第6話 フォルとズルワーン

フォルヒックトゥーナ

 通称:魔導ノ君人-マドウノキミビト-


 そう呼ばれて何年になるだろう。

 ズルワーンとの出会いは、運命的なものであった。

 しかし、ロランとの出会いは必然だったのかもしれない。


 ロランは朝起き、コーヒーという飲み物を飲み、新聞という色々な記事や、色々な情報が掲載されている紙を手にしている。机の上には、卵という鳥という生き物が産み出す、白くて丸い硬い殻で覆われ、中はドロリとした半透明の白身と呼ばれるタンパク質と、卵黄と呼ばれるプルンとした黄色く丸い栄養物質を、フライパンという調理器具で、殻を割って中身だけを落とし焼いた、目玉焼きというものが皿の上に置かれている。


 窓の外には鳥が飛んでおり、それは動いていない。

 ロランもコーヒーが入ったカップを口に添えたまま動いていない。


 フォルはその光景を眺めている。


光る板のような物を手に持っている。

その光る板の中にロランが停止して映し出されているのだ。


「この人が、、、ロラン。私の、婚約者…」


 フォルはため息をひとつ吐き出すと、ガラスカップでローズティーをひと口飲み、テーブルにカップを置くとベットに倒れる。

 そしてまた光る板を見る。


「消灯…」


 フォルがそう呟くと部屋の明かりは全て消え、真っ暗になる。

 フォルヒックトゥーナは眠りについた。




 ここにズルワーンという少年がいる。


 ズルワーンは、時空竜騎という魂と語り合っている。


「君は僕のなんなの?」


 蒼い火の玉の魂は答える。


「私は未来の君だ。未来では肉体は退化し、魂が進化する。なので今の君は私の肉体が進化し、魂が退化した存在なのだ。分かるだろうか?」


 少年だったズルワーンは少し首を傾げるが「何となく分かるけど。。。」と答える。


「まぁ無理に理解しなくても良い。少し厄介な事になってしまって、私は君の身体を借りねばならなくなった。今は一刻を争う」


 そう言うとズルワーンという少年の身体は蒼い炎に包まれる。

 不思議と熱くはない。


 胸の中から蒼い魂の声が聞こえる。


「これから私の意識と君の意識は同じとなる。記憶や情報は共有され、同じ魂の種だという事で全てはスムーズに処理され1人の魂となる契約の元、我々は時空竜騎ズルワーンとなる。残念だが君に拒否権は無い。いや、もう未来の記憶が残って居るんじゃないだろうか?思い出して欲しい、未来を、まだ退化する前の魂を」


 そう言われて少年のズルワーンは目を閉じて思い出す。

 自分の未来を。魂の記憶を。


 そしてフォルヒックトゥーナという、少女の事を。




年の頃は8歳くらいだろうか?


 花畑の中の道を、少年と少女が仲睦まじく手を繋いで歩いている。

 少年は花束を持ち、少女はバスケットのカゴを持っている。

 少しだけ丘の様になった休める場所に着くと、2人はその場所に腰を落とし、バスケットのカゴからサンドイッチとスープを取り出して、昼ごはんを食べ始めた。


「美味しいね!」と言いながら笑い合い、サンドイッチとスープを食す2人。


 男の子の口からこぼれ落ちたパンのかけらを、小鳥がつつく姿を見て2人はまた微笑む。


 食べ終わると、少女は少年に花の冠を作り渡した。

 そして2人はまた手を繋ぎ、森の中へと帰るのだ。


 森を抜け街へと帰って来ると、2人は手を振り別れそれぞれの家へと帰る。


「ただいまー!」元気よく帰って来た事を伝えると、フォルの母は庭で洗濯物を干しながら「おかえり~!サンドイッチとスープどうだったぁ?!」と大きな声で答える。

 フォルも大きな声で「美味しかったぁ!」と答える。

 そしてフォルは2階の自室へと行きベットに座り!そのまま後ろに倒れ寝てしまう。


 同じくズルワーンも家へと帰る。


「ただいま」と言うと、部屋に居る父親が本を読みながら、ズルワーンの方は見ないで「おかえり」と一言だけ話す。


 ズルワーンはそのまま黙々と2階の自室へと行き、父親からは見えない様に隠して持って来た、フォルに貰った花冠を頭に乗せて鏡を覗き込む。


 気にいってるのだろうか。ズルワーンの顔は綻び緩んだ顔となる。


 その時、自室の扉がノックされる。


「ロランが来てるぞ」と父親に言われて飛び上がり、ズルワーンは机の引き出しに花冠を隠して自室から出て玄関へと降りて行った。


「何か用?」


 ズルワーンはいつもの通り、落ち着いた様子でロランに聞いた。


「なぁ!今日フォルと2人で森の奥の花畑に行ってたんだろ?!どうだった?!」


 無邪気な笑顔でロランは問いかけている。


「ど、どうだった…って言われても…ふ、普通だった…」


 ズルワーンは困った様に答え、手の平でメガネの横を押し上げた。


「普通かぁ…楽しくなかったのか?!」


 また無邪気な笑顔で質問して来るロランに対して、ズルワーンは少し苛立つ。


「楽しかったが君には関係ない事だろ」と少し強く言うと、「帰れ」ともう一言付け加えて扉を閉めた。


 外でロランは「ちぇ~!」と言いながら、帰る足取りの土を踏む音が聞こえる。


「な、何しに来たんだ、アイツ…」


 理解不能だという感じで、ズルワーンはまた自室へ上がろうとすると父親に「夕食は?」と聞かれる。


 ズルワーンはあまり空腹では無かった為に「いらない」と答えると、2階の自室へと戻り、机の引き出しを引いて、中にある花冠を眺めて微笑む。

 その顔はとても穏やかで素直だった。


 その時だ。


 目の前が真っ青に光る。

 すると周りは真っ暗闇になり


 目の前には蒼炎が燃え広がっている。

 何が起きたのか整理する間もなく声が聞こえる。


「私は魂、君の未来だ」


 声は蒼い炎から聞こえて来る。

 不思議と恐怖は無かった。


「僕の、、、未来?」


 ズルワーンは悩みながら問いかけた。

 蒼い炎は答える。


「そう、君の未来、私は君で、君は私だ」


 ズルワーンは何か不思議な感覚を感じてこう答えた。



「君は、、、僕のなんなの?」



と。

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