第24話 点の収束

8月25日。


土曜日だ。


そう、今日がその大会の日だった。


昨日の練習の後、みんな各自会場で!!ということになり、僕はミエと合流して一緒に電車で向かっているところだった。


海沿いを走る電車の窓からは、空に浮かぶ二つの太陽を隠すように入道雲がちらほらと見え、夏をテーマにした絵そのもののようだった。


「今日大会、全然想像できないけどドキドキするね!」


ファイト!と言わんばかりの表情でミエはこちらを見ながらそう言った。


「そろそろみんな共通のユニフォームとかカバン用意しようか」


そうアリエが言って、8月頭くらいにどこかに発注していたおそろいのユニフォームとキーボード用ショルダーバッグが届いた。


ユニフォームは、グレー地に赤に近いオレンジ色の差し色が入っている結構かっこいい配色だった。背中にはAKF(アリエキーボードファクトリー)とロゴが入っていて、その下に星が4つあしらわれていた。ファクトリーのロゴデザインはお店に入っているものとは違った。


そしてキーボードのバッグは、みんなのキーボードに合わせて長さの尺が異なる、まさに「専用」バッグだった。


ミエのキーボードはかなりコンパクトなのでバッグもかなりコンパクトだ。ミエ自身が小柄なので似合っているように見える。



はてさて会場は、いままで行ったことのない街だった。

正直、僕は生まれてこのかたあまり電車に乗ったことがないので、ほとんど鎌白町以外のことを知らない。


ミエと他愛もない話で時間をつぶしてるうちにその下車予定の駅に着いた。


「大旗山公園~大旗山公園~」


僕らが降りるタイミングで、下車した人はほとんどいなかった。

まぁいるのはいたんだけど、明らかに現地住民っぽかったし、そもそも荷物を持ってる人があまり見かけられなかった。


ついつい無意識のうちにホームに降りた人を見まわした時、見たことのある人を発見した。


いつだか、アリエのファクトリーから出てきた白い制服のやつだ。

たしか「薬師丸」と「尾白」という名前だったような。

あの時は2人だったが今回はもう一人女の子がいた。なんだかすごい激しい感じの見た目の女の子だ。


その3人は階段の近くのドアから出たのでそのまま足早に姿を消していった。


なるほど。


やっぱりあいつらもそうだったんだ。


一瞬しか見えなかったが、一番リーダーっぽい男は大きなはかなり大きいバッグを背中に担いでいた。


僕らが背中にしょっているカバンにはキーボードが入っている。そう考えると「アイツ」が背負っているカバンにももちろんキーボードが入っているという事だ(あくまでも推測にすぎない)。


そんな事を考えながら、人気があまりない改札をでて、地図通りに進んでいく。


地図を改めてみると、なんともまぁわかりやすいというか、会場までの道は意外とシンプルだ。もはやここに向かう人は絶対にここを通らざるを得ないだろう、そういう道だ。


最初、道を歩くのは僕らだけだった。


が、


途中、十字路の交差点に差し掛かると「それらしい人」が少しずつ同じ方向に向かうようになった。


気づけば割と多くの人々が会場に向かう道を歩いていることに気づく。


「え?これみんなキーボードの大会に出る人なの・・・?」


僕もそう思った。


殆どの人が会場施設に向かって吸い寄せられるように集まっていく。そして僕らもその流れの一部となっていた。


10分ほど歩くと、遠くに大きな建物が見えてきた。鎌白町には無いとても大きな建物だ。天井がガラス張りになってる建物が何棟も並んでいる。


ハーー・・・とあっけに取られていると、遠くから「おーい」と誰かに呼ばれているような気がした。


それはアリエと空の声だった。会場敷地内の入り口に立っていた。


そしてよく見ると母さんもそこにいた。


え・・・!?


今日母さん仕事って言ってなかったっけ!?!?

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