第1-17話 攻防1

「マウントセット、ブラックボックス」

「砕き散らせ、南雲」


まるで決め台詞かのような口ぶりだった。


そして手ぶらだった2人の手元にTKB?が赤い閃光と共に現れた。


間髪入れずに「南雲」を抱えた男がこちらに向かって走ってきた。


そのTKBは、人1人の身体くらいの大きな筐体で「雲」という名前と反して直線的で固そうなフォルムであった。大きい、大きいが縁さんのとは何か違う雰囲気で、暗がりの中で見えるそれには何か秘めた危うさがあった。それを抱えるようにして構え、そして思いっきりこちらに振りかざしてきた。


ヒッ!!


僕は思わず足がすくんでしゃがみこんでしまった。


情けない。


女の子が隣にいるんだぞ?


気づけば目も瞑っていた。


………


激しい破壊音と共に僕の身体に細かい何かがピシピシと当たった。そして同時にまたあの風だ。しかし今回は優しい暖かさはない。

牙を剥いた獣のような風であった。


「やりおる、風の力で受け流すとは」


目を恐る恐る開くと僕のすぐ横に南雲があった。その南雲は地面に激しくめり込んでいた。


シューと蒸気のような靄がTKBから出ていた。


そして見上げるとレイが先ほどのジュリアを男に向けてかざしていた。ジュリアは不思議な色で光を発しながら、レイの手のひらの少し前で浮いていた。


「お望みなら幾らでも受け流してあげるけど?」


「いいよる。中々の腕だな」


そこからは激しい攻防が始まった。


僕は飛び散る地面のコンクリート片と激しい風で目を開けているのも精一杯だった。


受け流されて地面に叩きつけられる轟音と暴風音の中、後ろで声がした。


「こなれてる、流石ですね。流暢に構えながらも視認不可なタイピングを行なってる。


ただこれはかわせますかね?」


こちらの男のTKBは、ナックルのようなグリップがついた不思議な形状のキーボードだった。サイズは60%くらいだ。そのナックル周辺にキーが集中している。


それを”まるで銃を構えるように”持ち上げた。


「後ろ!!」


僕は思わず声が出た。


この小説で初めて僕が声を上げたんじゃないじゃないだろうか。


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