第1-4話 フリーク

「あのっ、もしよかったら…それちょっと見せて欲しいですっ。」


そう言って彼女は、丸メガネの奥の瞳をキラキラさせながら迫ってきた。


彼女からは、なんかこう、香水とかそういう香りではなく優しい感じの香りがしてドキドキしてまった。(言っておくが僕は匂いフェチとかでは無い)


「あー!これやっぱりジョルジョの工房で作ったやつですよね?


あのおじさん、何だかんだ良い仕事するなぁ〜」


ジョルジョというのは、昨日行ったファクトリーのおじさんの名前らしい。その界隈では何故かそういう通り名らしかった。

しかし僕は彼女のいう「良い仕事」の意味がさっぱりわからなかった。


僕はその旨を正直に伝えると彼女は急に早口で語り出した。


「ジョルジョは、ぱっと見雑な対応してる風に見せますけど!

表からは見えない部分の細かくチューニングされるTKBを作ってくれるっていうので有名なんですよ!!

オルタネットで出回ってる口コミは、そこまで追求してる人があんまりいないから本当の良さが伝わらないんですよね。

わざと中途半端な状態で納品することもあります。わざとです。


例えば…」


ちょっと失礼。

そう言いながら、勝手に僕のTKBをバラし始めた。授業中なのに。


「ここのピンをショートさせて… ここのボリュームを32度の方向に回してと… でここの配線を全部切ります。そして起動」


そう言って彼女は、基板の中をちょちょいといじって電源を入れた。


すると電子音声がけたたましい高い音量で流れ出した。


「システムリミッターの変更が行われました。


変更内容、リミッター解除。

内圧シリンダー、許容値上限解除。


CORE DISC SYSTEMを有効にしました。

任意のドライブを実装し、レジストを行なってください。


この操作により、メインボードはメーカーサポートの対象外となりました。」


今まで飾りかと思っていたスモークアクリル下で様々な数値やらグラフが一気に表示された。


「ほら、最高でしょ?」


僕らは仲良く教授に怒られ、保護海洋生物研究の手伝いを夜遅くまでさせられた。



※オルタネット:空気中にある様々な粒子を仲介して行われる通信を利用した地球上で使われるインターネット網。大環境変化により、電波の安定性が失われた現代では最もポピュラーなネット。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る