第1-5話 THE BEGINNING

それから僕は、彼女とよく話すようになり、改造してもらったTKBについて色々と教えてもらった。


最初は、もちろんただかっこいいとか流行ってるとか乗り遅れるとマズいとかそういう理由で手に入れたTKBではあったけど、彼女の熱い説明を聞いているうちにたちまち朝から晩までキーボード関連の事しか考えられなくなった。


というのもとんだまがい物をつかまされたと思っていたこのTHE BEGGINNINGは、彼女がリミッターを解除する事でそこらへんのTKBとは比べ物にならない性能が引き出されたからだ。


低出力のリフレクションシールドも内部制御プログラムを調整してもらったおかげでかなり腕への追従性が向上したし、タイピングオートメーションがまともに使えるレベルまでアップデートされた。

もちろん安物であったので限界ギリギリまでオーバーメンテしてあるので長時間稼働は厳しかった。


「ここまで持ってこれれば、おじさんもきっと驚くなぁ」


と彼女はポロリとこぼした。


ある日、講義が終わった後、ちょっと付き合ってと誘われた。

少しドキッとしたが彼女の顔はそんな感じの表情じゃなかったし、イントネーションがそんな感じじゃ無かったので少しガッカリしたような気がしたけど、気にしない事にした。



さて、連れてこられたのはあるファクトリーだった。


僕にTHE BEGINNING を売ってくれたあのファクトリーだ。


さまざまなTKBパーツブランドのステッカーやチラシが貼られたドアを開けると中年男性の大きな声が聞こえてきた。


「わかっとるがなっ!いま探してるとこだから焦りなさんな。


また来週こちらから連絡するから待っとれ」


「……ったわー、待っとるよ〜」


どうやらそこで電話は終わったらしくコール画面が閉じた。


「っと、お客さんかい…ってレイか。店に顔出すなんて珍しい。大学ではうまくやっとるか?」


そう言われるとレイはダブルピースの笑顔で、


「なんとかね!」


と言った。


おじさんは叔父さんという事だった。

世間は狭い。




THE BEGINNING : 最初は愛着なんて微塵もなかったけど、次第につかいこなせるようになってきたので僕はそう愛称をつけた。最初であり、始まりのキーボード。


TAM、タム(タイピングオートメーション):自動学習型のタイピング補完機能。TKBに内蔵されているOSや基本スペックに左右される。高負荷がかかり、オーバーヒートのリスクが高くなるため、真剣勝負ではあまり使わないが見た目がカッコいい。

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