第二章 3話

幼児の父親が周辺を探索中、原住民であるブルックリンと出会う、ブルックリンは冒険者と呼ばれるもの達で荒事を扱う集団であった。


ブルックリンは親子に目を付けていた、科学といわれる失われた文明、そして見目麗しいアンドロイドを手に入れるため長期的な計画を立てた。


近くに住み、徐々に親しくなる両者。


「アンドロイドってのは他にもあるんですかい?」


「ああ、最新式であるMUZ-2500がある。こちらは汎用アンドロイドでコンピューター制御も出来るんだ。最も基本的にはラウラと同じであるがね」


ブルックリンはホホウと興味を示しアンドロイドについて沢山尋ねる。何が出来て何が出来ないのか、護るべき対象は、それがいなくなったらどうなるのか、内容的には下らないものだったが、原住民との繋がりが欲しい父親はセキュリティーに関する情報以外は素直に答える。


勿論原住民の機嫌を損ね襲いかかって来られても、ラウラで制圧出来るし、さらに言えばこの惑星の軍隊とも戦えるだけの武装は宇宙船内にあった。


ーがなるべく対話によって近くの住民たちと仲良くなっていく夫婦たちだった。




アルドの宿に現れた兵士は宿の主人に部屋を案内され、253号室に通される。木造の建物で格安の安宿だけあって所々補修がしてあるが、綺麗に清掃もされていて不衛生ではなかった。


薄いドアをノックすると、中から女性の返事が帰ってくる。


「王都のビルディ隊長からの使いで来ました、宜しいですか?」


「開けて良いですよ」


「はい」


ドアを開けるとそこには美しい女性が立っていた、兵士は顔を赤く染めながら辺りを見渡す。


「えっと。あのアルド・ガーデンブルグさんを探しているのですが、こちらには?」


「武器の携帯は無いようなので出てきて良いですよ、アルド君」


「本当にいるのかよ、この流れ」


ミューズに促され部屋の奥から出てきたのは、軽装の男アルド・ガーデンブルグだった。


「暗殺の類の可能性も有りますし、ドアをノックした後ドアのノブ・周囲に爆弾を、またそのまま火器を使用する場合もあります。用心に越したことはございません」


頬をポリポリ掻くアルドは、まあいいかと兵士に質問をする。


「ビルディの使いってどうしたんだ?頼み事か?」


「はい、詳しくはビルディ隊長から聞かされると思いますが、海賊退治を手伝って欲しいとの事です」


「海賊退治ね、、」


王都ガーラン周辺の海には沢山の島があり、その島を拠点に海賊たちが猛威を奮っていた。海賊は積み荷を盗んだり、身代金目的に誘拐もする。ガーランも海賊を倒すために船団を派遣するのだが、その度に島に隠れられてしまい、なかなか解決できない事案だった。


「先日商船団がまた襲われて、多数の被害が出ました。今回ガーランの作戦本部はビルディ隊長の元、海賊の討伐に向かいます」


「、、まさかとは思うが民間の力を借りるのか?」


「先日のゴブリンリーダーとの闘い以降、使えるものは使おうという主張が軍内部に出来、外部の冒険者を傭兵として扱う事も多くなりましたので、拒絶されることもないかと」


「だがなぁ、俺には出生の秘密を」


「金貨15枚らしいです」


アルドは初め意味が分からなかったがビルディの性格上それは、金貨15枚で雇うという意味だと考える。確かにお金は多い方がいいがこの流れから先手を打たれたようで、少し苛立つ。


「なんだよ、俺が守銭奴みたいじゃないか。なぁ」


「その通りです、アルド君は守銭奴ではありません。アルド君がその様な金額で動くなどと」


「金額18枚と他の国への通行書を発行」


各地を回るならやはり国境があり、そして関所がある。関所は金品を払えば通過できるものもあるが、国の保証が無ければ通れない場所も存在する。また難しい手続きや発行に時間が掛かる場合もあった。


「、、なぁ?」


「もう少し金額を上げろとアルド君は仰っております。頑張って」


こうなるとコレはビルディのペースだった。もう交渉は成立しているのだ、後は折り合わせである。


「金貨20枚と通行書」


「よし行くか」


「はい(ニコリ)」




三日後早朝。


王都ガーランの港には沢山の商船が集まっていた。朝も早いので薄霧が立ち込む中、アルドとミューズは目的の商船までやってきた。


「三番目の船着場記号C。ここですねアルド君」


「、、、、最近アルド様って言わないな。どうしたんだ?」


「一般常識的にアルド様をアルド様とお呼びするのは、やはり人目に付きます。君は位の高い者を呼ぶときに使いますし、対等の者に対して使うものであり併用可能です、、それにアルド君より私の方が、、。それとも様の方が宜しかったでしょうか?」


別段少し気になっただけで、アルドもミューズの事を対等な仲間だと思っているので、君付けでも気にならなかった。


「君付けもいらないけどな、、」


ミューズはその言葉を聞いて目を丸くし立ち止まる、次に頬を赤く染めた。アルドは先行しながら桟橋を渡る。


「え、、それは、、その、、しかしまだ早いのでは無いでしょうか。嫌と言うことでは無く、恋人、いえ肉体関係は持つべきでー」


ミューズが振り絞った言葉も話をあまり聞いていなかったアルドが遮る。


「ミューズの名前って誰が付けたんだ?」


「、、、はひ。えっと、工房の皆さんです。私としては仮名なので他に候補が有ればアルド君に改名して欲しいですが、、」


「もうミューズに馴れちゃったし、良い名前だと思うぞミューズって、女神様ぽくってピッタリだし」


「女神様なんてそんな。それならばこのままがよろしいですね」


アルドが乗り込んだ船は商船に見せかけているが中身は戦艦で、大砲が多少当たっても大丈夫なよう、内側に鉄板を敷き詰めた別物である。今回の作戦は商船団にカモフラージュした、戦艦が海賊を迎え撃つ作戦であるらしい。


途中立っていた大柄の海兵に許可証を見せ彼に促され、中を進むと船長室に通される。いるのは勿論ビルディである。軍艦だからなのか、部屋の中には調度品は少なく質素だともいえた。


ビルディはアルド達を確認すると、椅子から立ち上がりアルドに近付いて話し始める。


「久し振りだな。何処に兎がいるか分からんから、この距離で話しをさせてもらうぞ。今回の作戦はシビアな闘いになると思う、そこで君達を呼んだのだ。今君達がこの船にいることを知っているのは私と先程の直属の副官だけだ、それ程にひっ迫している」


海賊達がどの程度数が多いのか分からないが、苦戦するのなら戦力を増やせば良いと考えたアルドだったが、素人の自分には分からない何かがあるのだと思い黙る。


「作戦の全容を知るためには何故、こうなったのかを話す必要があるな。今から二週間前、ある商船団の護衛にガーラン戦艦が三隻付いた。基本的に護衛に軍艦が付けば海賊は手を出さない、返り討ちに合うリスクを避けるためだ。ーが今回は違った」


「つまり、攻撃されて全滅し、商船の積み荷が奪われたと」


「それだけなら良かった。だが海賊達は海兵達を、厳密に言えばお偉いさんの子息の海兵を人質に身の代金を要求してきてな。しかも数が12人だぞ」


話の本筋が見えてきたアルドとミューズ。


「今回の事件は初めから変だった。商船に護衛を三隻、実績作りの作戦で安全だからと調子に乗った貴族どもが次々に参加したんだろう。そこを海賊に狙い撃ちされたわけだ」


「情報を漏らした密告者は見つかったのか?」


「ああ古株の海兵だった、拷問の傷が原因で死んだよ。吐いた情報からアジトも確認済みだ。しかし問題はそこではない、人質を取られている貴族の息子達を、殺されないように全員救出しなければならないのだ」


今回はなかなか複雑な状況のようだとアルドは苦笑した。ハッキリいって海賊を全滅させる方が簡単だからだ。


「船団にカモフラージュした戦艦を囮に、同時にアジトに侵入して人質を解放する。つまり戦力分散して敵と戦わなければならないし、人質を殺すか殺さないかの決定権を持つ、海賊の頭をアジトから引き離さなければならない。さらに言えば飼っていた兎が死んでアッチはかなり警戒してる」


話を聞く内に成功するのか疑わしくなってくるアルド、それを見たビルディが両手を上げる。


「真実を口にすると、今回の作戦の成功確率はかなり低い、闘いは万全の準備をして好機を待つのが勝率を上げる第一条件だが、今回はどちらも不足している。少数で油断させるのなら、精鋭を載せるべきだし戦艦も最も良い奴を、相手が警戒時ではなく油断している時が望ましい。分かっているさそんな事は」


ビルディは2人に希望を持たせるかのように笑いながら付け加える。


「だが今回の件は今回の件で良いところもある。《人質救出が任務》ということだ。裏を返せば救出したのなら逃げても良い」


「、、、」


「君達二人にはアジトに潜入して人質救出を任せたい。二人とも初めに突入する第一班でいいか?」


アルドは頷こうとしたがミューズがそれを遮る。


「アルド君は次の班でお願いします。罠など何かあるのか分からない戦場での、先陣は死亡する確率も跳ね上がりますので」


「なんだそれ。ふざけてるのか?何でミューズが先陣で俺が後なんだよ。ビルディ、同じにしてくれ」


「いけません!」


厳しい表情で睨み合う両者だったが、折れたのは以外にもアルドの方だった。


「分かったよ、糞したいから便所行くわ」


「はい。ありがとうアルド君」


微笑んで礼を言うミューズを半ば無視し、かなり不機嫌な様子でアルドはドアを開け、船長室から外にでる。ミューズも少し後を追うかどうか迷う。


「アイツは優れた戦士だ。周りもそう思っているし本人も思っている。君は過保護だな」


「、、はい。プライドを傷付けました。しかしそれよりもあの方に死んで欲しくないので、、」


「あれはプライドではないよ。命は等価ということさ、君は自分の命より彼の命を優先させた、それが気に入らないのさ」


「?」


「もう少し男心を研究しろ。、、さてまだやらなければならない事が有るのでね」


そう言うとビルディはミューズを船長室から追い出し、船長室のドアを閉めた。ミューズはそのまま、客室に案内されるが隣の部屋にいるはずのアルドは戻らなかった。


一時間ほど後。


商船にカモフラージュした戦艦が錨を外し、帆を上げる。海の風が弱いため船員はオールを漕いでいく。8隻全ての船が一列縦隊になり王都から沿岸に出る。そこからは旗戦艦を中心に、前1隻、左右に1隻、右前左前に1隻、右後左後に1隻ずつの配置に切り替え作戦が始まった。


ミューズは隣に物音が聞こえ、アルドが部屋にいることが分かったのだが、会った途端に罵倒されそうで気が引け結局会えずに日が暮れてしまった。


海賊のアジトまで二日間、ミューズは只客室でプラズマガンとブラストカノンを分解してパーツに不備がないかを調べる。基本はレーザーナイフとプラズマガンで対応し、敵が多く対処出来ない場合のみブラストカノンを使用する。ブラストカノンは強力だが弾数制限があり且つ弾の補充も無い、範囲が20~30メートルと広範囲なので使える場所も限られていた。


コンコンと自分の部屋をノックする音が聞こえ、アルドかと思い急いでドアを開けると見知らぬ兵士が立っていた。


「あのミューズさん、コレを受け取ってくれますか?」


兵士の手にあったのは、花束だった。ミューズは花に興味がなかった、しかも名前すらも知らない兵士である。嬉しい筈がなく困るだけだった。


「有り難いのですが、えっと、、それは貰えません」


「そうですか、、やはりアルドさんと付き合っているんですね」


「?!」


ミューズはビックリしたが、端から見ると完全に恋人同士に見える二人。意味を理解すると同時に顔を真っ赤にして否定するミューズ。しかし次の言葉で体を硬くさせる。


「でもアルドさんはミューズさんの事、あまり好きじゃないのかも知れませんよ。だって出航してからミューズさんに会っていませんし、今も甲板で他の海兵達と槍の稽古してますよ」


自分ならそんな事はしないという物言いの兵士は更に続ける。よく見ると以外に美形の部類に入る男、もしかしたらこの言葉で何人もの女性を落としてきたのかもしれない。優しく甘く囁く。


「ミューズさんみたいな美人に好かれていたのなら僕ならずっと側にいて欲しいし、離れたくない。寂しい思いなんてさせませんよ」


男がキスをしようと顔を近付けて来るのに合わせ、掌を前の顔に固定させると、プヒャという音と共に

顔が掌に当たる。


「ひゅ、、ヒュースしゃん?」


「私はアナタとキスをする事は絶対に有りませんので、申し訳ありません。それにー」


普段微笑みを絶やさないミューズが無表情になり、冷淡に言い放つ。


「彼がどう思っているのか分かりませんが、それによって私の気持ちが揺らぐ事は有りません!勿論、それは恋などというものではー」


ーといった直後、目の前の廊下をアルドが横切る。怒りのあまり、足音を消して歩くアルドの存在に気が付かなかったらしい、本来ならば有り得ないミスをしてしまう。ミューズの顔が青ざめるー


しかしアルドはミューズと兵士を確認した後、何事も無かったかのように、部屋に入っていく。硬直から放心する両者。


「、、もう良いです!帰って下さい!!」


ミューズは思い出したようにドアを閉める。一秒でも早く部屋に閉じこもりたい。そして布団を被り、思う存分神様を罵りたいかった。


《好きではない》そう勘違いさせてもおかしくない言葉を本人の側で言ってしまった自分。アルドに嫌われたかも知れない、そして自分に失望したかもしれないと、そうしたネガティブイメージがグルグルと浮かびは消えていった。


とにかく2人はそのまま作戦前日まで顔を合わせる事もなく、1人は部屋で纏まらない考えを纏めようとし、もう1人は甲板で海兵達と槍や軍隊式の訓練を続けるのだった。

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