第7話 魔導師

 フォルヒックトゥーナとズルワーンは、魔導学科へと進学し、優秀な魔導士として成長していた。


 ロランは兵士学科へと進学し、剣士として修行を積んでいた。


 このエゲリア学院は将来、この国の為に働ける兵士を育成する学院であり、何かしらの戦争があれば皆、徴兵され戦場へと駆り出される。

 19歳になった頃、ロランはある戦場へと駆り出された。理由は兵力不足の為、学生でも何でも戦地へ向かわせろ。という王の命令であった。


 魔導学科の2人は遅れて、その地へ派遣される。


 戦場でロランとフォルは同じ隊に派遣され、ズルワーンは別の隊に配属された。


「ねぇ!なんで私たちが急にこんな戦場に駆り出されなきゃなんないの?!私、、、怖いわ!」


 最初の作戦が開始する数分前、フォルはロランにそう告げた。


「バカ!今更そんな事言ったってどーにもなんねーぞ!目の前の事に集中しろ!これは訓練じゃねーんだ。そんな気持ちだと死ぬのはお前なんだぞ!フォル!」


 杖と膝を抱えて顔を伏せているフォルのフードを掴み顔を上げ、厳しい顔でロランは告げた。


「わ、分かってるけど…ぉ」


 ぐすんっという音を皮切りに、目から大粒の涙が出て泣いてしまったフォルを見てロランは、しまった、、、。という表情になり手で目を覆う。


「わ、悪い!俺も怖くてピリピリしてた!一緒に帰ってめっちゃ美味いメシでも食おうぜ!俺のバディはお前だ!お前がしっかりサポートしてくれれば俺は最強のナイトになれる!お前も守れるし俺も助かる!!」


 ロランはフォルの両肩に手を置いて揺らしながら、励まし力説する。

 涙が少し収まり、ロランを見つめるフォルの頬は少し桃色になっているような気がする。


「わ、分かってるわよ!そんなの!!てか近いわ!離れて!!!」


「うっ、うわぁ!!!ってぇ!!、!、、」


 フォルはロランを突き飛ばし、ロランはよろめき後方の壁に頭から突っ込んだ。


「ロラン!大丈夫?!」


 少しやり過ぎたと驚いたフォルは、慌ててロランの方へと駆け寄り手を引いて起こす。


「それでこそ、いつものフォルだな」


 と起き上がりながら答えるロランに見つめられ、フォルの頬は完全に赤くなっていた。


 その時だった。

 耳に着けた魔道通信装置に伝令が入る。


「総員戦闘準備!カウント、さんまる、スクランブル下降発進!!」


 ロランとフォルの顔が一気に引き締まる。

 2人は無言で見つめ合って頷き

 この暗くて狭い、部屋の中央へと移動する。


 ロランが前、フォルが後ろという順番となり、フォルは何かしらの呪文を唱える。

 耳から聞こえるカウントが0となった瞬間、足元の床が真っ二つに割れ2人は下に急降下した。


 2人は空中に放り出され、急降下の風圧で顔が歪み、髪がなびく。

 戦地搬送小型魔導師弾から放たれた2人は、敵地真上より戦闘を仕掛ける。


 戦地搬送小型魔導師弾とは

 戦地へ迅速に戦力を送り出す為に作られた、搬送と砲弾が合体した物で、ロランとフォルはその中に居た。


 2人の周りは球体の光に包まれ、落下速度は落ちていないが風の抵抗は無くなっている。

 続けてフォルが何か唱えると、光の球体のアチコチから地面に向かって魔導光が放たれる。


 落下しているのはフォルとロランだけではなく、他のユニット部隊も無数に落下している。

 そのユニットから同じように閃光が放たれた、辺りは光に包まれる。次の瞬間、大地へと降り注ぎ大きな爆発を産み出す。


 戦地に足を踏み入れた2人は、フォルの魔法防御とロランの体術剣技により、相手兵士ユニットをなぎ倒して行く。


 そして敵の基地内心部へと単独で進撃して行く。

 2人はここまで打撃のみの失神を相手に与えただけで、剣で命を切り刻んではいない。


 敵の基地、最深部にあるエーテルマナ炉を停止させ、こちらの魔導プログラムに変換してしまえば基地の設備を乗っ取り、降伏が望めると聞かされていた。

 フォルは魔道プログラムに関しては学院、いや、この国で右に出る者が居ない程だった。

 本人も何故か分からないらしいが、魔道プログラムに関して行き詰まる事は無かったようだ。


 そしてロランは剣技、体技の成績は優秀。この国で最強とは言わないが、フォルとの連携、相性が抜群で今回の作戦のホープとして選ばれた。


 そして結果は見ての通り、最深部まではシュミレーション訓練の半分の時間で到達。あとは魔導プログラムをエーテルマナ炉に流して、こちら側に変換するだけだった。


「ねぇ、、、どうしよう、、、最終キーが開かない、何か知らないロックが掛かっているわ。ううん。魔導プログラムじゃない何かが、、、」


「何言ってんだよ。そんな訳ないだろ。魔導プログラム以外って…」


 エーテルマナ炉の制御モニターを2人で見つめる。画面の中央には赤い荒げずりな、宝石のような物が浮かんでおり、それが最終キーとなるらしい。


「こんなクリスタル型の魔導キーなんて存在しないわ。しかもこんな歪な形で…」


「何か無いのかよ」


「私も今、色々試してるの、、、でも、、、」


 制御モニターを触りながら、困惑の表情を浮かべるフォルを心配そうにロランは見つめている。


 そこへ…


「お困りのようだね?フォルヒックトゥーナ?」


 突然、2人の後ろに黒い服に白衣を羽織った、髪の先端が青い白髪の年齢不詳な眼鏡男が、音もなく立って2人に声をかけてきた。。。


 フォルは知らない声に驚き、振り返って杖を構える。


「そんなに驚かないでくれよフォル。僕は君を助けに来たのさ。心配はしないで」


 そう言って近づいて来る青白髪の男。

フォルは怪訝な顔をする。何故ならこの男とは、初対面なのだから。


「だ、誰よ、アナタ…」


 フォルは後ろへ下がるも、エーテルマナ炉と制御端末に背中を押され、それ以上下がれない。


 そしてロランの姿が無い事に気づく。

 それは何故か?フォルはすぐに知る事となる。

 青白髪の男の横に顔を伏せて倒れている。


 他に人影は無い。ロランだ。


 ロランが胸から血を流して倒れている。

 その赤い血は、胸に空いた穴からドクドクと吹き出し、止まろうとしていない。


「ロラン!!!」


 フォルは慌てロランに近寄り、治療の魔法を試みるが大きな傷、というか穴が空いてしまっている相手を治療した事など無く、魔法が間に合う事も無い。幾ばくか血の流れが少し収まった程度だ。


 その間も「ロラン!ロラン!!」と必死に呼びかけている。

 それをずっと黙って見ていた青白髪の男が声をかけてくる。


「ロランはもう居ない。奴の魂は他へ行った。全くしぶとい奴だ。私がわざわざ1人でこんな所まで来たというのに。さぁ、フォル。私と行こう…」


 そう言ってロランの胸を貫いた、鉄で出来た鎧の様な血だらけの手をフォルへ差し伸べた。


「許さない…あんた…なんなのよ…私のロランを………返しなさいよっ!!!!!!」


 怒りの形相で青白髪の男を睨みつける。

 杖とフォルの目は共鳴し、赤く光る。体からも赤い光とプラズマがチリチリと発光している。


「おや、これは参ったな……だけど…これで…」


 肩をすくめてヤレヤレという様なポーズをとった後、青白髪の男は左手をフォルに向けて開く。


 次の瞬間、2人の身体は攻め込んでいた敵基地が、手の平くらいの大きさに見える程、上空へと瞬時にして移動した。


 少し浮上した後、急降下をする2人。

 フォルは一瞬、驚いた様子だったが「…好都合よ、逃げ場は無いわ」と小さく呟くと、詠唱を始めた。


 プラズマがパチパチと弾け飛び、赤い稲妻が当たりを包む、そしてそれは赤い竜となり咆哮する。


「我が愛しの赤き稲妻よ!禍々しき胸を貫き、その心を奪い去りたまえっ!!」


 閉じていた赤い閃光を放つ目を開き

 目標を定め、青白髪の男の胸に左人差し指を重ね叫ぶ。


「喰らいなさいっ!!ドラグローズッ!ランサァー!!!!」


 ドラゴンが細い槍の様になるのを確認するのが先か、青白髪の男の胸に赤い槍が刺さるのが先か。

 それほどの速さで敵を貫くフォルの最上級魔法が炸裂する。

 青白髪の男の胸を貫いた、赤い稲妻の槍は、薔薇の花びらとなり地上へと舞落ちて行く…。


 青白髪の男の胸には穴が空き。

 後ろに倒れてそのまま落下していく。


 それを宙に浮いたまま見るフォルの目から光は消え、ただ落下していくのを眺めていた。

 青白髪の男は落下しながら砂埃へと紛れ姿はは見えなくなる。


 すると現実に戻されたかの様にハッとした顔をする。そして目からは涙が。頬を伝い、同じく地上へと落下していく。ボロボロと何度も、何度も。


「ロラン、、、なんだったのアイツは、、、ウッウウワァンッ…ッ!」


 泣くことを抑えられずにフォルは泣きじゃくる。


「ロラン!ロラン!ロラン…ッ!」


 少女の世界はグニャグニャに歪み、息は均等には出ず喉はつっかえ、力は抜ける。


「ロランを返してょ…ロラン…」



 その時、突如、フォルの後ろでバリンッとガラスが割れる様な大きな音がする。


「っえ!!!」


 驚き振り返るフォルは空が割れて、真っ暗な空間が広がっている事に気づく。


 そして、その中から白い大きなドラゴンの様なものと、その頭の上に乗った黒い服を着た女の子が出て来るのを、ただ呆然と眺めていた。。。


それは紛れもなく、竜騎ヒックとロッシーだ。




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