってもいいですか?」
お兄さんは頷くと、相沢さんの脇を後ろから引っ張り上げ私の横に座らせてくれた。
よかった。親切な人だった。
「ありが……」
「ルナ!」
私は体を起こしてお礼を言うとすると、マリアさん達が駆け寄って来た。
「ちょっと大丈夫?」
「二人共怪我は?」
スタッフの人は心配そうに声を掛けてくれた。私はそれに首を横に振る。
「相沢さんが手が痛いって。ごめんなさい……」
怪我をさせてしまった。
「あ、手ね。それは今日ぶつけたのよね」
スタッフの人が、持って来た車いすに相沢さんを座らせながら言った。私はそれを聞いて胸を撫で下ろす。怪我をさせたわけではなさそうでよかった。
手を怪我しているに、自分で起き上がるなんて凄いわね」
「お嬢ちゃん、見かけによらず力持ちだのう」
「あら? わたくし? 何もしてなくてよ」
マリアさんが相沢さんに話し掛けているけど会話がかみ合っていない。って、助けたのはどこぞのお兄さんです。
「助けてくれた人は、コス……緑の服装をしたお兄さんで……」
「緑? あらそうでしたの? 目に入りませんでしたわ」
ちゃんとお礼を言えなかった。って、見えていなかった? あの不思議な格好を? 目立つと思うんだけどなぁ……。
私は相沢さんを車いすに乗せたまま集合場所へ押して行った。
「ありがとうございました。今日はこれで終了です。お疲れ様です」
マリアさんは、何やらハンをもらったみたい。私は覗き込んだ。それは、先生から渡されたカードだった。
「これを押してもらって終了なの」
なるほど。滞りなく終了しましたって事ね。
「お疲れ様。いかがでした? 初めての課外授業は」
「あ、お疲れ様です。ちょっと疲れましたけど、楽しかったです。毎回こういう内容なんですか?」
「いえ、色々でしてよ。美化活動でゴミ拾い。物を運んだり。相手に寄りますわ。将来、わたくしたちがやりたい事を見つける為の授業でもあるのですよ。百閒は一見に如かず。これが学校側の表題ですわ」
「なるほど」
私はマリアさんの話を頷いて聞いていた。色んな仕事を体験するって事ね。
「おーい、マリア!」
振り返れば、そこにはハル君とカナ君がいた。私達は二人の元に駆け寄った。
「お仕事は終わったようですわね。お疲れ様。私達も先ほど終わったとこですわ」
「間に合わなかったか」
「結構急いだんだけどね」
「そう言いながら、私服じゃん」
残念そうに言う二人についそう言ってしまった。
ハル君は、ブルーのパーカーとジーパンの上に紺のコートを羽織い、カナ君の方は、シャツとパンツはグレーで統一し、黒のジャケットを着ている。つまり制服じゃない!
「仕方がないだろう? 制服に着替えて出てくるわけにはいかないんだから……」
「僕達の正体を知っている人ってほんの一握りなんだ。私服で言ってこっそりトイレで着替えているんだよ!」
私の言いたい事がわかったのは二人は言い訳をする。
トイレで着替えって本当だろうか? だったらアイドルも大変だ。
「涙ぐましい努力ですが、ファンの子が知ったら失望しますわね……」
確かに。トイレで着替えはちょっと……ね。
「……魔法で変身じゃないなんて!」
え! 着替え方ですか? って、魔法って……。マリアさんは、信じちゃってるんだ。あの儀式を見ていないのに信じるって凄いわ。
でもねマリアさん。私も流石に中学生になったら手品だって気が付いたよ……。
「あのな……はぁ……」
カナ君もあまりの事にため息しか出ないみたい。
「僕も出来たらそうしたいよ。早く魔法を使えるようになりたい……。うん? 何あれ?」
ハル君も信じてる? それともマリアさんに話を合わせている?
「撮影? でも、カメラ見当たらないよな?」
うん? 撮影? 私もつられ二人の目線の先を見て驚いた! だって、あの緑のお兄さんが走っていたから! しかも髪の長いお姉さんを追いかけている!
お姉さんも金髪です。あの人も外人さんかな?
「行くぞ!」
「うん。助けよう!」
そう言って二人は走り出した。助けようってあの女性は追われているんですか? どう見ても同志に見えるのですが……。お姉さんは色違いの水色のローブを着ているんですよ?
「え? ちょっと二人共どこに行きますの? もう! 行きますわよ、ルナ」
仕方なしに私達も追いかける羽目になった。
公園の中は道が除雪してあるとはいえ、散歩する時期には早く今はもう私達しかいない。
女の人はどうやら、二人が思っていた通り追いかけられていたようで、追い詰められて道から外れ、ズボズボと雪の中に足を踏み入れる。そして逃げ場をなくてして、木を背にして立ち止まった!
追いかけていた男も雪の中に入り、女の人の前で立ち止まった。
「その本を渡せ!」
男が言うと女性はフルフルと首を横に振った。男は一歩近づく。
「やめろ!」
「警察を呼ぶよ!」
カナ君とハル君が叫ぶと、男は驚いて振り向きそのまま走って逃げていく。
「逃げたか。しかしどこの衣装だ?」
あれはどこかの民族衣装なの? 私にはファンタジックに見えましたが……。
「大丈夫ですか? あ、僕達は正義の味方です! 怖くないですから」
ハル君は凄く怪しい声の掛け方をした。こういう時は、女性のマリアさんの方がいいのでは? って、日本語通じるのかな?
「もう、
マリアさんも私と同じように思ったようです。私がうんうんと頷いていると……
「……木に向かって」
は? 木? もしかしてマリアさんは外人さん嫌いですか? 見えない事にしちゃってます?
「木じゃなくて、木の側にいる女の人に言ったんだけど……」
「どこにおりまして? 突然走り出しますし……どういうおつもりですの?」
本当に見えない事にしています……。
「どこって……」
ハル君は困って口ごもる。って、マリアさんが呆れ顔をしている。あれ? まさか本当に見えていない? そう言えば、あの緑の男の人も見ていないって言っていたっけ……。
「見えてないのか?」
「見えていないのだと思います……」
カナ君の質問にマリアさんではなく、女の人が答えた。
どういう事?
女の人が言った事はに二人はマリアさんに振り向いた。その行動にマリアさんは驚いていた。演技には見えないので、本当に驚いているのかも……。
「この世界の人には見えないようです。あなた達が見えている事に私の方が驚きです」
その言葉に二人は顔を見合わせる。マリアさんは不思議そうにその二人を見つめていた。私も意味がわからなくて、この光景をただ茫然と眺めるだけだった――。
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