第6話 リブート&レジストレーション
家に帰ると、おにぎりが玄関で尻尾を振って待機していた。
勿論、おにぎりはあのおにぎりではなく僕の家のペット、コーギーのおにぎりだ。
おにぎりを撫でているとリビングの奥から母さんが顔を覗かせた。
「メザス、今日は遅かったわねぇ?ご飯できてるわよ」
おにぎりを抱えて、リビングに入るとキッチンテーブルにはすでに2人分の食事が用意されていた。やったぜ!今日は焼きそばだ!!おにぎりも飛び跳ねるぜ!!
「わんっ!」
三人一緒のご飯。それが猿渡家で「なるべく守ろうね」と母が決めたルールであった。僕はマザコンというわけではないと思うが母さんのことは好きだし、おにぎりも好きだ。父さんが家にいない今、とても大事なルールだと思う。
食事中、母さんは他愛もない事を話題によく話す。とりとめもない話なのだけれど、なんだか面白いし聞いてしまう。今日は、おにぎりがポテポテしてて可愛かったのでSNSに動画をアップしたら大量の「いいじゃん」をもらえたとか、畑でキモい虫を見つけて飛び跳ねたとか。ミエと朝会ったとかそんなん。
今日は僕も話題がある。
すっかりすべての料理を平らげて、母さんと片づけをしている途中におもむろに聞いてみた。
「母さん、キーボードってある?」
母さんはいったんキョトンとした感じで食器を洗う手を止めたがすぐに再開して、少しニコッとして言った。
「あるじゃないそこに」
クスクスと笑いながら、頭より上の方にある食器棚を顎で指し示した。
え?
母さんは、濡れた手をぬぐってその食器棚の奥から箱を取り出して、僕に手渡した。
その箱はスプーンやフォークのセットが入ってたと思われる箱だった。
「父さんがね。幼いメザスには見つからないようにな?って。高い場所に置いとくように頼まれてね。それでこの食器棚にいれていたのよ。」
さらに偽装で食器棚に入っていても違和感のない箱に入れて隠していたとのことだった。驚いた。今まで皿の片づけで開けたり、しまってあるカップ麺を取ろうとしていたけれど全然気づかなかったぞ。
箱を開けると、そこには僕が想像しているものとは違う、パソコンのキーボードというよりはなんだか精密だけれど頑丈そうでもある機械、キーボード?が入っていた。全てのキーはなぜが下がっていて、押すことができない状態になっている。壊れている・・・?
フレーム端のバンパーには、バナナのキーホルダーと鍵のようなものが括り付けてあり、本体端には、こう刻印されていた。
『THE END TKB-02』
「最後に動かしたのが10年以上前だから再登録かけないと動かないかもしれないわ。メザス、【ホームポジション】に手を置いてみて。」
言われるがままに各指をホームポジションにそっと添えると、そのキーボードから駆動音のような音が聞こえ始め、内部から無機質な機械音声が流れた。
"ORIGINS SERIES 識別コード THE END TKB-02
登録者ナンバー02同一人物と認識されました。
長期間の利用が無かった理由により、生体データを再登録・内部ハードウェアの最適化を開始します。ホームポジションの指を置いたままお待ちください。"
「ちなみに母さんは01なのよ~」
そ、そうなんだ・・・
少しすると、ホームポジションを含めたすべてのキーが、カシャンッと上がった。
"レジストレーションが完了した為、デバイスロックが解除されました。
なお、コアディスクが見つからなかった為、全TKB機能はフルロックされた状態となります。なお、これによりORIGINS全てのTKBが起動した事が確認されました。今後、十分ご注意ください。"
殆ど意味の解らない音声だったけれど、開けていい箱だったのかな?と少し不安になった。
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"先ほど、識別コード THE END TKB-02のリブートが確認されました。
また同時にレジストレーションも確認されました。
これによりORIGINS全てのTKBが起動した事が確認されました。今後、十分ご注意ください。"
このような音声が世界各地の【とあるキーボード】から一斉に流れた事はこの時の僕はまだ気づいていない。
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