第23話 THE FREEDOM
視線の罪で罰ゲーム。
ということで僕は砂浜をダッシュさせられたり、軽く遠泳させられたり(泳ぐの苦手なのに)した。
かたやミエは、ヘロヘロの僕と2人ビーチバレーをして楽しそうだ。うん。楽しそうで何より。
相変わらずアリエはパラソルの下で何やらパソコンとにらめっこをしている。せっかく海に来たのになぁ。
「アリエさんもこっちきて遊べばいいのに!」
んー?と頭を書きながらアリエが返す。
「ほら、アタシ2人みたいに若くないし?お肌とか?フィーリングで夏をエンジョイできてるだけでも奇跡的な?」
会話の中から察するに「来たくて来てるわけでもないが嫌いなわけでもない」という感じだ。本当に母さんに呼ばれたから来た、という事なんだろうか?
…まぁ呼ばれたと言っても母さん本人がいないんだけど。
浅瀬の方に少し目をやると、研究所の制服を着た人たちが掛け声を上げてる。
「いち、にい、さん、はい!引き上げて!」
みたいなのの繰り返しだ。
とそんなよそ見をしてたら、頭に軽い衝撃があった。
「ほらほらーよそ見厳禁だよー!」
ミエがスパイクしたビーチボールが頭に直撃した衝撃のようだ。というかミエはさっきからスパイク打ち過ぎだ。
……………
そんなこんな、海でできる遊びのようなトレーニングを一通りしてるうちにいつしか夕暮れになってきていた。
正直バテバテである。
やはり砂浜という足場がかなり運動に対しての負荷になってるんだろう…と思わずにはいられない。足がプルプルする。
ミエは遊び疲れたのかパラソルの下、アリエの羽織ものをかけて昼寝している。
ものすごい幸せそうな寝顔を見たら、僕もものすごい睡眠欲にかられた。
「いや〜寝る子は育つだねぇ」
アリエはミエのほっぺたをツンツンしながらそう言った。結局休みという感じはしなかったけれど何だか夏を少しエンジョイできたのかな??と思う。
もうそろそろ帰ろうかね、という事になってパラソルを畳もうとしてる時にちょっとしたトラブルが起きた。
起きたというよりも未遂のようなそうでないような。
見慣れないガラの悪い連中(ヤンキーと呼ぶ)が現れ、アリエ達を見るやいなやナンパをしてきたのが事の発端であった。
アリエはそのヤンキー達がそこに存在していないかのごとく、僕に片付けの手伝いを指示していた。完全に無視である。
僕は内心物凄くビビっていた。
恥ずかしながら。
心臓がキューーーッと小さく縮んでいるのではないかなというくらいに。
手足の感覚が冷たくなる僕は小心物であった。
ミエはまだスヤスヤ寝ている。
無視された事への怒りで、ヤンキーの1人、背丈も高くガタイが良い大男がアリエに突っかかった。その際、アリエのメガネが飛んでミエの頭にコツンと当たった。幸い?ミエは起きる事はなかった。
その瞬間、アリエの目つきが微妙に変わった。
「…楽しい時間を台無しにするな」
まず、最初に言おう。
アリエは『何も持っていなかった』。
これは間違いない。手ぶらだった。
アリエがボソボソっと言い終えた瞬間、大男が思いっきり足元の砂浜に叩きつけられた。
そして、爆発的に生まれた風圧で砂が大量に舞い上がった。
舞い上がった砂がシャワーのように降り注いでくる。まるでスローモーションになっているかのような錯覚を感じながら僕は砂のシャワーの中にいた。
そして、砂のシャワーの向こうに立っているアリエの手元には1台の『キーボードらしきもの』があった。
さっきまで何も持っていなかったはずだった。
ふと、登美子さんの『エアー』を彷彿とさせたが直ぐにソレとは違うことに気づいた。
『キーボード』が吸い付くように掌に追従していた。底面が青白く発光し、まるでそれ自体が『浮いているように』見えた。
大男の顔は思いっきり殴られたような跡が残っていて、鼻血も出て白目を向いている。
気づけば時間は通常の流れに戻り、舞い上がった砂は勢いよく地面へと落ちきった。
「ここに倒れられてると、楽しい思い出も楽しくなくなっちゃうから早くどっか行ってもらえるかな?」
そうアリエは他のヤンキー達に言って、パラソルやらの片付けに戻った。
ヤンキー達は大男を引きずりながら逃げていった。どうやらどこからかこの浜の事を聞きつけてやってきたサーファーだったようだ。直ぐに乗ってきた車で退散していった。
一時はどうなることかと思ったが、ものの一瞬でトラブルは風のごとく過ぎ去った。
僕の心臓はゆっくりと平常時に戻りつつある。
「え、えーと、とりあえずみんなには内緒ね…」
アリエは引きつった笑いをこちらに見せ、少し汗をかきながら、僕に口外しないよう約束させた。ミエはスヤスヤ寝ていたのでこの事には気づいていないだろう。
…先程持っていたキーボードはどこにも無かった。僕はほとんどよそ見をしてなかったし、隠している様子も無かった。
「……ほんとはこういう使い方はダメなんだけどね。ついカッとしちゃった。ほんとムカつくわ、ああいうの。」
ブツブツ言いながらアリエはミエを背負って車の方に連れて行った。
結局この日、ミエはアリエの車で帰った。
ヘロヘロになった足では自転車に乗れなかったので、僕は坂道を押して帰った。
靴の中は砂まみれで最悪の履き心地だったけれど、舞い上がった砂のシャワーを鮮明に思い出させた。
考え事をするには今日は何かと眠すぎたし、疲れすぎた。
もう少し、もう少しと思って坂を見上げると僕の家に明かりが付いているのが見えた。
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