出会い

第1話 二人との出会い-1

 ジジジィ……。

 バシ!

 うるさく鳴る時計のベルを右手を伸ばし止め、お約束で上半身を起こし両腕を天井に伸ばして伸びをする。

 私は天恵あまえ月海つぐみ。今日から和泉いずみ学園奉仕科の一年です。

 和泉学園とは、数年前に新しく開校した敷地に広大な林がある広い学校で、普通科と奉仕科がある私立高校。

 う~ん。小学校の頃の夢見ちゃったよ。魔法使いか……。

 夢の事を考えながらぼけ~っと、壁に掛けてある真新しい制服をぼんやり眺めていた。

 「おっと。入学式早々遅刻はやばい」

 私は、起きると朝食を取り身支度を始める。

 奉仕科に配布されている紺に薄いオレンジ色のチェックのキャロットスカート、ブラウスに赤と白のストライプのネクタイ、スカートと同じ柄のベスト。そして、その上に紺のブレザーを着る。

 普通科はスカートらしい……。まあこれもスカートにみえるけどね。

 黒のハイソックスを履きながらそんな事を考える。

 最後に肩までの長さの髪をとかし、右耳の上当たりをピンで留める。

 鏡を見て、うんと頷くとコートを着て鞄を手に取ると背中に背負った。

 私は元気に家を出発する。但し、寒さに身を縮こませて。ここは北海道で春はまだ遠い。



   ☆  ☆  ☆




 入学式を終え、私は教室にいた。担任は小野寺といい、三十代前半の男の先生。

 「入学式お疲れ様。これから奉仕科について説明をする。ちゃんと聞いておくように」

 三十人の生徒がひしめく教室全体に聞こえるように大きな声で話すが、ほとんどの生徒は浮足だっているのか先生の話など聞いていない。

 私もその一人であるけどね。

 小野寺先生は、気にせずそのまま話をつづける。

 「奉仕科は、午前が普通の授業で午後からは奉仕科の特別授業となる。午後からは、それぞれの部室に移り二、三年生と一緒に活動を行う事になる。

 そこにも書いてある通り、部活に所属してそれがそのままグループ分けとなる。つまり午後からは縦割り授業となる。部活と言っても奉仕活動、つまりは授業の一環としてボランティア活動をする」

 小野寺先生の言葉に皆、案内書に目を落とす。

 「入部するにあたり注意点がある。入部する際には二名以上で行う事。先ほど配布した入部届けに一緒に入部する者を記入する欄がある。入部までの期限は一週間。勿論今日、入部しても構わない。二、三年は休みだが部活動は出来るのでいると思う」

 二名以上って知らないやつらばかりなのに……。そんな呟きがあちこちで聞こえてくる。

 奉仕科は、同じ中学校から一名しかとらない。クラスの中に知った人物はいない。少なくとも私は……。

 「はい! 質問です」

 生徒の一人が手を上げた。

 「なんだ?」

 「もし、一週間で決まらなかったらどうなるんですか?」

 「今までそんな者はいなかったが、こちらで振り分ける事になる。いない理由がわかるか? 成績に響くからだ。同じ部活動に入る仲間を探すのも授業の一つだ」

 今度はあちこちから『え~』という声が聞こえる。

 私も声こそ出さないが、不安になり教室を見渡す。

 一週間で仲良くなる自信ないんですけど……。

 「今日は金曜で明日と明後日は休みだ。帰りに掲示板でも見て休み中にどこに入るか考えておくように。月曜から午後の授業がある。説明会を行っているが、部によっては早くに締め切る所もあるからな」

 小野寺先生は、更に不安を煽るような事を言った。

 「さて、説明はこれで終了だ。詳しくは部活動の先輩に聞くように。いい先輩に当たる事を祈ってるよ」

 そう言うと、ではっと颯爽と先生は教室を出て言った。残った私達はあっけに取られ、出て行ったドアを見つめていた。HRは終了したみたい。

 さて、帰りますか。

 私は、立ち上がり教室を出た。

 廊下には生徒の姿はまばらだった。普通科は一階、奉仕科は二階に教室があり、一年の教室は一番奥。各学年は一クラスずつしかない。

 もしかして、教室に向かう間にあった部屋って部室だったのかな? 建物の中って事は文化部? 階段を上がった所に掲示板があったっけ。帰りに見て帰るかな……。って、変わった作りの学校よね。

 「ルナ!」

 ぼうっと考え事をしながら歩いていた私に聞き覚えがある単語が耳に届いた。

 ルナって聞こえたような……。私の小学生の時のあだ名。と言っても数人しかそう呼んでいなかったけど。

 振り返ると目にかかるほど長い前髪に、黒縁の眼鏡をかけた男子生徒がニッコリ微笑んで立っていた。

 ルナって私に言ったのかな? と言うか誰だっけ? この人。

 「えっと…」

 私が困惑顔で口ごもっていると、男子生徒は悲しげな顔になりそれに劣らず悲しげな声で話しかけてきた。

 「僕だよ。は・る・と! 佐藤陽翔」

 「佐藤君?」

 「もしかして覚えてないの? 本名なのに…」

 普通、学校には本名で通うものだと思うけど。不思議な事を言う彼を私はジッと見つめた。

 どこかで見た事あるような。ないような……。

 更に眼鏡の奥の瞳をジッと見つめる。パッチリと見開かれて黒い瞳がはっきりと見える。――今朝夢で見た男の子の顔が思い浮かぶ。

 「あ! ハル君! え、うそ!」

 思い出し声を上げる私に嬉しそうにコクリと頷く。

 「よかった。思い出したんだね! まさかこの学校で会うなんて!」

 「私もビックリだよ」

 「あのさ、もう部活決めた?」

 「え? いや、まだだけど……」

 「じゃさ、ちょっと見て行こうよ」

 「いいよ。掲示板見て帰ろうと思っていたところなんだ」

 ハル君の申し出に、掲示板を見て帰るつもりだった私は二つ返事で返す。

 いやぁ、こういう偶然もあるんだ。って、よく私だってわかったなぁ。

 「じゃ、行こう」

 ハル君は、何故か手を差し出した。

 「………」

 いやいや、手は繋がないから……。

 「あ、ごめん。もう、小学生じゃないもんね」

 照れながら、手を引っ込める。

 うん。小学生じゃないからね。しかも低学年の時の話でしょう。

 私達は階段の前にある掲示板に向かった。

 掲示板には部活名が書いてあり、案内図のようになっていた。

 部活名しか書いてないんだけど……。えっと、合唱部に読書部って地味のしかないの?

 運動部に至っては、卓球部しか名前がない。随分偏った部活動ね。その中に不思議な部活名を見つけた。

 「……ファンタジー部?」

 「あ、やっぱり興味ある?」

 「え? いや、珍しい名前の部だなと思って……」

 「そうかな? ところでよかったらさ、一緒に同じ部に入らない?」

 ハル君は、そう聞いてきた。

 誰かと一緒に入らないといけないし、知っている人との方がいいかと頷いた。

 「うん。いいよ」

 「よかった。じゃさ……」

 「ハル! もう来ていたのか。って女?」

 ハル君の言葉を遮るように声を掛けられ、私達が後ろを振り向くと、そこには二年生の先輩が二人立っていた。学年はネクタイの色でわかる。一年は赤、二年は青、三年は緑とそれぞれ白とストライプ模様となっている。

 女の先輩はお嬢様な感じのできりっとしていて、胸まであるストレートの髪がよく似合っている。

 男の先輩の方は、これがまたブレザーが全く似合わない髪型をしていた。いや違うか……髪がないから髪型とは言わないよね。つるっつるだよ。

 どういう組み合わせなの? お嬢様と坊主って……。

 「あ、カナ……」

 ハル君の知り合いっぽい。まあ、ハルって声を掛けていたものね。

 「まあ、いっか。行こうぜ。こっち」

 ぼけっとしていると、カナと呼ばれた男の先輩の誘導で部室の方へ移動する。来た方向に戻り、右手に曲がれば教室の方向の所で立ち止まる。

 左側にはドアがあり、女の先輩がカギを開けドアを開く。

 「どうぞ。おはいりになって」

 その言葉に、私達は部室に入っていく。って、もしかしてこの部に入るわけじゃないよね?

 私は不安になった。だって入る時にちらっと見ちゃったの。ファンタジー部と書いてあるのを……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る