第11 話 ファクトリーヘッド - その1

まず、アリエは僕らをお店に入れた後、入り口表にかけてある看板を「CLOSED」に変えた。


そして、カウンター奥の階段を通され、2階へと案内された。


そこは一階の整頓された煩雑さから「整頓」という文字だけ取っ払ったような場所だった。


電子部品やらなんやら色々と混み合っているテーブルの上を車のワイパーのごとく腕で払いどうにかお茶を出せるスペースをアリエは作り出した。


アリエは開口一番こう言った。


「君たちにね。夏開かれるキーボード競技大会に出場してほしいんだ。」


みんな目をぱちくりしている。僕もぱちくりである。


「いきなりでさっぱり意味不明だと思うけど簡単に言うとスリーマンセルでキータイプの速度や正確さを競う大会なんだけど…」


首を傾げ気味な僕たちを見て、

アリエは、ん〜と頭をクシャクシャかきながら再度言い直した。


「ようは、速くて強い人をキーボードで決めるって事!空くんが、そのキッカケを持ってきてくれたってわけ。」


アリエは空の赤いキーボードを受け取って、テーブルの真ん中に置いた。


ほい、そいでこっちをご覧なさい。


とアリエは何やらガサゴソと奥の箱から、紅い何かを取り出して同じくテーブルの真ん中に置いた。


「わー!なんだかすごいね!」


ミエは何も知らないので歓喜のような声を上げたが、


僕と空は目を疑った。


何故ならばそこには、空の買ってきたキーボードと同じ形の紅いキーボードがあったからだ。いや詳細には同じではない。細かいディテールは、本物の機械という金属の質感があった。そして何かこう…、そう、THE ENDのような何かを感じる。

空が買ってきたパチものは見た目はカッコよくてもプラスチックの筐体だった。

キーも使い込まれたような艶があるが、安っぽさが全くなく、堅牢なイメージを彷彿とさせた。


「実はね、空くんが買ってきたのは、元々TK…じゃなかった!競技用キーボードで過去に流行したモデル【MAGMA】の劣化レプリカだったんだよ。これはその当時出回っていたものをチューニングカスタムしてあるやつね。私は【CRIMSON】って呼んでるけど…まぁいいや。はい!

ということでこれが空くん用のキーボード。」


そう言ってアリエは、ポンと空にCRIMSONを渡した。空はキョトンとしている。


そして…ほら出して出して。そんな目でアリエは僕を見ている。


僕は、THE ENDをテーブルに出した。

アリエはTHE ENDを持ち上げキラキラした目でいろんな角度で観察している。いやぁ〜…やっぱりPRIMAL系は完成度高いわぁ〜…とかボソボソ、ウンウンと頷いてる。ぷらいまるK?何を言ってるかよくわからないが、アリエは満足そうな顔でそのまま、キーボードを抱えて部屋の端に歩いていった。


そこには、キーボードが大量に並べてある棚があって、さらに縦長のロッカー、または金庫のような箱が全部で5個置いてあった。その箱には鍵穴のような物がそれぞれついていた。

アリエは、THE ENDにくくりつけられていた鍵を鍵穴に差し込むと箱の蓋を開けて、中から何やら半透明で中身が虹のように煌めくディスクのような物を取り出した。


「メザスくん。


いやメザス。


これさ、やーっと使うときがやってきたよ。君のお父さんからずーっと預かってたんだ。」


そのディスクは、【SUN】と殴り書きがしてあった


いや、ちょっと待って。お父さんだって?


ちょっと待て。


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