一章 エピローグ

街の病院室内の窓から空気が流れ込む。揺れるカーテン、室内のベッドには誰もいない。窓を覗くと外には1人、白銀の杖を縦横無尽に動かすアルド・ガーデンブルグが黙々と鍛錬に励んでいた。


《完璧》の使用が遅れたりすれば、頭が千切れ飛び出血多量で絶命していただろうし、早すぎれば心臓に矢が刺さって死んでいた可能性もあった。アルドが生き残ったのは単純に悪運が強かっただけである。


アルドは自分自身の弱さを改めて思い知った。運を含めての辛勝ではなく、実力のみの確実な勝利を目指す為の鍛錬だった。


「まだ2日しか経ってないのに、動いていいのか?」


「まぁな、鍛錬ってのは毎日やらないと本当に錆び付くものだな、今それを実感していたところだ。んで用は?」


後ろを向いたまま、鍛錬し続けるアルドに溜め息を付きつつ、ビルディは庭のベンチにドカリと座り込む。


「報奨金が出た。1人、金貨20枚。使ったモノ・壊れた物は全額保証。箝口令は引かず、今回の戦いは我々ガーランの作戦本部主導で行った事にして、周囲の危険生物の排除を目的とした作戦があったという、筋書きにしてもらう。内容としては勝ちではあったが多数の死傷者がでたと、、報奨金は口止め料分も含まれているからな、口を滑らせんようにな」


「あんたは?」


「作戦本部の部隊長、地位は変わらない。この世界でも出た杭は叩かれるらしい、モンスターと同じになってな孤立してしまったよ。司法庁にも怒られた」


肩をすくめながら、空を見上げる。


「そこの美人の誤解は解けたか?」


「誤解ではありません。DNAと指紋、虹彩、その他の生体認証で本人の確率は100%となっておりますので」


タオルを持った、ワンピース姿のミューズが答える。


「主人は10歳と言っていたのでは?」


「初期設定ではそうなっていました、私の場合は何故起動していなかったのかが問題となります」


「?」


「大体の想像は可能ですが、部外者がいるので話すことが出来ませんね」


気まずい雰囲気にアルドは一時的に鍛錬を中止し、ミューズに話し掛ける。アルドはミューズを美人だとは思っているがいまだに信用はしていない為、言い方も刺々しい。


「研究所にいなくていいのか?まだ監視が必要だと聞いたが?」


「一昨日大急ぎで、手続きをしてもらいました。解放されたのは今朝方ですね。これからはずっと一緒にいられますよ」


ニコリと魅力的な笑顔を作るが、アルドはふーんと鍛錬に戻る。少しガッカリするミューズだったが、再度気を取り直し完璧な笑顔を貼り付ける。


アルドの自分自身の出生探しの旅は終わろうとしていた。だがソレは旅の終わりを意味するモノなのか、それはアルドにも分からなかった。

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