第二章 4話
アンドロイドの原則。
一つ、主人の命は自身の命よりも優先させなければならない。但し、主人の命令があった場合に限り、自身の命を優先させる事が出来るが、自身の判断によりその命令に対する拒否権を持つ。自身の生命は上記を踏まえ守らなければならない
一つ、基本的に主人に利益をもたらす行動を行わなければならない。不利益であっても主人に対して偽証をする事は出来ない。また、主人の命令があった場合に限り、主人に不利益をもたらす行動を行うことが出来るが、自身の判断によりその命令に対する拒否権を持つ。
一つ、主人に敵対する個人。組織、軍隊等所属する生命は既存の法律の範囲内により処罰可能である。また法律の範囲内にあっても、生命は無闇に奪ってはならない。但し、緊急時での主人の生命や自身の生命の危機に対する脅威の排除は、この限りではない。
一つ、主人の命令は守らなければならないが、自身の生命や生命活動に直接的に関係する場合に限り、拒否権を持つ。又命令が重複、また相反する場合は最後の命令を厳守しなければならない。
一つ、主人契約移行に関しては、マスターコンピューター等の手続きが必要であるが、現主人の希望があれば口頭での準契約が可能である。準契約はマスターコンピューター又現主人の契約解除の申し出で行える。準契約での準主人は基本的には主人と同じ権利を有するが、優先させるのは主人の命令でなければならない。主人・準主人は生命活動を行っている人間でなければならない。
一つ、主人又準主人がいない、いなくなった場合はスリープモードに移行し、再度主人契約を結ぶまでは起動出来ないモノとする。最後の主人、その生死が不明な場合は確認する事が優先される。
上記がアンドロイドに関する報告である。
海賊のアジト突入日の前日。アルド・ガーデンブルグはいつものように甲板で魔術の魔術構成図のイメージトレーニングを行う。次に凝った体を軽い運動でほぐし槍の鍛錬に励む。槍の鍛錬を始めると海兵達が集まってくる。
アルドの槍術は大陸において五本の指に入るほど優れており、武舞の様な型を海兵達は眺めては真似をしていく。芸術の域のアルドの槍術を真似出来る訳は無く、海兵達はアルドの鍛錬が終わるとともに槍術の事を教えてもらう。
「槍には三種類の攻撃方法がある。一つは突き、二つ目は切り、最後は打撃といなしだ。突きは槍最大の攻撃だが、線による攻撃の為に隙が大きい。基本的には素早く引いて再度突くという攻撃方法や、突きと見せかけた歪曲切りが基本かな。切りは点による攻撃の為、相手は受けるか回避するという選択を迫られる。力が強い奴は受ける、その反動を利用して逆方向から槍の柄で急所を攻撃する。回避した場合、踏み込みによって追撃して、、」
長いとにかく長い説明に海兵達は欠伸をかみころす。アルドもそれを感じて、仕方ないと早めに説明から試合形式に移行する。海兵達は待ってましたとばかりに倉庫から、訓練用の木刀と木の槍を用意する。
「分かったよ始めるか。最大二人でいいよ、自信があるなら一人で。三人以上は恥ずかしくなければいいよ俺としてはこっちの方が練習になる、でも手加減はし難いからな。勝ったら何か貰えるか?名誉だコノヤロ。ミューズのおっぱい触りたい?本人に言え」
次第に腕試しの列が出来、次々に先頭からアルドヘ挑戦する。初めの1~2分は様子見、それ以降は相手に合わせて攻撃方法を変化させていく。それはアルドが多くの人間のクセを見て確認したいという理由もあったが,海兵達の実力を少しでも上げておくという役割もあった。
一週間程度で強さはほとんど変わらない。強さは毎日の鍛錬の結果生じるものであるし、実戦は勘を養うために必要ではあるが、それは基礎あって初めて活かされるものである事をアルドは先日の戦いより学んだ。
だがその少しの誤差で、仲間であるミューズの命が助かる方向に傾くならば、出来る限りの事をしなければればならないとの考えから今回、兵士達の訓練につき合っているのである。
「うえりゃ!」
カコン、ポコン。
「ま、、参った」
本日8度目の降参を聞きながら、アルドはミューズの姿を探すが今日も姿を見せない。いつもはミューズの方からアルドに近付いて来るので、今回も待っていればあちらから来てくれると思っていたがアチラもアチラで忙しいらしい。
「明日にはアジト突入だし、今日行くしかないか。、、ヤッパリ止めようか、恥ずかしいし」
それに先日、海兵から綺麗な花束を貰っていたし、自分以外にもミューズを気遣う奴がいるかもしれない。
「好きか、、」
アルドはミューズが自分の事を好きで世話をやいてくれると思っていたが思い過ごしだったらしい。廊下で通り過ぎた時、自分の事をあまり好きでは無いと言っていた気がする。嫌いな相手からプレゼントを貰いたいと思うだろうか?
「元々、良く分からない両親との契約とかなんとかで、俺を助けてくれるだけなのに、なに調子づいていたんだか。自惚れが強いな、俺って奴は」
色々考えると、もしかしたらあの花束をあげていた海兵とうまくいって、部屋であれやこれやしているのかもしれない。となると出航直前に買っておいたプレゼントが無駄になってしまうかもしれないと、アルドは思い至る。
「つまりだ、コレをミューズに受け取ってもらう為には嫌いな俺ではなくて、他の奴がプレゼントするのが一番良いって事か。やっぱり受け取ってもらえる可能性が有るのが花束を送っていたの海兵だよなぁ」
的外れな結論を導き出すと、頷いて気合いを入れる。しかし、花束の海兵の居場所が分からないのでは代理も頼めそうにないな、とアルドは周りを見渡す、そこに兵士の輪から少し離れだ所にアルトを睨み付ける海兵がいた。
よくよく見てみると、あの時廊下でミューズに花束をあげていた、イケメン海兵だった。アルトは一瞬考えた後、その海兵の元に行って話し掛ける。
「あんた、ミューズに花束あげていた奴だよな、頼みがあるんだけど」
睨んでいた相手が突然近付いてきて、自分に話しかけてきた事に男は動揺したが、アルドには負けられないと更に睨み付け答える。
「だったらどうした?プレゼントを贈るなとでも?ミューズさんはお前のものじゃない、ちゃんとした自由意志を持つ一人の人間だ。あんたにそれを止める権利は無いぞ」
アルドは当然だと頷き。ミューズに直接あげるはずだった、御守りの貝殻を取り出す。
「今回の作戦でミューズは結構危ない場所に配置されてな、これを渡してくれると助かるんだが、渡してくれないか?」
「、、二枚貝の貝殻か、、安全祈願の御守りでもあるが、、コレ一つだけか、セットのはずだか?」
「??、ああ。一つでいいのに二つ貰った。おまけじゃないのか?」
イケメン海兵はククっと薄く笑う。
「二枚貝というのはな、二枚で一つなのだ。離れ離れになったとき互いに引き付け合うという伝承がある程にな。かなりメジャーな御守りで恋人同士が持つものなんだ」
「なる程な」
「ミューズさんにそれを渡して欲しいなら、条件がある。もう一つある、そちらの貝殻も渡して貰おう。残念だけど俺を出汁にして、評価を上げ様なんて思わないことだ」
「、、そういう考え方もあるか、分かったよ。んじゃこのもう一つの貝殻もやるよ。アイツは大事な仲間だし、命を助けて貰った恩もあるからな、幸せになって欲しいだけだ」
別にミューズがそうと決めたのならば、ミューズが誰と付き合おうと問題ではない、仲間のミューズが幸せでなにが悪いのか?御守りを渡せたことで多少生還率が上がるなら安いものだ、とアルドは只純粋にそう思っていた。
「殊勝(しゅしょう)な心掛けだな。良いだろう、僕が責任を持って渡そう」
奪うようにアルドの手から御守りの貝殻を取ると、イケメン海兵は船内に入っていく。アルド心は妙に晴れやかだった。
「幸せになれよ」
アルドはそう呟いた。
アンドロイドは人間か?と問われれば人間ではない。だが《心》を持っているのか?と問われれば、持っている。それは人間を模して創られたからであり、また人の代替として造られたからである。人間の友人、恋人、家族、仲間として。人間以上に人間でなければならない為、もしかしたら《心》に関しては人間よりも豊かであるかもしれない。
だがら、アンドロイド全てが主人だからといって、尊敬をし敬愛してくれるとは限らない。主人に恐怖を感じるアンドロイドもいる、怒りを感じるアンドロイドもいる、、友情を感じるアンドロイドもいる。アンドロイドがもっとも主人に抱く感情は会社の部下が上司に従う、義務や社会的責任感が強い。
MUZ-2500通称ミューズにも心があるのだ。
「はぁ」
本日36度目の溜め息を吐くとミューズは重く感じる体を動かし、動作に異状が無いかを調べる。船内だから安全だろうと無理矢理に解釈し護るべき対象から離れるという職務放棄する。
「アルド様、、会いたい、、」
コンコン。
ドアがノックされ、何用かとドアを開ける。そこに立っていたのは花束を持ってきた海兵だった。ミューズは顔をしかめる。
「何のご用でしょうか?」
「コレを渡し忘れましてミューズさんは明日、危険な場所に配置されるらしいと聞きまして、コレを持ってきたのです」
「コレは?御守りですか?」
「皆、アルドさん含めて、アナタの安全を気にしています。私としてもミューズさんが危険な目に合う事は避けて欲しいのですが、断れない任務であるのならせめてこの《私が買ってきた》御守りをあなたに渡そうと思いまして、、」
ミューズはその言葉を聞き暫く思慮した、その後頷く。
「分かりました、貰っておきます。お気遣いありがとうございます」
先程とは違い、ある程度敬意を持ってイケメン海兵にお辞儀をする。イケメン海兵はいえいえと照れつつ、深追いは今はしない方が良いとそのままミューズの部屋を離れた。
ミューズはドアを閉じると、目を閉じそのままの体勢で待機する。時間にして1時間46分後、目的の人物の足音が聞こえた、体重、歩幅、早さを計算しドアを開ける。
カチャ。
「あっ、アルド君」
「おあっ、ミューズか?久し振りだな」
自然に笑うアルドを見てミューズは安堵する。全く自分を嫌う様子はない、もしかしたら海兵との会話を聞いていなかったのかもしれない。
「数日間の間、お会い出来ず申し訳ございませんでした。お会いしたかったのですが、武器の手入れなどが、、違います。お元気だったでしょうか?会っときにこれを渡そうと思いまして。貰い物なのですがいかがでしょうか?」
ミューズはアルドが海兵にあげた御守りをアルドに差し出す。アルドは一瞬戸惑い、慌てた様子でミューズに話す。
「受け取れないな、それはお前の為にその海兵が買ってきたものだろ。それを他人に渡すのはどうかと思うぞ、、気持ちだけ、気持ちだけ受け取っておく、ありがとう」
「、、?」
ミューズは少し首を傾げだが、理屈は分からなくはないので一応頷いた。ミューズが更に話そうとするとアルドは何かの追求を避けるように。
「いやぁ、ちょっと疲れちゃったぁなぁ。眠いし、ちょっと部屋で寝るわ。眠い眠い」
「はい、分かりました。お休みなさいませ」
ミューズはアルドに付いて部屋の前まで移動し、アルドが部屋に入るまで見送った。先程とは違い身体は軽く調子が戻ってきた様だった。
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