第二章 6話

ブルックリンとは偽名である。その正体それは凶悪な犯罪者のボス名前はガバレボである。ガバレボは何でも行う、殺人、盗み、強姦、詐欺、違法薬物・奴隷の売買。また彼には悪のカリスマ性があって、部下は恐怖しながらもついて来た。


数年前、国はガバレボの悪事を見かね賞金をかける。ガバレボに掛けられたら懸賞金は金貨1000枚。大陸の賞金稼ぎや冒険者がガバレボの命を狙った。その中の一人にガンリュウという冒険者とその仲間達によって、ガバレボは国の牢獄に入ることになったのだ。


そして夫婦と出会う1ヶ月前、国の牢獄を部下の手によって脱出し、この地域を潜伏先と決め身を潜めていたのだった。


ラウラが街に行き、夫婦と息子だけになった日にブルックリンの計画は開始された。ブルックリンは仲間を呼び寄せて計画を説明し、直ぐに実行に移された。




ミューズが小型船でアジトの島にたどり着く、そして着いた後は船の見張り(船を布で覆う作業をしている)四人を残して、アジトである洞窟の中に残りの11人で侵入する。


海賊のアジトとなる島は全長1キロメートル程の巨大な岩がくり抜かれた構造をしており、二つの砂浜を除けば他は岩礁、殆ど木や草も生えていない荒れ地であった。


「後続が来ていないようですが、、」


「出発がまばらだったからな、遅れているのかも知れない。人数が多いと見張りに発見される、早めに中に入ろう」


案内役の海兵の言葉に頷くダイスと海兵達。ミューズは仕方なく、内部を進む。洞窟内部の湿気はそれほどではなく、快適と言えば快適だった。ゆっくりと気付かれないように進む11人。するとー


パンパンパンパン。


花火が打ち上がり、時間的に人質救出の合図が示される。海賊の商船に対する襲撃は無かった様で、それは島内部の戦いが激化する事と救出の難易度が少し上がった事を意味していた。


「監禁場所は何処なのでしょうか?」


「出発直前に渡されたアジトの簡易地図によるとらこの先を左に行った所に牢屋があるらしいので、そこに向かいましょう」


「奇妙ですね、、」


横幅1メートル前後の細い洞窟内を進み、十字路のような通路を左に進んでいたミューズが突然呟く、それにダイスが反応する。


「何がだ?」


「こんなに簡単に侵入し出来るなんて、気味が悪いです。まるでー」


「いやいや、考え過ぎだ今は夜だぞ。海賊だって見張りを残して寝ているかもしれないぞ」


ミューズ腑に落ちないものを感じながら、周りを警戒し海兵達と一緒に薄暗い通路を更に進む、その先には左右の分かれ道があった。


「これは報告にありません」


「道を間違えたか?」


「もしかしたら侵入した入口が違ったのかも知れない」


「二手に分かれるか?」


「どちらも隠れる場所のない狭い通路。一か八かで片方に賭けるか?」


冒険者風の男の一人が腕を組みながら芝居をするような仕草で言う。


「左に曲がったのなら、左に行くのが基本だ。右は先程の十字路の正面や右に繋がっている場合があるし、迷う可能性が高くなる。そう思わせて左に仕掛けや罠が無ければだが、、な」


「先程の十字路の記憶は完全です。私は迷うことがないので一人で右に進もうと思います」


ミューズの言葉に皆が驚く。暫くの沈黙の後、仕方がないとダイスが助け船をだす。


「腕に相当自信があるようだが1人では流石に危険だ。ここは俺が付いていこう。戦力分散はなるべく避けた方が良いだろうし、二人程度なら戦力低下も最小限だろう」


「分かった。念のために壁に×マークを付けておく。違っていたら追ってこいよ」


ダイスとミューズは頷き右の薄暗い通路を駆け足で進んでいく。ダイスはミューズの左後方からそれに合わせ話し掛ける。


「疑っているのか?」


「疑っている?あの人達の中にスパイがいることを?」


ダイスは肩を竦めると、まぁ確かに俺も同じだがなと納得した様子だった。通路の先は大広間の様な場所で、小さな部屋の様なものが更に数ヶ所あるようだった。



「詰め所、、休憩所といった所でしょうか」


ミューズは部屋の中央にあった、焚き火の後を探る。


「まだ暖かいですね。少なくとも30分前には誰かがいたのかも、、」


ダイスは周りを見渡しながらミューズに提案する。


「小さい部屋に何か情報になるものがあるかもしれない、探さないか?」


「、、分かりました、私は左の部屋から時計周りに見ていきます」


「じゃあ、俺は反対側から」


ミューズは大広間から小部屋に入る。中は二メートル四方で広いとはいえず、茶色のぼろ布が隅にあるだけだった。ミューズがぼろ布を探ろうとしたとき、大広間からゲスびた笑い声と共に大広間に大量の足音が聞こえる。


「いるのは分かっているぞ。遠慮しないで出てこいよ、ビビって小便漏らすなよフケケ」


「さて何人捕まったかな?」


「体格の良い男発見だな。見えてんぞバァカぁ」


やれやれとダイスが大広間に向かうのが影から確認出来た。ミューズは大広間から見えないように部屋の隅に隠れる。


「おいおい、この俺一人を捕まえるために何人ここに集まったんだ?」


「一人だぁ、しょっぺえな。こっちは30はいるのによ。あっちの方が良かったかな」


などと海賊達はワイワイと楽しそうに話し合っている。


「左の道が正解だったのかよ。ツイてねぇな」


ダイスの言葉を聞いて海賊達はニヤニヤと笑う。どうやら違うらしいなとダイスが考え、推察し、それをを言う。


「両方だとすると、始めの十字路から間違っていたということか、正面か右に予め兵を配置して俺達の後を追ってきたというのが正解かな?」


「ご明察だ。正解者には好きな死に方を選ばしてやる。切り刻まれるのがいいか?それとも潰されるのがいいか?燃やされるのもあるぞ」


「遠慮しておこう。田舎に置いてきた小さい妹が腹を減らすのでな」


ミューズは戦闘に備えプラズマガンを取り出す。30人の大人数ならばブラストカノンを使いたかったが崩落の危険性や補充の点で却下する。


次の瞬間にダイスは魔術を発動させる。話していたのは時間稼ぎだったらしく、淀みなく魔術が発動する。


ダイスが右手を上げると掌からネットの様なものが五メートル程の長さで扇状に展開される。それはまるでクモの糸の様に先頭にいた海賊三人に取り付きパチパチと音を立て、海賊達を痙攣させた。


基本魔術のネットを媒介に電撃を流す、パラライズネット。ネットよりも構成図は複雑で使い手は限られるが、中型の生物ならばほぼ外れなく対象者を感電させることが出来る為、冒険者の仕事内容によっては重宝される魔術。


しかし、射程が短く海賊達全員には届かない。ダイスが使える魔術はこれ以外にスチールスキンとストーンシールド。これは本来ダイスが前衛で壁役をこなす事が多い為で、火力の強い魔術を知ってはいたが使えなかったのが原因である。


ダイスの魔術を受けて倒れ痙攣する海賊を乗り越え、他の海賊がダイスに殺到する。ダイスは曲刀を左右に構え呼吸を整え迎撃の構えをとる。


ようやくこの時になり、ダイスが敵である疑惑はある程度解けた為、ミューズはダイスに加勢する事に決める。


ビュン、ビュン、ビュン。


光が地面スレスレを飛び海賊達の足に命中していく、当たった足は吹き飛び海賊達は悶絶し転げ回る。海賊達は一人だと思っていた相手が他にもいた事に多少動揺する。


「何だ!フォトンか?!」


「にしては数が多い!オリジナルの魔術かもしれん」


「あそこにファイヤーボールを打ち込め!!」


ミューズは海賊達に感知された直後、小部屋から大広間に中腰になりながら移動、次の瞬間にファイヤーボールを確認し、後方の爆風を計算に入れながらファイヤーボールを前転回避する。


ボウン!!


後方からの爆風を斜めに受け流し片膝を床に付けながら、尚も海賊達の足をプラズマガンで撃ち抜いていく。ダイスはこれを好機と捉え、最後の魔石を使いスチールスキンの魔術を自身に使い、海賊達に突撃する。


「女だ。女が変な石火矢を持ってやがる」


「男は戦士だ、こっちもスチールスキンを使え」


三人の海賊がスチールスキンを使い、ダイスと渡り合う。ダイスの武器は曲刀、対する海賊は武器をとげが付いた棍棒に持ち替えたため、ダイスが不利になり押され始める。


残りの海賊はミューズに向き合う。ミューズのプラズマガンは二十発全て撃ち尽くしチャージ中の文字が表示される、命中したのは18発で戦闘可能な海賊は残り九人。ミューズは腰のガンホルダーにプラズマガンを収納すると、海賊達に警告する。


「武器を捨て降伏してください、さもなければあなた達を殺します」


「ふざけんなよ。何人足を吹き飛ばされたと思っていやがる。覚悟しろよ、この女が。弾切れなのは分かっているぞ」


「良く見りゃ、えらい美人じゃねえか。俺達の娼婦にしてやる。足の健を斬りゃ逃げられねえしな、覚悟しろ後でゆっくり調教してやるぅ」


「俺がやってやるぜぇ!漢の強さを見せてやる。序でに味見もなケケケッ」


ミューズを獲物だと勘違いした海賊達が距離を詰めようとした瞬間、ミューズが太股に差しているレーザーナイフを抜き、海賊1人をバラバラにする。


驚いたのは海賊達だった、一瞬にして仲間が小間切れにされたのにミューズが何をしたのかも分からなかったのだから。


「なんだ?!糞が!!」


しかし海賊の悪態も虚しく、レーザーナイフが次々と海賊達を倒していく。前衛の4人を倒すのに掛かった時間は4秒にも満たなかった。


アンドロイドと人間は反応速度・動作の点で大きく違う。アンドロイドが視覚から情報を得て行動を完了する時間は、人にとっては刹那の一瞬である。もし素手で殴り合ったのなら、人は一発も当てることが出来ず、逆にアンドロイドの攻撃は全て当たるという結果となる。


根本的な問題である、人の神経の反応速度・筋肉への情報伝達(収縮の速度)そのものを解消しない限り海賊達に勝ち目はなかった。


海賊達に勝ち目があったとするならば、ダイスと海賊達が向かい合っていた時に、前衛を捨て石にして広範囲魔術によって大広間ごと吹き飛ばすという戦い方をしなければならない。それは海賊達が絶対優位のあの場面では思いつくはずもなかった。


「この◎×▽が◇ぃてやぅ!!」


九人目である最後の海賊の悲鳴にも似た怒声を聞きながら、ミューズはレーザーナイフを逆手に持ち替えて、海賊の横をすり抜けながら振るう。


ズシャリ。ボトボト。


海賊の体がスライドして、分離した体が地面に倒れる。ミューズはレーザーナイフは払い、今にもやられそうなダオスの元へ向かう。


ダイスは苦戦しながらも急所を避けつつ戦闘を続けていたが、海賊のデタラメな攻撃が頭に直撃して地面に叩き付けられる。スチールスキンといえども強打を食らえば、骨や内臓に衝撃を受ける。骨は折れるし、内臓が破裂する事もあった。


ダイスは頭に受けた強打によって脳震盪を起こし起き上がれずにいた、そんな絶体絶命のピンチをミューズが救う。


次々と自分が苦戦していた海賊達を一撃で葬るミューズを見て、ダイスはミューズの強さを知り同時に戦慄した。誰よりも強く、知恵もあり、美しい女性。



「まさか、、戦乙女とか言うんじゃねぇだろうな、、」


ダイスはそう呟きながら気を失った。


ミューズはヤレヤレとダイスの処置に困り、仕方がないとダイスを強制的に起こす事にする。このままダイスが目覚めるのを待てばどれだけ時間が掛かるのか分からない。捨て置くのもいいがこのままでは殺されるかもしれない。


ミューズ自身はアルドの危険を排除を目的としているため、一人でも多くの海賊を倒さなければならなかった。


ミューズは小部屋から水の入ったバケツを持ってくると、ダイスの頭に躊躇なく中の水をぶちまけけた。ダイスは驚き上半身をバタつかせながら「うおぉ」と身を起こす。そして問題の行為をしたミューズを見ると質問する。


「頭に強打を受けて気絶した奴の処置の仕方を知っているか?」


「頭部はなるべく動かさず、回復体位を心掛け。覚醒後は質問等して本人の体調・意識レベルを確認。念の為脳のスキャンを行い脳内の出血の有無を確認するのが鉄則だと記憶しています。それが?」


「、、わかった。聞きたかっただけだ(泣)」


ダイスは何とか立ち上がると、ミューズに礼を一応言って作戦を立て直そうとする。


「此処は行き止まりだ。戻ってさっきの道を左に皆と合流するか?だがさっきの感じからすると、やはり作戦が漏れていた可能性がある」


「漏れていたとは思います。しかしもし完全に情報を掴んでいたのならば、私ならば一番無防備だった高速船の時を狙って攻撃、魔術で撃沈させた後溺れさせ疲れきった敵を遮蔽物の無い海岸から迎え撃ちます」


「自分の住処の方がやりやすかったからでは?」


「それでは奇襲のチャンスを逃がしますし、現にこうして反撃も受け全滅しています。奇襲が成功する可能性の高い場合、なるべくならば多くの人員を配置するはずですし」


ダイスは『普通だったら海賊が勝っていたぞ』という言葉を飲み込んで、投げやりに両手をあげる。


「んでミューズ嬢はどうしたいんだ?初めからやり直すか?さっきの道を左に行くか?」


ミューズは情報が漏れている事を知ってから、段々とアルドの事が心配になってきていた。もしアルドが危機的状況であるのなら助けなくてはならないのに、近くにいないためそれすら分からない。もし仮にアルドを傷付けた海賊がいたなら、相応の苦痛を与え殺さなければならない。


「先程の左を行きましょう。下手に動くと行き違いになってしまいます。地図にあるとおり左に人質の監禁場所が記載されていたのなら他の突入班とも合流出来るかもしれません」


「俺達の手札は限られているからな、そうと決まればさっさと戻ろうぜ」


ダイスに促されミューズもダイスの後を追う、ミューズ達は来た道を引き返し始めたのだった。

 




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