第12話 ファクトリーヘッド - その2
ど、どういう事なのか。
改めてアリエの発言から考察してみよう。
1.アリエは、僕がキーボードを持っていることを知っていた。
2.キーボードは、父さんが残しておいてくれた物だった。
3.アリエは、父さんから物を預かっていた。
4.何故か僕を「メザスくん」から「メザス」と言い換えた。
………って事はもしかしてアリエは、母さんの事も知ってるんだろうか…?そしてその逆もしかりだ。そして父さんの事も知っているという事もわかるぞ…
と色々考えるうちに、アリエはさらにもう一台キーボードを奥から出してきた。
それは僕らのキーボードよりも幅がうーんと狭いキーボードだった。明らかに色んなキーが足りてない。
「メザスの事は後で色々やるとして…ミエちゃん。こっちに来て、ここに手を広げてみて」
アリエは、ミエをキーボード正面に招き、ホームポジションに掌を置くように促した。僕は、後回し…か、正直不満だ。
「うんうん、やっぱ同じくらいかぁ。ちょっと調整は必要そうだけど絶妙なキーピッチだよ」
そういうと、メジャーを取り出してアリエは、ミエの掌の様々な箇所を測りメモし始めた。
それがあらかた終わると、ふぅ…と一息ついて、改めてこう言った。
「空くん。熱い夏に挑戦してみないか!?」
ハィイ!!、と空。
「ミエちゃん、高校生活いい思い出残したくない!?」
残したいです!とミエ。
「メザス。頑張ってみない?」
ウーーーーン…と僕。僕だけなんか誘いが曖昧じゃないだろうか…。
今日は、一旦お開きね〜とアリエは、空とミエを先に帰した。というのも僕のTHE ENDの調整がちょっと長引きそうだからとかそういう理由があったからだった。
アリエは、改めて僕にお茶を出してくれた。
そして、目も合わさずTHE ENDを色々いじっている。目も合わさずというか単純にTHE ENDを見ているだけって言う感じかもしれないが。
アリエは何か話す気はあるのだろうか。
ないのだろうか。
ピリピリしてるのは僕だけかもしれないけれど、何だか手汗が出てきているような。でも、何か匂わせて何も言わないアリエに少しだけ苛つきも少しあったかもしれない。
僕は、ガタッ!と立ち上が、ろうかと思ったがその前にアリエがポロッと言った。
「メザスさ、小さい頃だから色々と覚えてないかもしれないけど。アタシ、よくメザスをあやしたりおんぶしてたりしてたんだよ。アタシの娘と一緒にね」
僕の中の、なんかこう嫌なグルグルした気持ちは、足元から蛇のようにスルスルとどこかへ這って去っていった。
「色々あったんだ。色々ね。君の父さんの事もよく知ってるし、君のお母さんの事もよく知ってる。」
アリエは、先ほど取り出したディスクをTHE ENDの【何か入りそうな場所】に差し込んだ。すると昨晩と同じような電子音声がTHE ENDから鳴った。
ーーーーーーーーーーーーーー
コアディスク 【SUN】の挿入が確認されました。
デバイスロックを解除しますか?
フル解除は、Yを。セミ解除の場合は、Sを押してください。
ーーーーーーーーーーーーーー
「メザス、Sを押して。これはアクティブな登録者じゃないと操作無効になっちゃうんだよ」
そう言われて僕は、Sキーを押した。
ーーーーーーーーーーーーーー
Sキーが、押された為、当デバイスロックをセミ解除し、コンペティションモードに切り替えました。
今後のメンテナンスは、【PRIMAL】ファクトリーヘッドマルエリ、及びレイをご指名ください。
オペレーションを終了いたします。
ーーーーーーーーーーーーーー
…
「メザス、レイにはね、色々あったの。だからね、今はまだ聞かないであげて。」
そう言うと、アリエは、ディスクを取り出して先ほどの箱に戻した。
そして、僕の後ろにまわって後ろから優しく抱きついてきた。なんだか柔らかい香りだった。
「アタシがレイの【鍵】を引き継いだ3代目ファクトリーヘッドなの。
メザスが本当に元気に大きく育ってて安心したよ、母さんも元気そうだしね。」
僕は、それ以降閉口してしまい結局、アリエの工房を出るまでろくに口を開くこともできなかった。
「まぁ姉さんに宜しくね。
ッそれじゃあ、これから夏の大会に向けて練習頑張ろうな!少年!」
ふざけながら店の入り口で手を振るアリエに苦笑いしながら商店街を後にした。
外はすっかり暗くなり、空を見上げると星がよく見えた。商店街のほとんどはシャッターが降り、2階の窓から光が漏れている。
僕には知り得ない何かがあったという事だけはわかったが、その重さは僕にはまだわからなかった。わかるわけないのだ。記憶が全くないのだ。幼い頃の記憶はある時期を境にというあれだと思う。
「いずれ全部話すけど、もうちょい待って」か。
母さんに妹がいるなんて生きてきて今日初めて知った。
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