第6話
美しいアンドロイドMさん
「プログラムされた事を行うのがアンドロイド。でも人も変わらないのでは?両親の教え、教師の教え、友人の教え、それらの情報が行動に反映されるのだからー」
一週間前、汎用性アンドロイドは起動した。目覚めるとそこはどこかの研究所であり。主人の生体識別番号を持つものはいなかった。
総合情報端末ハンドリンクを持っているのはリッチモンドという個体。国立工房長ドリスコン、副工房長モンターニュ、警備兵隊長バラード等などなど。
一週間の間、現地の言語を習得。地理、歴史、国際情勢、又、各地域における雑多な情報収集を行った。特に重要名項目はこの星での倫理や伝統、また人として行わなければならない義務等、汎用性アンドロイドは主人を待つ過程で色々な事を知る。
「ミューズさん、僕は貴女のように素晴らしい女性を見たことがありませんよ。本当にお美しい。もしここにいかなる敵が現れようとも僕が貴女を御守りすることを約束します(ニコリ)」
爽やかな笑いとともに白い歯を見せるリットモンド、ミューズと呼ばれたアンドロイドは笑顔のまま、脳内で辟易した。最近は自分の個体名MUZ-2500から、ミューズと名付けられ(主人以外の命名は論外)毎日のように、美辞麗句を浴びせられる毎日(主人以外は嬉しくもない)。
初めは記憶喪失と理由を付けたら、色々な情報を与えてくれた工房の人々も、何故か今は情報以外の事を話す様になり、リットモンドの様な事ばかりを言う。現在はサロンでミューズとリッチモンドは談笑中であった。
「安心してください。実は僕こう見えて強いんですよ。何せ、師はあのベルトランという凄腕の冒険者でして、まぁこの大陸で彼に並ぶ冒険者はガンリュウ位しかいないでしょうな。」
「ありがとうございます。その時はお願い致しますね。」
総合情報端末ハンドリンクの所有権は主人にあるハズだった。しかしリットモンドが持っているハンドリンクが盗品であったとしても、この世界の常識だと裁判をして勝利しなければ所有権を主張出来ない。つまり彼の機嫌は損なえないし、また譲ってもらえる布石は打っておかねばならなかった。
「いえいえ。」
そういってミューズ座る長椅子、ミューズの座るその隣に腰掛けるリットモンド。リッチモンドの手がミューズの腰に触れようとしたー
「ミューズさん。リッチモンドさん。こんにちは実はお話がありまして、ミューズさん、少しよろしいですかな?」
遠くでミューズとリッチモンドの会話を見ていた副工房長モンターニュがリッチモンドの行動に我慢できず、会話に割り込む。
「副工房長は無粋ですな。こうしてミューズさんと私が楽しく会話をしているというのに、私がいなければミューズさんはあの鳥籠から出ることなどできなかった、運命の二人をこうして引き離さすとは」
「リッチモンドさん、もしかしたら私の体に悪いところが無いかどうかの検査かも知れません。私もまだ体調が悪く、検査をこちらから申し出ようと思っておりました。リッチモンドさん、申し訳無いのですがこの会話の続きは後日で宜しいでしょうか?」
本当に申し訳無さそうにするミューズを見て、脈ありと打算したリッチモンドは答える。
「確かにミューズさんの体調が悪いのは捨て置けませんね。ここは副工房長にお任せする事にしますか。しかし、もしも副工房長殿に何かされましたら、このリッチモンドにお言い付けください(ニコリ)」
「では失礼します。」
軽いお辞儀をして、副工房長モンターニュと共にサロンを離れる。長い廊下を二人で歩く。
「全くあのリッチモンドという男、女癖の悪い事で有名でしてな。確かにあの装置から貴女を出しましたがあれはガントレットの力であって、あれがあれば私にだって貴女を装置から出す事が出来たのです。騙されてはいけませんぞ、あの男は多分その、、貴女の体だけが目当てなのでしょう、最低の屑です。」
そういう副工房長のモンターニュも赤い簡易ドレスを着て更に魅力的になった、ミューズの胸やお尻を執拗に視る。
「記憶の方は戻られましたかな?あの装置の事は思い出せませんか?」
「はい、モンターニュさんのお役に立てず。申し訳ありません。装置も私への引き渡しを検討しているそうで、、」
装置とはアンドロイド用メディカルマシーンの事で、自動で修理や記憶のバックアップを行うことができる。大きさは縦二メートル横幅一メートル、奥幅が一メートル半程。
オプションのミューズ用の各種装備品の倉庫はマシンの右側にあり取り外し可能、大きさは一メートル四方の立方体、稼働時は中央から左右に開き横幅が一メートル半程になる。
中にはプラズマガン(弾数20発、充電一時間)
ブラストカノン(弾数8発、実弾の為補充不可能)
レーザーナイフ(五十センチほどの長さの少し反りがある柄が太いタクトの様な棒、半永久電池、連続使用時間1分、完全チャージ五分)現在太股に隠して装備中
が入っている。
また服や装飾品もこの倉庫に入っているが、武器が入っているのを知れば、工房の人達が返還を拒む事も考えられるので、このことを知るのはミューズだけである。
「これはミューズさんのものだったのでしょう?ミューズさんが寝ているベットを我々が持ち出して、勝手に所有権を主張していたに過ぎないのですから、大したことでは有りませんよ。」
勿論、工房側もメディカルマシーンを商人から買い取ったのだから、その商人との料金返還の打ち合わせもあるので直ぐにという訳には行かないらしいが。
「モンターニュさんはお優しいですね。」
モンターニュはミューズの言葉に気を良くしたのか、モンターニュは監視対象のミューズに初めての外出許可を出す。勿論同行者はモンターニュである。
海洋都市国家ガーランは強固な街である。海側は武装船とバリスタ、迷路のような船道・堤防で固められている。反対の陸地は巨大な壁が街の半分を覆い、街を守る兵士達の士気も高い。
陸地からガーランへの入り口は2つ。正面中央にある巨大な正門、これは商業施設への扉。多数の衛兵や商人、芸人、旅行者、旅人、移民などが犇めいる。街に入るモノは衛兵の検査の許可が降りれば、通行料(芸人は若干安い)を払い街に入ることができる。
もう一つは兵士達が行き来する、防衛用の扉であり。扉の壁内近くにある砦には戦車や兵士達が訓練に勤しんでいた。
モンターニュはミューズを連れ街をひとしきり案内し、最後に商業施設に向かう。商業施設は商店街と歓楽街に分かれていてミューズが連れてこられたのは商店街。
「ミューズさん、何か欲しいものがあったら言ってください。お好きなものをプレゼント致しますよ。」
と言ったのはリッチモンド。苛立った表情のモンターニュは忌々しげにリッチモンドに言う。
「何故リッチモンドさんがいるのか分かりかねるが、何故にミューズさんの外出に付いて来ているのだ?」
「未来の夫婦が一緒であるのに何か理由でも?」
リッチモンドはモンターニュの横に自分の護衛2人挟み自由を奪いながら、ミューズの横に陣取り離れようとしない。モンターニュは少し出た腹をさするしかない。
ミューズ達は街の人々の目を引いた。厳つい護衛がいたからではない、ミューズの美しさに道行く人々の目が釘付けになり、振り返るからだ。こんな女性がいたのかと。
アンドロイドが美しく造られるのには理由がある。ヒューマノイドの美醜の判断では、美しいものには好感を、醜いものには嫌悪感を持つように出来ている。それは主人や使用者の周りに迷惑が及ばないようにし、また主人の寵愛を受ける、受け続けるために必要なものだからだ。
ミューズはリッチモンドがプレゼントしてくれるものを考える。基本的に主人からのものであれば塵屑であろうと嬉しいのだが、この場合は高価な品を選び後で換金することが望ましいと考える。
高価な物は何だろうと街を歩き吟味。すると魔石や奇妙な杖に目がとまる。
「それは魔力の結晶である魔石ですね。魔力というものは空気中にある時はマナ、体内にある時はオドといいます。しかしマナやオドは微小で魔術を発動する事が出来ない。そこで外部からのエネルギーとして魔石を利用するんです」
モンターニュが自分の知識を披露する。リッチモンドはおもしろくなさそうに聞く。
「魔石は何から出来ているのかは諸説有りますが代表的なのは、魔術を使わなかった生物がマナからオドへ魔力を変換し、生涯掛けて体内で凝縮させるという説が一般的ですね。」
いいながらモンターニュは隣の奇妙な杖についても補足する。
「こちらは戦闘用のスタッフと儀式様のワンド、長寿の木で作られるものですな。これは樹齢が長いほど魔力が宿り、威力が高い魔法が使えるらしいです。基本的には魔石は消耗品で、スタッフやワンドは何度も使えますがその都度木に貯蔵されている魔力を使用します。全て使うと暫く使えなくなるという欠点が有りますが長いスパンでみると経済的です」
ミューズが魔石〈金貨一枚〉と小型のワンド〈金貨五十枚〉を眺めていると露店の中から、言い争う声が聞こえ、中を覗く。店の主人らしき中年男性と客である若い女性がいた。
「この大きさの魔石が金貨一枚なんて、おかしいんじゃない。二枚でしょ普通!!この魔術学校主席アリサ・スターライトは騙されないわよ!!」
「言いがかりはやめてください。こんな魔石なんて巷では沢山ありますよ。もう帰って下さい、本当に(泣)」
「はっはっはっ、図星を指されて困っているようね。やはり二枚、二枚なのね!!ひゃはは。」
店の主人は頭を抱え込んで俯く。
「分かりました、本当に。二枚でいいですから、帰って下さい。そして二度とこの店に来ないで下さい(号泣)」
「交渉成立ね☆まぁ私は優しいから、今後歴史に名を残す大魔術師になるであろうアリサ・スターライトのサインをあげるわ。後で金貨百枚の価値は出るわよ。あはっはっはっ」
若い女性は金貨二枚を受け取ると、店の外へ。
「うくく、占いというものは重々重々。奇人変人装えば吉。ほうほう、常人とは思えない相を持つ女性。なる程なる程。」
ミューズを見る女性。その女性は金髪を後ろでまとめ上げ、くたびれた黒い尖り帽子を被っている魔術師風の服装。特徴的なのは腰から下げたスタッフ四本と首から下げた巨大な魔石。彼女が身に付けているものを仮に売れば彼女は悠々自適に暮らせる額になるだろう。
「レディ、何か我々にご用で?」
リッチモンドは女性の前に立ち質問。それはミューズを護るためか、女性を口説く為か。
「貴男に用はないの。そちらの人外と思われる女性に用があるのよ。私は占い、特に探し物が専門でね。勿論荒事解決もやるけど。コッチの方がリスクないし、結構当たるから占ってみない?」
女性の顔は美人に分類されるが、にこやかに笑うと引き込まれるような魅力があり、女性でもドキリとした。これはアリサ・スターライトの売り文句で大抵、占いを頼まれる。
「、、それでは頼みます。料金は?」
「私が払いますよミューズさん、ご安心を」
リッチモンドの言葉に女性は満足したのか。場所を広場に移し占いを始めた。ミューズも女性も立ったままの姿勢。女性が取り出したのは13本の棒で一本ミューズに持たせた。そしてー
「魔術を発動させます。4本3組になっていてそれぞれ、青の棒が【最も必要なもの】、赤い棒が【吉凶】、黄色の棒が【未来への標】を表しています。ではいきます。」
ワシャワシャと両手を使って棒を揉み、それを空中に投げる。その棒が宙を舞ったまま静止する。
「コレはワンドを削って作った棒でね、私のオリジナルの魔術なの。学校の課題で作っただけで出来が良いし、私主席だし。」
最後意味が分からなかったが、ミューズは薄ら笑いでごまかした。女性は棒の位置や配置を見ながら考える。
「ふむふむ、探し物はこの街の近くにあるけど行かず街で待つ方が良いと出ているわ。方角的には兵舎の方かしら、簡単に見つかるし分かるハズよ。本当に大事なのね、今まで色々な探し物があったけどここまで求めるものって何なのか、、」
ミューズはその言葉に耳を傾けながら頷く。
「さて吉凶は更に西、ここからだと海上になるかしら、出会いがある。良いか悪いかはわからないけど、コレはもう少し後1ヶ月後位かしら。行く先は無限、よくわからないけど更なる世界が見える。最後、未来への標は、、何と!私です。コレが一番分からないんだけど、また会うって事なのかな?」
そういってミューズの持っているワンドを受け取り、リッチモンドに手を差し出した。お金の催促である。
「レディ、アリサおいくらかな?」
「金貨五枚」
リッチモンドは考えた。一般的な占いなど銀貨一枚程度である。金貨一枚あれば無理をしなければ三日は宿に泊まって食事が出来る。それが五枚コレは法外な値段だと受け取れるがー
「はっはっはっ、これは安いですね。他ならぬミューズさんの為の値段です。金貨十枚払いますよ。おい。」
護衛の男に金貨十枚を支払わせる。リッチモンドはニヤリと笑い高級な服を正す。見る女性が見れば、様になっていているがミューズは見ていない。
「モンターニュさん、兵舎に行きたいのですが、、」
「兵舎でしたら、この通りをずっと真っ直ぐいって突き当たりの細い路地を抜けた所に有りますが、、あっミューズさん?!」
タタタタッ。
ドレスとは思えない速度で兵舎の方へ走って行くミューズをリッチモンドとモンターニュはただ見ているしか出来なかった。それはまさしく疾走で、リッチモンドはおろか、陸上のスプリンターでも追い付けないような速度だったのだから。
「ミューズ、よっぽど重要な物なんですね。多分宝石か何かなのかな?」
「知らんよ。しかし、監視対象のミューズさんを追わんと、、はぅ、人力車でも捕まえるか。」
「さてさて、私は街の北に用事かあるので失礼しますね」
女性が商店街を抜け北へと足を向ける。そこに残されたのは男4人と公園で騒ぐ子供達だけだった。
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