第21話 夏休み - その2
一気に坂道を駆け抜け、Y字路に差し掛かる。いつもは右に入って商店街方向へと抜けるのだけど、今日は久々に左に入る。
その先には、林に囲まれた涼しくて暗いトンネルみたいな獣道のような通りがあって、こういう夏の陽射しがカンカン照りになってるような日はまた一層涼しくて気持ちいいのだ。
林の木漏れ日がとても気持ちよく、いつも変わらずいい気分の道だ。最高。
そのトンネルを抜ける頃には、遠くの景色が海の水平線になるわけだ。
スカッと抜けるような空が目一杯広がった。家から下ってきたとはいえ、そこはまだ少し高台なので浜の大半を見下ろすことができた。親子連れが何組かとカップルが何組か、まぁこれは適当なので気にしないでいただきたい。要するにボチボチ人がいるってことである。逆に言うと、混んでないということ。
この浜は、中瑠浜(なかるはま)といって、場所的にかなりマイナーなのでほぼ地元住民しかこない。そもそも道が狭すぎて、車が停められないに等しい(実際は停める場所が何箇所かはあるが地元民しか知らない)というのも原因かもしれないけれど、ガチャガチャ混んでるのは好きではないのでこれはこれで助かる。
よく浜を見ると、青い制服を着た人達が数名浅瀬で何かしているのが見えた。あぁ、おそらく母さんの研究所の人たちだろう。
堤防付近に自転車を置いて、浜を改めて見回すとパラソルに何やら見覚えのあるイラストというかマークというか…。
「キーキャップ」がパターンプリントされてる柄のパラソルが一本刺さっているわけで…。
パラソルの下でノートPCを開いてるアリエを発見した。
ビキニで。
何故、青い空の下、輝く海辺、焼ける砂浜。
そんな場所でこの人はそんな事をしてるのかって。
他人のフリをしようと後ずさりしようとしたら、ギョロっとアリエがこちらを向いた。
「どこ行くのかなぁ?」
そう言いながらアリエはジロ〜リとこちらを半笑しながら睨みつけてきた。な、何故気づいたのか…と思うって焦ると、アリエの膝下には、いつもよく持ち歩いているかわったキーボードが置いてあった。変わっているというのも、モニターがついていたり変なツマミがついていたり。他のキーボードを、アリエのキーボードに接続できたり。あと僕のキーボードと同じようにディスクを入れるような場所があり既に何か中身が差さっていた。
アリエ曰く、
「エンドのキーボードは、【エンゲージする】から近くにいるのがわかる」
とのことだった。詳しく教えてくれなかったからよくわからなかったのだけど、アリエのキーボード…
REPAIR&DESTROYER
と呼ばれるキーボードは、僕のキーボード【THE END】が「ある範囲内」に入ると何か反応するらしかった。
一方、僕のキーボードは何の反応も無かった。あの日のけたたましいアラート以降特に変わりない。
アリエのことだし、色々と便利なキーボードなんだろう!そう思う事にした。
「海に来るだけなのにちゃんとキーボード持ってきて偉い偉い。砂浜のダッシュは足腰に来るからねぇ」
ニシシシと笑いながらアリエは、そう言った。これは完全に遊びながら鍛えるとかそんなノリであろう。
「まーもうちょいしたらミエちゃんも来ると期待して少し待ちましょうか。ほら、メザス、暑いでしょ、こっちこっち」
そういって、まだ開いてない缶ジュース片手にもち、それを餌に僕を隣に招いた。
スマホがブルっとした。
ミエ「家でました!」
そら「えっは?!どこの海のこと言ってます!?!?」
そうか、空は鎌白町じゃないからここの事を知らないのか…。
とりあえず暑いのでレスは返さない事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます