第二章 2話

3人と1人の惑星ガルンゼルの暮らしは2ヶ月以上続いた。基本初めは宇宙船内で生活していたが、エネルギーの消費を避けるため(といっても惑星間航行や次元ワープを使える程エネルギーは沢山あるが)外で暮らすようになっていた。


幼児は両親に懐いていたが、特にラウラに懐いた。ラウラは基本的に3人を護ることが任務であるが、3人の内誰を一番に護るか?と問われれば間違いなく幼児を選んだ。


そしてある日幼児の父親は、ある原住民と接触する。名前はブルックリン、冒険者だという彼に出会い運命が少しずつ変わっていった。





王都ガーランの商店街広場にリッチモンドとミューズを、店内から監視していた草役の男達が集まっていた。監視役の男達はミューズが置いた《青色》ハート型の置物を三個ほど大事そうにリッチモンドに渡すが。


「違う!コレは偽物だ!!本物はピンク色だった。ミューズの奴知っていたのか?!いや、その事を言っていなかった、ということはコレも何か意味が?、、他には無いのか?」


監視役の男達は首を振る。


「あの美人は一つは噴水のある浅い池に、もう一つは土産物屋の膨大な小物のバケツの中に、最後は鳥小屋の中にコレを入れていきました。ワザワザ偽物で時間を稼いで、我々を撒いたんです。長年この仕事をやってますが、コレほど見事に出し抜かれたのは初めてです」


リッチモンドはミューズの評価を更に引き上げる。


「流石、ただ者ではないと思ってはいたが、、愛人ではなく正妻として、私の右腕に成りうる存在だ」


「これからどうしますか?」


「彼女が通ったルートを辿って行くしかないだろう。あれだけの美人だ、露天の店主達に聞けば分かるだろう。探す置物の大きさは親指サイズ、ハート型のピンクだ。バラバラになって探せ、見つけたらここにいる私の所に持って来い、分かったな」


「はいピンクですね。あの場では色の情報がなかったので、今回は大丈夫です」


リッチモンドは護衛の1人に話し掛ける。


「他にも置物を探せそうな暇人を見つけてこい、なるべく口の堅い奴がいい。参加で金貨一枚、一つに付き金貨30枚だす全部集めれば金貨90枚。こうなったら人海戦術だ」


リッチモンドは忌々しげに地面を蹴り上げると、広場のベンチにドカリと座った。



ハート型の置物探しが始まって、一時間。アルド・ガーデンブルグは考えながら商店街を歩いていた。


「ミューズが置きそうな場所か、、俺に発見されやすく、リッチモンドに発見されにくい所か?それともー」


アルドは商店街に違和感を感じた。かなりの人数が何かを探しているという光景。多分これはリッチモンドがハート型の置物探しの人数を更に増やしたということが容易に想像できた。


「金に糸目はつけずか、、愛されてるなミューズの奴は。まぁ俺も負けないようにしないとな」


あっちと同じ様に人数は増やせないのなら、自分は一つ一つの精度を高めるだけだと、アルドはミューズが置きそうな所に足を向ける。


「ミューズが目を覚ました研究所、、俺の自宅、、どっちも何かしっくり来ない、、屋内なのか?屋外?」


根本が間違っているのか。良く行く場所ではなく、お気に入りの場所ならどうだろうか?


「ミューズが好きな人物、、リッチモンドか?モンターニュさんか?それとも他に、、」


自分か?ーとアルドは思ったのだが、自惚れだと一蹴して、再度考え直す。ここ一週間ほぼずっとミューズは自分の側にいた、あまり相手にされていないのに隣で微笑みかけられていた気がする。


「もし仮に何故か俺だとしたら、場所なんて一つしかない。良く鍛錬に行く近所の空き地だ」


アルドは商店街から少し離れた、空き地に向かう。運が良いことに空き地には人気は無く、いまだ探された様子はない。


「っと、、ここら辺か?」


アルドはいつもミューズが立って見ている場所に光る物があるのを見つける。少し掘り返すとそれは薄いピンク色のハート型をしている置物だった。


「あった!間違いなく本物だ。先ずは一つ、後もう一つあれば勝ち確定だな」


アルドは服の内側に絶対に落ちない様に置物をしまい入れる、そして空き地から再度中央にある商店街に足を向けながら考える。しかし次の場所の見当が全く付かない。


「コレなら、リッチモンドを監視して置物を手渡す瞬間を狙って奪った方が確実だが、、卑怯な真似をするなと言った手前、やれないな、、」


アルドが歩いている路地の片隅でボロボロの服を着た小さな子供たちが何かを探して回っていた。何を探しているのかは一目瞭然だった。


「どうした?探し物か?」


「五月蝿いよオジサン。俺達は忙しいんだ」


10歳前後の少年が答える。気弱そうな少年がブツブツと呟く。


「見つかる訳ないよ。街中で小さなハート型の置物なんて」


「馬鹿!その金があれば施設が壊されなくて住むんだ。それに園長先生の病気だって、、」


「お腹減ったぁょう」


「うるせえ!とにかく探せ、見つかるんだ。見つけなきゃいけないんだ!!」


「何も、、怒らなくたって、、う、、うぁーん、うぁーん」


アルドはふーんと、そのまま通り過ぎる。ミューズの置いた置物は後二つ、もしかしたらと北東方向の北門を目指すとー


「あった!!あった。コレじゃないか!?」


「本当だ!コレだよ、やったー!!」


少年達の歓声が聞こえる。アルドは頭を掻き、服の内側を探るとどうやら落とした様だった。


「ちゃんと落ちないところに入れないと駄目だな」




アルドは急いで北門へ向かう。北門には数人置物を探している人間が混じっていたが、探している事を考えるとまだ見つかっていないか、ここには存在しない可能性があった。


北門の近く、市民にも開放されている兵舎の建物、工事中のロープをくぐる。


「確か、ここら辺だな」


アルドはゴブリンリーダーとの闘いの際、ミューズと初めて出会った場所を探す。資材を避けながら進み止まる。


「位置的にはここら辺だが、、やっぱりないか?」


大きめの板を退けると、そこには二個目の置物があった。もうウッカリ落とせないので確実に服の内側に入れる。


「さてと、いよいよ最後だが。コレだけは本当に心当たりすらない、、一回家に戻って、回るだけ回ってみようかな」


アルドはいまだ日が落ちそうにない空を見上げて、リッチモンドが最後の置物を見つけないように祈った。




カーカー。


日が暮れる。


大衆カフェ《満腹》の前に集まるアルドとミューズ、そしてリッチモンドと護衛2人。リッチモンドはアルドの置物の数が気になるのか、尋ねてくる。


「アルド君は見つけられたのかな?」


「今のところは一個だけだけどな、リッチモンドは?」


「私も一個だ、どうやらイーブンの様だから、また次の機会に決着をつけよう」


アルドとミューズはその会話と言葉を聞いて、安堵した。そしてアルドは最後の賭けに出る。


「ミューズ、置物の石はこの街の中にあるんだよな」


「そうなります。ちなみに屋内ではないですね」


そしてリッチモンドが集めた人は相当数いたとなると、屋外ではよほどうまく隠さなければ見つかってしまう。アルドは初めに切り捨てた可能性に賭ける。


「ほい」


「はい」


アルドが手をミューズに差し出すと、にこやかにミューズがその手にハート型の置物を乗せる。唖然とするリッチモンド。


「ちょっと待って下さいミューズさん。そんな所分かりませんよ」


「そうですか。残念ですリッチモンドさん」


あまり残念そうではない姿のミューズを見て、リッチモンドは頭に血が昇り、言ってはならない言葉を口にする。


「さては、アルドと組んで私を騙したのか?!」


「、、さて条件は同じだった筈ですが」


「コイツに場所を予め教えておいたんだ、じゃなきゃわかるはずがない二個も集まる筈がない!」


ミューズは冷めた目でリッチモンドを見る。可哀想になったリッチモンドにアルドは説明する。


「今回はミューズが良く行く場所と印象深い場所に置物を置いただけだ、そんな情報ならとっくに分かっているだろう?」


「、、、」


「北の住宅地の空き地は良く行く所、北門の兵舎はゴブリンリーダーに出会って命の危険を感じたところ」


リッチモンドはウググと唸る。更にアルドは説明を続ける。


「最後に持っていたのはハート型の置物と心臓をかけたメッセージで、最後の思い出や記憶はここにあると分かって欲しかったんじゃないのか」


「馬鹿馬鹿しい、帰るぞ私は」


ガントレットを渡さずに帰ってしまうリッチモンド達。アルドは『だろうなぁ』と苦笑しながら、ミューズをみる。


「孤児院の子供たちにはキチンと金貨30枚支払ったらしいですよ、リッチモンドさんは」


「孤児院?なんだそれ」


「、、私は途中まで、アルド様が置物を探さないのではと、疑っていました。だから最後の一個は、、」


アルドはアンドロイドのミューズの目から涙が溜まるのを、今日買ったハンカチで拭いた。


リッチモンドに話した内容はアルドの創作である。最後の一つだけ、それをミューズが持っていた理由。ミューズが不安だったのもあるかもしれないが、もしかしたら他に置き場所がなかったからかも知れない。アルドはミューズとの一週間、宿と空き地、食品店にしか行ってない。


「このハンカチはプレゼントだ。ゴブリンリーダーから助けてもらったし、その礼って事で。まぁ安物でリッチモンドから貰った物の方が価値があるけどな」


その言葉にミューズは泣きながら、首をフリフリと振り、否定する。


「アルド様、物の価値とは貰った本人が決め、その物の真価とは持つべきものの手に渡って始めて発揮されるものですよ。どうやら私は安い女のようです(ニコリ)」


その笑顔が魅力的だったからか、それとも今日の出来事全てを通してからか、アルドはミューズを同じ目的に向かう仲間だと強く感じた。


「それだけ言えれば十分だな。飯でも食べて帰ろうぜ」


「そうですね」


まだまだ出会ったばかりで信頼関係はなく、仮初めの主従関係ではあるが不思議と不安は感じない二人だった。

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