第3話 秘密が凄すぎて―1

 ハル君がやや緊張気味に声を出した。

 「あのね、ルナ。僕、シマールなんだ」

 「……シマールって?」

 「勿論ウィザードのシマールだよ」

 皆さんがご存知の通りウィザードと言うのは魔法使いの事ですが、ハル君が言っているのは多分、昨年デビューした二人組のユニットアイドル、シマールとスターリーの事だと思う。

 シマールは短い金髪でブルーの瞳。膝まであるマントもロングブーツまでも全身真っ白の衣装。

 逆にスターリーは、肩より少し長いストレートの髪と瞳は漆黒。衣装も全身漆黒。

 性格はシマールが俺様できつい印象に対し、スターリーは無口でミステリアスなイメージ。

 そんな対照的なユニットアイドルなんですが! あり得なさすぎる!

 「で、俺がスターリーな」

 あんぐりとしていると、カナ君もぼぞっと言った。

 成り行きから当然、もう一人にとなるかもだけど……。

 あ、あれか。やっぱりドッキリなのね!

 本当はカナ君も最初から私だと知っていて、ドッキリを仕掛けたのね!

 魔法使いもあり得ないけど、これもあり得ないでしょう!

 って、これはどういう反応をすればいいわけ? 普通信じないと思うけど……。

 「僕達本当にウィザードなんだ。勿論、本物の魔法使いだと言う事は伏せてあるけどね」

 反応に困っていると、マジ……いや、どや顔でハル君は言った。

 ま、まさかと思うけど……自分達の事魔法使いだと思っている?

 この人達やばい系? って、それでウィザードだと思い込むってどうよ。

 うーん。あぁ、わからない。わからないけど、ドッキリ決定だね!

 もう少し信じられるようなどっきり仕掛けようね!

 「うんうん。わかったから、もう種明かし宜しくね」

 「種明かしって……。わかった! こうしたらわかる?」

 そう言うと、ハル君は立ち上がり眼鏡を外したと思うと手を自分の頭にやり、その手を振り下ろす。驚く事に一瞬にして髪が金髪に変わる。よく見れば、黒髪のウィッグが手に握られていた。

 目線をハル君の顔に戻せば、目こそ黒いがシマールそのものだった!

 「え? う……そ……シマール……」

 驚きすぎて思考がついていかない。

 「ちょっと借りるぜ」

 ハル君のウィッグを奪い取ると、カナ君はそれを自分のつるっつるの頭にポンッと乗せた。

 ハル君同様立って私を見下ろす姿は、髪は短いがスターリーに見える。

 え? ドッキリじゃなくて本当の事? あ、いや、これがどっきり?

 「この二人がウィザードなんて信じられないかもしれませんが、残念ながら現実ですわ」

 成り行きを見守っていたマリアさんが、まるで慰める様に言った。

 「残念ながらってなんだよ! 幼馴染がウィザードだぞ! 喜ぶところだろうが!」

 「全然自慢になりませんわ」

 私が混乱しているさなか、二人は言い合いを始めた。

 アイドルって事は本当なんだ……。やっと、それを理解した……けど、何だろう? マリアさんが言った通り嬉しくない。

 「本当にアイドルだなんて……」

 「うん。がんばった! で、秘密の事なんだけど……」

 「……誰にも言わない。秘密にするけど……」

 彼らが喜んだ理由って? 私を懐かしんだからではないよね?

 「よかった。ルナならそう言ってくれると思ったよ」

 都合のいい相手が見つかったから――。とか?

 「秘密を守れる人って、二人がアイドルだから……マリアさんと二人で奉仕してくれる都合のいい人を探していたって事?」

 私は俯いて聞いた。

 幼馴染がアイドルだなんて、本来なら嬉しい。けど、部活動の仕組みから言えば、そういう相手を探していたって事だよね? 普通なら喜んでやってくれる。けど、秘密は直ぐにバレそう。だから秘密を守れそうな私がいて喜んだ。

 「待って、僕達はそんなつもりはないよ!」

 「最初に言っただろう? 押し付ける気はないって!」

 じゃなんで暴露したの? アイドルっていう秘密は言わなくてもいいよね?

 「そんな事でしたら、わたくしは協力なんて致しませんわ!」

 「……うん」

 「な、なんだよ。俺達の言葉よりマリアの言葉を信じるのかよ……」

 カナ君は、ぶつくさ言ってますが、同じ境遇? のマリアさんが言った言葉だったから信憑性というか信頼性があった。

 「ごめんなさい。突然過ぎて……そういう事だって思っちゃった……」

 「あ、えっと。後になってバレていざこざになっても嫌かなって思って……」

 私は、ハル君の説明に頷いた。

 ハル君はウィッグを被り直し、眼鏡を掛ける。元のハル君に戻った。

 うん。凄く違う!

 「良く化けたね……。その姿からは絶対にわからないよ」

 「だろ? あのウィッグ特注品なんだぜ」

 「僕、本当はシマールを演じるの嫌なんだよね」

 カナ君は得意げに頭を撫でながらハル君は溜息をつきながら言った。

 イメージって大切だよね。うん、この二人なら絶対バレないね!

 「さて、話もまとまった事ですし、入部届を出して頂けるかしら?」

 マリアさんはそう切り出した。善は急げって事らしい。

 私達は、早速用紙に記入して、マリアさんに渡した。

 「ありがとう。それでは部長と副部長ですが、わたくしとルナで宜しいでしょうか?」

 「宜しく頼むぜ」

 「OK!]

 二人は頷いて賛成するが、私は驚いた。だって、なんで私が副部長なの? ここは、二年の二人がやるものじゃないですか!

 「えっと、何で私が副部長なのですか?」

 「ごめんなさいね。設立した部長が卒業するまで部長である事が条件なのですわ」

 いえ、私は部長になりたいと言ったわけではないのですが……。普通そっちに取らないでしょう?!

 マリアさんってもしかして凄い天然なのかな……。

 「いや、そういう意味じゃなくて、私は一年だけど副部長なんですかと言う意味です」

 「そちらの意味でしたの?」

 はい。普通はそちらの意味です。

 「それは星空達がウィザードの仕事でいない事も考えられるので、わたくし達でやった方が宜しいかと思いまして。奉仕依頼を受けられるのは、部長と副部長なのですわ」

 「そういう事で悪いけど宜しく頼むな!」

 マリアさんが説明すると、軽いノリでカナ君にお願いされた。

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