第10話
トラベラーAさん
「勝者と敗者。それが明確に分かるのは事が終わったずっと後になってからだと思う。、、さてインタビューってやつは終わったよな、行かせてもらうぞ」
ゴブリンリーダーは内心安堵した。沢山の仲間が殺されたが、未だ全滅はしていないし他のゴブリンの群と合流出来れば数はまた数百にも膨れ上がる。今はこの街からいかに脱出するのか、それだけが問題だった。
ゴブリンリーダーは陣を突破し、そのまま街中へ進もうとした時だった。建物から人が飛び出してくる。よく見るとそれは今までずっと追いかけていた、人間の男だった。
怒りと喜びが湧き上がってくる。仲間が沢山殺されたのは、この男がこの街へ誘い込んだからだと認識はしていたが今は逃走の途中でもあり、見つけて殺すことも出来ないと思っていた。それが目の前に獲物、自らやってきたことに喜びを感じたためだった。
「俺って奴は、、自分の命の安さに感心するよ。見知らねー奴が死んだら目覚が悪い?理不尽に弱者が殺されるのを見てられない?勝率かなり悪いのにな、、ハハハッ」
アルドは首を振る。
「もっと計算が出来る男だと思ってたんだ、しかし分かんねえな、心ってのは。気が付いたら外に出てたんだよ理由も無しに、、理屈じゃないんだな」
ぐるぐると白銀の杖を回しながら、集中力を高めるアルド。
高まる集中力は最高値、気力、体力も十分。呼吸を整え名乗りを上げる。
「白銀の
それが合図か、アルドに数十匹のゴブリンとゴブリンリーダーが殺到する。アルドは白銀の杖で先頭にいた二匹を防御の上から両断する。
そして全てのゴブリン達が範囲内にいることを確認した後、続けて最も得意とする魔術を身に付けていたゼニスキーの魔石によって発動させる。
「
風陣とはアルドの育ての親であるガンリュウが創作した魔術である。主体となるものは強力な【圧縮された空気】の回路のみ。それを自分の体の周りに固定させる。
ストーンバレットやファイヤーボールは何故飛ぶのか?それは前に推進させる圧縮された空気を使って飛ぶのである。ガンリュウはその圧縮された空気を槍に当て加速させる事を考え出した。
他人が聞いたら笑うだろう。それは大砲の威力を両腕の力だけで受け止めるのに等しく、威力を間違えれば両腕を失う可能性もある狂気の発想だった。
しかし、ガンリュウは両腕の骨が折れようが、関節が外れようがお構い無しに、試行錯誤を続けて遂に威力安全性共に及第点の風陣を数十年後完成させた。
そしてガンリュウが十数年後にたどり着いた極致、アルドは自身の体質によって、若くしてその極致にたどり着いた。
ブブブブブブブン。
分身、残像。使用者すら付いていけない程の超高速の乱撃が発動する。
アルドの腕持つ槍が複数決められた、軌道を周回していく。横への払い、右上から左下までの6点突き、左下から右上への切り返し、上方から左下にそして右への死角を付いた歪曲切り、下方から上方への切り上げ、踏み込みからの左右の切り返し、∞字切り、五点十突き等々、二十五もの斬撃を約3秒程で行う。
本来なら硬いものに当たると使用者も相応のダメージを受けるのだが、白銀の杖の切れ味はあらゆる材質を斬り伏せ、次々にゴブリン達を肉片に変えていく。またあまりの激しさにアルドの腕はみるみる膨れ上がり紫色になる。
まるで圧倒的な竜巻が迫るような圧力をゴブリンリーダーは感じ取り、距離をとるようにゴブリン達に伝えようとしたが、その時残っていたのはとっさに回避行動に移ったゴブリンリーダーと最後尾にいたゴブリン四匹だけだった。
ゴブリン達は安全圏までアルドから距離をとると次の攻撃に備えアルドを注視する。
「、、、」
そして突然ゴブリンリーダーは四匹のゴブリンを置いてアルドに突撃する。
瞬間。
ズズン。
爆音。アルドはゴブリンリーダーの棍棒によって兵舎に白銀の杖ごと叩きつけられた。
アルドは後頭部をハンマーで叩かれた様な薄れた意識の中、微睡みながら何が起こったのか思い返す。
ゴブリンリーダーはアルドの【風陣】の弱点を看破した。それは同じ型を繰り返し放ってしまうこと、後ろに回り込まれる・上空からの攻撃程度なら問題無いがそれ以外は、全く応用が効かず一度使用すれば25撃全てが終わるまで止める事が出来ない。それはこの魔術最大の欠点だった。
ゴブリンリーダーは斬撃の間の刹那の一瞬、棍棒を白銀の杖に叩き付けたのだ。人間では実現不可能であるし、初見ならゴブリンリーダーですら回避は出来なかった。アルドは使用を急いた、そして運が悪かった。
ザッザッザ、、
ゴブリンリーダーがアルドに向かい距離を詰める。
アルドは目を瞑り死を覚悟する。
そして、、
「ご主人、遅くなりました。これも私の不徳の致すところ。しかし今は火急、お叱りは後で」
目の前に美しい女性が立っていた。
MUZ-2500は、通称ミューズはゴブリンリーダーに向かい合うと怒りを表す。
「アナタが何者でどの様な存在なのか、それは知りませんがご主人と敵対し、ご主人を傷付けた時点で排除対象である事を確認しました」
静かだが狂気を含んだ殺気。
「サキニコノマチカラデテイロ」
ゴブリンリーダーは突然現れたミューズがただ者ではないと感じて、残った四匹に逃げるように指示する。ゴブリン達はゴブリンリーダーのただならぬ気配を感じ取り、頷いて街中へ向かい走り出した。
ミューズは追うかどうかを考えたが主人を傷付けたゴブリンリーダーが最優先の排除対象だと考えて逃走を無視し、聴覚視覚からゴブリンリーダーの情報を出来る限り集める。
ゴブリンリーダーが軽い呼吸をした瞬間、ミューズはゴブリンリーダーに向け疾走する。
ブン。ザン。ザザ。
ミューズは太股に隠し持っていたレーザーナイフを右手で逆手に持つと左右フェイントを織り交ぜながら、必殺の一撃をゴブリンリーダーの頸動脈に向け放つ。ゴブリンリーダーは神速のそれをバックステップで回避、同時に右から左へ棍棒をミューズに向け振るう。
ミューズはそれに対し身を屈めながら回避、ゴブリンリーダーの腕の付け根に向けレーザーナイフを振るう。ゴブリンリーダーはそのままクルリと回転、回避と同時にミューズの足を払おうと動く。
それを察知したミューズは左へ跳ぶ、そこへゴブリンリーダーが棍棒で突きをくり出し、それを体を半身にさせたミューズが間一髪かわす。
トン。トン。
再度距離をとる両者。ゴブリンリーダーは手首に軽い切り傷が出来ていた。ミューズもドレスの端が破けていた。
互角。
互角ではあったがミューズにはガーランの兵士達という援軍がいる。勝機はミューズにあった。
ミューズとゴブリンリーダーとの戦いの最中、アルドは最期の手合わせでガンリュウに勝利した時を思い出していた。
「いや、まさか負けるとは思わなかった。勝率は五分五分位か、たいしたものだな」
ガンリュウは少し考えると口を開いた。
「アルド。言い訳に聞こえるかもしれないが聞いておけ。確かにお前は強い、、だがな、、それは対人を想定した場合だけだ。そしてお前が闘っていたのは殆ど俺だ。直感、閃きは色々な敵や特殊な戦闘で培うものなんだ。お前はまだ中級の冒険者程の力量しかない。もっと経験を積め、まだお前には伸びしろがある」
最後に言葉を続ける。
「途中もし一人で勝てない格上の魔物にあった場合。人を想定して戦うな、真っ白の状態で戦え、敵の本能とは何か、癖を突き詰めろ、あらゆるものを利用しろ」
「オマエナラゼッタイ、サイゴノサイゴ、カテル。アキラメルナ、、」
アルドは微睡みから覚醒する。
アルドの人口心臓ナノマシンが身体を修復し、動けるまで回復、そして立ち上がる。
「勝てるか、、勝つつもりなのか、、」
戦闘を継続中だったミューズとゴブリンリーダーはアルドが立ち上がった事で戦闘を中断。ミューズは後方へ大きく跳躍をしてアルドの元にやってくる、勿論ゴブリンリーダーへの注意は怠らない。
「ご主人、もうしばらくお待ち下さい。中距離・長距離戦用の火器の携帯がなく敵を100%安全に排除するのにはこの戦闘を後二分続けなければなりません」
アルドはまわりにゴブリンの死体が若干少ない事を確認しながらミューズに問いただす。アルドにとっては相手が勘違いしてくれていた方がやりやすかった為、アルドはあえて見知らぬ美人に《ご主人》と呼ばれた事を無視する。
「他のゴブリン達はどうしたんだ?やったのか?」
「四体が逃走中です。目の前の敵を排除対象として行動いたしました。他のゴブリン達がご主人へ危害を加える可能性は限りなく低く放置いたしました」
「この街の人が危害を受けるだろ。アンタ、他のゴブリン達を追いかける事は出来るのか?」
ミューズにしてみれば、この街の住民が千人殺されようがあまり関係がなかった。自分の護るべき対象は三人しかいないのだから。
「現在の距離であるのなら追い掛ける事は可能ですが、これ以上距離が離れると自分単独では追跡不可能となります。その場合サテライトないしスターシップとのデータリンクが必要となります」
「???、、ここは俺に任せて追えるなら追ってくれ。街中にはアレに対抗できる奴はいない。後、二分も続けられたら確実に死人が出る」
ミューズはアルドの提案をあっさりと却下する。
「お断り致します。そういった命令はロボットになさって下さい。アンドロイド存在意義は初期に設定された訓令、その目標を達成また遂行する事こそに有ります。この場合はご主人の安全確保が最優先事項となります」
「、、、安全だし。何たってまだ俺には隠し球があるし、まだ本気出してないし、、ヤバくなったら逃げるし、、あとあと、、」
子供の様な言い訳をジト目でアルドが話す。ミューズにはアルドの言葉が嘘であることは分かっていた、そしてまたその性質を理解した。
「、、分かりました。逃げたゴブリン達を追います。しかし約束が有ります、絶対に死なないで下さい。ご主人が死んだのなら私は後を追い死にます。その約束が出来るのならば、ですが?」
透明な視線。偽りないだろうその言葉に、アルドは引きつった薄ら笑いをすると、大きく溜め息を吐き出し肩を落とす。
「、、あんたなぁ、、ああ、、もう分かったよ!!ああもうクソ、やるよやってやるよ!!」
「了解致しました(ニコリ)」
プリプリ怒り出す主人を何だか、可愛いと思ってしまった不謹慎な自分を諌めるとミューズはそのまま高速で街中を駆ける。
残るはゴブリンリーダーとアルドのみ。互いにボロボロではあるがゴブリンリーダーは最初の包囲陣とミューズに負わされた怪我が少し深い。
一陣の風。
「ゴブリンの大将、アンタ強いよ。だがよ今はそんなに悪い勝率じゃないと思ってる、、」
「シニゾコナイガ」
アルドとゴブリンリーダーは互いに、ゆっくりと距離を詰めた。
ミューズは兵舎を抜け路地に移動、ゴブリンとの距離は二百メートル程。徐々に距離を詰めてはいるが
かなり遠い、運が良かったのは人がごった返す大通りではなく、人気ない北の工業地帯に行ってくれた事そしてバラバラにならず四匹まとまって行動してくれた事であった。
「人目を避けているのでしょうか?おかげで今まで無力な一般人の怪我人はいない。これならご主人も喜んでくれるでしょう」
目前に迫るのは街と外を遮断する、北にそびえる外壁である。外壁は石を積み上げて出来ていて高さは二十メートル程、ゴブリン達はその壁をよじ登ろうと石の隙間に手を置きスイスイと外壁を登っていく。
「このままでは間に合わず向こうに行ってしまいますが、ご主人の命令はこの街の人々に危害が及ばないようする事。追い払えただけでも良しとし、見送った後。急いでご主人の警護に戻りますか」
ゴブリン達が外壁の九割程進んだ時だった。ゴブリン達は外壁の上にいた人影に気が付いた。
「キギャ?!」
「アースハンド」
ゴゴウン。ガシィ、バシバシバシ。
外壁を登っているゴブリンの真横・上方など数カ所が隆起して、ゴブリン一匹を掴み又三匹を外壁からはたき落とす。
「ピギャ」
一メートル程の巨大な石の腕に掴まれた一匹のゴブリンはこの魔術を使ったであろう人物を目撃する。くたびれた黒い尖り帽子と魔術師風の服装。四本のスタッフと巨大な魔石を持つ女をー
「あら、占いだと大陸に悪影響を与える魔物が現れる筈なんだけど、、」
アリサ・スターライトは首をひねる。
「困るわ。この魔術学校主席アリサ・スターライトが、いずれ大魔術師となる私の軌跡がこんな小者っぽいゴブリンを倒す事なんて、、自伝には書かないでおきましょ☆」
パチン。
「ギャプ」
アリサが指を鳴らす。
ズシャ。と音を立ててゴブリンは頭を残し、石の掌に握りつぶされた。落下したゴブリンの頭が残りのゴブリン達の目の前に転がる。
「ニ、、ニゲロ、ハンタイガワニ!」
アリサの魔術に驚いたゴブリン達は混乱し、再度街中に引き返えそうとする、しかし最も忘れてはいけない存在の事を忘れていた。
汎用性アンドロイドの事を。
瞬間。
一体目は胴体が上下に別れ、二体目は首が吹き飛ばされ、三体目は左から斜めに両断された。全てのゴブリンはどうやって切られたのかも分からないほどの速度によって命を絶たれた。
「、、全ての目標の死亡を確認。直ぐにご主人の元に戻りますのでどうかご無事で」
アリサ・スターライトは外壁から離れていくミューズを見下ろしながら、独り呟く。
「《未来への標》ね、、まぁ縁があればまた逢うでしょう人外の麗人さん。敵か味方かは分からないけどね」
王都ガーランのゴブリン追撃隊の兵士達は、ゴブリンの無数の死体とゴブリンリーダーの姿を確認したが攻撃できずに只成り行きを見守っていた。
ゴブリンリーダーがアルドと闘っていたからだ。
アルドが攻撃をして、ゴブリンリーダーはそれを避けるという作業の繰り返しが続く。
アルドの攻撃が速いわけではない、逆にもの凄く遅い、それを何故かゴブリンリーダーは避けていく。兵士達には疑問だった何故ゴブリンリーダーがアルドの白銀の杖を叩き攻撃をしないのかと。
「大将あんたさ、慎重だよな。臆病と言い換えてもいい。あんたはいつも魔術を警戒している。俺の風陣を回避出来たのもそのためだ。そして何でも斬れるこの白銀の杖も同時に警戒している」
緩やかな攻撃を続けながらアルドはゴブリンリーダーに話し掛ける。
「、、、」
ゴブリンリーダーは無視してアルド攻撃をかわす。
「後さ、目が良すぎるんだよ。だから遅過ぎる攻撃は苦手とみた」
勿論アルドは苦手だから遅い攻撃を仕掛けている訳ではない、風陣を放つための布石を打っているのだ。より早い攻撃が際立つように又ゴブリンリーダーが油断するようにと。近付いた時あの《風陣》を使う。ゴブリンリーダーもそれを感じ取っていた。
「そろそろあの美人さんもゴブリン達を倒した頃かもな、今なら俺から逃げられるぜ、二人掛かりで俺に殺されるのは嫌だろ?」
「、、、」
アルドの挑発に 痺れを切らしたゴブリンリーダーはアルドとの間合いを詰めようとする。
ビュンビュビュ。
緩やかだった攻撃が急激に加速し、ゴブリンリーダーの突撃に合わせたように振るわれる。ゴブリンリーダーは内心では舌打ちをし、再度間合いを取り仕切り直す。
「運が良いと思っているのか?違うよ。技術だ。大将には力や素早さが有るけど、棍棒を操る技術は無い。バカ正直に振るっていたら、そりゃ見切られるわな」
アルドは伏せたが、ゴブリンリーダーが攻撃する際の踏み込みの癖が非常に分かり易く、アルドでなくともある程度の熟練者であれば、数度間近で見ることが出来れば、その事に気が付ける程の大きな隙であった。
アルドは一度見た、風陣を見られたときに相手の決定的な隙をそれを付く。
ゴブリンリーダーの攻撃は神速である。ならば、攻撃される前、攻撃に移るまでの《溜め》の時を狙って攻撃する、それがこの闘いの根幹に有った。
ゴブリンリーダーは自分が空回りしていると気が付いていた。攻撃されて攻撃が出来ない、話し掛けられて集中出来ない、焦りで打開案も思いつかない。
そしてー
ビシュッ。
ゴブリンリーダーの回避が数瞬遅れた、だが蛇のようにうねった斬撃がゴブリンリーダーの腹を切り裂いて出血させる。
「、、ググ、オオオ!!」
憤りによって突進衝突しようとするゴブリンリーダーであったが、再度死角から放たれた斬撃で棍棒を持った右手が両断される。
「大将、終幕だ。敗因は蓄積と経験。アンタは強かった、だがそれだけだ」
見守っていた兵士達は喝采する。ゴブリンリーダーと互角の戦いを演じた男がいたことに驚き、何であれ勝ちそうなことに賞賛を送る。
「、、グウウ」
ゴブリンリーダーはアルドにこのままでは勝てないことを本能的に感じた。そしてゴブリンリーダーにとっては幸運、アルドにとっては不運が訪れる。
「ミューズさんは何処だろうか?兵舎にいるのだろうか、、全くいつまで付いてくる気だねリッチモンドさん」
「私もミューズさんに用があってね。別にモンターニュさんを追っている訳ではないよ」
人力車を降りたモンターニュとリッチモンドの二人とリッチモンドの護衛の二人はミューズに会うために兵舎をグルグルと回っていた。そして兵士が半包囲する兵舎の脇まで来てしまっていた。
「何だか、凄い人集りですね。もしかしたらミューズさんの美貌に兵士達が集まったのかも」
「なる程、ならば私が行かねば」
モンターニュとリッチモンドは駆け足で兵士の少ない場所から勢いよく包囲されている場所へ飛び出してしまう。共に街中に魔物がいるということは想像の範囲外であったから仕方が無い。
ゴブリンリーダーは突然アルドの近くに現れた、武装の無い人間を確認して飛び出す。アルドもとっさに白銀の杖を持ち替えてゴブリンリーダーに対応するー
ほぼ同時
バシィ!!
しかし、その一瞬で距離を詰められゴブリンリーダーに白銀の杖を掴まれてしまう。アルドはまるで岩に柄が固定されたように動かない杖を動かそうとするがー
ギリリ、、ガシィ。
「うがっ!」
無理やり杖を奪われると、アルドはゴブリンリーダーに片手で首を捕まれて持ち上げられてしまう。白銀の杖は地面に落ち、もはやアルドが拾えるような状況ではなかった。
リッチモンドとモンターニュは互いを支えながら、アワワと大急ぎでその場を離れる。
周りの兵士達は先程の戦いを思い出していた、人質の命を盾に包囲を突破し逃げる気だと皆が考えた。
「、、弓、魔術の準備」
ポツリと呟いたのはビルディ、それを聞き取ったものがビルディの顔を覗く。このゴブリンに対しては数十本の矢や無数の魔術を使用しなければ当たらないし、倒せない。近くにいるのであればその余波で必ず死ぬ。
「奴を逃がせば、これ以上の被害がでる。彼の役割は囮、その後は我々に無断で戦闘に参加したのだ。こうなることも覚悟していただろうさ」
ビルディも良心が痛まないわけではなかったが、他ならぬアルドの視線が頷きが、諸共殺して良いとの意味を含んでいるように感じたからだ。
ゴブリンリーダーは先程の再現をしようと包囲に足を向けるー
ドス。
肩に刺さるボウガンの矢を不思議そうに眺めると、その意味を理解して、速度を上げるがー
ドスドス。
避けようとするゴブリンリーダー、だが数が多く背中と右足に命中する。咆哮を上げるゴブリンリーダーのところへと、弓や魔術が放たれて次々に命中していく。
逃げられないと悟ったゴブリンリーダーは、ならばと最後に自分達の仲間を最も多く殺した男をこの手で殺そうと右手に力を込めー
られないー
非常に硬い。いやそれは硬くなったのではなく、全く変化しないだけで外部からの接触変化を受け付けない魔術。
《完璧》
ゴブリンリーダーはアルドの首をへし折ろうとするが、魔術による変化は物理法則をも無視し現状を維持し続ける。
「オマエ、、サエ、、イナケレ、、、バ、、」
ゴブリンリーダーは炎に飲まれながら、ドサリと前に倒れ火の粉が舞う。それを見て兵士達も安堵する。
「攻撃中止」
「攻撃中止せよ」
号令が無くとも、攻撃自体は止んでいた。
ゴブリンリーダーに恐る恐る近付く兵士達。
黒い固まりの様なゴブリンリーダー、全く動かないので兵士達は安心した。その瞬間。
バウン!!
勢い良く立ち上がるゴブリンリーダー。
驚く兵士達は全員からだが硬直し動けなかった、恐怖におののく兵士達の命は無いものと思われた。
ブォン!!ぶしゃぁぁ!!
ゴブリンリーダーは背後から両断される。
ゴブリンリーダーが崩れ落ちた後、そこに立っていたのは焼け焦げ、そこら中ボロボロの姿のアルド・ガーデンブルグだった。
「もうこんな事二度とやらねぇ、、」
パタリと倒れるアルド。
こうして王都ガーランの防衛戦は人間の勝利に終わったのだった。
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