第1-15話 夜に吹いた春一番

「うー、、濡れて寒いし服がピッチリくっついて気持ち悪いぃ」


レイは道路を濡らしながら、僕と一緒に急六本木の裏道を歩いていた。


暗くてよく見えないのだがあまりジッと見ると色々と勘違いされさそうな状況だったので僕はレイの小言に空返事するだけで狭い路地の先ばかり見ていた。


「あ、そうだ!いいこと思いついた!」


そう言うとレイはカバンを弄りキーボードを取り出した。


「こういう使い方は良くないっていつもおじさんから怒られるんだけど…」



僕は、一体何をし出すのだろう?と思った。


「久々だから制御できるかわからないけど。」


カタタタとレイはキーボードを叩きはじめた。


なんだろう。


肌寒くなってきた。


夜だからだろうか?


そう思ったのだが路地に少し風が吹き込みはじめたようだった。まるでレイを通風孔の出口としているような風の向きである、


少しずつ、そしていつしか強風が路地に一気に吹き込みはじめた。その風は濡れた服がものすごい勢いでバタバタバタッ!となびくほどまで強まってきた。


「いいねいいね、もっときてーーー!!!」


レイがそう叫ぶとさらに強風が僕らの体にぶつかってきた。


肌寒いと思っていた風はいつしか暖かい風、言うなれば春の嵐だろうか。


ものすごい温暖強風が僕らを包み込み、目を開けることすら厳しいくらいの風だった。


気がつけばびしょ濡れだった服は全て乾いていた。靴を除いてね。


「ふーーーっ、これでオッケーだね!」


そういうレイの髪は信じられないくらいボサボサで思わず、プーーッと吹き出してしまいそうなくらい乱れていた。


「あ、そういえばへんなタイミングで見せちゃったけど。これが私のTKB“ジュリア”の特性なの。正確にいうとコアディスクコスモスの…」


そう言いかけた時。


いつの間に複数人の人影に囲まれている事に気付いた。


「いたぞ、今日の夜はイベント尽くしだ。縁はどうにもならなかったが…こっちはどうにかなるかもな」


なんだなんだ?


僕の思ってるTKB遊びと全然違う時間が今日の夜は流れてる。


そんなことを悠長に考えてる場合ではないのだ。


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