第8話 涙の塊

 フォルは空を割って突如として現れた物体と、少女に驚いていた。


 が


 その物体と少女も同時に驚いていた。

 ヒックとロッシーは意思疎通が、喋らずに出来る。


(ちょおおおおおおおおおおっと!!!、ヒックさん?!?!なんか着替えてるけど、あの赤い服の子が目の前にいるんですけどぉぉぉぉぉぉっ?!?!)


(いいいいいいいいいいいっ?!?!な、なんでフォルがここに居るんだよっっっ!!!!んなワケねえええええええええええ!!!!!!!)


 まさか、こんなに相手が焦っているとは考えていないフォルは杖を構えて戦闘態勢に入りつつ

「あなた達は何者なの?!私の名は魔道ノ君人フォルヒックトゥーナ!エゲリアの者なの?!それとも敵?!」

 と問いかける。


 ロッシーは頭の中でクエスチョンマークが乱立している。が、ヒックは少し思い当たる所があるようだ。

 ヒックが竜騎状態のままフォルへと語りかける。


「驚かないでいて欲しい、俺だ、ロランだ、、、」


 フォルは想像もしていなかった答えに狼狽し構えていた杖を下ろし、こう続ける。


「本当、なの、、、?」


 怪訝そうな顔を浮かべて、竜騎のヒックを見つめている。


「それなら信じさせてやる。見てろ」


 そう言ってヒックは眩いパチパチとした光を放ち、人の形へと戻る。

 それと同時にロッシーもパチパチとした光を放ち、いつもの服へと戻った。


 光の中から現れたロランを見たフォルは息が止まり、目を見開いて、また目からは涙が出て来そうになる。


「ロラ…」


「うっわああああああああああああっ!!!」


 人となったヒックは飛ぶことが出来ずに急降下している。

 そして、竜騎ヒックの頭に乗っていただけだったロッシーも同じく落ちて行く。


「うっぎゃあああああああああああっ!!!」


「おい!ロッシー!早く飛行の魔法を…って!なんでお前も落ちてんだよ!!」


「だって私、飛ぼうと思って飛んでたんじゃないし、さっきは頭に乗ってただけなんだもん!!どーやって飛べば良いのよぉぉぉ!!」


 見るとロッシーの服も、家から着てきた服に戻っていた。

 その時、下にあるエゲリアと対立していた敵軍の基地が、仲間の成果なのか破壊され大爆発を起こす。


 その爆風が上へと上がる。


「なんじゃこりゃああああああああ!!!」


「どうなってんのよおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


 爆風の真上から急降下しているヒックとロッシーは、爆風に巻き込まれ、また上に吹っ飛んでから下に落ちて行く。


 ケンカしながら落ちて吹っ飛んで行く2人を、引きずった顔で見ているフォルは


「…えぇぇ」


 と呟いた。。。



 数分後、、、


「アナタ、魔導師なんじゃないの?空も飛べないなんて低脳も良いとこだわっ。私のロランに何かあったらどーするのよ」


「あ、あの…少し、、、離れっぐぇ!」


 フォルはヒックの身体に抱きついて離れようとせず、離れようとすると凄いチカラでヒックを締め付ける。


「あ、あの…私、帰りたいんですけどぉ…っ!!」


 知らない土地に到着早々、不幸に会い、なんだか良く分からないが、不快なモノを見せられてるロッシーは右手を天高く大きく上げて発言する。


「…」


「…」


 2人はロッシーを無言で見つめる。


「…んくぅっ!!!」


 いたたまれなくなったロッシーは、振り返り森の中へと走って行ってしまう。そこにはロッシーの涙とおぼしきキラキラが残っている。

 森の中へと消えて行くのを見ながらヒックはロッシーに叫ぶ


「夕飯までには帰って来いよおぉぉぉぉぉっ!!!!」


 というか(俺は、この状態で夕飯が作れるのだろうか…)と下を向くと腰に巻きついたフォルが、「ゴロニャンゴロニャン」と言いながらクネクネしている。


 2時間後、、、


 日が暮れる頃、ロッシーは何故か野生の動物や山菜、毛皮などを持って帰って来た。

 山育ちの性なのかもしれない。


「いやぁ!うめぇなぁ!この肉、最高だぜ!ありがとよロッシー!」


「ボンクラ魔導師にしては、なかなかやるわね。美味よ!」


「…ズズッ」


 野生の動物の肉が入った山菜鍋を、テンション高く平らげる2人に比べ、ロッシーは1人黙々とスープをすすっていた。


「おい!どうした?!そんなんじゃ身体に栄養が吸収されないぜぇ~?!」


「そうよ!ロラン、私が食べさせてあげるからねん!はい、ア~ン♡」


「いや、そーゆのはイイで…ん!んががががっあづっ!あづいっ!!ぉぼっ!!!」


 拒否するヒックの口を左右から強く押して、無理矢理開かせて鍋からダイレクトにすくったスープを口に流し込み、その熱さで悶えるヒック。

 そしてスープの進撃は目や鼻にも飛び散り、悲惨な事になっているがフォルの目はハートになっていて何も見えてなさそうだ。


「おい、ぶお!ロッ!んぐ!助け!ングガガガガガッ」


 食べ終えたロッシーは、毛皮を頭から被り耳を手で抑えながら寝てしまった。


「帰って…本が…読みたい…図書館…行きたい…」


 と小声で呟きながら。



 翌日3人はフォルの案内で、エゲリアへと向かう事になった。

 相変わらずフォルは、ヒックに腕組みをして離れようとしない。

 ロッシーは寝たからか、感覚がマヒして来たのか、少しこの状況に慣れて来ている。


「ねぇ、2人は前から知り合いなの?」


 ロッシーは、2人に問いかける。

 するとフォルが歪んだ顔でロッシーを睨み答える


「はぁ?!前から知り合いぃ~?んなもん、こーーーーんな、ちっさい時からの幼馴染で許嫁なのよ!!私とロランは!!!」


「ロランって、ヒックの、事、よね…?」


 昨日から疑問に思っていた質問を投げてみるも想像通りの「当たり前でしょ!」という返事がフォルから返って来る。


 そして逆に「あんたは誰なの?!ロランの何なのよ!」という質問をされてしまう。


「私と、、、ヒックは、、、その、、、なんて言うか、、、何なの…?」


 困り笑いをしながらヒックに助けを求めるが、ヒックは空を見ながら口笛を吹く、という古臭いとぼけ方をして誤魔化そうとしている。


 が、フォルも気になるようでヒックへと詰め寄る。


「ロラン!この女は誰なの?!浮気なの?!てかヒックて何?!あの時、死んだんじゃなかったの?!ねえ!!」


「え、死んだ?」


 ロッシーはビックリして口から言葉が出てしまったようだった。


「そうよ!ロランは昨日、青白髪のメガネ男に、胸を貫かれて倒れて、、、死んでいたのよ!それがあんな風に、また私の目の前に出て来てくれるなんて…夢みたい、ううん。夢なんじゃないかと思って、離れたくなくて、、、私」


 フォルの目には涙が集まって、大粒になろうとしている。


「そのロランと俺は同じだ。でも俺はヒックでもあるから、そのロランとはやっぱり少し違うのかもしれない」


 何を言ったのか良く理解出来なくて、涙を貯める事を辞めたフォルの目から、重力に逆らえない大粒の涙が、意志とは無関係に頬を伝った。。。


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時空魔竜騎アースガルンプロット. 一ノ元健茶樓 @earthgarun

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