第二章 5話

夫婦が営み始めたのは鍛冶職人で、船内にあった道具によって質の高い鍋や鎧を生み出し、最近ラウラもその品物を町に卸すため配送をするようになっていた。ラウラは戦闘用のアンドロイドで頑強に出来ているし、夫婦の男性より力も強い。もしもの時は盗賊から品物を護ることも出来た。


「あのブルックリンという男信用なりません。お気を付け下さい」


「ラウラ。ブルックリンさんは良い人だろ。何せ我々に街への案内や品物の卸し先を紹介してくれたりもした。ラウラの護衛も時々してくれるだろ」


勿論そうだが、何やら挙動が不自然な事が多い。夫婦は元々育ちが良いので人に騙されるという事に免疫が無い、だからこそ注意を促しているのだが全く効果がなかった。


「せめて、船内のMUZ-2500を起動して下さい。私が居ないときに主人に何かあれば対処が出来ません」


「しかし、コレは息子の10歳のプレゼントとして起動させるもので、私達の世界の慣わしであるし」


基本的に彼等の世界には一人の人間に一人のアンドロイドが護衛やサポートとして同伴するのが慣わしであった。アンドロイドが夫婦に一体しか付いていない理由は、もう一人のアンドロイドがこの星に移住する前の惑星探索で通信が出来なくなり反応がロストした為である。


「分かりました。しかしブルックリンという男だけは完全にお気を許さないようお願いします」


そう言うとラウラは町に向けて、押し車によって荷物を運ぶのだった。




突入前日の夕方頃、一番船にて作戦会議室にて旗艦に各班の下士官達が集まった。ビルディは中央に座り最後の作戦が伝えられる。


アルドとミューズも端に座り会議に参加する。


「アジトへと向かうのは旗艦と1番~2番艦、残りはこのまま待機、日の出と共に進路を北へ進めつつアジト付近に向け移動、海賊の襲撃に備えろ。今回の作戦に当たっては一週間程前から今まで海賊達の補給路を干上がらせてある、始めの報告にあった相手の人数や食料備蓄を推察するに、もう彼方には食料の備蓄は殆どないと思われる」


ビルディはテーブルに置かれた玩具の様な船などを動かしつつ、作戦を説明していく。テーブルには地図と島に見立てたブロック群と赤と青の船が並ぶ。先ずは髑髏の旗が立っている場所の近くにあるブロックへ、赤い船をその死角に移動させるビルディ。


「先ず、アジト襲撃隊を夜の内に敵アジト島の近くのこの島の後方に旗艦と1番~2番艦を移動させ停泊させる。次に残りの部隊は北に移動しつつアジト方向へ移動、この付近で敵の襲撃があるはずだ」


ビルディは青い船を北方向へ移動させ沢山のブロックがある場所に置き、ブロック群を棒で叩く。


「上手く誘いに乗ってくれますか?」


海兵の質問にビルディは分からんと答える。


「事前に相手の食料を減らしているとはいえ、警戒し相手が思惑通りに動かない可能性もある。もしかしたら我々が知らないルートで補給をしているのかも知れない。いや襲撃されない可能性の方が高いだろう、その場合は作戦は挟撃するかたちとなる」


ビルディは海兵達に懐中時計を配っていく、この世界では珍しいモノでかなり高級な品物である。


「敵の襲撃予定は1100時の30分前後、もし襲撃がない場合は北へ進路を向けていた部隊を敵アジトへ向かわせる。ここだな、この島を東に」


青い船はブロック群を抜け、直後進路を変更しドクロのついたブロックへ移動する。赤い船はバラバラと小さい船を下ろし、それをドクロのブロックへ移動させる。


「1115時にアジト襲撃隊は先発隊を小型船に乗せ、敵アジトに死角から侵入し、兎達と合流し人質の護衛と退路の確保を行う。小型船は魔術師を乗せ、ウィンドウの魔術で高速移動出来るようにしてある。乗員としては隠密性を高めるため少数精鋭にし、15人乗りの小型船四隻で計60人になる」


アルドとミューズは互いを見て、頷き合う。


「この場合1200時に旗艦から花火を上げる。それを合図に海賊達に紛れ込ませていた兎達が人質達を牢屋から救出し脱出させる。アジトの内部の詳しい見取り図は無いが、簡単な構造ならば分かっている。もし兎達と合流できない場合は、彼等が外に出て合図を送ってくれる手筈になっている」


「次の花火を合図に我々全員で突撃をする。作戦がうまくいき人質を旗艦ないし他の艦内で保護すれば、花火を三回以上。失敗退却なら二回打ち上げる。以上だ」


ビルディが質問は無いかと全員の顔を眺める。


「もし海賊達の襲撃があったのならどうなりますか?」


ビルディは青と赤の船を1100時までの位置に戻す。


「襲撃があった場合、海賊の首領ドルトスが必ずやってくる筈だ。何故か?奴は金以外信用していない。もし大事な金品が他の海賊に奪われたり隠されたらと考える、だからこそ自分の目の届く範囲で仕事をするのだ」


ビルディの言葉になる程と頷く海兵達。更にビルディは続ける。


「襲撃されたら、花火を上げる。そして兎達に行動させ人質達を救出し、部隊はなるべく防御に徹してそのまま北に進路を取る。奴らも戦いのプロだ、負けそうになれば引く。だが引かれては困る、とにかく時間を稼ぐのだ。アジト襲撃隊の行動は変わらない、先発隊は変わらずアジトに侵入、人質達の救出と船まで退路を確保する、残りの襲撃隊は花火が上がったら突撃を行い、人質を救出し易いよう敵を減らす」


説明をし終えるとビルディは海兵達に注意を促す。


「海賊達は利益のみで繋がっているだけの只のチンピラだ。それだけに個人の能力では我々が勝っていても、戦い方が上手い又姑息な事も考えられる。騙し討ち、不意打ち、あらゆる手段を想定し戦って欲しい。今回の作戦は以上だ、質問はあるか?」


全員先程の作戦内容を頭で反芻し、沈黙を貫く。ビルディは質問がないならと、作戦開始の合図を送る。


「それではこれより、人質救出作戦を行う。各自の健闘を祈る。各班にはこの地域の地図を配る。それを元に明日の戦いに備えてくれ」


各々が備品を貰い、それぞれの船に戻っていく。アルドとミューズも作戦内容の全容が分かったので、外に出ようと立ち上がる、途中アルドはミューズに話し掛ける。


「成功するかな」


「情報戦になっているので、それを逆手に取られれば失敗しますね。これは相手の頭の良さや作戦が巧みかどうとかではなく、より正確な情報を入手していたのかが鍵となる戦いだと考えます」


「ビルディの話じゃ、相手の海賊を抱え込んで嘘の情報を流したりもしたとか、にしても今頃アジトが見つかるなんてなかなか運が良いな」


「、、確かに、もしかしたらそれこそが敵の狙いかも知れませんね。我々は部隊を二つに分けています、そこを叩かれれば、各個撃破をする絶好の機会かも」


「ビルディに忠告してくる」


アルドはそう言って、ビルディの元に向かう。ビルディは最後の海兵が部屋を出たのを確認し、アルドと向き合う。


「もしかしたらこっちの情報が相手に漏れているかもしれないぞ、アジトの情報を先んじて流してー」


ビルディは喋るなと手を翳し、アルドの言葉を遮る。そしてアルドに紙切れを手渡した。


「作戦は予定通り行う、憶測で変更はしない。コレは決定事項だからだ」


ビルディはアルドの肩に軽く叩いた後、部屋を退出しいなくなる。残されたアルドは紙切れを広げる。


《作戦時刻は2100時に変更、他修正点なし。また夜間の奇襲の可能性があり十分に警戒せよ》




夜に紛れて戦艦の旗艦、一番二番艦は東に進路を取り、残りの戦艦は全速力で海域を北上する。


アルドとミューズも暫く仮眠をとり、20時少し前に甲板に集合した。その時には30名ほどの海兵が集まっていて話し合いを行っている。中には傭兵のような人物もいて、その男達が話し掛けてくる。リーダー格は曲刀を腰に差し、こざっぱりとした体格の良い男。格好いいとはいえないが、不細工ではなく良くいえば愛嬌がある男だった。


「俺はダイス。あんたアルド・ガーデンブルグだろ。ガーラン王都新聞で見たぜ。ゴブリンリーダーの時は大活躍だったらしいじゃないか。まぁそれで俺達にも仕事が回るんだ感謝しているぜ」


妙に馴れ馴れしいがそれが彼の性格なのだろう、アルドは気にせず軽く挨拶をする。ダイスは次にミューズに向き合い全身を眺める。


「ダイスだ。いやはや新聞にもあったが美人だねぇ。非の打ちどころが無い、俺は面食いだけどコレぐらいになると尻込みするわ」


「はあ、、」


「一応俺は突入第一班なんでね。名簿を見せてもらったんだがミューズ嬢も第一班らしいじゃないか。道中は宜しく頼む」


ミューズはやる気のない返事と共に、宜しくと答える。二十時になると上陸用の小型船を甲板から海に落とし、梯子で一人一人乗り込んでいく。


「それでは、アルド君は命が危なくなったら逃げて下さい。もし死んでしまったのなら私もー」


「はいはい、後を追うってんだろ分かってるさ。ミューズお前も死ぬなよな」


アルドの言葉に安心したのかミューズは小型船に乗り込み、第一班として出発する。アルドはそれを見ながら、頬を両手で叩き気合いを入れ、自分も小型船に乗り込む。


小型船は全長十メートル横幅は二メートル程。ロープによって動く回転式の帆が二つあり、風を受けて移動するもので、15人の内5人が船を操縦するための海兵だった。


「もしもの時、海賊の襲撃があったときには我々も戦いますので、ご安心下さい」


と海兵は言ったが襲撃があったら困るな、と思いつつ、小型船は海兵のウィンドウの魔術を受けて動き出した。カモフラージュ用の黒い布を頭から被りアジトへを進む。


「ここからアジトまでは直線では30分有りますが、発見されないよう死角にある島沿いを移動しながらなので45分程度掛かります。ここら辺は波は穏やか何ですが潮の流れが激しいんで落ちないようにして下さい」


先頭にいるはずのミューズの船は暗闇の為に全く見えず、黒く染まった海が少し不気味だなとアルドは思った。ふっとアルドは島の砂浜に目をやると小さな篝火がテラテラと光っていた。


「、、人、、んな。まさか?!」


アルドが気付いた事で船に乗っていた全員がそちらを向くと、砂浜から赤い玉が5~6個、此方に向かってきているよう見える。


ファイヤーボールという、魔術の亜種にファイヤーショットという魔術がある。コレはファイヤーボールよりも小さい炎を数発飛ばす魔術で大雑把なホーミング機能が付いている。今此方に放たれたものはまさしくソレだった。


「全力前進して回避しろ、次が来るかもしれない!」


「くそ、此方の侵入に合わせてきてるってことは、情報が漏れてたのか?!」


アルドは疑問に思う。帆を狙いスピードを下げる作戦だとしても、撃沈を狙うのならファイヤーボールであるし、帆を狙うのなら後10発はファイヤーショットが欲しい。ファイヤーボールは夜間だと炎で相手に居場所を知らせてしまう危険性がある。


ならば何故、誘導付きのファイヤーショットを撃ったのか。そうしている間にも小型船の速度は上がり。


「、、待て、減速しろ!!」


「?!」


言うが早いか、船は何かに激突してバラバラになりながら空中分解する。アルドも突然の激突に船から投げ出され、海に落ちる。


ブクブク。


一瞬意識が遠のいたアルドは数秒後意識を回復させ、海の中で柱のように立っている岩を発見する。海賊達はストーンシールドで海底に岩場を作り上げ、ファイヤーショットでアルド達をこの場所へと誘導したのだ。


アルドは輝くレーザーグレイブをカモフラージュ用の黒い布でくるむと握り締め、海面に顔を出し呼吸をする。


「この方法をやられると後続は全滅しかねないな、あの場所を叩くか」


アルドは水を吸って重くなった服で沈みそうになりながら死角の岩場を探し、やっとの思いで島の海岸迄辿りつく、。周りにガーランの海兵立達の姿はなく、アルド1人である。


「皆助かったのか?いや、元を絶たなきゃ後続が危ない。無視して突撃するしかないか」


アルドは先程攻撃された場所まで音なく駆け抜けると、十メートル程前の茂みに海賊達が隠れているのを発見する。アルドは別の茂みに隠れながら様子を伺う。海賊達の数は10人程度、奇襲するための人数としてはかなり少ないと思えた。


「これが囮の可能性もある。罠は、、良く分からないな」


どちらにせよ、自分1人しかいないのだからやることは変わらないと自分に言い聞かせる。


と暗闇にまた一つ小型船がアジトに向かい島沿いを進むのが見えた。同時に海賊達が自分達の仮想領域に魔術構成図を描く。


覚悟を決めアルドも海賊に突撃する。


タタタタタットン。


見張りの海賊の一人目は自分が何をされたのかのかも分からないまま気絶、二人目は声を出そうとした直後に頭をレーザーブレイブの柄で叩かれ気絶、3~4人目は足を思い切り殴りつけもんどりうって倒れる。


ここまで来ると海賊も異常に気付き、魔術行使を途中で諦めアルドに向き合う。海賊の残りは5人、アルドが一人なのに気が付いて勝ち誇った笑みを浮かべるが、その笑みは長くは続かなかった。




海賊を一人残し全員気絶させるとアルドは、多少気の弱そうな海賊を脅す。


「何故ここの島にいた。俺達が来ることを知っていたのか?」


「し、、知らねー。俺達はボスにここで見張りをしろって言われただけだ。ここはアジトの急所だからいつも何かあるときは配置される。仲間に夜目のいい奴がいて、小型船が通り過ぎるのを見ていたんだ。沢山来そうだから、その後の奴らを獲物にしするって事になって、、」


作戦が漏れていたのは間違いないが詳しくは海賊側も知らなかったらしい。アルドは海賊達が持っていた刃渡り五十センチ程のマチェットを怯える海賊に突き付け、恐ろしい笑みを浮かべながら尋問する。


「アジトに緊急警戒を教える合図は何だ?」


「それは、、い、、え、、あはは。緊急性の高いものは花火を打ち上げます。危険は赤、注意は黄色。あと相手が商船などの獲物の場合はそこの鳩と、白い凧を上げてアジトに知らせるんです」


アルドは海賊が見た鳩を眺める、鳩と凧を上げて商船と勘違いさせるかどうかを検討。この手の情報は苦し紛れに嘘を言う場合も考えられる。鳩は逆に危険を知らせる合図という事も往々にしてあるのかも知れない。この情報が真実かどうかを確かめる為の時間や機転は今のアルドにはなかった。


「この島からアジトにもどる戻る方法は?」


「奥の岩礁に小船が隠してある。帆で進むタイプでウィンドウの魔術で動く仕組みだ」


船乗りはウィンドウの魔術が必修らしいなとアルドは思う。アルドのウィンドウに関する知識は突風を起こすだけのイメージしかなかったが、補助的な役割ではかなり役に立つらしい。


「ウィンドウの魔術をお前は使えるのか?」


「勿論」


と答えたが、しまったと言った口を塞ぐ。アルドはニヤニヤしながら海賊を見て海賊の右肩をボンと叩く。海賊はガクリと、うなだれたのだった。

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