第3話 黒い流れ星

 

「ユニリンク!!!」




 2人は光に包まれる。


 小指を離し、別々に宙へと浮かび上がった。




 ヒックの身体は白く輝き、その光は巨大な人型となった。


 中心から光が消えて行くと、中からは巨大な白い騎士のような物が現れた。




 ロッシーは黒い光に全身が包まれ、黒い帽子に黒い服のスカートというような格好へ




 変身をした。




 姿が変わり慌てふためくロッシーは、ヒックの肩まで浮かび上がり、そこに立って状況を見守る形となっていた。




 赤い服の少女が森の中を颯爽と駆けている。


 木々の間から巨大化したヒックを見て叫ぶ。




「ちょっ!私がズルワーンを降りてからユニリンクするなんて卑怯じゃない?!しかもこんな森の中で!!てかっあの女なんなの?!ロランとユニリンクしてた、あのオバサンはどこ行ったのよ!もう~!!!全然話が進まないわっ!こっちの都合も考えてよねっっっ!!!」




 と叫ぶやいなや、上空にあの青く輝く鉄の塊で出来たようなドラゴンが停止した。




「行くわよ!ズルワーン!こっちもナイトモードよ!」




 そうすると、蒼いドラゴンから声が聞こえて来る。




「分かっているよ。フォル。」




 ギギギッと音が聞こえると、ダンッ!ダンッ!


 と蒼きドラゴン ズルワーンのあちこちが轟音と共に駆動し始め、あっという間に、人型の騎士タイプへと変形する。


 森の中に2つの巨大な鎧が、少しの距離を置き向かい合う形となっている。




 それを巨大なナイトとなったヒックの肩に立って見ていたロッシーは、またもや度肝を抜かれた顔をして唖然としていた。


 が、次の瞬間ヒックの声が聞こえて来る。




「来るぞっ!戦えっ!!」


 ヒックの声はするが姿は見えない。


「え?戦えって?!」


 現在の状況整理が全く出来ていないロッシーにとって、その声が放つ言葉の意味を受け取る余裕は無い。




 ズルワーンは、こちらに距離を縮めて来ていた。


 気が抜けていたロッシーは、慌てて何も出来ない。


 ズルワーンの右パンチがヒックの胸部に直撃し、ヒックはそのまま後方へと吹き飛ぶ。


 肩に居たロッシーもそのまま一緒に吹き飛んだが、途中で身体が発光し、そのまま宙に浮いた状態となる。




「え、飛べるんだ、私。。。」




 よく見ると向こうの赤い少女もフワフワと、宙に浮いてファイティングポーズをとっている。


 ヒックの声が聞こえる。




「おい!早く起き上がらせてくれ!俺は今、自分のチカラでは動けない。俺は今、ナイトで相手のナイトからお前を守れるだけのチカラはある!だけど戦うのはお前だロッシー!」




 ドシンッ!と巨大な音がしたと思って、ズルワーンの方を慌てて見るロッシーだったが、その姿は無くなっていた。




 不思議に思っていると目の前が暗くなる。


 森には大きな影が出来ていた。




「上だっ!!」




 ヒックにそう言われ、空を見るが遅かった。




 ズルワーンの巨体がヒックの上へ、足からのしかかる。


 森は沈み、ヒックは地中へ腹部から埋もれていく。




「ぅっぐぅっ...ッ!!」




 くぐもったヒックの声が頭に響く。




 ガンッ!ガンッ!!


 その後もズルワーンは片足でヒックを何度も踏みつけている。その都度、聞こえて来るヒックのうめき声。


 そしてロッシーにもまた、腹部に鈍い痛みのようなモノが伝っている。




(なんなの、これ、私はどうすればいいの。何を望まれているの。なんなの、これは。私は何をすればいいの。やめて、もうやめて。、、。怖い。痛い。訳が分からないわ...)




 ロッシーの目からは急に涙が。


 だが攻撃が止む事はない。


 ヒックのうめき声は強くなっていく。




 滲む視界の先には馬乗りでヒックを殴っているズルワーンと、赤い服の少女の姿がぼんやり見える。


 そして赤い服の少女が口を開く




「どーしたの?!ロラン!さっきは驚いたけど、あの女は飾り?!これで貴方の魂を頂いて完璧な時空竜騎を作り出せるわ!!世界は、、、いいえっ!!万物創世、全てが、このフォルヒックトゥーナちゃんとズルワーン!そして、あの人のモノになるっ!!!」




 (何を言っているの?あの子は?どうして普通にそんな事が出来るの…?)




 ズルワーンがヒックの顔を、両手で交互に殴る度、ロッシーの顔にも少し痛みが伝わる。ヒックの呻き声も弱くなっていくきがした。




「め、、、て、、、、もう、、、、や、めて、、、」




 フォルヒックトゥーナと名乗った少女の高笑いが、辺りに響いている。


 ロッシーの涙は止まらない。痛みで泣いている訳では無かった。


 何も出来ない自分に震え、状況が常識を逸してしまっている事への混乱。そして何よりヒックのうめき声と、戦えという言葉の意味がロッシーには理解出来なかった。




(何故、私が戦わなければならないの…?)




 いや、理解しようとしていなかっただけかもしれない。


 産まれてから特に誰かと争う事も無かった。


 数年前に『本』という人生を楽しむ存在を知った。


 1ヶ月ほど前までは田舎で生活し、街の事も知らずに農作業だけをしていて独り、本を楽しみに生きていただけの少女。


 昨日、突然、変な本を渡されて、遊び半分で魔法を使い、とても怖かった。


 数分前まではヒックとお茶をして話をしていただけだった。


 そして、また魔法を使い、ヒックに言われるままに、この状況となる。




 怖くて普通だろう。




 本当なら何日もかけ、心の整理をし、それから満を持して挑むようなこの状況の中。


 ロッシーの物語は本人を置き去りにして進んで行く。




 ロッシーは考えた。


 今の、この状況を、打破する為に、


 今、自分が、出来る事。。。


 震える手を、震える足を、身体を、自分で、少しだけ


 抑えて。




「ロッシー!頼む!戦ってくれ!」




 ヒックからのお願いを、ロッシーは受け入れようと…。






 頑張るっ!!






 目の前にある光を掴むために、出来ることを考える。


 視界と心がボヤけている。


 涙を拭いて、一生懸命に今の自分を周りの状況を考えた。




 あの黒い本の事も思い出し。


 全てを1つに重ねて行く。




 その小さな光へ、重なる様に。




 ...その結果。




 ロッシーは。




 飛ぶ。




 ただ、思いのまま真っ直ぐに。




 飛んだのだ。




 (今の私には飛ぶことしか出来ない。


 速く、、、もっと、、、、速く速く速く速くっ速くっ!)






「速くぅっっっっっっ!!!!!!」






 ロッシーの身体は黒く大きな光に包まれて、とてつもない速さで赤い服の少女に向けて真っ直ぐに、黒い雷光の尾を引いて突進する。




 その姿は、黒き流れ星と言ったところだ。


 それに気づいたズルワーンが叫ぶ。




「フォル!危ない!!」




 振り返る暇も無く、ロッシーがフォルへ激突し、2人共に森の近くの山へと衝突し、土埃を上げる。




「フォルッ!」


「ロッシーッ!」




 竜騎の2人は操縦者を心配するが動け無い。




 どちらの声も聞こえて来ない。


 少しの沈黙が辺りを包む。




 そして…




 土煙の中に立ち上がる影が見える。


 その煙の中から出てきたのは、、、




「ロッシー!無事か?!」




 ヒックは嬉々として思わず叫んだ。




「ええ、何とか、それよりもヒックは大丈夫?!私、、、わたしっ!」




 泣き顔のロッシーがヒックを見ながら叫ぶ。




「ごめんなさいっ!!」




 目からは大粒の涙が止まらずに流れ落ちる。




 ズルワーンが「フォル!フォル!!」と何度も叫んでいる。


 ヒックがロッシーに問いかける。




「ロッシー、ユニリンクからドラゴンモードへチェンジ。そして時を翔ぶ、、、」




 ロッシーは




「分かってるわ!昨日、読んだの!」




 と答えて叫び、そのまま詠唱する。




「時を超えし龍の叫びよ!今!この時を揺さぶり転空の輪を生み廻せ!」




「リンク、フレアァァァッ!!!」




 すると




 ヒックの身体が轟音と共に形が変わっていく。


 最終的に大きな翼を広げたドラゴンのようになり、宙を飛びながら円を描く。




 大きなゴオォォォッという鳴き声のような叫びを響かせると、その円の中がひび割れ、クルクルと光輝く何かが渦巻く空間が現れた。


 空を飛びロッシーは、ドラゴンとなったヒックの口の中へと飛び込む。




 竜騎ドラゴンとなったヒックは翼をはためかせ、その渦の中へ上昇し姿を消した。






 ロッシーは思った。




 本を読んでいる時は分からなかったけれど、でも今なら分かるような気がする。


 もっと早く気づくべき事が沢山あったのだと。


 あの黒い本を持ってくれば良かったと。


 落ち着いた状態でないと、物事を思い出せない癖は直さないとダメかもしれない。


 どれほどの事を思い出せるのだろう。


 そして私は、まだ大切な事を忘れているような気がする。

 ロッシーは物語に少し追いついたのかもしれない。


 そして

 時と世界を巡る旅に出る。

 しかし


 ロッシーはまだ


 これが自分の物語なのだと


 夢にも思わなかったのだった。


 そして…また来たいと思っていた場所へ


 行けないというのは、辛い事なのだと知る事となる。



 時空間。

 世界と世界を繋ぐ空間を飛んでいる。ロッシーは竜騎ヒックの口の中に居る。ここは竜騎操縦者が入れる唯一の場所だ。


 そしてロッシーは、この前聞いた話を思い出していた。。。

 ヒックの作り話だと思っていたもの。

 過去の話。


 ロッシーはそれを、もう一度改めて思い出し考えたいと願ったのだ。


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