第二章 9話
ラウラが町に来て始めにしたことは、ブルックリンについての情報を冒険者ギルドに調べて貰うことであった。そして今日結果がわかる。
「いらっしゃい。ラウラ姉さんか、例の件だろ?」
「ええ、悪い予感がしますので。結果は?」
「まぁ黒だよ。アンタが書いた正確な人相書きで身元が分かった。名前は【ガバレボ】前に冒険者ギルドや国を相手に暴れまわった札付きの悪、、いや極悪人だな」
ラウラは冒険者ギルドの男が取り出した封筒を開けて、レポートを見る。なる程どうして、小悪党だと思っていたがかなりの大物であったらしい。
「一応、ソレと同時に一流の冒険者達をこちらに向かわせている。中でも大陸に名高いガンリュウとその仲間が来てくれるそうだ。獲物を考えるならば当然かもしれないがな、、」
「ありがとう。いくらになるの?必要経費もあるでしょう?」
冒険者ギルドの男はムムっと考えて答える。
「あんたの情報を欲しがっている奴がいてな、男みたいな女ならいるが、美人で凄腕はあまりいない。まぁ住んでいる場所と名前、特技、他は当たり障りのない事を記入してくれるだけでいい」
「魅力的だけど、話が旨すぎない?」
「後はウチのギルドにチョイチョイ顔を出してくれるだけでいい。あんたが来てから加入者と依頼人が少し増えたんだ」
条件に同意し、互いに少し世間話をしてから冒険者ギルドを後にするラウラ。ガバレボが動くまでにまだまだ時間が掛かると思っていた。一ヶ月先かそれとも2ヶ月先か、、
もしラウラの欠点を挙げるのならば、人(主人)の命令を忠実に守り、納得できなくても妥協点まで修正するに留める事であっただろう。
そうもしミューズであったのなら、危険分子としてガバレボは計画以前に死んでいただろう。
そしてラウラは町から村に戻る。ラウラというアンドロイドの地獄がここから始まる。
**********************
ザーン、ザーン、ザーン。
真っ青な空、そして美しい砂浜、小さな蟹がアルド・ガーデンブルグの腕をハサミで摘まむ。
アルドは夢を見ていた。見知らぬ夫婦、アンドロイドと呼ばれていた人、そして弱者を食い物にする悪党。それは過去の出来事で封じられていた記憶、それが思い出されれば多分、今のアルド・ガーデンブルグには戻れないかもしれない。
ガジ、ガジ。
「ムニャ、止めろ。ゼニスキー、俺の腕を食べても能力は得られないぞ、、売る、、ひでぇ、、」
ガキン!!
「イッタァー!!いつつっ何だぁなんだ!」
覚醒し身を起こしたアルドは周りを見て、腕にしがみついている小さな蟹をデコピンで撃ち落とすと現状を確認した。
周りは砂浜で奥には森のような木々が生い茂っていた。服装は鎧が脱げてぼろ布のような服がお情けで体を覆っているぐらい。そして何よりレーザーブレイブがなかった。
「なにが、、そうだ海賊に舟から魔術で落とされて、、しかしここはアジトの島じゃ無さそうだが、、」
「、、ここは無人島だ。いや無人島だったというべきか。アルド・ガーデンブルグ」
アルドが眉を上げて、声のする木の陰を見るとそこには日に焼けて窶れたリッチモンドが足を組んで座っていた。
「リッチモンド、こんなに日に焼けて、、バカンスか?」
「そんなわけあるか!海賊に襲われてな、身ぐるみ剥がされこのざまだ。今後海軍には投資しないと決めたよ。まぁ大陸に戻れればだがな」
「それだけ言えれば充分だな。無人島なのは分かったが何でこんな砂浜にいるんだよ。家は?」
リッチモンドはアルドよりずっと前から島にいた事は会話から感じた、それならば急場の家ぐらいは造ってあっても良さそうだと考えたアルド。
「まさか私に家を造るスキルがあると思っているのか?私は自慢ではないが家事は一切した事がない」
「どうやっていままで無人島で暮らせていたんだ?」
「水は湧き水を、食べ物は果実が成っている木があってな、、今はもう無いがな、、」
アルドはもしかしたら大荷物を背負いこんでしまったかもしれないと、後のことを憂いた。
「先ずは火だな。火打ち石はないから、、仕方ねえ摩擦熱だな。」
アルドは比較的柔らかい石同士を左右の擦り付けるようにぶつける。そして砕けた鋭利な石を刃物代わりに、着ていた服の布地を切り分ける。
布は横二センチ縦に40センチ程の縦長。更にアルドは辺りから真っ直ぐな木の棒30センチ程のモノとソレより少し長めの木の棒を持ってきてそれぞれの先端に切れ目を入れた。
「何をしている?」
「ちょっと火種をな、、」
アルドは土を掘り枯れ木と乾燥した藁の様な草を集めると三角柱になるように組み立てていく。仕上げに三角の中に枯れた葉を入れ細い枯れ木をそれに立て掛ける。
続いて藁の様な細長い草を手で丸め丁度良い窪みに入れると、先程の長い棒の両端を布で結びつけ、ビロビロに伸びている布にもう一つ取り出した棒の先端を固定させる。それは一見すると弓のような形の火起こし器であった。
弓の様なソレの矢の部分を窪みに差し入れ、余った棒の両端を持ちクルクルと独楽の様に回転させる。アルドは更に回転の戻る力を利用しまるでドリル程の早さで棒を回転させ続ける。
キュルキュルキュル。
摩擦熱により煙が立つ、瞬間火が丸めた枯れ草に触れる。息を吹きかけ火元を大きくし、それを先ほど組み立てた三角錐の中央に入れ、更に息を吹きかける。
「、、、」
煙が消えて駄目だと思った瞬間小さな炎が生まれる。それを見ていたリッチモンドは鼻を鳴らし毒づく。
「私も魔石が有れば火ぐらい起こせるさ、原始人じゃないからな、そんな芸当は出来ない。」
「食料を取ってくる、リッチモンドも何か焼くなら使え。」
「くっ、、この焚き火は使わない、火種を少し貰うぞ。」
リッチモンドは枯れ木を組み立てるとそこにアルドの焚き火から拝借した火を入れてもう一つ焚き火を作る。
「俺は腹減ったし、沢山いそうな魚を取ってくる」
「、、奇遇だな私も魚を捕ろうとしていたところだ。実は釣りは趣味の一つでね、余ったら君に礼を兼ねて恵んであげるよ、感謝するんだな。」
「期待してる、じゃ俺は貝とか蟹をとる事にするわ」
そう言ってアルドは身の丈ほどの木で出来た槍を用意して、海に入っていった。
「原始的な奴だ。さてと竿は木の棒を使うとして糸、、針を、、針?」
リッチモンドは周りに針になりそうなものを探すが見付からない。
「これだから嫌なんだ。本当に何もないところだなここは!」
地面を蹴飛ばすと仕方がないと森に入っていく。
ピチピチ、ピチィ!
跳ねる生きのいい大きな魚数匹と蟹、そして10個ほどの巻き貝。
「結構とれたな、食いきれるかどうか、、リッチモンドはどうだった?」
「嫌みな奴だな君は!私はキノコを採ってきた。カラフルで美味しそうだろう」
「、、毒キノコじゃ無いのかそれ?キノコに詳しくないが色彩が派手な奴は毒がある事が多いらしいぞ。」
「、、、コレは食べられるさ。しかし今は!あまり好きではないキノコを食べるのは止めておこうか。君も取りすぎて困っているようだしね。」
そう言ってアルドから大きな魚を分けて貰う。
「後で返す、勝ったと思うな。」
リッチモンドはそう言って、大きな魚の口に木を差し込み、焚き火で焼く。
一方アルドは先程の先端が尖った石を利用し、魚の腹を切り内蔵を取り出してから焼き始める。それを見ていたリッチモンドはしまったと慌てて魚を焚き火から取り出そうとする。
カツン、ボト、ボワ。
不安定に突き刺さっていたリッチモンドの大きな魚は木の棒から外れ焚き火に落ちる。慌てて木の棒で刺したり、動かそうとするが炭になるまで魚は焚き火から動くことはなかった。
パクパク、ムシャムシャ。
「不味い、お前には料理の才能がないな。私の雇ったシェフはもっと美味く料理を作るぞ」
リッチモンドはアルドが作った壺焼きやら、焼き魚を文句を言いながら頬張る。
「へいへい。しかし、どうしたもんかね。俺としては島を脱出したいんだが、、」
「止めておけ、私はお前が来る前に島を探索したが、有るのは朽ちたイカダと白骨化した死体だけだった」
「朽ちたイカダ?」
ぺっと、骨を吐き出すとリッチモンドは他の海岸にあったイカダと字が刻まれた木の詳細を話す。
「この島は海流に囲まれていて、イカダ程度の推進力では囲まれた海流を突破出来ないと木に刻まれていた。」
「そう言えば海賊も海流がどうとか言っていたな。どちらにせよ、脱出するしか選択肢はない。」
アルドは立ち上がるとイカダを造るために立ち上がった。
二日目、アルドはイカダを完成させ無人島を出る。
三日目、気が付くと無人島に戻る、場所を変え再度出発。
四日目、気が付くと無人島に戻る、場所を変え再度出発。
五日目、気が付くと無人島に戻る、場所を変え再度出発。
六日目~十日目、上記を繰り返す。
「、、なる程イカダで脱出は無理かも知れないな、、」
「だから言った、私達はここで死ぬしかない運命なんだぁ!!」
「運命ね、、気長にやるさ。」
アルドは海岸を歩き回る、また海に潜り底を探す。たまりかねてリッチモンドはアルドに質問する。
「、、何を探している?」
「ここは海流が集まる島なんだろ?だったら何か面白いモノが流れ着くかもしれないからな、、ん?」
砂浜の底にあったものはアルド愛用のレーザーグレイブ。そして鎧、カモフラージュ用の布切れ等々。アルドは久し振りの相棒の感触を確かめる。
「結構あるな、あの時俺が持っていたモノは、全部ここに流れ着いているのかも知れない」
「ふん。だが脱出の役には立たないぞ」
「、、いや、脱出に役立つモノならここにもう一つ有るはずだ」
アルドはリッチモンドの足元にある魔石を発見したのだった。
「海兵はウィンドウの魔法で移動していた、それの魔術構成図さえ分かれば、、」
「魔術書などここにあると思うのか?」
「なら自作しかないな」
リッチモンドは呆れてアルドに忠告する。
「魔術構成図の基礎理論は知っているのか?魔術アカデミーの生徒でも自作が出来るのは一部だと聞くぞ」
「魔術構成図は風の四角を利用して、付属はチョイチョイっとこんな感じかな」
10分後、砂浜に子供が描いたような落書きが出来上がる、それを見たリッチモンドは激怒する。
「何だ!その構成図は美しくないぞ。貴重な魔石を変な風の魔術で無駄にするな!だったらこうで、こうやって進むだけなら、出力重視でこうだ!!」
それは完璧な魔術構成図だった。もし魔術アカデミーの教授がこの光景を見ていたならば、リッチモンドに喜んでその地位を譲っていただろう。
しかし、二人はその凄さに気が付く筈もなく、リッチモンドが創った魔術を自分よりはましだと記憶する。
「魔石は暴発する危険性があるから、お前が使ってくれよアルド。体が丈夫そうだし、失敗しても大丈夫だろう」
「へいへい、これだけじゃ進まない。カモフラージュ用の布と木で帆を造って、それをイカダに取り付けなきゃいけないな、、」
アルドは木の針を作り布地を切り分けると、それで帆を造った。それをイカダに取り付ける。出航は周りが確認しやすいということで明日の早朝となる。
夜。
始めて二人で同じ焚き火に当たりながら、食事をする。会話らしい会話もなく終始無言。だが突然リッチモンドが口を開く。
「ミューズさんはどうした?」
「海賊退治の時にはぐれた。いまはどこにいるのかも分からないが、、まぁ俺を探しているんだろうな」
「彼女とセッ、、いや。彼女の事が好きではないのか?」
「美人だと思うし、仲間だと思っている。オッパイもデカイしな。だが俺は女性を好きになったことが無くてな、、その感情が分からないんだ」
アルドもどうすれば子供が出来るか位は知っている。そうした欲求が無いわけではない。しかし、好きでもない相手とそういった行為をする事はやはり気が引けるし、ミューズを貶める行為だと感じるアルド。
「彼女が言い出したゲーム。、、あれは、、公平だった、、いや、私に有利だったかもしれない。何故ならミューズさんの毎日の行動の詳細は全て私の耳にも入ってきたからだ。」
フンと髪をかきあげるとリッチモンドは魚を食べるのを停め、アルドに正面から向き合う。
「彼女を一番幸せに出来るのは私だが、次点ではお前だろうと考えている。彼女の事を一番理解しているのは多分お前だからだ」
そして俯き、溜め息を吐きながら続ける。
「正直悔しかった。なんでお前に彼女の考えが分かって自分には分からないのだろうと、腹が立ってゲームのことを忘れて帰った。約束を反故した、、幻滅しただろうな、、」
少し目が潤んで上を見、照れ隠しの為か凄い勢いで魚を食べるリッチモンド。
「誰にも心の中を正確に測ることは出来ないさ、俺は只運が良かっただけだ。」
「運でも勝ちは勝ちだ。誇れ。でなければ私が何の取り柄の無い奴に負けたことになって、惨めになるだろう!」
胸を張って威張るリッチモンドを見て苦笑するアルド、それを見て笑みを浮かべるリッチモンド。それ以降会話は無かったが、以前の険悪さは消えていた。
早朝。
アルドが砂浜のイカダに乗ろうとすると、何時もは島に残るリッチモンドが付いて来る。
「無駄なことはしたくはないが、今回は成功しそうだしな、乗せていけ。」
「救助は呼ぶぞ。それとも信用ないか?」
「お前のことは嫌いだが、こんな場面で嘘をいう奴では無いことは分かる。ウチの店の連中よりはマシだろう。今回は自分も肩入れした結果を間近で体験したいだけだ。」
もしかしたらリッチモンドは不可能だと思われた脱出劇を体験し、何かを獲たいのかもしれない。それは今後リッチモンドの精神的な支柱にもなる可能性もあった。
「いいぜ。だけど狭いからな、その端に座る事が条件だ。守れるのなら乗ってくれ」
「偉そうに。狭いな。」
「他は干物や水とか食糧を置く場所だ、無駄なところは無い。二日経てばスペースは広がる」
渋々リッチモンドはイカダの端に腰を下ろし、出航する。
アルドは分かりやすい太陽の方向へ進もうと方向を決め、オールや帆を使って舟を進める。
ある程度進むと海面が少し盛り上がっている場所にやってくる、何回も戻され多分コレが海流だろうとアルドは考え、魔石を懐から取り出す。
「直線に進んでコレを突き抜ければ脱出できるか。」
魔術構成図を思い出し、仮想領域に描き写す。成功。
ビュン!ゴーッ!ドドドドド。
「うおっ!」
風が帆に当たり、その衝撃で振り落とされそうになる二人。リッチモンドはイカダに抱き付き、アルドも何とか帆を張っていた柱に掴まり、舟からの落下を防いだ。
ギチギチギチ。
風を受けてバラバラになりそうな船体、木を括り付けている蔦も何かの拍子に切れてしまいそうな不安。もしバラバラになればアルドはともかくリッチモンドは溺れて助かる可能性は低い。アルドは限界だと魔石からの魔力を遮断しようとするがー
「止めるな!続けろ!!お前一人だったのならば、やり続けた筈だろう!!!私を舐めるんじゃない!」
その言葉を聞いてニヤリとするアルド。
「いい漢っぷりじゃあないかよ、リッチモンド。やらせてもらうぜ!!」
アルドは覚悟を決めて、そのままの速度で舟を進ませる。それは魔石が無くなるまで続いたのだった。
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