第二章 8話

カバレボは夫婦の母親に伝える。


「大変です。旦那さんが大怪我をしました!直ぐに北の森へ来たください!!」


母親は青ざめながら息子に言う。


「少し、家で待っていて。大丈夫安心して、問題ないからね」


母親は息子の頭を撫でると、ガバレボと共に北の森へ向かう。そして北の森で見てはいけないものを見る。それは息のない父親の死体。


泣き叫んだ後、気力の無い母親を笑いながらガバレボは仲間達と共に陵辱する。それはラウラが町から帰るまでの時間だったが、母親の精神が壊れるには十分な時間だった。


母親が夜になっても帰ってこず、息子は減ったお腹を抱え不器用な手つきで不味い料理を作り食べる。二日目にガバレボは息子が待つ家に行き、簡単な食べ物と母親がまだ帰れないことを伝えた。



「ボス。例の奴が村に帰ってきました」


虚ろな目をしたボロボロの母親の裸体の中に自分の欲望を数回吐き出すと、ガバレボは身を起こし服を着る。母親に聞かれないように場所を変えて会話をする。


「タクトの様子は?魔術師は?」


「腹減らしてますが健康ですし、疑っている様子もないです。魔術師の方も特殊な魔術なので、盗賊団から引き抜きました」


「最後の仕上げだ。疑われるな俺達は善人だ。は俺達が処理しないとな、、」


「へへへっ、了解です。じゃあ予定通り、タクトの場所を移動します。今なら『待ってろ』という言い付けを守っていたアレの考えも変わっているでしょう、父親も来ると伝えておきますよ」


ガバレボは薄ら笑いを浮かべると仲間と共に夫婦の家へと向かったのだった。


**********************




ビルディは次々に伝えられる情報を司令室で聞く。


「兎と人質が旗艦に到着」


「突入4班島から撤退完了」


「海賊船の撃沈を確認。海賊の身柄を拘束」


「島内部で海賊の首領の死体を確認」


ビルディは完全に機能を失った海賊団を完全に壊滅させるかどうかを精査する。海賊は時が経てばまた復活するし、今回の作戦も前回と同様に完全に勝ちすぎればガーラン軍内部の上役に可愛くない奴だと思われるかも知れない。


「海賊は機能を失っている。追撃せずに島の捜索に作戦を変更。捜索は海軍主導で行う。雇い入れた傭兵は個別に待機させろ。以上だ」


伝令は他の戦艦や各班に伝えるためにその場を離れる。ビルディは今回の作戦がうまくいったのはただ単に運が良かったと思っていた。


「また沢山の兵を殺してしまったな、、分かっている、黙祷は最後だ」


呟くと、海賊のアジトにある財宝の隠し場所を想定する。海賊のアジトにはある程度の財宝があると考えていた。それは奪われた積み荷の量や財宝を持ち逃げした海賊をまとめて考えてもかなりの量になる。


「国庫が潤うのか、軍が潤うのか、それとも個人が潤うのか分からんが見付けなければな、、」


そこで傭兵のミューズが司令室に駆け込んでくる。いつもはもの静かにアルド・ガーデンブルグの隣に控えているだけの印象が強かったが現在の彼女はかなり混乱している様子だった。


「どうした?勝手に司令室に入れば機密保持の為に罰しなければならないこともあるんだぞ」


「そんな事はどうでもいい!アルド君が帰ってこないのです!!突入二班は死角の島で撃沈しました。しかしアルド君は、その後救助される前にアジトに向かったそうなんです」


「その後の消息が分からないと?」


頷くミューズ。ビルディが知るアルドは例え殺されたとしても死ぬような人物では無かったが、あまりの剣幕にたじろぐ。


「、、分かった。もう一度捜索隊を編成する予定だ。それに参加しろ、勿論コレは人を探す事が目的ではなく、財宝が目的なので時間は限られているがな」


ミューズは了承したが、見つからなければアジトに残るつもりなのはビルディ自身にも分かった。



1時間後、そのまま旗艦をアジトに横付けして捜索隊がアジトを調査する。ミューズは捜索隊一班でビルディ直属の捜索班だった。突入班の四班が怪しげな部屋を見つけたとの報告があったので先にそちらを見て回る。


「こちらです」


突入班四班の一人に促されミューズとビルディ、その他15名ほどの海兵が部屋に入る。部屋の中は広く広間のようになっていて天井には大きな穴が開いていた。


「海賊の死体があります。我々が来たときは死んでいました」


ミューズは屈み、その傷口を見る。


「鎧ごと切り裂く、レーザーグレイブで切られたようですね、、」


「?」


その言葉に皆は首を傾げたが先程から若干苛立っているミューズに声を掛けられず、部屋の一角まで場所を移動する。


「ここに両開きの扉があります。この部屋にだけ鍵が掛かっていて入れません。」


「元々自然発生した洞窟に住み着いた類いのアジトの様だ。アジトの秘密を守るために最低限の職人を雇うにしても手間がかかりすぎる、可能性としてはここが一番高いか。、、ここでなかったのなら、隠し通路や隠し部屋を考えるよう。」


両開きの扉は鉄製で扉そのものに鍵穴があるので、扉ごと破壊するか、鍵を開けるしか中に入ることは難しそうだった。そこで鍵開けの得意な海兵がピッキングを行うが内部が複雑らしく苦戦する。


「どうだ?」


「駄目だな、魔法で壊すか?」


「この扉を壊すほどの魔法だと崩落するかも知れないぞ、、」


ミューズは扉に手を当て内部ソナーで鉄の扉の構造を解析する。扉は左右が中央で互いにフックを絡ませる構造で鍵穴はかなり深く15センチほどもある。


「、、、」


ミューズはレーザーナイフを取り出すとフックの部分だけを内部から破壊して左右の扉の交わりを解く。すると左右の扉が個別に動くようになった。


「開いたようです」


「分かった。協力感謝する」


どよめく海軍。ビルディは海兵4人を左右に分けて扉を開けさせる。


「危険を感じたら扉から離れろ、罠があるかもしれないからな」


しかし中にあったのは、棚に詰まれた美術品と金貨そして装備品。そして白銀に輝くガントレット【総合情報端末ハンドリンク】であった。


ミューズはハンドリンクを持ち上げると不思議そうに首をひねる。


「、、コレが何故ここに?」


ハンドリンクはリッチモンドが持っているはずである。それがここにあるということはリッチモンドは持っていないことになる。


「コレも運命でしょうか?」


「何だそれは?ガントレットのようだが?」


ビルディがミューズが持っていたガントレットに目を向ける。ミューズは所有者を話すか迷う、真実を話すか、はたまた真実を織り交ぜるのかを。


「コレはリッチモンドという、商人の持ち物です。しかし、コレはアルド君のモノで持ち逃げされた経緯があります」


「、、ふむ。事実確認がとれるまでは引き渡せんが、持ち主が分かる美術品は一応王都も返却に応じるだろう。ここに名簿もある、海賊が管理がし易いように作ったものだろうが利用させてもらう。少し待て」


ペラペラと名簿のページを捲り。記憶を探るように目を閉じる。


「回収した日付は商船と海軍の護衛が襲われた日付になっている。そしてリッチモンドという乗客が商船に乗り合わせていたことは確か軍の報告書にあったな、、まぁ今現在彼は行方不明だがな」


あのゲームのあとリッチモンドと会っていなかったがあの後オアシスに船で帰る途中、海賊に遭遇したのだろうと予想するミューズ。


「海賊との遭遇がそのまま死に繋がるわけではないし、王都に戻らず他の船で目的地まで移動したのかもしれない」


「私には興味がありませんね。只コレを返して欲しいだけです」


「盗品の保管は10日間、持ち主の申請がなければ国のものとなる。話の筋は通っているし、その期間が過ぎれば渡しても問題ないが一応手続きはしてもらうぞ」


今回の人質救出作戦。リッチモンドの耳に入らなければ確実にアルドの元にガントレットが戻る事をビルディは告げる。それは喜ばしい事ではあったのだが、それよりも重要な事がある。


「アルド様、、」


ミューズにとってアルドは自分の命よりも大切な主人である、ガントレットを捜しているわけではないのだ。ミューズはビルディにしばらく班から離れることを伝え、承認を得るとアルドの血痕らしきモノを追跡する。



タッタッタッ。


後を追ってくる音が聞こえたためミューズは足を止める。ビルディからの言伝かもしれないためだ。


「ミューズさん。どうして捜索班をはなれるのですか?」


「アナタはー」


それは貝殻を貰った海兵の男だった。彼もビルディに言って班を離れたらしい。


「兎に角無事で良かった、早速お守りの効果がー」


「茶番はこりごりです、私は今忙しい。アナタの嘘に付き合うのは御免です」


男はそういわれると何のことか分からないと白をきる。


「では問いましょう。アナタは私のために買ったと言いましたが私の参加を知っているのはアルド君を除いて、ビルディ隊長と入ったときに会った案内役ぐらいです。そして作戦前、後者2人が船を離れるのは難しい」


「はははっ。すいません嘘を付いていました。実はそれはわたしが予め買っておいたものでして、運命の相手が見つかった時のために用意してました」


運命という言葉にミューズは少し反応したが首を振る。そういう言葉はアルドから聞きたいと思ったが主人は多分そんな言葉は使わない。


「運命などという言葉を口にしていいのは惜しまず努力をした者だけです。運命よりは必然を好みます。より高い確率をより効果的に、幾度となく行うことが結果に結びつくのです」


「ミューズさんは現実的でいらっしゃいますね。話を変えましょう、彼が好きなのですか?」


「、、そうかも知れません」


偽りのない言葉ミューズも内心では決めあぐねていた。それを聞くと溜め息を付いてもう一つの貝殻を渡す。なかなか引き際は良いらしい。


「彼は、、少し、、いやオカシイ所があります。壊れていると言っていい。ミューズさんは気が付きませんか?」


「彼は自分しか信用していません。感謝はするでしょうし、礼もするでしょう。しかし決してアナタに対しても心を開く事はないと思いますよ」


「、、かもしれませんね、しかしそれは意味のない忠告ですね」


そう。尽くしたのだから尽くせ、愛したのだから愛せ、こちらが心を開いたからといって、それに答える義務はない。それは目の前の海兵とミューズ、ミューズとアルドの関係に似ているのかも知れない。


しかし決定的に違うものもある。


「私は対価を求めませんから」


海兵はミューズに持っていた貝殻を渡し、苦笑すると何も言わずに立ち去る。


ミューズは再度、血痕を追跡し始めた。

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