第1-11話 旧六本木

連れてこられたのは旧六本木の首都高街だ。


こんなところに来る用事なんて滅多にない。というかきたことがそもそもない。


「こっちこっち」


そうレイは手招いて僕を案内した。


過去の天災以来、この辺りは水没してしまい、空遊歩道と首都高をベースに街が再構築されており、高層ビルが横に拡張され、かなりカオスな状態となっていた。


水没した街は時間が止まったように今もそこに佇んでいる。


賑やかな街道を抜け、少し歩くと

僕らはとあるビルの前にたどり着く。


ビルからすれ違いざまに出てきた人たちがチラチラこちらを見ながら通り過ぎていった。


その際、なにやらヒソヒソ話が聞こえる。


(おい、いまのクイーンじゃね?)

(今日イベントだったっけ??)


なんの話かさっぱりわからなかった。


レイは終始ニコニコしている。というかウズウズしているという表現が正しいだろうか。


ビルに入った後もずーっとそんな感じだ。


周りはヒソヒソ、レイはニコニコ。


そんな中、1人こちらに近づいてきた男がいた。


「クイーン!この前来たばかりなのにまた来たのか!」


そう言って立ちはだかった男。背中には140%くらいの紅いTKBを背負っていた。あれは確か雑誌で見たことがある気がする。


「おー、君は確かこの前の… あぁ!メンテ不足のサラマンダー使い君!」


男はズコーっとなっていた。

ぱっと見強面なのかなと思ったけど、案外面白いやつなのかもしれない。


「…名前を覚えて、名前を。赤司だから、赤司。この前はたまたま操作ミスでオーバーヒートしただけだ!」


顔を赤くして何やら言い訳のような事を言っている間、レイはケラケラと笑っていた。


「だってあれ、あんな数分でオーバーヒートするの、計算上おかしいもん。マグマスイッチのメンテ不良だって、絶対に」


赤い顔がさらに赤くなり、ユデダコ状態である。

ふと、ん?という顔をして赤司はこちらを睨みつけた。


「お前、初めて見るやつだな。クイーンが誰か連れてくるなんて珍しいな?」


さっきからクイーンクイーン言ってるけど何かの愛称だろうか。


「猿渡芸夢君。付き合ってるの」


「「?!?!?!」」


僕はレイを二度見して、赤司は目玉がポーンと飛んでた。


「あ、間違えた。今日は付き合ってもらってるの。あはは」


(間違えるかなぁ普通それ)


「まぁそんな事はよくて芸夢君はTKBデビューしたからここに連れてきたの。」


赤司は、ふ、ふーんと言わんばかりの顔をしている。


「……、ま、まぁいいか。お前…いや猿渡って言ったか?登録者なんだな。


しかし、クイーン。今日は荒れに荒れてるから初心者に見せるにはあんまり向かないかもな。見ない顔の連中が連勝連勝で馴染みのやつらはボコボコだし。


そこにまた超大物VIPが乱入してきてな。


聞いて驚くなよ、


西のファクトリーヘッド縁とその配下のマスターガードがきてる」



レイのニコニコが、

ニヤアァという表情に変わった。


天災:その昔、大きな自然変動が起き、日本列島は大きく形を変えた。現在、日本の事実上の首都は関西の新京都である。


マグマスイッチ:押下のパワーを熱エネルギーに変換するTKSwitchの総称。


サラマンダー:メジャーブランド ヴァルカンラインが発売している特殊タイプTKB。熱のパワーを利用して稼働する。


マスターガード:一般的にファクトリーヘッド専属の側近を指す。

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