第17話 登美子

そこからあっという間に僕らは点差をつけられて一気にコールド負けといいますか。なんといいますか。


「なんなんだよ、あのおばはん、パネェよ〜…」


「あのおばさん凄いカッコよかったよね!!アタシ全然何やってるかわからなかった!!!」


あの後、空とミエも標的となり、洗礼を受けたという感じだった。おばさんを除いた残りの2名も、おばさん程では無いけどやはりミスタッチがほとんど無いし、そもそものタイピングの速度がこちらと段違いだった。


「あのね〜みんな、おばはんおばさん言ってるけどね。あの人は、登美子さんって言ってかなりの実力者なんだよ〜?」


帰り道、アリエは疲れたでしょうと言って、ファミレスに寄ってくれた。そこで今日の反省会ってわけだ。


「昔はかなりブイブイ言わせてたんだから、登美子さん。今はちょっと体力が〜って言って今日はその訛った体をなんとやらって事だったみたいだけど…」


実は、アリエはオービタル商事の競技キーボード部の存在を以前から知っていて、今回無理言って頼んだら意外にも僕らのような駆け出しの高校生チームを相手にしてくれたという話だった。


「他の2人も凄かったですけど、登美子さん?のタイピングは凄かったです!カッコイイ!!」


「そうそう、アリエさん何なんですかあのタイピングとか色々と諸々…心折れますってあんなの見せられたら…」


空とミエが前のめりになってアリエに迫っていた。というタイミングで頼んだ料理が色々と着始めた。ハンバーグセット、チーズグラタン、ネギトロ丼味噌汁セット、地鶏唐揚げ大盛り定食。いかにも食うぞって感じだ。


「登美子さんはね〜、割と競技者の中でも限られた人しか使えないような技使ってくるからねぇ。例えば初っ端、メザスと対峙したときにやった【エアータイピング】ってテクニック。直接目の前で見たメザスはわかると思うけど地形環境関係なくタイピングできるあれは本当に凄いんだよ。どれくらい常人離れしたテクニックかわかると思うけど」


そう言ってアリエは大人気もなく、フォークで刺した唐揚げを上に放り投げてそのまま口でキャッチした。


「あとは…そーねぇ。登美子さんの最大の特徴と言ったら、【ランダムタッチ】って言うタイピングの仕方だよねぇ。1種の手癖なんだけど、ホームポジション無関係に高速タイピングできるから恐ろしいんだよ、ほんと。」


確かに。

あの時、僕の目はその「ランダムタッチ」というのを捉えていた。手全体と指が「ホームポジション」に固定されていなかったのだ。鬼のような高速タイピングに開いた口が塞がらなかった。


僕らだってアリエの特訓でそこらの人よりかは全然タイピングスキルも高い!そう思っていただけにかなりの衝撃だった。


「アタシもあれくらい速く打てたらカッコいいのになぁ〜…」


とミエは、キーボードをわざわざバッグから取り出して食事中にカタカタキーを叩き出した。


「ミエちゃんは、速打ちよりもまずレイヤー切り替えを完全マスターしてからね。空くんは、燃える男なんだからもっとスタミナつけないと。あとタイプミス減らすように」


二人ともトホホ〜な顔をしている。


「メザスは、リーダーなんだから全部頑張らないと。特に相手に気圧されないように!っと言っても今日は相手が悪かったかな」


え?リーダー??僕が???いつの間に????


いつの間にかリーダーにされてたわけで、つい不服な顔をして皆に笑われた。そういうの苦手というか避けてきたんだよなぁとかつい頭をかきたくなる感じ。


全く、もうだ。


今日はなんだか割と楽しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る